トスカーナの歴史的名門「バロンチーニ」突撃インタビュー

2024/07/05

2024/06/26

サムエレ バロンチーニ氏 Mr. Samuele Baroncini、ニコラ ベルティ氏 Mr. Nicola Berti

サンジョヴェーゼを極めるべく5つの銘醸地に進出!500年以上の歴史を持つトスカーナの名門「バロンチーニ」突撃インタビュー

500年以上の歴史を持つトスカーナの名門バロンチーニ家。現当主ブルーナ バロンチーニ氏が、トスカーナのサンジョヴェーゼを極めるという先人たちの想いを受け継ぎ、各銘醸地に進出してサンジョヴェーゼ造りを追求しています。彼女らが手掛けるのはサンジミニャーノ、モンテプルチアーノ、マレンマ、モンタルチーノ、キャンティ クラシコ。ワインは見事に産地の違いが表現されており、優れたコストパフォーマンスでお楽しみいただけます。今回は、ブルーナ氏の甥サムエレ バロンチーニ氏と醸造家ニコラ ベルティ氏にお話を聞きました。

トスカーナで500年以上の歴史を持つ名門バロンチーニ家

1489年からサンジミニャーノでワイン業に携わる
――ボンジョルノ。まずは自己紹介とバロンチーニ家の歴史をお聞かせください。

サムエレ ボンジョルノ、サムエレ バロンチーニです。私たちバロンチーニ家の歴史はサンジミニャーノでワインを販売していた1489年まで遡ります。ワインを造る前はサンジミニャーノ特産のサフランをスペインに販売していましたが、徐々にサンジミニャーノの土地を取得、拡大していきワイン生産を始めました。当時造っていたのは主にヴェルナッチャの白ワインでした。

60年代にワイナリーが発展、80年代にワイン事業拡大
サムエレ サンジョヴェーゼも造っていましたが、ルネサンス(14~16世紀)では白ワインのほうが造るのが難しく、貴重で高く評価されていた時代でした。時が進み、1960年代、私の祖父母の代になるとトスカーナでは少しずつワイナリーが誕生し、バロンチーニ家も同時に発展していきました。当時はサンジミニャーノでヴェルナッチャとサンジョヴェーゼ(キャンティ)を造っていました。

私の父と叔父の代になると高品質を求めるようになり、(現当主の)叔母ブルーナが参画した1980年代頃からワイン事業が拡大していきました。時代的にイタリアが最も経済成長をした時期ですね。

「まさにサンジョヴェーゼの旅」
サンジョヴェーゼ造りを極めるために5つの産地へ進出

サムエレ ブルーナが注力したのは、トスカーナの各地でおこなうサンジョヴェーゼ造りでした。さまざまなワインを造りたいという思いを持つ彼女は、サンジミニャーノからモンテプルチアーノ、マレンマ、モンタルチーノ、キャンティ クラシコの順で土地を取得し、まさにサンジョヴェーゼの旅を始めたのです。

左からサムエレ氏、ブルーナ氏

トスカーナの銘醸地を網羅!
各産地を追求して表現するサンジョヴェーゼの個性

――それぞれ畑の広さを教えてください。

サムエレ サンジミニャーノは10ha、モンテプルチアーノは5ha、マレンマは20ha、モンタルチーノは10ha、キャンティ クラシコは5haです。

――トスカーナの各地で小さめの畑を手掛けるのは珍しいと思います。現当主のブルーナさんの想いが大きかったのでしょうか?

サムエレ 彼女はサンジョヴェーゼに対する強い想いを持っています。バロンチーニ家のルーツであるトスカーナに根付くサンジョヴェーゼの個性を表現するために、各産地を追い求めていきました。

キャンティ クラシコ進出で完成系を迎えたテヌーテ トスカーネ
サムエレ 各地のカンティーナを取得したのは、1990年代から2000年代にかけて。当時のイタリアが活気づいていたこともありますし、ブルーナは走り出したら止まらない人なので(笑)、約10年間で4箇所を取得しました。

最後に取得したキャンティ クラシコの歴史はまだ浅いですが、バロンチーニ家にとっては非常に重要です。祖父の代はサンジミニャーノでキャンティを造っていたのですが、当然エリア的にキャンティ クラシコを造ることはできませんでした。

彼らは長年、クラシコを造りたいと思っていました。残念ながらその願いは叶いませんでしたが、私たちは2006年にテヌータ カズッチョ タルレッティを取得し、念願のキャンティ クラシコに進出しました。

バロンチーニグループはテヌーテ トスカーネとして各地でワイナリーを手掛けていますが、特に思い入れのあるカズッチョをグループのロゴ中央部に配置しています。そして、その念願のキャンティ クラシコ取得を最後のピースとしてテヌーテ トスカーネは完成を迎えました。

キャンティ クラシコ&モンタルチーノ
醸造家ニコラ ベルティ氏のサンジョヴェーゼ解説

土地の個性を映し出す特殊な品種サンジョヴェーゼ
ニコラ サンジョヴェーゼは、気候や土壌の特徴を吸収するとても特殊な品種です。もちろん今回試飲するキャンティ クラシコとモンタルチーノのワインは特徴が異なりますが、どちらもサンジョヴェーゼの本質とテロワールを表現しています。

香り味わいともにフレッシュ!
酸度が高く、いきいきとしたタンニンのキャンティ クラシコ

――キャンティ クラシコ、モンタルチーノの畑の特徴を教えてください。

ニコラ キャンティ クラシコの畑は、カステルヌオーヴォ ベラルデンガに位置しています。面積は小さいですが、伝統的なサンジョヴェーゼを造るのに最適な土地を見つけることができました。

主に砂質土壌で、酸度が高く、いきいきとしたタンニンが生まれます。香り味わいともにフレッシュさを感じていただけます。カズッチョはサンジョヴェーゼだけを栽培しているので、どのキュヴェも単一で造っています。

キャンティ クラシコのテヌータ カズッチョ タルレッティ(左)
モンタルチーノのテヌータ ポッジョ イル カステッラーレ(右)

粘土土壌、標高500mの冷涼エリア
凝縮感と複雑味が引き出されるモンタルチーノ

ニコラ モンタルチーノの畑は、北東部トッレニエーリの近くにあります。茶色の粘土土壌で、凝縮感や複雑味のあるリッチな味わいが生まれます。サンジョヴェーゼ以外にメルローとカベルネ フランを栽培しています。

標高が500mまであり冷涼なエリアなので、温暖化に対抗できる北向きの畑です。以前までは太陽の当たる南向きがいいと言われてきましたが、近年はピエモンテからシチリアまであらゆる生産者が北向きに移行しています。

畑の個性に寄り添って生まれる最高のサンジョヴェーゼ
――高標高ということですが、試飲すると想像以上に柔らかさがあります。これは意図的に引き出しているのですか?

ニコラ モンタルチーノのサンジョヴェーゼは、キャンティ クラシコと比べて柔らかいのが特徴です。そして、私たちは自然に抗うような造りはしません。畑の個性に寄り添い、サンジョヴェーゼを最高の形で表現した結果、生まれた味わいです。

より土地の独自性を強調するために大樽メインで造るリゼルヴァ
ニコラ ステンレスタンク以外に使用する熟成容器は3種類で、大樽、トノー、バリックです。年やキュヴェによって使用比率は変わりますが、土地のアイデンティティをより強調したいリゼルヴァはキャンティ クラシコもブルネッロもどちらもバリックを使用しません。主に大樽を用いて威厳のあるスタイルに仕上げています。

優しい飲み心地のサンジョヴェーゼ100%キャンティ クラシコ

キャンティ クラシコ カズッチョ タルレッティ

キャンティ クラシコ カズッチョ タルレッティ

ニコラ:
「サンジョヴェーゼ100%で造るキャンティ クラシコです。3週間マセラシオンをしたあとに、1年間樽で熟成させます。使用する樽は3種類。大樽50%、バリックとトノーが25%ずつです。サクランボなどのフレッシュな赤い果実と、優しい飲み心地を感じていただけると思います。これはこの土地を表現しているものです」
試飲コメント:淡いルビー色。グラスに注いだ瞬間からチェリーやベリーの香りが広がります。やや厚みがあり甘やかな果実のニュアンス。口に含むとフレッシュかつまろやかな酸が口中に広がり持続します。香りで感じたベリーやイチゴのような明るい果実味が、繊細なタンニンに溶け込んでいます。

力強さと柔らかさをあわせ持つキアンティ クラッシコ リゼルヴァ

キアンティ クラッシコ リゼルヴァ カンポアルト カズッチョ タルレッティ

キアンティ クラッシコ リゼルヴァ カンポアルト カズッチョ タルレッティ

ニコラ:
「サンジョヴェーゼ100%で造るキャンティ クラシコリゼルヴァです。自社畑の優れたブドウのみを使用しています。熟成は大樽75%、トノー25%を用いて18ヶ月間おこないます。大樽をメインに使用することで、威厳あるスタイルに仕上げています。タンニンはしっかりとありますが、それを感じさせない綺麗な味わいを感じていただけると思います。グリルしたお肉や、味付けがしっかりした野菜のスープと相性が良いです」
試飲コメント:輝くガーネット色。黒系果実と赤系果実、フレッシュな果実と凝縮果実が入り混じる複雑で力強い香り。味わいも力強さがありますが、柔らかく全体的に綺麗にまとまっている印象です。しなやかでクリーンなタンニンが心地よく、複雑で長い余韻を演出しています。

気軽に楽しめるバロンチーニ家のエントリーライン

パッソ デイ カプリオーリ トスカーナ ロッソ

パッソ デイ カプリオーリ トスカーナ ロッソ

ニコラ:
「パッソ デイ カプリオーリは、どなたでもシンプルに楽しんでいただけるエントリーラインです。標高の高いモンタルチーノで造られた若いサンジョヴェーゼ70%、メルロー30%をステンレスのみで造っています。メルローがサンジョヴェーゼの厳格さを和らげたまろやかな味わいです。そのおかげで、幅広い料理と合わせることができます。冷やせば魚料理にも合わせられます。生産本数は3万本程度です」
試飲コメント:濃いガーネット色。ブルーベリーを煮詰めたような凝縮果実のリッチな香り。味わいも同様に凝縮感があります。タンニンの上に果実味が乗り心地よい味わいです。

優れた骨格と凝縮感のあるロッソ ディ モンタルチーノ

ロッソ ディ モンタルチーノ

ロッソ ディ モンタルチーノ

ニコラ:
「樹齢は15~20年のサンジョヴェーゼで造るロッソ ディ モンタルチーノです。大樽85%、バリック15%(旧樽)で10ヶ月間熟成しています。キャンティ クラシコと比べて、優れた骨格と凝縮感のある味わいです。肉料理とばっちり合うような個性を持っていて、トスカーナ名物の味の濃いサラミと相性が良いです。生産本数は1万本です」
試飲コメント:ルビーよりのガーネット色。赤系果実、黒系果実が入り混じる中程度に力強く複雑な香り。徐々にスパイスのニュアンスが現れます。香り同様の統一感のある味わい。豊富なタンニンはありますが、長く持続する余韻も相まって心地よさがあります。肉料理と食事と合わせたくなる味わい。

フレッシュ果実と樽が溶け込むエレガントなブルネッロ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ

ニコラ:
「私たちを代表するワインです。年間生産本数は2万3000本程度です。それぞれ3分の1ずつの大樽、トノー、バリックで2年間熟成させます。部分的に新樽を使用しています。ロッソ ディ モンタルチーノと比べると、よりエレガントで縦に伸びる味わいです。2017年はすごい暑い年でしたので、リッチな風味を持っていますが、最終的に高い酸のおかげでバランスに優れた年になりました」
試飲コメント:ガーネットよりのルビー色。フレッシュな赤系果実と黒系果実が入り混じる中に樽のニュアンスが溶け込んだ香り。樽と果実が調和した力強く厚みのある味わい。それでいてエレガントさも感じます。時間が経つと、チョコやコーヒーのニュアンスが現れます。

生産本数は2500本、良年のみ生産!最高区画のブドウを厳選して造るブルネッロ リゼルヴァ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ リゼルヴァ ピアン ボッソリーノ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ リゼルヴァ ピアン ボッソリーノ

ニコラ:
「ブルネッロのリゼルヴァは良年しか造りません。リゼルヴァ用の高標高区画のブドウをより厳選して、主に大樽で36ヶ月間熟成しています。気品と威厳のある味わいで、瞑想的なワインとして飲んでいただいてもいいと思います。生産本数は2500本前後です」
試飲コメント:ガーネット色。黒系果実やドライフルーツを感じる香り。徐々にスパイスのニュアンスも現れます。味わいは力強くフレッシュな酸があります。存在感のあるタンニンも相まって余韻が長く持続します。

インタビューを終えて

500年以上の歴史を持つバロンチーニ家。サムエレさんご自身も「30代目くらいかな」と、正確な代がわからないほどの長い長い歴史が刻まれているのだと実感しました。

ワイン造りを行うサンジミニャーノ、モンテプルチアーノ、マレンマ、モンタルチーノ、キャンティ クラシコは、それぞれ物理的な距離もありますし大変な労力を要すると想像します。それでも、先人の想いを受け継ぎ各産地を開拓し、サンジョヴェーゼ造りを追求していることに胸を打たれました。今回お話を聞いて、「自分たちはトスカーナを代表する造り手だ」という思いも感じました。

試飲をして印象的だったのは、キアンティ クラッシコ リゼルヴァ カンポアルトです。力強さと柔らかさが共存しており、綺麗にまとまった味わいで非常に美味しかったです。お手頃な価格帯にも驚きです。バロンチーニ家が手がけるワインをぜひお楽しみください。