2024/10/08
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アンディ プンテル氏 Mr. Andi Punter、ソフィア ハース氏 Ms. Sofia Haas
温暖化の影響を見据えていち早く高い標高の畑を取得!唯一無二のピノネロで圧倒的な存在感を誇るアルト アディジェの家族経営ワイナリー「フランツ ハース」突撃インタビュー
1880年、4代目フランツがワイナリーを設立
先見性に長けた7代目フランツによって大きく成長を遂げる
フランツハースはアルトアディジェで8世代続く一族で、1880年、4代目のフランツ ハースによってワイナリーが設立されました。ハース家では代々長男にフランツという名前を付ける伝統がありました。祖父と同じ名前を孫に付けるのはイタリアでは一般的ですが、ハース家は代々、同じ名前を付けていた珍しい家族です。
ワイナリー設立時はわずか0.5ヘクタールの畑からのスタートで、当時はスキアーヴァを主に栽培していました。その後、5代目、6代目もスキアーヴァが中心のワイン造りを行ってきましたが、現当主の父、7代目フランツの時代になり、大きく成長していきます。畑も現在の60ヘクタールにまで拡大しました。
左:7代目フランツハース、右:現当主8代目フランツ ハース
7代目フランツがワイナリーに携わり始めた1986年は、メタノールスキャンダル(*)の影響でアルトアディジェにも高品質ワインを造ろうという動きが始まった頃です。多くの生産者達がスキアーヴァだけでなく他の品種にも目を向け始めました。フランツは特にピノネロに着目、より強い思い入れを持って取り組んでいきます。
(*)メタノールスキャンダル:1986年、イタリアでメタノールが添加されたワインが流通し、23人の死亡者を含む多数の健康被害者が出た事件。
エレガントなピノネロを追求するために高い標高の畑の必要性をいち早く認識していたフランツ ハース
DOCの規定から外れても信念をもって高さを追求したフランツハースの先見の明
一般的にピノネロはエレガントな品種と認識されていますが、1990年代の終わり頃には温暖化の影響が出始めて、フランツ ハースはより高い標高の畑を目指すことになります。
7代目フランツは2000年に標高500mよりも高い場所で植樹を始めます。アルトアディジェでは州の規定として標高500m以上には畑を造ってはいけないことになっていました。500mを超えた畑はDOCの規定から外れてしまうのです。しかしフランツは、州政府と協議を重ね、アルトアディジェの研究所と共同研究をするということで認めさせました。とはいえ、研究所は実績が何もなかったので、実質的にはフランツがワイナリーとしてのリスクをかかえながらフランツハース主体で実験・研究がすすめられました。そして実験を始めて10年後の2010年、標高の高い畑の地区もDOCとして認定されることになりました。
標高750mのポンクレールには2007年に植樹しました。ピノネロ ポンクレールは2012年が初ヴィンテージで、このヴィンテージが市場に出たのが2017年です。そしてこれがジェームズサックリングで95点を獲得し、年間TOP100に入りました。
ポンクレールの畑
現在、フランツハースは、アルディーノ村の1150mの土地に畑を造っています。この場所はアルトアディジェの100年前の気温と同じです。アルトアディジェでは第1次世界大戦後以降、毎月毎年の気温の記録を付けていますが、100年前の標高250mのボルツァーノの気温が今の800mの場所と同じ気温です。アルトアディジェの標高の高い丘陵地の収穫は、現在で9月ぐらいで時には8月にすることもありますが、その昔は10月に行われていましたから。
高い標高の畑を目指してから25年がたち、私達はその結果に十分満足しています。ワインはアロマが豊かで、より複雑味があり、酸のストラクチャーがしっかりとあるためにエレガントになります。そして過熟せずアルコール度数を低く抑えられます。例えばマッツォンは新しい造り手もいますが、彼らの畑は低い場所にあるのでアルコール度数が15%にも達します。
高い標高での実績を重ねていき、2017年には畑をさらに広げました。例えばこの畑(画像)は日照時間がマッツォンよりも4時間長いのですが最高気温は7度ほど他よりも低く、そして昼夜の寒暖差も大きいんです。
標高の高さだけならば、ご存じかもしれませんが、ソラリスという品種でもっと高い場所に植樹している事例もあります。でもソラリスほとんど知られていない品種ですし、そもそも高地での耐性がある品種です。ピノネロのようにワイン用品種として一般的な品種ではフランツハースの畑が最も高い場所で育てていることになります。
実は標高1150mだとスプマンテ用としてしか法律上は認められていないんです。なので私達もこの畑からはスプマンテを造っています。でも未来のスティルワインを見据えて実験を続けています。
フランツ ハースはアートラベルを採用した先駆者
例えばボルドーブレンドで造る「イスタンテ」はピカソの画風の雰囲気がありますし、ラグラインはシャガールの色使いを感じさせます。
リッカルド シュヴァイツァーの作品はワイナリーの壁面に架かっています。フランツハースはこのようなアートをラベルに取り入れた先駆け的存在です。ただ、7代目フランツは、自身のワインがシュヴァイツァーの作品レベルに達するまでラベルデザインにするのにためらいがありました。最初にシュヴァイツァーの絵をラベルにしたのは1987ヴィンテージからでこれは1990年に市場にリリースされました。
ワインの品質を保証するため、長年の研究を経たうえで100%スクリューキャップを決断
スクリューにしている最大の目的は品質の保証です。コルクによる汚染を完全に除外することができます。実際、においや味がおかしい、という指摘を受けた場合、「何かおかしいように思うんだけど、どうかな」という場合が多いのです。でも、そうなってしまうとそのワインはもう飲むことができません。スクリューだとそんなことは決してありません。味がおかしいのをコルクのせいにはできませんから。品質に問題がないならば、においや味がおかしいと感じるのは飲み手に問題があるのです。
フランツ ハースのホームページに「スクリューキャップ(giro di vite)」の動画をアップしていますので是非ご覧いただければと思います。フランツ ハースがスクリューキャップ採用に至った経緯をよりご理解いただけると思います。スクリューキャプの採用はブショネを防ぐことだけが目的ではありません。品質全体を保証するにはスクリューキャップがより優れているからです。シェフ、エノロゴ、アグロノモなどワインのプロもスクリューキャップの利点を語っています。
親しみやすさのある心地よい味わいのミュラートゥルガウ |
ソフィー ミュラートゥルガウ ヴィニィート デッレ ドロミティ 2023 |
ミュラートゥルガウで造る白ワインです。ミュラートゥルガウはイタリア、ドイツ、スイスで栽培されていますが、特にイタリアのアルトアディジェとトレンティーノで多く造られています。デリケートな品種で乾燥した気候を好むので特にアルトアディジェに適応しています。
ソフィーはステンレスタンクのみの醸造です。フレッシュな味わいでアペリティーヴォに最適ですし、軽めの料理にもよく合います。香りや味わいについては飲まれる皆さんが自由に感じて頂ければいいと思いますが、しいて言うととてもフローラルなニュアンスのあるワインですね。飲み心地がとても良いのでガンベロロッソのベーレベーネでも評価されています。 ソフィーのラベルはシュヴァイツァーではなく、ソフィアが5歳の時に描いた絵を使っています。彼女が18歳の時にこの新しいワインが生まれました。 ソフィーさん:そのときに「お母さんはマンナ、お父さんとお兄さんはフランツとみんな自分の名前のワインがあるのだから、私もワインに自分の名前を付けてほしい」と頼んだんです。私が5歳の時に描いた絵を母が気に入ってずっと持ち続けてくれていて、それをラベルにしました。絵を描いてその紙を2つに折って広げると左右が鏡に映したように見えますよね。 アンディ:この絵はワイングラスの中の世界を表現していると考えています。もちろん、彼女が5歳の時にそう考えて描いたものではないですが(笑)。 |
試飲コメント:果実や花のデリケートなアロマ。フレッシュな果実味と伸びやかな酸のバランスの取れた、とても親しみやすい味わい。 |
アルトアディジェの歴史的品種ピノビアンコ!一部樽熟成させたまろやかで奥行きのある味わい |
レプス アルト アディジェ ピノ ビアンコ 2022 |
ピノビアンコ100%で造るレプスです。ピノビアンコは、ピノグリージョほど有名ではないので、品種名を前面に出すのではなく、個別の名前を付けているワイナリーが多いんです。テルラーノが「ヴォルベルグ」、トラミンが「モリツ」、サンミケーレアッピアーノが「シュルトハウザー」という具合です。
レプスはラテン語でウサギのことです。ハース、というのもウサギのことなのでハース家の紋章もウサギが描かれています。 アルトアディジェではピノビアンコはブレンドとしても使われているので品種として有名ではありませんが、歴史的にアルトアディジェとして非常に重要なブドウになります。 50%を8か月間バリックで熟成させています。以前は5%ほどでしたが、2022年ヴィンテージから50%にバリックを使うように変更しました。白身肉やアジアの料理などとも相性がいいと思います。 |
試飲コメント:完熟果実や草原の花々の中にイースト香の香りも感じる奥行きのあるアロマ。しっかりとした骨格のある丸みのあるエレガントな味わいで綺麗な酸がアクセントになっている。 |
フランツハースのチャーミングなピノネロ!肉料理にも魚料理にも寄り添う酸と甘みのあるタンニンが魅力 |
アルト アディジェ ピノ ネーロ 2021 |
このピノネロはクリュシュヴァイツァー以外の畑のピノネロをブレンドして造っています。とてもエレガントなスタイルのピノネロです。しっかりと酸があるので刺身にも合うし、豚や鶏、羊、仔牛にも会います。私達ではこれを赤ワインの中の白、という位置づけで、同じテーブルで誰かが魚料理、別の誰かが肉料理を頼んだとしても、このピノネロはどちらにも寄り添うことができます。 |
試飲コメント:ベリーやチェリーなどの赤系果実のチャーミングなアロマに心地よいスパイシーなニュアンス。豊かな果実味に伸びやかな酸となめらかなタンニンが溶けこんだ、バランスの取れた優しい味わいが広がる。 |
インタビューを終えて
品質へのあくなき追及は、スクリューキャップについても同じです。ブショネ回避という単純な話ではなく、品質全体に対する長年の結果の選択、ということで、今後、スクリューがもっと広まるのではないかと感じました。アンディさんは「日本は世界で最も品質に厳しい国だと思うけど、保守的な面もあるよね」とおっしゃってましたが、イタリア国内だとスクリューキャップに対する抵抗は全くないそうです。
今回試飲したソフィーの飲み心地の良さ、そしてレプレのクリーンな果実感とふくよかさとの絶妙なバランスも素晴らしかったです。人気が高くてなかなか全ラインナップが揃うことがないのですが、ひとつずつでもフランツ ハースの品質への強いこだわりを感じて頂ければと思います。