2024/11/11
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ジョヴァンニ ガヤ氏 Mr. Giovanni Gaja
イタリアワインの帝王ガヤが常識を覆して生み出す革新的&至高のワイン!独自の哲学とテロワールを反映したボルゲリ「カ マルカンダ」&エトナ南西部の偉大なポテンシャルを示す「イッダ」突撃インタビュー
「ガヤのピエモンテ哲学」と「ボルゲリのテロワール」の融合
独自のスタイルを確立してボルゲリを牽引する「カ マルカンダ」
――ジョヴァンニさん、お久しぶりです。改めてボルゲリでのプロジェクト「カ マルカンダ」について教えてください。
話したいことはたくさんありますね(笑)。カ マルカンダは、1996年にボルゲリに創設されたワイナリーです。創設当初はピエモンテから来た新参者として目立たないようにしていましたが、ゼロから植樹し、30年かけて土壌や気候、品種についての見識が深まりました。現在はカ マルカンダとして満足できるスタイルを築き上げ、ボルゲリを牽引するワイナリーにまで成長したと考えています。
海、山、太陽の恩恵を受ける唯一無二の銘醸地ボルゲリ
ボルゲリは、素晴らしい場所です。海と山に囲まれ、砂浜と松林が広がっていて、来るたびに心が落ち着きます。ワインはそのテロワールと深く結びついています。温暖な気候が育む芳醇な果実味、山からの冷風が生むフレッシュな酸、海風がもたらす塩味、ここに根付く地中海灌木のニュアンスが感じられます。
さらに、国際品種を使用するため、多くの人にとってわかりやすいワインができます。いつ飲んでも楽しめる味わいでありながら、しっかりとした酸のおかげで長期熟成ポテンシャルを秘めたワインが生まれます。
ガヤが追求するボルゲリ特有の酸の引き締まったワイン造り
いわゆるフルボディで濃厚な味わいが特徴とされるボルゲリですが、私たちカ マルカンダは本拠地ピエモンテで培ったネッビオーロの経験を活かし、ボルゲリ特有の酸を引き立てた引き締まったスタイルを追求しています。ガヤのピエモンテ的哲学と、ボルゲリのテロワールが融合した独自の存在感を放つワイン造りを目指しています。
各品種の個性を最大限に引き出した赤ワイン3種
カ マルカンダは4つのワインを造っています。「ヴィスタマーレ」は唯一の白ワイン。「プロミス」はメルロー主体、「マガーリ」はカベルネ フラン主体、「カマルカンダ」はカベルネ ソーヴィニヨン主体の赤ワインです。赤ワインは3種とも2000年がファーストヴィンテージで、もともと全てメルロー主体でした。長年にわたる改良を重ね、各ワインのセパージュが変わり、現在は各品種の特性を最大限に引き出すワイン造り(ラインナップ)に至りました。
ワイナリーの名刺代わりとなる最高峰メルロー主体赤「プロミス」
プロミスはカ マルカンダの名刺代わりとなるワインです。入門編とも言えるこのワインを飲めば、ワイナリーの平均品質をわかっていただけると思います。しかし、メルローを使うワインはプロミスしかないので、入門編かつトップのメルローでもあります。もともと、平野部で栽培していましたが、現在はより最適なビッボーナという丘陵地に場所を移して栽培しています。
ボルゲリ独自の個性を持つカベルネ フラン主体赤のフラッグシップ「マガーリ」
マガーリは私たちのフラッグシップです。主な品種は、今まさにライジングスターとも言えるカベルネ フランです。カベルネ ソーヴィニヨンとプティ ヴェルドをブレンドしています。カベルネ フランは、ボルゲリでは完全に熟すので青いトーンが全く出ません。そういった他の地域にはない個性も生まれるボルゲリに非常に適した品種です。
優良年のみ造る最上級カベルネ ソーヴィニヨン主体赤「カマルカンダ」
カ マルカンダはワイナリーを象徴する最上級ワインです。優良年しか造らず、生産量もごく少量です。造り始めた当初は、最上のメルローを使用していましたが、現在はカベルネ ソーヴィニヨン主体にカベルネ フランをブレンドして造っています。
ガヤが見抜いた一線を画すエトナ南西部の個性
偉大な潜在力を証明する造り手「イッダ」
――シチリアでのプロジェクト「イッダ」についても教えてください。
イッダは、2017年にエトナで始めた最新のプロジェクトです。これまでは自分たちだけでピエモンテとトスカーナで活動してきましたが、イッダは初めてのジョイントベンチャーとしてグラーチと共同で始まったワイナリーです。彼らとは2016年にシチリア旅行中に出会い、一目惚れしました。互いに尊敬し合い、同じ価値観を共有できています。
地元の方言でイッダ(彼女)と呼ばれ、人々とともに息づくエトナ山
イッダという名前は、シチリアの方言で「Lei(彼女)」を意味します。エトナ山は、地元の人々から「彼女(イッダ)」と呼ばれているんです。ある時、地元出身の栽培家が「今日は“彼女”の機嫌が悪い」と話していて、「この人の奥さんは怖いのか」などと思っていたのですがエトナ山のことでした。エトナは地元の方から仲間のような存在として親しまれているんです。
「標高の高さ」と「白ワイン造り」に着目してエトナへ進出
この15年間、イッダを含む全てのプロジェクトで、「標高を上げること」と「白ワインへの注力」を最も重要なテーマとして取り組んできました。エトナには標高600mから1000mにも及ぶ畑があり、その土地の個性を表現する興味深い土着品種があります。近年、温暖化が進む中で、白ブドウは黒ブドウに比べて熱の影響を受けにくいという利点があります。
エトナ山はシチリア特有の暑さがありながらも、標高が高いため夜間は涼しくなります。白ワインの生産に適した、このエトナの環境に着目して進出しました。とりわけ、南部のカリカンテに非常に可能性を感じています。
「これから価値が見出されていく」エトナ南西部に拠点を置く
私たちが拠点を置くのは南西部です。所有する土地は合計40ha。全てがブドウ畑ではありませんが、南部のビアンカヴィッラ、ベルパッソ、ラガルナ、そして北部のタルタラーチの4つの地域に所有しています。タルタラーチはまだ何も植えておらず可能性を探っている段階です。
エトナの生産者の約90%が、ネレッロ マスカレーゼに最適な北部に拠点を置く一方で、なぜ私たちは南西部なのか。それは、ガヤは人と異なるアプローチを得意としているからです。多くの人が赤ワインを造る場所で、同じように赤ワインを造るのはガヤらしくありません。南部は生産者も畑も少ない、「これから価値が見出されていく」まだ知られていない産地です。
優れたボディとミネラリーな個性を持つ南部のカリカンテ
モンタルチーノやボルゲリでしてきたように、ガヤならではの視点を重視しています。これまでのエトナとは異なる表情を引き出すことを目指して、あえて北部ではなく南部に進出しました。そこで注力するのは、白ブドウ品種カリカンテです。カリカンテは、北部と南部で特徴が全く異なります。北部は軽やかで酸味が際立つのに対し、南部はよりボディがあり、柑橘類やミネラルの香りにトロピカルなトーンが加わります。
3品種で造り上げるフレッシュで濃密な味わいと塩味の余韻 |
ヴィスタマーレ |
ジョヴァンニ氏: 「ヴィスタマーレはカ マルカンダ唯一の白ワインです。赤ワインが主流のボルゲリにおいて、白ワインでも高品質なものが造れることを示すために2009年に生まれました。個性が全く異なる3つの品種、ヴェルメンティーノ、ヴィオニエ、フィアーノで造られています。ヴェルメンティーノは酸味とフレッシュさ、ヴィオニエはボディと複雑さを与えます。2017年から加えるようになったフィアーノは、その2品種を結びつける接着剤的なの役割を果たします。ヴェルメンティーノのフレッシュさを一層際立たせ、ヴィオニエのボディにも深みを与えています。2023年ヴィンテージは、冷涼な年。5月と6月に雨が多く、8月の終わりにも雨が降りました。その結果、通常のボルゲリでは珍しいフレッシュで親しみやすいワインが完成しました。ガヤにとって、このような冷涼なヴィンテージは理想的なスタイルに仕上がります」 |
試飲コメント:黄金色に近い麦わら色。熟した黄色い果実、黄桃、ミネラルの香りがグラスから広がり、フレッシュさと果実の甘さが調和したリッチな香り。濃密さも感じられます。味わいは香りと同様で、リッチさの中にミネラルと塩味が感じられます。まろやかで柔らかく凝縮感のある余韻が、塩味とともに持続します。 |
名刺代わりとなる入門編かつ最高峰メルロー |
プロミス |
ジョヴァンニ氏: 「プロミスは、カマルカンダの名刺代わりとなる入門編のワインです。早めに飲むことができるフレッシュな味わいです。複雑ですが、ややこしいワインではありません。プロミスを飲むことでカ マルカンダの平均クオリティを理解いただけると思います。プロミスは、メルローベースで誕生し、現在もそのスタイルを守り続けている唯一のワインです。シラーとサンジョヴェーゼがブレンドされています。メルローが使われる唯一のワインで、カマルカンダ最高峰のメルローとも言えます。過去30年間にわたる実験や学びを経て、ボルゲリではなく丘陵地のビッボーナの村で栽培するようになりました。昼夜の温度差が大きく、風通しも良いため、メルローに適した環境です。 プロミスとマガーリにとって2022年ヴィンテージは驚くべき年でした。非常に暑く、雨が降らない気候が続きましたが、8月半ばから9月半ばまでは一転して雨が多くなりました。前半の気候からは濃厚でフルボディなワインになると予想されましたが、後半の雨により、エレガントでデリケートなキャラクターが生まれました」 |
試飲コメント:ルビー色。フレッシュで熟した黒い果実の香り、徐々に香りが開いていきます。口当たりは柔らかくまろやかで、樽由来のほのかな甘さと果実味が見事に調和しています。バランスが非常に優れています。 |
「まさにライジングスター」のカベルネ フラン主体赤
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マガーリ |
ジョヴァンニ氏: 「マガーリはフラッグシップワインです。カベルネ フラン主体に、カベルネ ソーヴィニヨンとプティベルドがブレンドされています。カベルネ フランは、今まさにライジングスターとも言える存在です。ボルゲリでは完全に熟すので青いトーンが全く出ず、ロワールやボルドーなどのものとは全く異なる個性を持ち、まさにボルゲリならではの品種です。プロミスとマガーリにとって2022年ヴィンテージは驚くべき年でした。非常に暑く、雨が降らない気候が続きましたが、8月半ばから9月半ばまでは一転して雨が多くなりました。前半の気候からは濃厚でフルボディなワインになると予想されましたが、後半の雨により、エレガントでデリケートなキャラクターが生まれました」 |
試飲コメント:深みのあるルビー色。熟した果実と樽のニュアンスがエレガントに調和し、濃密かつフレッシュな香りが広がります。ふくよかで柔らかい口当たり。香り同様の要素が口中に広がり、後から黒胡椒のようなスパイスが現れます。全体に優しさをも感じる味わいです。 |
ワイナリーの名を冠した最上級ワイン
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カマルカンダ |
ジョヴァンニ氏: 「カマルカンダは、80%カベルネ ソーヴィニヨンと20%カベルネ フランで構成される最上級ワインです。優良年しか造りませんし、造ったとしても生産量は限られています。2021年はボルゲリにとって典型的な暑い年でした。春の終わりと夏の終わりに雨が集中したのも特徴的なボルゲリの気候と言えます。しかし、2022年ほどの極端な暑さではありませんでした。2021年ヴィンテージは、凝縮感と芳醇な果実味を備えた素晴らしい仕上がりとなりました。まさに完璧なヴィンテージと言えます」 |
試飲コメント:深みのあるルビー色。熟した繊細な果実、ココアやカカオ、黒胡椒のニュアンスが広がる力強さと上品さが調和した香り。味わいはまろやかで、素晴らしいバランスです。濃厚さの中に、繊細な果実のフレッシュさがあり、余韻はエレガントで充実感に満ちています。非常にクリーンな印象です。 |
標高800mにも及ぶ南部のカリカンテ
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イッダ ビアンコ |
エトナ火山の南西斜面にあるビアンカヴィッラの標高700~800mの畑の、1975年に植樹されたわずか1haの畑のカリカンテ100%。収穫後、全房をコールドプレス。清澄後、18~20度に保ち一部は10ヘクトリットルのオーク樽、一部はステンレスタンクで発酵。マロラクティック発酵は行いません。1年間熟成後、瓶詰め。柑橘系の果物やタイムなどのハーブの魅力的な香り。次に、爽やかなミントやジャスミン、ピンクグレープフルーツの豊かな香りが現れます。アタックはマジパンのニュアンスがあり、鮮やかな酸味と塩味のある余韻により緊張感を伴います。凝縮感のある溌溂とした白ワインです。 |
試飲コメント:輝く麦わら色。熟した黄色い果実やミネラル、ハーブの香り。味わいは繊細ながら旨みが凝縮し、酸やミネラルがその上に乗り口の中に広がります。梨などの白い果実のジューシーさに蜜のニュアンスが溶け合い、エレガントで優美な味わいです。柔らかさがあり、優雅に広がる酸が印象的です。 |
標高800mにも及ぶネレッロ マスカレーゼ&カップッチョ
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イッダ ロッソ |
標高600~800mのエトナ山南西側斜面に広がる畑。上品でジューシーなワインを得るため、ソフトに圧搾。一部はオークの大桶で、一部はコンクリートタンクで発酵させ、2年間熟成させます。色はルビーレッド。マジパンの様な甘いアロマがある一方で、酸味のしっかりとしたサクランボやベリー系の果実、繊細なスパイスのニュアンスがほのかに漂います。果実の熟度をしっかりと感じる味わいで、同時にミネラル感や火打石のニュアンスも感じます。タンニンは、ビロードのようにきめ細やかで、ミディアムボディながらも適度な酸が味わいを引き締めます。素晴らしいフィネスとエレガンスが感じられ、ブルゴーニュを彷彿させる味わい。余韻が長く、長期熟成の可能性が感じられます。 |
試飲コメント:淡いガーネット色。明るく赤系果実の香りに、ぎゅっと凝縮した旨味が感じられる複雑な香り。抜群のバランス感と、圧倒されるほどの広がりを持つ風味があります。優美さとしっかりしたボディが調和し、エレガントさに満ちた余韻が長く持続します。 |
インタビューを終えて
カ マルカンダは、最初に試飲したヴィスタマーレから心を奪われました。フレッシュさや濃密さ、塩味、ミネラルといったボルゲリのテロワールが明確に表現されており、同時にフィネスとエレガンスに満ちた仕上がりで素晴らしかったです。
エトナの多くの生産者が北部に拠点を置く中、南部でワインを造るイッダは、「これまでのエトナとは異なる表情を引き出すことを目指している」という言葉通り、際立った凝縮感と旨味がありました。それでいて、カ マルカンダ同様にフィネスとエレガンスに満たされました。
その土地の常識を覆し新たな魅力が引き出された、ガヤの哲学が詰まった偉大なワインをぜひご堪能ください。