2024/10/25
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ステフ イム氏 Mr. Stef Yim
標高1520mのヨーロッパで最も標高の高い畑!『ガンベロロッソ』突出した個性を持つ希少なワインである証「Vini Rari」受賞!独自性を極めたエトナのテロワールの表現者「シャラ」突撃インタビュー
唯一無二の特性とポテンシャルを秘める理想の地「エトナ」
名匠たちが築いた道を追う「シャラ」当主ステフ・イム氏
複雑でエレガントなワインを求めて辿り着いたエトナ
――ステフさん、はじめまして。自己紹介からお願いいたします。
私の名前はステフ・イムです。ロサンゼルス、南カリフォルニアで育ちました。父は香港出身で、母はアメリカと日本のハーフ。祖父は名古屋出身です。日本語は少ししか話せません。すみません(笑)。私は2002年、ロサンゼルスでソムリエとしてキャリアをスタートしました。多くのワインに触れる中で、エレガントで複雑、そしてその土地のテロワールを反映したワインに惹かれていきました。
そういったワインを自分自身で造りたいと思うようになり、2008年から北カリフォルニアのワイナリーで経験を積み、フランス南西部のマディランでも4年間ワイン造りをしていました。その後、ミネラル豊富で標高の高い畑を探していた私は、エトナ山とスペインのテネリフェ島の二つに絞り、畑を探し始めました。そして、実際にエトナを見て回った2010年に、運命的な出会いをしたのです。
コーネリッセン、サルヴォ・フォーティとの出会い
「それまでのエトナワインの概念を覆すクオリティ」
出会ったのは、コーネリッセンとサルヴォ・フォーティでした。彼らのワインは、それまでのエトナの概念を覆すクオリティで、私のエトナワインの認識が一変しました。2012年に再びエトナを訪れると、ベナンティやテッレ ネーレ、パッソピッシャーロ(アンドレア・フランケッティ)といった他の生産者も訪問しました。そこで、彼らがエトナワインの品質を飛躍的に向上させていることに気づきました。
エトナに参入し、未来を切り拓いた革新者たち
エトナのワインの品質を大きく向上させた彼らの多くは、エトナの外から来ています。フランク・コーネリッセンはベルギー出身、テッレ ネーレのマルク・デ・グラツィアはニューヨーク出身のトスカーナ人、フランケッティもトスカーナ出身です。彼らが新しい風を吹き込み、2000年代以降、新しい生産者が次々とやってきました。この20年間でエトナワインの品質は証明されましたよね。
これらの出会いや事象を通じて、私もエトナでワインを造りたいという思いが強まり、2015年に移住し、畑を取得して「シャラ」を設立しました。私も彼らのようにこの地に大きな魅力を感じ、エトナの外から来た人間として、シャラを立ち上げたことに誇りを持っています。
所有畑の一つ「フェウド ディ メッツォ」
「エトナ以外考えられない」
ステフ氏がエトナに魅せられた理由
エトナを選んだ具体的な理由は3つあります。1つ目は標高です。地球温暖化という大きな問題の中でも、エトナはバランスに優れた酸と適度なアルコール度数を保つことができます。2つ目は土壌です。私はミネラル豊富で複雑な土壌を求めていました。活火山であるエトナでは今も定期的に火山灰が降り、新鮮なミネラルが絶えず供給されています。3つ目は歴史です。エトナは100年以上の歴史を持つ有名ワイン産地です。140年前のフィロキセラを乗り越えたことでも知られています。
エトナは標高と火山性土壌という他に類を見ない特性を持つ場所で、私にとってワイン造りはエトナ以外考えられないです。コーネリッセンたちのような才能ある生産者が、もともと高いポテンシャルを秘めた土地に集まれば、素晴らしいワインが生まれるのは必然です。そんなエトナに、私は心から魅了されています。
標高730m以上の畑から生まれるエレガントで豊富なミネラル感
過酷な環境下で、ほとんど手作業で行われたゼロからの植樹
ワイナリー名「シャラ」はシチリアの方言で「荒れた道」を意味します。2015年に初めてカッラーナの畑を取得して、ワイン造りが始まりました。現在は9つの畑を所有しています。醸造施設を構える標高約760mのタッチョーネの近くに住んでいます。畑は730m以上の高地にあり、糖度が安定してエレガントなワインに仕上がります。一番新しい畑は、1520mのクリュ「チエロ」です。この畑は『ガンベロロッソ』で「ヨーロッパで最も標高の高い畑」と正式に認定されました。ギネスにも認定審査を出しているところです。
急斜面、息切れするほどの標高、火山灰が積もる土壌、地面から伝わるマグマの熱
写真ではわかりにくいかもしれないですが、畑は非常に急斜面です。標高が高いこともあり、作業するとすぐに息が切れてしまいます。気温が低いにもかかわらず火山の熱が地下から伝わり、畑からは湯気が立ちます。長い年月にわたる火山灰の堆積により土壌は黒くなり、マグネシウム、亜鉛、カリウムなど豊富なミネラルを含んでいます。また、樹齢の長いブドウは非常に深く根を張り、最長9mもの深さからミネラルを吸収します。
1520mのクリュ「チエロ」の急斜面
現地の人々の協力を得て理想の土地にたどり着き、ほぼ手作業で造り上げた畑
――最初に畑を探し始めた時、現地の人たちの反応はいかがでしたか?
エトナに来た当初、私は「スパゲッティ」「ピッツァ」「チャオ」くらいしか知りませんでした(笑)。地元の人々はフレンドリーでしたが、自分が求めるような標高の高い畑を彼らは知らず、紹介してもらえませんでした。でも、非常に協力的な人たちで、知り合いを辿って理想の畑を見つけることができました。
畑では95%くらいが手作業です。急斜面で土が柔らかく機械が沈んでしまうため、トラクターは使えません。ブドウ樹が植っていなかった1520mの畑では、5週間かけて3人で4500本の苗木を植えたこともありました。今年はさらに1800本を植えました。厳しい作業環境にも関わらず、現地の人たちの手も借りて作業ができています。
自然に寄り添って独自の個性を映し出すワイン造り
今年オーガニックの認証を取得しました。私のワインはビオディナミ農法で天然酵母を使用し、SO2もほとんど加えていません。エトナが持つ独自の個性をしっかりと表現できるワインを造りたいと考えているので、天然酵母にこだわっています。畑によっては木樽、アンフォラ、コンクリートタンク、グラスファイバーの樽を使い分けています。
育った土でブドウが生まれ変わる「輪廻」の概念
標高1200mの畑の土中に埋めたアンフォラで熟成
1200mの畑では、土中にアンフォラを埋め、その中でワインを熟成させる実験をしています。畑の土も使って作られたアンフォラは黒く、250Lの容量があります。この実験は、ブドウが育った畑に帰るという「輪廻」の概念から来ています。収穫されたブドウがワインになることで、畑との繋がりは途切れてしまいますが、アンフォラ(土中)に戻すことで、土地のエッセンスを再びワインに取り込むことができると考えています。
今年の初めに試飲しましたが、とてもスペシャルでしたね(笑)。2025年5月くらいにリリースする予定ですので、楽しみにしてください。
土中に埋められた黒いアンフォラ
世界の一流から注目を集める「シャラ」
1200mの畑で造られるキュヴェ「1200メートリ」
2022年に『ガンベロロッソ』で、素晴らしい個性を持つ希少なワインである証の「Vini Rari(レアワイン)」に、1200mの畑で造られる「1200メートリ」が選出されました。最高賞トレビッキエリより選ばれる数が少ない難易度の高い賞です。
国内外の一流レストラン、ホテルが「シャラ」を採用
ボッテガ・ヴェネタCEOが惚れ込み常顧客への特別なギフトに採用
シャラのワインは、ヨーロッパ、アジア、北米の10カ国で手に入れることができます。特にヨーロッパの3つ星ホテルやレストランでも採用されており、イタリア国内はもちろん、パリのフォーシーズンズホテルやロンドンのリッツカールトンで使われています。
また、ボッテガ・ヴェネタの常顧客への特別なギフトとしても採用されました。ボッテガ・ヴェネタのCEOがリッツカールトンで飲んだシャラを非常に気に入り、直接私に連絡をしてきたんです。彼らは職人的な作品を大切にしているので、他にも日本酒用のグラスなどもギフトとして取り扱っています。店舗のディスプレーとしてもシャラのワインは置かれています。
1200メートリ
「エトナでワインを造ることの喜びを噛み締めたい」
――今もさらに高い畑を探し続けているのですか? また、標高が高い場所では噴火のリスクとも隣り合わせだと思います。
可能であれば、さらに標高の高い畑を探し続けています。確かに標高が高いと噴火のリスクはあります。実際、今年は2回大きな噴火が起こり、大量の火山灰が降り注ぎ、溶岩が流れることもありました。しかし、人生の中でそういったことは避けられません。「If it happens, it will happen.」、起こる時は起こるんです。母も昔よくそのようなことを日本語で言っていましたね。
人との出会いもそうです。私がコーネリッセンやサルヴォ・フォーティと出会ったように、人生にはいろいろなことが起こります。噴火は、その中で起こる事象の1つでしかありません。噴火は怖いですが、それは1つの運命だと受け止めて、エトナでワインを造ることの喜びを噛み締めたいと考えています。
カリカンテ、カタラット、ミネッラ ビアンコ、ガルガーネガの4品種
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ウブリアコ スッラ ルナ ヴィーノ ビアンコ |
ステフ氏: 「このワインは、毎年ラベルと、月にちなんだ名前を変える白ワイン(オレンジ)のキュヴェです。その年の自分の気持ちを表現しています。2021年をウブリアコ スッラ ルナ(月の上で酔う)と名付けたのは、2021年は外出制限がされたコロナ禍で、ひたすらワイナリーにこもってワインを飲むしかなかったからです(笑)。ブドウは60%カリカンテ、22~25%カタラット、残りはミネッラ ビアンコとガルガーネガで毎年ほぼ同じ比率です。4~5つの畑から造られたブドウで、約2週間のマセラシオンを行っています。2021年は約12年の熟成が期待できます。ミント、ローズマリー、フェンネルのハーブが感じられ、15分後にはマンダリンの皮やハチミツの香りが現れます。このワインは、16度から18度が適温だと考えていて、冷やしすぎると個性が閉じ込められてしまいます。グリルしたタコやウナギ、ロブスターなど、さまざまな料理と合わせることができ、赤ワインのように幅広い料理に対応します。ビステッカ(Tボーンステーキ)に合わせるソムリエもいます」 |
試飲コメント:深みのある黄金色。ドライフルーツやコンポート、柑橘類、生姜、ハーブのニュアンスが感じられる凝縮感のある香り。口に含むと広がりのある酸があり、複雑で旨味のある味わいとともに持続します。調和が取れた深みのある味わいです。 |
標高760m!
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760 メートリ エトナ ロッソ |
ステフ氏: 「760メートリは、90%ネレッロ マスカレーゼ、10%ネレッロ カプッチョ。畑は、標高770mにも及ぶシャラヌオヴァと、730mのタッチョーネから。タッチョーネには醸造設備もあり、上の畑で収穫したブドウはここで醸造します。25%をフレンチオーク樽の旧樽で、残りをグラスファイバータンクで熟成させ、19ヶ月熟成しています。非常に複雑で、ピノ ネロに似たニュアンスがあります。バルサミックなミネラル感が感じられ、赤ワインながらウニやカキといったシーフードとの相性も良いです。酸とフルーツのバランスが良く、約10年の熟成が期待できるワインです」 |
試飲コメント:深く輝くルビー色。ぎゅっと詰まった深い花の香りが広がり、凝縮感と華やかさを感じます。果実味豊かでありながら、エレガントさもあり、非常に綺麗な印象です。口に含むと、果実と酸が美しく調和し、ぎゅっと詰まった味わいが広がります。旨みとミネラルがしっかりと感じられ優れたバランスがあります。 |
標高980m!
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980 メートリ テッレ シチリアーネ ロッソ |
ステフ氏: 「980メートリは、カッラーナ、モンテドルチェ、バルバベッキの畑からできるネレッロ マスカレーゼ100%のワインです。カッラーナは2015年に私が初めて取得した畑で、タンニンの強さが特徴的です。2017年に取得したモンテドルチェは、4200年前に形成されたエトナ噴火口の近くにある小さな火山のような場所にある畑です。ここから豊かなミネラル感が与えられます。バルバベッキはフルーティなブドウが生まれます。この3つの畑のブドウをブレンドすることで、さらに複雑でバランスの取れた味わ位に仕上がるのです」 |
試飲コメント:ルビー色。フレッシュな赤い果実とハーブが混ざり合い、凝縮感のある香り。口に含むと、香り同様の風味が広がり、バランスが良く繊細でエレガントな味わいが感じられます。 |
標高1200m!
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1200 メートリ テッレ シチリアーネ ロッソ |
ステフ氏: 「1200mに位置するクリュ ナーヴェの畑で造るグルナッシュ100%赤ワインです。最初、地元の人から1050m以上には畑がないと言われましたが、自分で探して見つけた畑です。見つけた時、グルナッシュしか植わっておらず、樹齢は100年近いブドウでした。2年前から新しい苗を植えています。現在、年間生産量は約3~4万本ですが、リクエストが多く、生産量を増やすべく、将来的には7万本を目指して新しい苗を植え続けています。エレガントな香りが特徴で、ミントやバラの香りが広がり、若い女性的でしなやかな印象があります。畑の土壌は主に砂地で、火山灰が堆積してできたもので、ところどころに小石が混じっています」 |
試飲コメント:綺麗なルビー色。非常に繊細でありながら、凝縮感と力強さを感じる果実の香り。口に含むと、芯のある味わいが持続し、エレガントな旨みが下支えとなり、綺麗で美しい風味が広がります。ミネラル感と徐々に現れるタンニンが綺麗な余韻を演出します。 |
樹齢100年超のクリュ ネレッロ マスカレーゼ
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チェンテナリオ ヴィーノ ロッソ |
ステフ氏: 「チェンテナリオは、フェウド ディ メッツォの畑の樹齢100年を超えるネレッロ マスカレーゼのみで造っています。畑の標高は650mの畑。グラスに注いでから長い間、バラの香りが強く感じられるワインです。同じ品種であっても、この畑で造るネレッロ マスカレーゼは、土壌で深く根を張ることで生まれる独特の風味や、樹齢に由来する豊かな味わいが表れます。2018年ヴィンテージは特にタンニンが柔らかく、香りが際立っています。生産量は約1000本で、全て無濾過、無清澄、卵白や安定剤等も未使用です」 |
試飲コメント:淡いガーネット色。ミネラル、ハーブ、ジンジャー、土などの複雑な香り。バラのニュアンスもあります。口に含むと、赤系果実の美しい風味が残りつつ、香りで感じたミネラルやハーブ、土のニュアンスが現れます。繊細で旨みがあり、細かいタンニンが口中で感じられ、エレガンス溢れる味わいです。 |
インタビューを終えて
標高の高い畑の仕事は重労働で噴火の危険性もある中、1本1本手作業でブドウを植えたり、キュヴェごとに異なる熟成容器を使い分けています。他に類を見ない個性豊かな畑から丹精を込めて造るという職人気質なストーリーが、世界の一流たちを魅了しているのだと実感しました。また、噴火のリスクがあるにもかかわらず「起こる時は起こる」「エトナ以外考えられない」と運命を受け入れるステフさんの言葉からは、エトナと共に生きる覚悟と情熱が詰まっていると強く感じました。
ワインは、シャラが表現する独自の個性を存分に感じるラインナップでした。ミネラル豊富でエレガント。まさにステフさんが追求するワインです。そして、酸が美しく、複雑で深みのある味わい。優れたバランスも素晴らしかったです。まだ植樹したばかりの畑もあるそうなので、今後のシャラから目が離せません。