レ チンチョレ社

2015/07/07
突撃インタビュー
 
2015年7月7日 レ チンチョレ社 ルカ オルシーニ氏、ヴァレリア ヴィガノ オルシーニさん ご夫妻来社

有機栽培の先進地パンツァーノ イン キャンティのリーダー

ルカ オルシーニ氏、ヴァレリア ヴィガノ オルシーニさんと
キャンティクラシコの中心地、パンツァーノ イン キャンティで25年前に一からワイン造りを始めたルカさんとヴァレリアさん。パンツァーノはキャンティクラシコのエリアの中でも有機農法が進んでいる土地で、なんと指定エリアの表面積の90%が有機栽培だという特殊な地域として知られています。文字通り地域ぐるみで有機農法を推進したのがレ チンチョレのルカさんでした。お二人のワイン造りへの強い思いをたっぷりとお聞きしました。

「土地に根付き、何かを造りだす事がしたい」学生時代からの夢を偶然見つけたパンツァーノの土地で実現

パンツァーノに土地を購入した畑レ チンチョレは、25年前の1991年にふたりで始めたワイナリーです。私はローマ、ヴァレリアはミラノ出身でそれぞれ測量士と建築家という仕事をしていました。二人とも都会っ子なわけですが、学生時代から土地に根付いた仕事がしたいという想いがありました。そして何か存在するもの、造りだす仕事をしたいと考えていました。それでワイン造りを始めることになるわけですが、トスカーナを選んだのは二人の出身地の中間地点だったからと、自然が豊かでポテンシャルの高い土地であること、それから、閉鎖された土地ではなく、とても訪れやすい雰囲気の場所だったからです。

30歳の時にワイン造りの道に入りました。このパンツァーノに土地を購入したのはたまたまです。偶然今の土地を見つけて買ったのですが、今にして思えばこの土地を変えたのは本当にラッキーでした。パンツァーノには他の土地にはない特色があるからです。

1991年にスタート、1995年に有機栽培に切り替え。他の造り手たちにも働きかけて全体の90%が有機農法を実践するまでに

ワイン造りを始めた当初はいわゆる一般的なブドウ栽培を行っていて、有機を始めたのは1995年からです。私たちのワイン造りの原点は、「土地の伝統的なブドウから土地の個性を生かしたワインを造ること」です。その考えを実現するためにどうすればいいかを考えると自然と有機栽培に向かいました。現在、土地の所有者は私たちですが、「一時的にこの土地を借りている、使わせてもらっている」という気持ちでやっています。つまり、次の世代により良いものとして引き継いでいくということ。だからできるだけ自然のままにしておきたいのです。

私たちが有機を始めたとき、パンツァーノにも3つか4つの造り手が有機を志していました。彼らと一緒に他の造り手にも有機栽培を勧めました。せっかく自分たちの畑が有機になっても、隣の畑が化学肥料を使っていたのではその影響が必ずあります。地域全体で有機にすることに意味があるのです。

幸いなことに、パンツァーノは私たちのようによその土地から移ってきた人が多いので、有機への切り替えも受け入れられたと思います。そしてパンツァーノ全域約700haのうち90%が有機農法になったわけですが、それを実現させた決定的な出来事は、2005年に発生した「スカフォイデウス ティタヌス(Scaphoideus titanus)」という害虫の駆除のため、トスカーナ州から化学的な農薬を使うようにと命令を受けたことです。農薬の使用は有機栽培にとってはあり得ないことですし、いくら自分の畑に使わなくても隣の畑が使えばこれから先ずっとダメージが残ります。そこで、パンツァーノの生産者全員でこの命令に反対し、使わずとも害虫の被害を出さなかったのです。これがきっかけとなってパンツァーノはイタリアの中でも稀有なワイン生産地になったのです。

そして、2011年に「ビオディストレット(Biodistretto)」を創設しました。これは有機栽培をベースに地域内の栽培農家、住民、ツーリスト事業に携わる人、公私問わず各種団体が、有機を推進していき、有機の文化を根付かせ、経済的にも発展していくことを目指している団体です。パンツァーノは有機栽培のモデルエリアとして知られるようになって他の地域からも見学に来るほどになっています。

ビオディストレット団体集合写真
 

剪定後の枝を再利用してコンポストに。醸造はセレクション酵母よりも安心で確実な野生酵母で。

土壌はガレストロ土壌で、肥料は剪定後の枝を再利用したコンポストです。あと、大麦を撒いて緑肥にしています。醸造は、自然に存在している野生酵母に頼ります。野生酵母で初めて発酵させるときは不安がありましたが、実際にやってみると案外簡単ですし、セレクション酵母よりもずっと安心で確実性があります。それに、セレクション酵母から造るワインはどこか他の造り手のワインと似てしまうと思います。自分の畑で育てたブドウを、その土地に自然に存在する野生酵母で発酵させることで自分だけの自分自身のワインになると考えています。

発酵の進み具合も野生酵母は実に自然で、ゆっくりゆっくりと発酵が進みます。セレクション酵母だとあまりに激しく、早く進んでしまって3,4日ぐらいで終わってしまうので恐怖心を覚えてしまいます。

「有機栽培は仕事が多く大変なもの」とイメージしている人が多いかもしれませんがそんなことはありません。もちろん畑の状態を常に見ている必要はあります。でも最新技術を利用して、活用できるものはどんどん取り入れています。それに、有機栽培をきちんとすれば、通常の栽培方法よりもずっと低コストでできます。

収穫作業の様子、3枚の畑の写真

有機栽培のこれからとレ チンチョレ

最近、有機栽培はファッションとなり、誰もが有機栽培を始めています。これは環境にとってもすごくいいことで、恐らく10年後にはすべての造り手が有機栽培をしているようになるのではないでしょうか。

大切なことは、有機栽培を行う造り手自身が美味しいと思うワインを造り、飲み手も美味しいと感じて飲んでもらうことだと思います。私自身は、「絶対にこうでなければならない」という超自然派なナチュラリストではなく、必要であれば例えば野生酵母に固執せずにセレクション酵母を使うこともすると思います。

ここから試飲をしました。

若い樹齢のサンジョヴェーゼとカベルネ、メルロー、シラーで造る新しいワイン
チンチオロッソ 2011
チンチオロッソ 2011


2009年に造った新しいワインです。畑を改修して植え替えたブドウ樹から造っています。70%がサンジョヴェーゼ、30%がカベルネ、メルロー、シラーです。私たちは、土地のブドウ=サンジョヴェーゼからワインを造るというスタンスですが、私たちの畑の中にはサンジョヴェーゼに適さない場所もあり、そこに国際品種を2000年に植樹し始めました。

このワインは、やわらかくて軽めで、日常に飲めるし女性にも飲みやすいタイプに造っています。セメントタンクだけで醸造しています。ラベルも可愛い小鳥のデザインで、新しい世代や手軽に飲めることをイメージしました。

試飲コメント:心地よい果実味と熟成感もある香り。やわらかくスムーズな口当たりのシンプルな味わいながらボリューム感もある。豊かな酸とミネラル感の、味わいの要素のバランスがとれた高い完成度を感じさせる美味しさ。

ワイナリーにとって一番重要なワイン
キャンティクラシコ 2011
キャンティクラシコ 2011


サンジョヴェーゼ100%で造るキャンティクラシコです。1992年が初ボトリングで、当時は白ブドウも使っていました。法律が変わり白ブドウが使えなくなりましたが、20%まではサンジョヴェーゼ以外のブドウも使っていいことになりました。私は、サンジョヴェーゼ100%にするべきだと考えていたのですが。

キャンティ クラシコはレチンチョレにとって一番大切なワインで、このワインの品質を保つことを最も重要視しています。だからリゼルヴァ用のブドウを使うこともあります。

植密度を上げて低収量にすることで品質を確保しているのですが、だいたい1ヘクタールあたり5000~7000本植えています。1株でブドウが1~1.2kgぐらい、ざっとヘクタールあたり40~45QL(一般的には50~60QL)の量になります。野生酵母を使いセメントタンクで発酵後、3週間マセラシオン。2000リットルの大樽で熟成させます。もし、この樽に入りきらないときはセメントタンクに入れます。収穫から2年間はリリースしません。

2011年は歴史に残る難しい年でした。7月は特に暑くてブドウが焼けてしまい、40~50%程度生産量が減ってしまいました。だからリゼルヴァ(ペトレスコ)用のブドウもキャンティクラシコに回しました。プレス機も、よりソフトに搾れる機械を導入し、除梗後にもさらに厳しい選果を行うことで品質を確保しました。

試飲コメント:ベリー系の果実のニュアンス、濃密感がありながらも酸とミネラルがしっかりと効いたなめらかでエレガントな味わい。しなやかさとハリのある美味しさ。余韻もエレガント。

一番いいサンジョヴェーゼだけで造るリゼルヴァ。2008年がキャンティクラシコとして最後のリリース。
ペトレスコ 2008
ペトレスコ 2008


一番いいサンジョヴェーゼから造るキャンティクラシコのリゼルヴァです。セメントタンクで発酵後、熟成はバリックの旧樽を使います。ブドウのポテンシャルが高いので、ノーマルのキャンティクラシコよりも自然に長熟のものになります。2年間バリックで熟成させますが、1年目はバトナージュを行い、2年目は澱引きしてさらに寝かせます。

ペトレスコは、この土地が石の多い土地ということで石(ピエトラ)から来ました。より詩的な表現の言葉で石のように妥協のないワイン、というイメージです。

実は2008年がキャンティクラシコリゼルヴァとして造る最後のヴィンテージです。今後は枠にはまらないIGTワインとして造ります。キャンティクラシコリゼルヴァは、ノーマルのキャンティクラシコよりも1年間熟成を長くすることで法律上は出来ますがそういう枠にはめたくないのです。あとは、リゼルヴァとは別に「グランセレツィオーネ」ができたこともあります。グランセレツィオーネの規定のひとつに「自社畑のブドウだけで造ること」というのがあるのですが、私にしたら何をいまさら当たり前のことを、という想いがあります。リゼルヴァをやめるのは、そういうカテゴリーを造る協会に対する抵抗もありますね。

試飲コメント:熟した果実に加えクリームのニュアンス。アタックには甘みがあるがしばらくすると心地よい旨みが支配。時間を経るごとにレザーや動物的な豊かな香りと彫りの深いミネラル感が増していく。黒系果実の力強さに綺麗な赤い果実の繊細が入り混じる表情豊かなワインで、長期熟成を感じさせる。

パンツァーノのテロワールをサンジョヴェーゼ以外のブドウで表現したいと造ったワイン
カマライオーネ
2007
カマライオーネ
 2007


サンジョヴェーゼ以外のブドウでパンツァーノを表現したいと造り始めたワインです。一種の遊び心からですね。カベルネソーヴィニョン70%、メルローとシラーが15%ずつです。この3つのブドウが1ヘクタールの畑に9000本植えられています。

カマライオーネは500リットルの樽(トノー)発酵です。樽発酵は自分の手で発酵の感触がつかめるので好きです。本当はもっと樽発酵にしたいのですが、カンティーナのスペースが足りないのでなかなかできません。発酵後、マロラクティックからバリックに移し替えます。80%が新樽です。

ワイン名のカマライオーネは特に意味のない言葉です。娘がまだ幼かった頃に「カメレオン」と言おうとしたのに「カマライオーネ」となって、それが私たちにはとても可愛くて可笑しくて。そんな家族の思い出がワインの名前になりました。

試飲コメント:しっかりとした濃厚な色。深みと甘さを感じる香り。力強くもミネラルと上品な酸が存在感があり、キャンティクラシコやペトレスコに共通する旨みが感じられる。まろやかで落ち着きのある、調和のとれた素晴らしい味わい。
インタビューを終えて
ルカさんのお話はどれもがすとんと心に落ちてくる、本当に共感できることばかりでした。

パンツァーノは、直輸入キャンティクラシコのリニャーナがあるところで、レチンチョレとは2kmぐらいしか離れていないそうです。リニャーナを訪問した時、なんて自然に囲まれたところなんだろうと感じましたが、人工的なものを一切感じさせないパンツァーノの土地では有機栽培は自然なことなのだなと再認識しました。

とはいえ、実践するとなると相当の苦労はあるはず。パンツァーノの土地を将来の世代へ残すためにすべきことを最優先に考えてワイン造りを続けるルカさんとヴァレリアさん。土地への思いが感じられるお二人のワインです。

集合写真
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