ピエモンテの銘醸地に数々の高品質畑を所有!100年以上の歴史を持つ自然派「イカルディ」突撃インタビュー

2023/06/07
突撃インタビュー
 
2023年5月16日 マリアグラツィア イカルディ氏 Ms. Mariagrazia Icardi

絶妙な樽使いが引き出すエレガンス!バローロ、バルバレスコなど銘醸地に数々の高品質畑を所有!100年以上の歴史を持つ自然派「イカルディ」突撃インタビュー

マリアグラツィアさん
イカルディは、1914年にリーノ イカルディ氏によって創設された家族経営ワイナリー。拠点を置くのはピエモンテの銘醸地ランゲとモンフェッラートの境界線にあるカスティリオーネ ティネッラです。古くからバローロやバルバレスコ、バルベーラ ダスティの重要エリアに畑を所有し、全ての畑においてオーガニック栽培を行う自然派としても知られています。ワイナリーを切り盛りするのは一貫してイカルディ家。現在は3代目のクラウディオ氏と、その妹マリアグラツィア氏が率いています。クラウディオ氏とシャトーマルゴーの醸造家ポール ポンタリエ氏が共同開発した歴史的赤ワイン「ブリッコ デル ソーレ」をはじめ、イカルディが造るワインはどれも樽のニュアンスが絶妙に引き出されていてエレガント。今回は、それらのワインを試飲しながら3代目マリアグラツィア氏にお話を聞きました。

銘醸地ランゲとモンフェッラートに数々の畑を所有!
100年以上続く家族経営の自然派ワイナリー「イカルディ」

――マリアグラツィアさん、こんにちは。まず、ワイナリーのご紹介からお願いします。

マリアグラツィアさん

マリアグラツィア みなさん、こんにちは。今日は貴重な機会をいただきありがとうございます。イカルディは家族経営のワイナリーです。1914年に初代の祖父ディーノが、家族用にワインを造り始めたのがスタートです。1920年にはワイン生産のライセンスを取得しました。祖父の時代にバルバレスコのネイヴェ村とトレイゾ村に畑を購入しました。

1960年代になると、2代目である私たちの父ピエリーノが自社畑での醸造とワイン販売を開始し、バローロの3つの村、バローロ、ラ モッラ、セッラルンガ ダルバの畑を購入しました。1980年代からは、3代目である兄のクラウディオと私がワイナリーに参画し、販売先を拡大していきました。クラウディオは醸造を、私はマーケティングを担当しています。特にクラウディオは畑の魂とも言える人間です。

そして、4代目にあたる私たちの息子と娘も参画し始めました。クラウディオの息子イヴァンと娘のサラ。私の息子のルカです。大学で醸造学を学んだサラは、将来のエノロゴですね。

イカルディ家

左から2代目、3代目、4代目

バローロ、ラ モッラ、ネイヴェなど、古くから最高の土地の畑を多数所有

ワイナリーが位置するのは、ランゲとモンフェッラートの境目に位置するカスティリオーネ ティネッラです。畑は全て自社畑。全体で50ヘクタールの畑に加えて、ナッツや果物が植えてある土地が5ヘクタールあります。

――バローロやバルバレスコ地区を含め、各畑の割合と広さを教えてください。

マリアグラツィア バローロ地区は合計6ヘクタール。バローロ、ラ モッラ、セッラルンガ ダルバの3つの村に畑を所有し、ラ モッラが最も広いです。バルバレスコは合計12ヘクタール。ネイヴェが最も広く5ヘクタールあります。残りはモンフェッラートにあり、ヴィンキオ、モンベルチェッリ、カスタニョーレ デッレ ランツェという3つのエリアに畑を所有しています。バルベーラ ダスティやモスカート ダスティの重要なエリアですね。

地図

自然を尊重したワイン造りを最重要視

――全ての畑でオーガニック栽培を行っているのですか?

動物

マリアグラツィア 全てです。25年間オーガニック栽培を行っており、15年前に認証を取得しました。私たちが最も大切にしているのは「自然に対するリスペクト」です。祖父の時代から行ってきた方法をそのまま引き継ぎ、自然を尊重したワイン造りを行っています。

1年間のサイクルにおいて、畑や植物に化学的なものを加えることはありません。秋になったら畑に残った草を干し、春になったらそれと一緒に耕して(緑肥をして)ブドウ栽培を行っています。動物もたくさん飼育しています。彼らは草や害虫を食べてくれます。彼らが畑やその周辺にいることによって、何かを加えることなく自然な形で畑に好循環が生まれるのです。生物多様性が保たれています。

畑

シャトーマルゴーの醸造家と共に造り上げた歴史的赤ワイン
「ブリッコ デル ソーレ モンフェッラート」

シャトーマルゴーの醸造家ポール ポンタリエ氏との出会い

マリアグラツィア 私たちは本拠地であるモンフェッラートでブリッコ デル ソーレという赤ワインを造っています。このワインは、クラウディオの経験から生まれたワインです。フランスワインを好むクラウディオは、大学卒業後にボルドーへワインの勉強に行きました。その研修先がシャトーマルゴーだったんです。

――そうだったんですね。なぜシャトーマルゴーに行くことになったのですか?

マリアグラツィア 約40年前、シャトーマルゴーの醸造家、故ポール ポンタリエ(総支配人)がイカルディを訪ねたことがありました。その時に、当時まだ若いクラウディオが「マルゴーで勉強させてください」と彼にお願いをして実現させたのです。マルゴーでは特にブレンドについて研鑽を積みました。そのポール ポンタリエと一緒にブレンドを完成させて造ったのがブリッコ デル ソーレなのです。

ブリッコ デル ソーレ

――イタリアからサンプルを持っていって、ブレンドを完成させたのですか?

マリアグラツィア そうです。ネッビオーロだけでなくバルベーラやドルチェットも持参しました。彼らが一緒に吟味をして最終的に行き着いたのが、ネッビオーロ60%、カベルネ ソーヴィニヨン30%、バルベーラ10%というブレンドでした。毎年同じ比率ではないですが、カベルネはいつも30%ですね。

――ブリッコ デル ソーレのラベルだけテントウムシが描かれている理由は何ですか?

マリアグラツィア 単純にこれだけにつけたかったんです(笑)。テントウムシは自然の象徴ですが、他のワインも同じく自然な造りをしています。あとは幸せという意味もあります。

 

イカルディ独自の樽使いで仕上げるエレガントな味わい
「ベストな状態になったらステンレスタンクに移します」

樽の影響を受けすぎないベストな状態を見極めて引き出す果実感

――熟成時はずっと樽(バリック)に入れておかずに、ステンレスタンクに戻すと聞きました。樽からステンレスタンク、ステンレスタンクから瓶(詰め)という順番だと。

マリアグラツィア 私たちは樽の風味をつけすぎないことを意識しています。樽で熟成している時に、ベストの状態になった段階でステンレスタンクに移し、それ以上樽の影響を受けないようにしています。規定の熟成期間を守りながら、そういった方法を取るワインもあります。

樽

――樽のニュアンスがありながらもエレガントな味わいに仕上がっているのは、そういうことだったんですね。

マリアグラツィア 樽のトースト具合も軽めに抑えています。これは果実感が樽で覆われてしまわないようにするためです。

――一方で、ランゲネッビオーロやクリュのワインでは大樽を使用しています。

マリアグラツィア そうですね。約40年前、私たち3代目がワインを造り始めた頃はバローロボーイズ全盛期でした。みんながフランス産バリック、フランス産バリックと叫んだものです。私たちもその時代にバリックを使い始めました。しかし、今はやや過渡期にあります。そこで私たちは、バリックとどのような違いが生まれるのかと思い、2015年に5000リットルのフランス産大樽を購入しました。通常のバローロ、バルバレスコはバリックを使用していますが、クリュは全て大樽で造るようにしています。

バリック熟成ソーヴィニヨン&ステンレス熟成シャルドネ!
逆転の発想で造る特徴的な辛口白
パフォイ ビアンコ 2019
パフォイ ビアンコ 2019


マリアグラツィア氏
「パフォイは、ソーヴィニヨン60%、シャルドネ35%、コルテーゼ5%の白ワインです。ソーヴィニヨンは、軽めにトーストしたフレンチバリックで6~8ヶ月熟成させます。シャルドネとコルテーゼはステンレスタンクです。このワインを造り始めたのは40年前。当時からバリックに入れるのはシャルドネ、ステンレスにはソーヴィニヨンが普通の考え方でした。一方で私たちは反対のことをしたわけです。そのため、周囲からは頭がおかしくなったんじゃないかと言われたものです。でも、違いますよと。“私たちはおかしくない”(non siamo matti)という意味を込めて、ピエモンテ方言で“パフォイ”と名付けました。

10年前からコルテーゼを加え始めました。シャルドネの骨格にフレッシュなソーヴィニヨンとコルテーゼが加わり、とてもバランスの良さが表現されています。トマトの葉っぱやトロピカルフルーツの香りがしますね。フレッシュチーズやブルスケッタ、魚料理などと相性が良く、食前酒としても活躍する白ワインです」

試飲コメント:輝く麦わら色。華やかでアロマティックな香り。洋ナシなどの白い果実、ミネラル。時間が経つとドライフルーツやレモンの厚みのあるアロマが現れてきます。香り同様に華やかで親しみやすい味わいです。非常にフレッシュな酸がアタックから余韻まで長く持続します。最後に甘やさとリッチさも現れます。

2代目が愛した樹齢50年を超えるネイヴェ村のバルベーラ ダスティ
ヌイ スイ ベルバーラ ダスティ 2018
ヌイ スイ ベルバーラ ダスティ 2018


マリアグラツィア氏
「ヌイスイは、バルバレスコのネイヴェ村の畑で造るバルベーラ100%の赤ワインです。この畑は父が植樹したもので樹齢50年を超える古い畑です。父が愛していたバルベーラを、今も大切に残し続けています。10月中旬に収穫。20日間の発酵とマセラシオンを行った後、ブドウの半分をバリック、半分をトノーに入れます。どちらも軽めにトーストしたフレンス産の樽を使用しています。ルビー色で、スパイス、スミレ、リコリス、ベリーの力強い味わいです。酸とストラクチャーのバランスが優れたバルベーラですね。羊やヤギのチーズ、パスタと相性がいいです。イノシシなどの脂身の多いジビエ肉とバルベーラの酸は合いますね」
試飲コメント:ルビー色。紫果実、紫バラ、燻製ナッツ、くるみなどの複雑さとバランスに優れた香り。力強さ、骨格、果実味、酸味、樽のニュアンス、全てが綺麗に溶け合い、非常に優れたバランスがあります。

シャトーマルゴーの醸造家(総支配人)と共に造り上げた歴史的赤ワイン
ブリッコ デル ソーレ モンフェッラート 2019
ブリッコ デル ソーレ モンフェッラート 2019


マリアグラツィア氏
「42年前、兄のクラウディオが、シャトーマルゴーのエノロゴ(総支配人)であるポール ポンタリエとともに造り上げたボルドースタイルの赤ワインです。モンフェッラートで造られたネッビオーロ、カベルネ ソーヴィニヨン、バルベーラをブレンドしています。18ヶ月~20ヶ月間バリックで熟成をさせています。繊細さとストラクチャーを兼ね備えた味わいです。ブリッコ デル ソーレとは、“太陽の光を浴びる畑”という意味です。チーズやラム肉と相性が良いです」
試飲コメント:ややガーネットよりのルビー色。ベリー系のフレッシュ&ジューシーな果実、黒胡椒、リコリス、ミネラルのニュアンスを持つ香り。骨格と凝縮感がありながら軽やか。飲み心地の良い味わいです。繊細なタンニンが、持続する余韻を引き立てています。

ネイヴェ村の樹齢25年で造る親しみやすさ溢れるランゲ ネッビオーロ
スリス イヴァン ランゲ ネッビオーロ 2020
スリス イヴァン ランゲ ネッビオーロ 2020


マリアグラツィア氏
「スリス イヴァンは、バルバレスコのネイヴェ村、樹齢25年の若いネッビオーロで造っています。私たちはバルバレスコに使用するブドウの樹齢を40年以上と設定しているので、これはランゲ ネッビオーロとして使用しています。スリス イヴァンとは、ピエモンテ方言で“イヴァンの笑顔”という意味です。私たちイカルディ兄妹にとって最初の息子(甥っ子)であるイヴァンの名から取っています。他にも、ルカとサラもいるので、彼らの名前のついたワインも造らないといけないですね(笑)。

開けてすぐ楽しめるワインです。よりわかりやすい果実味を引き出すために、5000リットルの大樽で熟成しています。エレガントさ、スパイシーさ、こなれたタンニンのある親しみやすい味わいです。私たちは、こういうスタイルのワインを造りたかったんです」

試飲コメント:明るさと深さのあるルビー色。赤い果実、黒い果実、花を感じるフレッシュで複雑な香り。凝縮感もあります。濃厚さ、エレガントさ、華やかさを兼ね備えた味わい。こなれたタンニン。チェリーやベリーをかじったようなジューシーさがあり、ややチョコレートのニュアンスを感じます。

果実感と優しさに溢れたネイヴェ村で造るバルバレスコ
モンテュベルト バルバレスコ 2017
モンテュベルト バルバレスコ 2017


マリアグラツィア氏
「ネイヴェ村で造るワインの女王、バルバレスコです。モンテュベルトは、ピエモンテ方言で“ウンベルトの山”という意味です。ウンベルトとは、1700~1800年代にこのエリアを支配していた王様ウンベルト サヴォイアの名前です。収穫は10月第2週から何回に分けて行います。それぞれのタイミングで熟したブドウだけを収穫します。軽めにトーストしたバリックとトノーを半分ずつ使用して20ヶ月熟成させます。果実感を表現したいので樽の風味が出過ぎないようにしています。スミレの花の香り。骨格もタンニンもありますが、優しいエレガントな味わいです。ローストビーフやブラザート アル バルバレスコ(牛肉のバルバレスコ煮込み)などのお肉料理と最適です」
試飲コメント:ガーネットよりのルビー色。芯のしっかりしたエレガントかつ凝縮した香り。ドライフルーツ、花。抜栓1時間後、香りに厚みが出てきました。味わいはフレッシュで繊細。フレッシュな酸とベリー系果実のエレガントな風味が長い間持続します。時間が経つと、エレガントで凝縮した赤系果実、革などのスパイスが際立ち始めました。タンニンと果実味が綺麗に溶け合っています。

これぞイカルディのバローロ!
3つの村に所有する全ての畑で造るクラシックバローロ
パレイ バローロ 2018
パレイ バローロ 2018


マリアグラツィア氏
「パレイとは“これが私”という意味で、まさに私たちを表現したバローロです。所有するバローロ、ラ モッラ、セッラルンガダルバ全ての畑のブドウを使用しています。軽めにトーストした新樽バリックで36ヶ月間熟成しています」
試飲コメント:明るく輝くガーネット色。小粒のベリー果実が香る繊細なアロマ。ベリー系のピュアな果実味が前面に現れ、美しく繊細な酸が口中を満たします。持続性のある味わい。
インタビューを終えて
イカルディのワインは全てエレガントだと感じました。マリアグラツィアさんから樽の使い方をお聞きして納得。樽のニュアンスがあり複雑で凝縮感もありますが、クリーンな果実感とデリケートさが前面に出ていて美味しかったです。

特に印象的だったのは、樽熟成ソーヴィニヨン&ステンレスタンク熟成シャルドネ&コルテーゼのブレンド白ワイン「パフォイ」とランゲネッビオーロ「スリス イヴァン」でした。「パフォイ」は、華やかさとフレッシュさがありながら厚みのある味わいで非常に特徴的。「スリス イヴァン」は、濃厚さ、エレガントさ、華やかさが突出していてバルバレスコと言ってもいいくらいの味わいでした。バルバレスコ、バローロはもちろん大変美味でした!

ワインの名前は全てピエモンテ方言で名付けられています。それらには、ピエモンテ人として持つ強い意思や物語が込められていると感じました。100年以上ピエモンテの銘醸地に根付き、その土地の自然や畑を愛し続ける姿があるのだと思います。

ランゲとモンフェッラートに100年以上の歴史を持つ自然派「イカルディ」のワインをぜひお楽しみください。

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