2015年11月9日 ベナンティ社 アガティーノ マウリツィオ ファイッラ氏来社

2015/11/13
突撃インタビュー
 
2015年11月9日 ベナンティ社 アガティーノ マウリツィオ ファイッラ氏

大注目のワイン産地エトナの先駆者!テロワールと土着品種にこだわり、伝統を守り続けるベナンティ

ベナンティ社 アガティーノ マウリツィオ ファイッラ氏
近年、イタリアで最も注目を集めているワイン産地、エトナ。世界中の多くの愛好家が、その特異なテロワールとシチリアにありながら一般的なシチリアワインのイメージとは全く異なる味わいに魅せられています。そのエトナのワインの歴史を造ったのがベナンティです。数多くの造り手が参入してくるなか、エトナの伝統を守り続けるベナンティのワイン造りについて輸出マネージャーのアガティーノさんにお聞きしました。

エトナのワイン造りの歴史を造ったベナンティ

エトナ山ベナンティは、もともとボローニャ出身の一族で、約300年前にシチリアに移住して始まった家族です。元々はベナーティ(BENATI)と言う名前だったのですが、ベナンティ(BENANTI)に変え、その歴史が始まった1734年と言う年号も入れて一族の紋章を作りました。1800年代末に、カターニャのヴィアグランデでワイン造りを始めました。

そして1988年、ジュゼッペ ベナンティがエトナでのワイン造りをスタートさせました。当時、エトナでワインを造っているのはベナンティ以外にムルゴ、カンティーネ ルッソ、バローネ ヴィッラグランデの3社しかありませんでした。1968年にはエトナDOCが認定されていたのですが、まだまだエトナは知られていない土地でしたし、シチリア自体、高品質ワインはほとんど造られてはいませんでした。

ベナンティが初めてのワインをリリースしたのは1991年ヴィンテージです。それまでの3年間はエトナの土地、土壌、クローンを研究することに費やしました。ここで、エトナの土着品種だけでワインを造るというベナンティのワイン哲学が確立されました。

エトナの土着品種だけで造ることがエトナワインの伝統を守ること。国際品種はおろか、シチリアの土着品種カタラットも使わない。

ベナンティのワインはエトナの土着品種だけで造っています。それは、白はカリカンテとミンネッラ。赤はネレッロ マスカレーゼ、ネレッロ カップッチョ。1990年代、イタリアでも国際品種ブームがあって、シチリアの多くの造り手たちがカリカンテを抜いてシャルドネやカベルネに切り替えていきました。でも、ベナンティはエトナの土着品種にこだわって、守り続けてきました。

カリカンテは非常に酸が強いので癖のある個性的なワインになります。そのため飲みにくいし、飲み頃になるまで時間がかかります。エトナDOCはカリカンテを最低60%使うこととされているので、ほとんどの造り手はカタラットをブレンドし、早くから飲めるように造っています。カタラットを混ぜるとカリカンテの個性が薄まってしまうため、ベナンティはカリカンテ100%にこだわります。たとえリリースするまでに時間がかかっても、です。

そして、ベナンティは土着の酵母だけを使ってワインを造ります。これはベナンティのワインの味を決めるうえでも重要なことで、いくら他の造り手がベナンティの味を出そうと思ってもできないのです。

ベナンティの畑
 

エトナは畑のある場所によってテロワールが全く異なる。「エトナワイン」とひとくくりにはできない。

エトナDOCのエリア
エトナDOCに設定されているエリアはエトナ山頂を中心に、北、東、南、南西という半月型のエリアです。ベナンティはそれぞれの場所に畑があり、それぞれのテロワールを表現したワインを造っています。北のロヴィテッロでネレッロマスカレーゼとネレッロカップッチョ、東のミロでカリカンテ、南のヴィアグランデとモンテセッラ、そして南西部のカヴァリエレでは赤も白も造ります。

南のモンテセッラの土壌は砂質で水はけがいいため、根は水のあるところを目指して4メートルも5メートルも深く伸びていきます。また、フィロキセラの前のブドウ樹が残っていて、だいたい樹齢100~130年のネレッロマスカレーゼとネレッロカップッチョがあります。これらはアルベレッロ仕立てで、自然な状態で混植されています。

この写真は1908年のモンテセッラの様子です。当時はこの丘全体を覆うようにブドウ樹がありました。そして、当時使用していた醸造所が今も残っています。昔、シチリアではカンティーナのことをパルメント(Palmento)と呼んでいました。興味深いことに、ここではグラヴィティシステムを使った醸造をやっていたのです。収穫したブドウを搾った最初の果汁はフランスやピエモンテ、トスカーナに販売し、2番搾りを集めて地元用のワインを造っていました。

古樹の斜面とパルメント

ベナンティを代表する3つのクリュワイン。白の「ピエトラマリナ」、赤の「ロヴィテッロ」「セッラ デッラ コンテッサ」

ベナンティには3つのクリュワインがあります。まず、カリカンテ100%の「ピエトラマリナ」。これはエトナ山東側のミロにある樹齢80年のカリカンテだけで造ります。ここは標高が900メートルで、海にも近く、年間通して涼しい気候です。非常に際立つミネラル感が特徴で、長期熟成が可能です。このミロで造るエトナビアンコだけがスペリオーレを名乗れます。スペリオーレの規定はカリカンテが80%以上ですが、ベナンティではもちろん100%で造っています。

赤は北斜面のロヴィテッロで造る「ロヴィテッロ」と、南のモンテセッラで造る「セッラ デッラ コンテッサ」。どちらもネレッロ マスカレーゼを主体に、ネレッロ カップッチョをブレンドして造ります。北のロヴィテッロは北斜面で寒いので、ブドウの手入れに非常に注意が必要です。収穫は10月末頃です。一方、南のモンテセッラは標高が500メートルほどで、南向きで日当たりも風通しも良いのであまり心配する必要のない畑です。収穫は9月末頃です。

それぞれの特徴から、ロヴィテッロはクラシカルでバローロのような雰囲気のワインとなり、セッラデッラコンテッサはまるみがあり、甘さを感じるゆったりとした個性の味わいになります。

新規ワイナリーが次々と参入するエトナにおいて、伝統と土着品種を守り続けるベナンティ

20年前は数社しかいなかったエトナは現在、100近い造り手が参入しています。新しい造り手たちは特にすぐに開いて飲めるワインを造る傾向にあります。先ほども話したように、エトナビアンコにカタラットなどを使いフルーティーで飲みやすいタイプのワインです。それを否定はしませんが、ベナンティはエトナの土着品種の個性を大切にしたいので、やはり品種にこだわっています。

造り手が増え、多くのワインが造られて飲まれるようになるのは嬉しいことです。新しい造り手たちは醸造所を持たないので彼らのために私たちが醸造を行うこともあります。テッレネレも最初は私たちのカンティーナで造っていました。今は、テッレネレが新しい造り手たちのために醸造設備を使わせてあげていますよ。

エノロゴは、今まで醸造所の責任者だったエンツォ カリがチーフエノロゴになりました。イヴィニェーリのサルヴォ フォーティは、5年前まで外部コンサルタントとしてベナンティのワインを見てもらっていました。

カリカンテ100%で造る珍しいメトドクラシコスプマンテ
メトド クラシコ ブリュット ノブレッセ NV
メトド クラシコ ブリュット ノブレッセ NV


カリカンテは酸とミネラルが際立つ品種で、このカリカンテだけでスプマンテを造りたいと始めました。瓶内二次発酵の工程はトレンティーノで行っています。24~36ヶ月間澱とともに寝かせて造っています。

カリカンテはこのところ生産量が減っていて、スプマンテにまでなかなか回すことができなかったので、次のノブレッセのリリースは2017
年になる予定です。

試飲コメント:まずキリッとした酸が口の中に広がり、続いてミネラルの旨味、そして甘みを感じる。シャープさとやわらかさがあり、個性的ながらも飲み心地がいい。

試飲コメント:まずキリッとした酸が口の中に広がり、続いてミネラルの旨味、そして甘みを感じる。シャープさとやわらかさがあり、個性的ながらも飲み心地がいい。

若い樹齢のカリカンテから造るベーシックなエトナビアンコ
エトナ ビアンコ ビアンコ ディ カセッレ 2013
エトナ ビアンコ ビアンコ ディ カセッレ 2013


ミロにある若い樹齢のカリカンテから造ります。これもカリカンテ100%です。カリカンテは先ほども説明しましたが、飲み頃になるのに

時間がかかります。そのため、カタラットをブレンドさせたエトナビアンコに比べ、ベナンティのエトナビアンコは他よりも1年遅れてのリリースとなります。

2013年は非常にいいヴィンテージとなりました。「ピッコラピエトラマリナ(小さいピエトラマリナ)」と言ってもいいぐらいです(笑)。冷やして飲むのがおすすめですが、少し温度が上がってもこのワインの個性が引き立っておいしく飲めます。

試飲コメント:苦味、酸、やわらかさ、そして塩っぽさ。

20年以上熟成可能!ベナンティで最も有名なクリュワイン
エトナ ビアンコ スペリオーレ ピエトラマリーナ 2011
エトナ ビアンコ スペリオーレ ピエトラマリーナ 2011


東側のミロの畑に植えられた樹齢80年のカリカンテ100%です。収穫したブドウをソフトプレスした果汁だけで造ります。風船をゆっくり

とふくらませたやわらかい力だけでプレスしているので、60~70%程度しか搾られないモストフィオーレです。2年間ステンレスタンクで
澱と一緒に寝かせます。その間、バトナージュを1年目は月に8回、2年目は月に4回行います。このことでワインに骨格と複雑味を与えます。そして、さらに2年間瓶熟成をしてからリリースします。

2011ヴィンテージはエトナの赤と白、どちらも最高の出来になりました。このピエトラマリナも20年以上熟成させることができます。

試飲コメント:ミネラルを感じる複雑な香り、研ぎ澄まされたクリーンな味わいと独特の塩気。そしてゆっくりと広がる旨み。

珍しいネレッロカップッチョ100%
ネレッロ カップッチョ 2012
ネレッロ カップッチョ 2012


シチリアの中でエトナの生産量は3%ぐらいで、そのうちの60~70%がネレッロマスカレーゼから造られます。ネレッロカップッチョはエ

トナ全体の3%ほどです。そのためネレッロカップッチョはネレッロマスカレーゼの補助的な品種とされていますが、エトナの土着品種の個性を大切にしたいのでベナンティはネレッロカップッチョ100%でワインを造っています。

このワインは、エトナ南西部のカヴァリエーレの畑のブドウで造ります。ネレッロカップッチョは飲みやすく、タンニンが控えめながら酸はしっかりとあります。だから色々な料理と合わせやすいですね。イメージとしては白ワインが赤のジャケットを身に付けているような感じです。とても珍しい品種なので、近年リクエストが増えています。

熟成はこれまでは樽も使っていましたが、2012年からはステンレスタンクのみで行っています。

試飲コメント:果実のニュアンス、渋みや強みを感じない、とてもエレガントで柔らかな味わい。

ネッビオーロにも似ているエトナの黒ブドウの代表
ネレッロ マスカレーゼ 2012
ネレッロ マスカレーゼ 2012


これまではエトナDOCはネレッロマスカレーゼ100%で造ることができなかったのですが、2012ヴィンテージから100%のものもDOCを名乗ることができるようになりました。2012年は暑い年でしたので例年に比べると少し丸みのある味わいになりました。通常はネッビオーロに似ていて、色も淡く、タンニンが強いです。もちろん、2012もしっかりとタンニンはありますが。

熟成はバリックとトノーを使っています。先ほどのネレッロカップッチョ同様、将来的にはこの土着品種の個性をストレートに表現するためにステンレスタンクだけでネレッロマスカレーゼを造ろうと思っています。

試飲コメント:しっかりとした果実味とコク。そして力強いタンニン。カップッチョとは全然特徴が異なり、面白い。

エトナの北側と南西の畑のネレッロマスカレーゼとネレッロカップッチョで造るベーシックラインのエトナロッソ
エトナ ロッソ ロッソ ディ ヴェルツェッラ 2013
エトナ ロッソ ロッソ ディ ヴェルツェッラ 2013


80%ネレッロマスカレーゼ、20%がネレッロカップッチョです。エトナの北側と南西の畑のブドウを使っています。2つの品種を別々に醸造します。50%はバリックの旧樽で、50%はステンレスタンクで寝かせ、そしてアッセンブラージュしてボトリング。瓶熟成は6~8ヶ月です。

しっかりとした骨格の力強い味わいながらフレッシュさもあるので、イタリアのソムリエたちはこのワインに脂ののったサーモンやマグロと合わせるようです。

試飲コメント:複雑で力強いワイン。濃密さを感じながらもきれいな酸とミネラルで、確かに魚料理にも合いそう。
インタビューを終えて
テッレネレ、パッソピッシャーロ、フランクコーネリッセン、さらにここ2,3年ほどでプラネタやクズマーノなどの大手も参入し、大注目を集めているエトナで、20年以上前からワインを造り続けているベナンティは文字通りエトナワインの歴史を造ったと言っても過言ではありません。

そのベナンティが最も大切にしていることがエトナのテロワールと土着品種へのこだわりだということが今回改めてよくわかりました。ベナンティを有名にしたのはカリカンテで造るクリュ「ピエトラマリナ」ですが、際立つミネラルとクリーンでかつ、旨みあふれる味わいはまさに唯一無二。

エトナは現在、ベナンティのように伝統を大切にする造り手たちと、エトナに新しい風を吹き込むモダンな造り手たちと2つの流れがあるとのこと。両者が切磋琢磨してさらにエトナのワインを高めていく中、エトナの先駆者ベナンティの存在感がますます高くなると感じました。

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