2024/11/29
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アレッサンドロ ヴィオラ氏 Mr. Alessandro Viola
自然な造りで旨味あふれる優しい味わいを追求!一新した醸造設備でエレガンスに磨きがかかるシチリア西部アルカモの自然派「アレッサンドロ ヴィオラ」突撃インタビュー
醸造家アレッサンドロ・ヴィオラ氏が掲げる
理想のナチュラルワインを追い求めてワイナリー創業
――アレッサンドロさんが、ワイナリーを創業するまでのお話を聞かせてください。
マルサラの醸造大学を卒業した後、ピエモンテで醸造家としてのキャリアが始まりました。大学でお世話になった先生が勧めてくれた新しい土地で多くのことを経験し、知識を深めてからシチリアに戻ろうと考えていました。2007年から2年間ピエモンテを拠点にしながら、派遣先のジョージアのワイナリーでも働いていました。
いわゆるオレンジワインを経験したのはジョージアが初めてでした。今となっては有名ですが長期マセラシオンやアンフォラ熟成は、当時では珍しかったです。そして、ピエモンテからエトナへ移り、大規模なワイナリーで働き始めました。ワイナリーを設立したのはその後です。
自然な造りを追求した1000本のガレージワインが話題を呼び、
本格的にワイナリーを創業
当時の私の目標は、職人的なナチュラルワインを専門とする醸造コンサルタントになることで、決して自分のワイナリーを持つことではありませんでした。しかし、15年前は働きたい自然派ワイナリーが見つからず、2010年にガレージで初めて自分のワインを1000本造りました。
そして、それを売り込み材料にして、自分のナチュラルワインを造らせてくれるワイナリーを探し始めました。各地でプレゼンテーションを行った結果、驚くことに多くの人が私のワインに興味を持つようになったので、地元アルカモで本格的にワイン造りをスタートしました。
2022年に醸造所が完成
グラスファイバータンク&大樽を採用してより引き立たつエレガンス
2年前にワイナリーの建設が完了しました。今回試飲する2023年ヴィンテージは、新しい醸造所で初めて造ったワインです。建設にあたってグラスファイバーのタンクのみを使用することに決めました。実際に比較しましたが、ステンレスタンクと比べてエレガントさが増しました。
――もともと栗樽を使っていたと思いますが、最近は使ってないのですか?
使っていません。すべてルイージ(幼馴染のロンガリコ当主)に譲ったからです(笑)。当初、栗樽を使っていた理由は、生産本数が少なかったためです。容量が小さいと木のニュアンスが強く出やすいため、オーク樽ではなく栗樽を選んでいました。現在は生産量が増え、よりエレガントな仕上がりを目指して大樽を使用しています。オーク樽ではありますが、バニラ香が前面に出ないようにしています。
幼少期から慣れ親しむ土着品種と独自のテロワールで表現する
優しく飲み飽きない繊細なワインスタイル
栽培するのは主にカタラットやグリッロ、ネロ ダーヴォラなどの土着品種です。特に私の父が栽培していたカタラットは自分のルーツと言える品種です。小さい頃からよく畑で食べていたブドウなんです。自分のルーツを意味する「レ ミエ オリジニ」というワインは、そんなカタラットに対する想いが込められています。
「スプマンテを造るのに理想的な品種」
カタラットのメトド クラシコを先駆けて造ったアンドレア氏
カタラットは、スプマンテを造るのに理想的な品種だと考えています。なぜなら、アルカモのカタラットはキュッとした酸、繊細なアロマ、しっかりとしたボディがあるからです。そういった意味では、カタラットは私たちにとってのシャルドネと言えます。
そして、そのカタラットを用いてメトド クラシコを2011年に造りました。おそらく、カタラット100%のメトド クラシコを生産したのは、私が初めてではないかと思います。現在ではカタラットのスプマンテを造る生産者は増えてきていて、少なくとも10社以上は知っています。
力強さと繊細さを共存させた優しい味わいのワインスタイル
――アレッサンドロさんのワインは、全体を通して凝縮感もありながら優しい味わいで、飲み飽きないですよね。
それはまさに目指しているスタイルです。しかし、飲みやすさを重視すぎると水みたいになりますし、強さを求めすぎると飲みにくくなります。力強さと繊細さを共存させることは非常に難しいんです。その二つの要素を兼ね備えたワインこそが偉大なワインだと考えています。
温暖でありながらアルコール感が強く出ない独自のテロワール
――温暖なエリアにもかかわらず、アルコール度数を低く抑えられているのはなぜでしょうか。
水を加えているからです。というのは冗談で(笑)。理由は3つあります。もともとアルコール感が強くなりづらいシチリアに根付く品種を使用していること、収穫のタイミングを間違えないようにしていること、そして伝統的にシチリアでは植樹密度が低く抑えられていることが挙げられます。
国外を含めた他の産地ではアルコールが出やすい品種が多く栽培され、気温上昇に伴って糖が熟してしまいます。一方、シチリアも近年さらに暑さが増していますが、ブドウが急激に熟すことはなくアルコール度数は高くならないのです。
カタラット100%メトドクラシコの先駆け! |
ブラン ド ブラン パ ドゼ テッレ シチリアーネ 2021 |
アレッサンドロ氏: 「カタラット100%のメトドクラシコです。カタラットは泡を造る上でパーフェクトな品種だと思っています。アルカモのカタラットは、キュッとした酸と繊細なアロマがあるからです。そして、ボディがしっかりしていることも理由の一つです。そういった意味では、カタラットは僕たちにとってのシャルドネと言えます。ファーストヴィンテージは2011年で、おそらく私が最初にカタラット100%でメトドクラシコを造った人間だと思います。5000L容量のオーク樽で熟成しています。二次発酵させた後に、2年間瓶内で熟成させています。デゴルジュマンのあとにドサージュしていません」 |
試飲コメント:ややにごりのある麦わら色。みずみずしい凝縮した黄色い果実や、パン生地を思わせる香り。香り同様の要素が口中に広がり、凝縮感がありながらも綺麗な酸が際立つ味わいです。 |
爽やかでフレッシュ、柔らかな果実味が広がるグリッロ100% |
ノーテ ディ ビアンコ 2023 |
アレッサンドロ氏: 「かつてはノーテ ディ グリッロという名前だったグリッロ100%のワインです。2017年にシチリアの法律が変わって、グリッロという名前をエチケットに書くには、清澄をおこない、DOCを取得しないといけなくなりました。2023年ヴィンテージは、初めて自分のワイナリーで醸造したワインです。カンティーナを建設するにあたって、グラスファイバーのタンクのみにしたので、こちらもグラスファイバーで醸造しています。グラスファイバーのほうがステンレスタンクに比べてワインが落ち着いてエレガントになると考えています。マセラシオンを数時間おこなっています。このワインは、喉の渇きを潤してくれるようなワインであるように造っています。畑はすごく暑いエリアにありますが、グリッロはとても特徴的な品種で、暑い年でもフレッシュさと酸を失わない特徴があるのです」 |
試飲コメント:ややにごりのある黄色。白い果実を感じるフレッシュでジューシー、そして爽やかな香り。口に含んだ後もフレッシュかつ柔らかい果実味が広がります。クリーンな印象です。 |
3日間のマセラシオン
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シンフォニア ディ ビアンコ 2021 |
アレッサンドロ氏: 「ノート ディ ビアンコと同じグリッロを使用していますが、3日間のマセラシオンをして、オークの木樽で熟成しています。マセラシオンは、複雑さやアロマを最大限引き出したうえで、ワインが固くなったりタンニンが強くなりすぎないように止めるようにしています。ボトルを攪拌して楽しんでください。ノンフィルターで澱が少し残っているので、回していただくことで味わいがより丸くなって、まとまりのある味わいとして楽しんでいただけると思います」 |
試飲コメント:にごりのある黄金色。ハーブやジンジャーの要素を持つ複雑な香り。爽やかさもあります。フレッシュさと深みが溶け合った複雑な味わいです。柔らかく飲み心地の良い余韻。 |
心地よい苦味と豊かな果実味
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レ ミエ オリジニ 2021 |
アレッサンドロ氏: 「醸造所の周りにあるカタラット100%で造るワインです。一晩マセラシオンをして、1年間5000L容量の大樽で熟成しています。私の父はカタラットだけを栽培していたこともあり、自分のルーツという意味を持つワイン名をつけています。このワインのデザインは、私の小さい時の子どもが描かれています」 |
試飲コメント:にごりのある黄色。熟した力強い香りに甘やかなスパイスが重なり、凝縮感のある香り。心地よい苦味と豊かな果実味が、最後の余韻まで口中を満たし続けます。 |
力強さとエレガントさが溶け合う3品種ブレンド赤ワイン |
ノーテ ディ ロッソ 2022 |
アレッサンドロ氏: 「ネロ ダーヴォラ、ネレッロ マスカレーゼ、ペッリコーネのブレンドで造る赤ワインです。ブレンドする理由は、この3品種をブレンドすることで、それぞれが持つ特徴が生かされています。ネロ ダーヴォラはしっかりした酸と赤系果実。ネレッロ マスカレーゼはエレガントなボディ。ペッリコーネは、しっかりした骨格とスパイス。強さとエレガントさが共存したワインに仕上がっていると思います」 |
試飲コメント:ややにごりのあるルビー色。ジャムやコンポートのような赤系果実と黒系果実の香り。黒胡椒と樽のニュアンスもあります。軽やかで親しみやすいながらもしっかりとした骨格があります。熟した果実とスパイスが溶け合うエレガントな余韻が持続します。 |
インタビューを終えて
時折冗談を交えながらお話をするアレッサンドロさんのおかげで終始和やかな雰囲気のインタビューとなりました。しかし、冗談を言った後は、すぐに切り替えて、自身の考えや分析を明確に語る姿もあり、揺るぎない哲学を持った方であることも同時に強く実感しました。
同じ日にお話を伺った「アレッサンドロ ヴィオラ」と「ロンガリコ」。出身地や畑、ブドウ品種に共通点がある両者ですが、お二人のキャラクターが異なるように、ワインの個性も見事に異なっていて大変興味深かったです。お二人のワインを同時に比較できたことで、それぞれの独自性を存分に感じることができました。