サルデーニャの自然派「デットーリ」突撃インタビュー

2024/06/21

2024/05/14

アレッサンドロ デットーリ氏 Mr. Alessandro Dettori

3000年の歴史を持つ小規模IGTロマンジャ!
地元品種、セメントタンク、無ろ過、無清澄で産地の個性を引き出すサルデーニャの自然派「デットーリ」突撃インタビュー

デットーリは、サルデーニャ北西部センノリにほど近い小規模ワイナリー。何世紀も前からサルデーニャに根付く生産者で、かつては地元の協同組合にブドウを卸す農家でした。現当主のアレッサンドロ デットーリ氏がワイナリーを受け継ぐと、有機栽培や自社での瓶詰め100%に転換。3000年も前からワインが造られていたというIGTロマンジャを拠点に、セメントタンクを用いて無ろ過、無清澄、SO2無添加(または最小限の添加)でナチュラルなワイン造りをしています。今回はアレッサンドロ氏に、ワイナリーの歴史やご自身についてお話を聞きました。

サルデーニャ北西部の歴史的産地ロマンジャの自然派デットーリ

現当主アレッサンドロ氏の代から100%ボトリングを開始
——本日はよろしくお願いいたします。まずはワイナリーについて教えてください。

デットーリはサルデーニャの歴史あるワイナリーです。1603年にアントニオ デットーリがブドウ栽培をしていたという記録が残っています。デットーリブランドとしては、およそ曾祖父の代から始まりました。その頃は、他の生産者にブドウを売っていて、父の代になってから少しずつボトリングを始めました。

長男である私はワイン造りを継ぐ以外に選択肢はありませんでした。私はワイナリーを発展させるために「100%ボトリングすること」を先代に提案し、1993年から始めました。それができると思っていなかった父と祖父は「やめよう」と言ってきましたが、実際は非常にうまくいきました。

3000年前からワイン造りの歴史を持つロマンジャ
——ワイナリーの場所は昔から同じですか?

同じです。サルデーニャの北西部にあるIGTロマンジャに位置しています。一番近くの大きい町は、人口15万人のサッサリです。約3000年前からワインが造られ、約2000年前には古代ローマ人が支配していた歴史ある土地です。ロマンジャの土地なくしてはデットーリのワインは語れません。今や世界中で高品質なワインが造られますが、どういう歴史を持ちどういう人たちによってワインが造られてきた産地であるかが重要なポイントだと考えています。

土着品種&セメントタンクの使用でロマンジャの個性を表現
そして、現在はサルデーニャ全体をはじめロマンジャは重要な産地になりました。いくつかのワイナリーが国際品種を用いてワインを造る中で、私は「この土地に根付く伝統的な品種で偉大なワインを造ることはできるのか」と2002年頃から自問自答するようになりました。

その結果、曽祖父の代からあるセメントタンクを用いて、ロマンジャに根付く品種だけでサルデーニャを表現するワインを造ることを決めました。バリックなどの木材も使用しません。去年(2023年)で30回目の収穫を迎えたのですが、多くのお客様やジャーナリストから称賛の言葉と自信をいただきました。

——畑の広さと栽培するブドウ品種の割合を教えてください。

全部で29ヘクタールあります。品種の割合は、カンノナウ63%、ヴェルメンティーノ12%、モニカ10%、パスカーレ10%、モスカート5%です。

セメントタンク

人的介入を抑えた、自然をそのまま映し出すワイン造り

当主アレッサンドロ氏のワイン造りのバックグラウンド
——アレッサンドロさんはいつからワイン造りを始められたのですか?

1993年、18歳の時です。当時は大学に行きながら畑仕事をしていました。2012年には、栽培と醸造の学校(Viticoltura ed enologia)を卒業し、講師として教えたこともあります。

——約30年間ワイン造りをする中で、特に影響を受けた人物はいますか?

ワイン生産者ではないですがアレックス ポドリンスキー(Alex Podolinsky/ビオディナミの世界的権威)に影響を受けました。彼はビオディナミの中でもより厳格に規則を順守する人でした。ビオディナミを行う上では、その厳格さを持って畑と接しないといけません。

例えば、医者には複数の種類があります。人間を診る医者、動物を診る医者、そして植物を診る医者です。これら3者は、およそ80%は同じ内容を学びます。獣医は動物の言語を学ぶ必要があり、植物にいたっては全く別の言語が必要になるのでより難易度が高いです。もし、その言語の理解と知識がなければビオディナミと向き合うのは難しいでしょう。

唯一のサルデーニャ生産者としてビオディナミ団体「Return to Terroir」に加盟
私は、フランスのニコラ ジョリーが設立したビオディナミ団体「Return to Terroir」にサルデーニャ唯一の生産者として加盟しています。しかし、その活動についてラベルには一切記載していません。ナチュラルワインとしてワインを売り出すことは間違っていると考えているからです。ナチュラルというのは一つの過程に過ぎません。ワインはワインであり、歴史と文化を映し出すものです。

「素晴らしいワインを造るには自然をそのままワインに反映させる必要がある」
私の経験では、素晴らしいワインを造るには自然をそのままワインに反映させる必要があると考えています。そのためには(人的介入を最小限にとどめる)畑仕事と醸造を重視して、ワイン自体が語るものをそのまま表現しています。ワインは嘘をつきませんからね(笑)。

爽やかでフレッシュな酸が光るヴェルメンティーノ

デットーリ ビアンコ

デットーリ ビアンコ

セメントタンクで6日間のマセラシオン、6ヶ月熟成のヴェルメンティーノ100%白ワイン。SO2無添加、無ろ過、無清澄で造られています。完熟した柑橘系の果実、爽やかなミネラルの香り。ふくよかな果実味と綺麗な酸。華やかで柔らかく、ブドウの旨みを素直に感じられる味わいです。スパイシーな料理屋肉料理とも相性が良いです。
試飲コメント:やや濁りのある黄色。レモンなどの柑橘類、爽やかなハーブ、生姜のような香り。口に含むと鋭い酸が駆け上がり、フレッシュな果実と苦味のバランスに優れた味わいです。

世界で唯一造られるパスカーレ100%赤ワイン

オットマルツォ

オットマルツォ

ロマンジャでしか栽培されない土着品種パスカーレ100%で造る赤ワイン。100%で造るのは世界でデットーリのみ。セメントタンクで10日間のマセラシオン、6ヶ月熟成。SO2無添加、無ろ過、無清澄で造られています。赤い果実やバラ、乾燥したハーブや煙草、レザーなどの香り。まろやかな口当たりから豊かな果実味が広がり、ミネラルが全体を整える非常にエレガントな味わいです。
試飲コメント:ルビー色。凝縮かつジューシーな赤系果実、ハーブが香るアロマ。フレッシュな酸、若干緑っぽいニュアンス、ピュアな果実感が口中を満たします。

ほどよく重厚感で飲み心地の良いモニカ100%赤ワイン

キンバンタ

キンバンタ

モニカ100%赤ワイン。除梗後にセメントタンクで約1週間のマセラシオン、6ヶ月熟成。SO2無添加、無ろ過、無清澄で造られています。熟れたスモモやプラム、イチゴのジャムなどのアロマに、ピンクペッパーなどのスパイス、レッドチリ、タバコ、黒トリュフなどのニュアンス。滑らかでパワフルなアタック。酸味は落ち着きがあり、果実味は重厚感があり、アルコールのパワーと相まって全体は大柄。余韻は長くスパイシーな印象が持続します。
試飲コメント:やや濃いルビー色。フルーティで華やかな香り。ハーブや土のようなニュアンスも。香り同様の味わいで、ほどよい重厚感で飲み心地の良さがあります。

複雑な香りと濃密な味わい!
モスカート ディ センノリ100%で造る陰干し甘口白ワイン

モスカッデッドゥ

モスカッデッドゥ

甘味と塩味を持つフレッシュなブドウ品種モスカート ディ センノリ100%で造る甘口白ワイン。陰干しをした後、セメントタンクで3日間のマセラシオンをして発酵し、その後36ヶ月熟成。SO2を必要最低限(20mg/l)添加し、無ろ過、無清澄で造られています。杏や黄桃などの黄色い果実の甘い果実香に蜂蜜やバニラ、シナモンなどのスパイス香。香りでも感じた複雑なスパイスが味わいにも現れ、旨味のつまった果実味と調和し非常に濃密な味わいです。
試飲コメント:濁りのある濃い琥珀色。杏などのドライフルーツ、ハチミツ、ミネラル、スパイスの複雑な香り。口当たりはなめらかです。香り同様の味わいに加えてバニラのニュアンスを感じます。甘みとフレッシュな酸が調和しています。

インタビューを終えて

「歴史的産地である地元で素晴らしいワインを作るんだ」という当主アレッサンドロさんの確固たる思いを感じたインタビューとなりました。また、ロマンジャでしか栽培されない土着品種パスカーレを唯一100%で造るなど、デットーリの独自性も感じることができました。

試飲したワインはどれもフレッシュで飲み心地の良い味わいです。新鮮なハーブのような爽やかな風味も印象的でした。「ワイン自体が語るものをそのまま表現している。ワインは嘘をつきません」とアレッサンドロさんが話すように、これがロマンジャの個性なのだと実感することができました。