2012年9月7日 ニーノネグリ社 社長兼エノロゴ、カシミーロ マウレ氏 Mr.Casimiro Maule
カンティーナ訪問から約5年半ぶりの再会。ヴァルテッリーナのトップワイナリー、ニーノネグリ社カシミーロ マウレ氏来社! |
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ロンバルディア州の北の端、スイスとの国境に近いヴァルテッリーナのトップワイナリー、ニーノネグリ社のマウレ氏にお会いしました。2007年1月にワイナリーを訪問させていただいて以来、約5年半ぶりの再会。その時と変わらず素敵な紳士のマウレさんと一緒に特別なスフルサートや新商品の白を試飲してきました。 | ||
キアヴェンナスカの白ワイン |
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ヴァルテッリーナは山に囲まれた斜面地の段々畑
トスカニー:5年ほど前にワイナリーを訪問させて頂きました。 凄い斜面地の畑で造られていることに驚いたことを覚えています。 マウレ氏:実際にご覧になったのなら、もうヴァルテッリーナのことはご存知ですね(笑)。今日はまず、キアヴェンナスカ※で造る白ワインについてご紹介します。 ※キアヴェンナスカ:ヴァルテッリーナ地方で昔から栽培されているネッビオーロ種。「バローロ」、「バルバレスコ」などのピエモンテの赤ワインを造るネッビオーロと同じ種ですが別のクローンです。 ■キアヴェンナスカ テッラッツェ レティケ ディ ソンドリオ ビアンコ マウレ氏:ヴァルテッリーナの土着品種はネッビオーロのクローンのキアヴェンナスカです。ピエモンテではバローロやバルバレスコを造るブドウですが、ヴァルテッリーナはランゲとテロワールが違うので、特徴が異なるワインになります。ニーノネグリでは1978年にキアヴェンナスカで白ワインを造ることを始めました。 通常は赤ワインとなるキアヴェンナスカを果汁の量が50%程度しか搾らないようにやわらかくプレスします。果皮の色が極力モストに写らないように十分気を付けなければいけないんです。 トスカニー:とてもフレッシュでフルーティーですね。飲み心地がいいです。 マウレ氏:色を良く見ていただくとわかりますが、普通の白ワインに比べてほんのりと赤みがかっているんです。抜栓して時間がたつともっと色が出てきます。軽快な味なのでアペリティーヴォに使ってもらったり、魚の前菜などと合わせて飲むのがオススメです。 |
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ヴァルテッリーナのキアヴェンナスカはピエモンテのネッビオーロに比べてエレガント |
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■マゼール ヴァルテッリーナ スペリオーレ インフェルノ
マウレ氏:次はマゼールです。マゼールはヴァルテッリーナの5つのソットゾーナ(サブゾーン)のひとつ、「インフェルノ」のキアヴェンナスカです。インフェルノとはイタリア語で「地獄」という意味です。傾斜が40~45度ぐらいあるので畑仕事が本当に困難なんです。しかも日当たりが良くて夏は40℃近くにもなります。午後からは暑くて働けないぐらいです。 トスカニー:訪問させていただいた時もインフェルノを見ました。 マウレ氏:インフェルノがあるから、実はパラディーゾ(天国)もあるんです。まあ、天国と言っても少し平地があって、傾斜がやや緩いぐらいですが(笑)。 ヴァルテッリーナのネッビオーロ(キアンヴェンナスカ)は、ピエモンテに比べて透明感があります。味わいはエレガントで一般的にバローロに比べるとやや弱いボディです。その一方でミネラルが豊富で攻撃的なところもあるので2年ぐらい寝かせる必要があります。 香りも複雑で広がりがあります。後味に心地よい苦みがあるのが2007年の特徴ですが、これは長期熟成に向くことを示しています。2007は非常に良い出来です。 トスカニー:しっかりしていますが、飲み心地はとってもなめらかですね。 |
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ニーノネグリの発展に貢献したカルロネグリに捧げるワイン |
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■インフェルノ カルロ ネグリ ヴァルテッリーナ スペリオーレ
マウレ氏:このカルロネグリは、マゼールと同じインフェルノのキアヴェンナスカですが、インフェルノの中心部分の約3haの畑だけのブドウで造ります。カルロネグリは設立者ニーノネグリの息子ですが、彼がニーノネグリを著しく発展させました。私はカルロネグリに誘われてニーノネグリ社に入ったのですが、彼から大きな影響を受けました。このワインはカルロネグリに捧げる思いを込めて名づけました。 トスカニー:マゼールに比べてやわらかくて飲みやすいですね。 マウレ氏:先ほどのマゼールが男性的、こちらは女性的なワインになっています。これはヴィンテージの違いもあります。2008年はとても難しい年で、7月に雹が降ったりして生産量も減少しました。その分、品質管理により気を遣っています。マゼールに比べて1年若いですが、こちらの方が早く飲み頃になっています。 植え替えするのも一般の畑に比べて何十倍もの費用と労力が必要な段々畑 マウレ氏:ニーノネグリではブドウの品質向上と生産コストの合理化を進めるために、ブドウ樹の植え替えを始めています。ヴァルテッリーナは伝統的に南北方向にブドウを植えてきました。このほうが狭い土地にもたくさんブドウ樹を植えることができたんですね。でも、当然ながらブドウ樹の列が階段状になるので、一切の機械は使えません。それに1日を通した日射量の差が大きく、効果的な光合成ができません。より健康なブドウを造るのと、畑作業の効率をアップさせるためにミラノ大学の研究を参考にして南北ではなく、東西にブドウ樹を植えかえることに決めました。 厳しい傾斜の段々畑が多いので全ての畑で植え替えが可能なわけではありませんし、一般的な畑に比べた何十倍も費用と労力がかかりますが、毎年0.5~1haずつ植え替えを行っています。その植え替えが終わったフラチャの畑で造ったワインがこのヴィニェートフラチャです。 |
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実は牛タンとの相性がいいトレビッキエリ受賞の「フラチャ」 |
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■ヴィニェート フラチャ ヴァルテッリーナ スペリオーレ
マウレ氏:ヴィンテージは2008です。先ほど説明した通り困難なヴィンテージで、フラッグシップのチンクエステッレは造りませんでした。その代わり、と言ってはなんですがこのフラチャは非常に素晴らしく、『ガンベロロッソ』でトレビッキエリを受賞しました。 非常にエレガントで芳醇な香りです。ラベンダーの香りもあります。木樽で20ヶ月間熟成させているのでバニラや香ばしいアーモンドのニュアンスもありますね。 トスカニー:インパクトのある香りと凝縮された味ですね。甘みもあります。 マウレ氏:ええ、しっかりとしたボディと熟した果実感があります。ジビエやローストしたお肉などと一緒に楽しんでもらいたいです。 ※後日談ですが、マウレ氏が仙台で牛タンを食べられたときにフラチャには牛タンが合うとおっしゃっていたそうです♪ |
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アマローネよりも古い歴史があるスフルサート |
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マウレ氏:ヴァルテッリーナで伝統的に造られてきた醸造方法がスフルサートです。 収穫したブドウを陰干しして糖度を高めてから発酵してワインにするということは寒い地域で始まりました。 気温が低いので畑では思うように糖度が上がらず、アルコールの高いワインができないから始まったんですね。アマローネも同じです。でも実は、スフルサートの方がアマローネよりも古いんです。1300年頃の記録に「藁の上でブドウを干す」という記述が残っています。でも、ヴェネトの人たちのほうが大きな会社も多いですのでアマローネの方が圧倒的に世界で有名になりましたが。実際、アマローネが年間に1000万本生産されているのに対してスフルサートは25万本程度です。 トスカニー:ヴァルテッリーナの生産者さんはみんながみんなスフルサートを造っているのですか? マウレ氏:ヴァルテッリーナにはボトリングをする生産者は36社あって、そのうちの15社がスフルサートを造っています。スフルサート1本造るのにブドウは2kg使います。普通のワインの2倍ブドウが必要なんです。 トスカニー:なるほど、誰でも造ることができるわけじゃないですね。 フルサートの頂点「チンクエ ステッレ」 マウレ氏:ニーノネグリの顔でもあるチンクエステッレです。 トスカニー:チンクエステッレ、飲むの楽しみにしてきました! マウレ氏:(笑)最新ヴィンテージの2009が今年の秋に出版される『ガンベロロッソ2013』でトレビッキエリをとりました。 トスカニー:そうなんですね、おめでとうございます。 マウレ氏:ありがとうございます。今から飲んでいただく2007もトレビッキエリを受賞していますよ。 トスカニー:ニーノネグリでは陰干しブドウのうちどれぐらいをチンクエステッレにしているのですか? マウレ氏:20%ぐらいです。残りは伝統的なスフルサート「カルロネグリ」にします。チンクエステッレは100%バリックの新樽で熟成させていますが、カルロネグリのほうは昔からのやり方を踏襲して大樽で熟成させています。 トスカニー:やっぱり素晴らしいです、チンクエステッレ。 マウレ氏:ワインだけで楽しむ、という方もいるかもしれませんが、ヴァルテッリーナのワインはやはり食事と一緒に合わせていただくのが一番です。パンやチーズ、サラミなどのシンプルな食材でもいいんです。チンクエステッレは標高1700mのところに育つヤギのミルクで造る「ビット」と言うチーズとも合いますよ。珍しいチーズなので現地でも高価です。 |
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■インタビューを終えて | ||
5年半ぶりにお会いするマウレ氏は相変わらず穏やかで素敵な紳士でした。あの過酷なヴァルテッリーナの畑に対するマウレさんの枯れることのない情熱がニーノネグリのワインをさらに発展し続けていることをあらためて感じました。
ワイナリーを訪問したときに食べさせて頂いたヴァルテッリーナ名物のピッツォッケリの話題から日本のお蕎麦の話になって、ひととき蕎麦談義に花が咲きました。ピッツォッケリは一皿1000キロカロリーもある、もの凄いハイカロリーの料理ですが、それを食べて体力を付けるからこそ過酷な畑仕事ができる。ヴァルテッリーナだからこそ生まれた郷土料理、また食べたくなりました。 |
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2012年9月7日 ニーノネグリ社 社長兼エノロゴ、カシミーロ マウレ氏来日インタビュー
2012/09/07