超一流ブランド・フェラガモの美学を体現する「イル ボッロ」突撃インタビュー

2024/10/17

2024/09/27

サルヴァトーレ フェラガモ氏 Mr. Salvatore Ferragamo

超一流ブランド・フェラガモの哲学と美学を体現するワイン造り!DOCヴァルダルノ ディ ソープラに所有する村一帯を再興させた至高の造り手「イル ボッロ」突撃インタビュー

歴史に名を残す名優たちの靴を手掛けてきた超一流ブランド・サルヴァトーレ フェラガモ。彼らがトスカーナのDOCヴァルダルノ ディ ソープラに位置するイル ボッロ村を取得して始まったワイナリーがイル ボッロです。村一帯に所有する土地の総面積は1100haを誇り、ワイナリーだけでなくレストラン、ホテルと3つの事業を営んでいます。かつて廃村同然だった村を再興させ、現在は全てのエネルギーを自社で賄うなどして、次世代の持続可能な事業経営を実現しています。ワインはまさしく、フェラガモのものづくりの哲学を体現した美しく洗練されたスタイル。今回は7年ぶりの再会となったサルヴァトーレ フェラガモ3代目、イル ボッロ当主サルヴァトーレ フェラガモ氏にお話を聞きました。

イル ボッロ村を再興させ、持続可能な循環システムを構築
社会課題の解決と事業成長で新時代を牽引するファラガモ家

1100haを誇るイル ボッロ村と周辺一帯を所有
――2017年以来のインタビューですね。

この7年間で私たちは様々な事業展開や変化がありました。まずは、近隣にあるヴィテレータという農園を取得しました。これにより、ブドウ畑は90haに増え、イル ボッロ全体の所有地は1100haになりました。もともとイル ボッロ村を取得して始まったワイナリーですが、当初は所有地が2つに分かれていました。その中間地点にあったヴィテレータを取得したことで1つにまとめることができました。

そして、“ゼロ キロメートル”という自産自消をコンセプトにしたレストラン「Il Borro Tuscan Bistro」を5店舗にまで展開させました。トスカーナに3店舗(フィレンツェ、イル ボッロ村、ヴィエスカ)、ギリシャのクレタ島とドバイに1店舗です。ヴィエスカは、フィレンツェの南にある祖母の家をリフォームしたホテルでもあります。ロンドンにも展開していましたが、閉店して再度ロンドンで新店舗をオープンする予定です。

イル ボッロ村を取得した2代目のフェルッチオ氏、3代目のサルヴァトーレ氏

「ワイナリー」「レストラン」「ホテル」
3つの経営を軸に再興した住民ゼロの村イル ボッロ

もう1つ、サスティナビリティの取り組みも重要な変化です。毎年サスティナブルバランスシートの報告書を作成し、環境、社会、経済で構成される持続可能な事業経営を目指しています。それぞれ3つのサスティナビリティについて説明します。

脱炭素化を実現する環境的サスティナビリティ
レストラン事業で“ゼロ キロメートル”を実践しているように、太陽光発電などを用いてイル ボッロが使用するエネルギーは全て自社で賄っています。また、カーボンネガティブ(※)も実現しており、CO2排出量の3倍の量を吸収しています。これは、お客様がイル ボッロに来られるまでに排出した量も含まれています。そして、もちろんワイン事業においてもビオ認証を取得してワイン造りをしています。
(※)CO2減少に導くこと。企業活動におけるCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量よりも吸収量が上回っている状態。

安定した雇用と生活を生む社会的サスティナビリティ
かつてのイル ボッロ村は誰も知らない見放された土地で、住民が働く場所はありませんでした。しかし、イル ボッロができたことでワイナリーやホテル、レストランといった仕事の場が生まれました。今や300人が継続的な仕事に就き、社会的な暮らしを送っています。彼らは近くの村に住んでおり、イル ボッロ村にいるのは宿泊客のみです。

3つの事業が連携して利益につなげる経済的サスティナビリティ
3つの事業を軸に、経済を循環させることができています。1つの事業だけでは規模的に難しいです。イル ボッロのように複数の事業で持続可能を実現している企業はそういないと思います。お客様がイル ボッロのホテルに宿泊し、レストランで食事とイル ボッロのワインを楽しむ。そして、帰られたお客様が地元の店やオンラインショップでイル ボッロのワインを見つけて飲む。これらの”つながり”を重要視しています。

今年の新たな取り組みは「自社発電した電気を従業員に還元」
毎年このような新しい取り組みに努めています。今年は、私たちが発電した電気を従業員たちに与える取り組みをしていて、彼らのエネルギー消費を抑えることに成功しています。
中世の面影を残す美しい村イル ボッロ

「魔法のような唯一無二の場所」
イル ボッロ村でおこなうワイン造り

各品種の最適な土地を有する恵まれた土地
イル ボッロは4つの村に囲まれており、北はアペニン山脈が連なり、南はかつて海だった場所で今はアルノ川が流れています。南西側はキャンティ クラシコ地区です。私たちのエリアは非常に恵まれていて、土地ごとの特徴に合わせて様々な品種を育てることができます。

山に向かうと土壌は岩が多く乾燥しており、サンジョヴェーゼに適しています。一方、南側の開けた谷では土壌が変わり、山に近い場所では砂利や丸い石が多くシラーが育ちやすいです。さらに、粒の細かい砂地ではカベルネ ソーヴィニョン、粘土を含む土壌ではメルローやシャルドネが適しています。

ビオが義務付けられたDOCヴァルダルノ ディ ソープラ
イル ボッロが位置するDOCヴァルダルノ ディ ソープラは、1716年にトスカーナ大公コジモ三世によって定められた4つ(※)の原産地保護地区の1つです。EU初の有機栽培を義務付けた非常に進んだ地区です。私たちのワインでは上級ライン(ポリッセナ、ペトルーナ)がそれに当たります。
(※)キャンティ、ポミーノ、カルミニャーノ、ヴァルダルノ ディ ソープラ

同地区におけるアンフォラの先駆者ペトローロに刺激を受けたワイン造り
――ポリッセナはバリック、ペトルーナはアンフォラで造られています。同じヴァルダルノ ディ ソープラの造り手であるペトローロと同じアプローチですよね。

ペトルーナは、まさにペトローロのアンフォラがきっかけで生まれた美しいワインです。ヴァルダルノ ディ ソープラで初めてアンフォラを導入したのが彼らです。彼らの「ボッジナ アンフォラ」がとても美味しかったので、当主のルカを訪ね「自分もアンフォラで造りたい」と許可を得て造り始めました。彼は現在もDOCの会長を務める優秀な方です。

昔からテラコッタを製造するトスカーナでは、アンフォラは伝統的な陶器です。バリックと異なり微酸化作用があるため、ネッビオーロやピノ ノワールのようなエレガンスが生まれます。

フェラガモ家の哲学が詰まったイル ボッロのワイン造り
――取得した村を再興させ、その先の将来まで見通したフェラガモ家の哲学がよくわかりました。イル ボッロを訪れてイル ボッロのワインを飲めば、イル ボッロ村はもちろん、トスカーナ、イタリアまで誰もが好きになるだろうと感じられました。

言葉で伝えるのは簡単ではありません。実際に来てみてください。イル ボッロが魔法のような唯一無二の場所であるとわかっていただけると思います。

海の影響を受けるシャブリと似た土壌を最大限に表現したシャルドネ

ラメッレ

ラメッレ

サルヴァトーレ氏:
「ラメッレは、輸入元エノテカの廣瀬さんのおかげで誕生したワインです。彼と食事をしながらシャブリを飲んでいると、こういう白ワインを造ったらどうかと言われたことがきっかけです。イル ボッロの土壌は貝殻が多く含む土壌でシャブリと似ています。ラベルは、その土壌の特徴を表しています。醸造はステンレスタンクだけです。マロラクティック発酵を行わないのでフレッシュな味わいです。柑橘系のニュアンスとミネラル感がすごく特徴的なシャルドネです」
試飲コメント:麦わら色。桃やグレープフルーツのような果実、ミネラルを感じる香り。口に含むと爽やかで骨格のある風味に満たされます。香り同様の果実感のあるエレガントな味わい。

イル ボッロを気軽に楽しめるサンジョヴェーゼ主体の赤

ボッリジアーノ

ボッリジアーノ

サルヴァトーレ氏:
「ワイン名はボッロの住人という意味です。ニューヨークであればニューヨーカーといった感じでしょうか。レストランで気軽に飲めるようなワインです。以前はDOCヴァルダルノ ディ ソープラでしたが、今はTOSCANAと表記できるIGTトスカーナにしています。サンジョヴェーゼからは熟した果実とラベンダーの香り、カベルネからは甘いタバコのニュアンスが現れています。10ヶ月間、円錐形の大樽で熟成させています」
試飲コメント:ガーネット色。黒い果実、ドライフルーツの香り。エレガントで軽やかながら、優れた骨格とスパイシーさを感じる味わい。

サルヴァトーレ氏お気に入り!
サンジョヴェーゼ&バリック100%で造るクリュ ヴァルダルノ ディ ソープラ

ポリッセナ

ポリッセナ

サルヴァトーレ氏:
「ポリッセナは、私が大好きなワインの一つです。サンジョヴェーゼ100%、バリック100%で造っています。そのうち半分が新樽です。1716年にコジモ ディ メディチが初めて定めた4つ原産地保護地区の1つであるヴァルダルノ ディ ソープラの単一畑で造っています。サンジョヴェーゼらしい熟した果実味、スパイスが綺麗に現れています。オイシッシモです(美味しいの最上級)」
試飲コメント:ガーネット色。ドライフルーツやドライフラワー、腐葉土のフレッシュながら奥行きを感じる香り。口当たりはソフト、香り同様のエレガントな味わいが口中に広がります。滑らかなタンニンも相まって果実感の余韻に満たされます。

アンフォラ醸造由来のフレッシュ&エレガンスが表現されたサンジョヴェーゼ

ペトルーナ

ペトルーナ

サルヴァトーレ氏:
「ポリッセナと同じ単一畑のサンジョヴェーゼ100%で造る赤ワインです。唯一違うのは醸造に使う容器がアンフォラであることです。このワインは、ヴァルダルノ ディ ソープラで初めてアンフォラを導入したペトローロのワインに影響を受けた1本です。ペトローロの当主ルカに、アンフォラで造ることの許可を得て造り始めました。タンニンはまろやかでネッビオーロやピノ ノワールのようなエレガンスがあります。初ヴィンテージの2015年を今飲んでもまだまだ酸がフレッシュですので、今後も長く熟成できると考えています」
試飲コメント:ガーネット色。フレッシュな赤い果実に加えドライフルーツ、ドライフラワーのニュアンスが上品に香ります。口に含むと明るい果実感と際立つ酸、骨格のある味わいを感じます。エレガントな余韻が長く持続します。

イル ボッロのフラッグシップ!
力強さとエレガンス、フレッシュさが溶け合うスーパータスカン

イル ボッロ

イル ボッロ

サルヴァトーレ氏:
「イル ボッロのフラッグシップワインです。セパージュはメルロー50%、カベルネ ソーヴィニヨン35%、シラー15%。2019年から熟成方法を変えました。メルローはフレンチークの大樽(20hl)、カベルネ ソーヴィニヨンとシラーは新樽30%のバリックで18ヶ月熟成させています。果実味と木樽のニュアンスのバランスを大切にしています。このワインはヴァルダルノ ディ ソープラではなく、IGTのスーパータスカンです。複数の品種をブレンドしている関係上、ヴァルダルノ ディ ソープラを名乗るならスペリオーレ表記になってしまいます。(どちらも上を意味する)ソープラとスペリオーレがつくとわかりにくいのでIGTにしています」
試飲コメント:ややレンガ色を帯びたガーネット色。花、ドライフラワー、黒い果実を感じる力強くフレッシュな香り。凝縮した果実のエレガントな味わいで、スパイスやピーマンのニュアンスもあります。全ての要素が見事に溶け合う柔らかな味わいが持続します。

インタビューを終えて

サルヴァトーレさんが持つ視点は他と全く異なることを実感しました。取得した村一帯の敷地でおこなうのは経済活動としての事業だけでなく、一種の町づくり事業です。観光客へのサービス、従業員の社会的&経済的安定、環境にやさしい有機栽培。これらは全て私たちが住む地球全体の未来を考慮したものだと思います。

また、これからの時代を生きる人としての責任感と、人と人との関わりを大切にされているという印象も強く受けました。DOCヴァルダルノ ディ ソープラ組合のホームページを覗くと「未来はここにある」と書いてあり、組合としても様々な(環境的、生産的、社会的)ビジョンを掲げていて、まさにフェラガモ家はその牽引者であると実感しました。

イル ボッロのワインは上品でありながらフレッシュで飲みごたえがあります。サルヴァトーレさん自身も「オイシッシモ(美味しいの最上級)」と話し大好きだというポリッセナは特に素晴らしかったです。奥行きのある香り、口中に広がるエレガントで綺麗な味わい、滑らかなタンニンが引き出す美しい果実の余韻がありました。彼らのワインは、いつまでも噛みしめていたい味わいでした。ぜひ、ご堪能ください。