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2018年1月29日 テヌータ デッレ テッレ ネーレ社 マルク デ グラツィア氏
「バローロボーイズ」を世に知らしめたマルクデグラツィアが造る優美で偉大なエトナ「テヌータデッレテッレネーレ」
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「エリオアルターレ」「ドメニコクレリコ」を代表とする近代的バローロの生産者を束ね「バローロボーイズ」として世に送り出し、一大旋風を巻き起こしたマルク デ グラツィア氏。1980年に彼が立ち上げたマルク デ グラツィア セレクションズではバローロのみならず、トスカーナの「サンジュスト ア レンテンナーノ」を始め、イタリア全土の高品質ワインを世界中に送り出した近代イタリアワイン界を代表する重鎮の一人です。イタリア全土のあらゆる畑を廻った彼が2002年にシチリアエトナの土地に惚れ込み、テヌータ デッレ テッレ ネーレ社を設立。現在は自らのワイナリーで有機栽培で拘り抜いたワインを造りあげています。多産で安価なイメージのシチリアワインにおいてマルク デ グラツィアの造るエトナは別格の完成度。高樹齢のブドウが産み出す淀みない果実味と火山性土壌のミネラルが溶け合う清らかなワインを造りだしています。今回4年振りに来日したマルク デ グラツィア氏にお話を聞きました。 |
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「バローロボーイズ」を世界中にに知らしめた立役者
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~マルクデグラツィア氏~
トスカーナ・フィレンツェ出身。65歳。1980年、マルク デ グラツィアセレクションズを設立。
ブルゴーニュに学んだ近代的バローロ生産者「エリオアルターレ」「ドメニコクレリコ」「ルチアーノサンドローネ」らの生産者を束ね、「バローロボーイズ」を世界中にに知らしめた立役者。
バローロのみならずイタリア全土から高品質ワインを世界中に発信。トスカーナの「サンジュスト ア レンテンナーノ」もその一人。2002年からエトナ北部に「テヌータ デッレ テッレ ネーレ」を設立。有機栽培でテロワールを表現した拘り抜いたワインを造りあげています。 |
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火山性土壌で卓越した個性を持つ「エトナ」
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他シチリアのブドウ畑とは全く違った特徴を持つエトナのブドウ畑
エトナ火山の麓に広がるブドウ畑は他シチリアのブドウ畑とは全く違った特徴があります。世界中のワイン産地の中でも非常に特殊な土地と言えるでしょう。
世界的にはブドウ栽培ではなくとも火山性土壌のエリアでは卓越した個性を持つ農産物が産まれています。アフリカのキリマンジャロもそれに挙げられますし、以前インドネシアに行った時も素晴らしいお米が栽培されていました。卓越した個性を持つエトナでワイン造りが出来る事は実に幸せで、恵まれていると感じています。
大学では古代ギリシャ研究を専攻
大学では古代ギリシャについて研究をしていました。この経験はワイン造りにも活かされています。生産者が持つ文化的な要素もワイン造りに必要であり、テッレ ネーレが他のワインと違う点であるとも言えます。
「アリストテレス」と「プラトン」における相互関係
学生の頃に、古代ギリシャの哲学者「アリストテレス」、「プラトン」どちらが好きか?と良く聞いたものでした。このことはワインの世界においても置き換える事が出来、いわゆる「ボルドー派」か「ブルゴーニュ派」、もしくは「トスカーナ派」か「ピエモンテ派」か?という具合です。
形而上学的な「ブルゴーニュ」、世俗的な「ボルドー」
イタリア、ルネッサンス期のラファエロの絵画「アテナイの学堂」がバチカンに飾られていますが、その絵の中のアリストテレスの右手は前に伸ばしている。一方プラトンの右手は天を指している。天を指しているプラトンの姿にはどこか形而上学的なものが感じ取れますし、一方、現実的なアリストテレスの姿には世俗的、現代的なものを感じます。先ほどのワインに当てはめると形而上学的な「ブルゴーニュ」、世俗的な「ボルドー」と言えるでしょう。
形而上学的な「ブルゴーニュ」のスタイルで「美しく善良であること」
私たちのエトナは形而上学的な「ブルゴーニュ」のスタイルと言えます。ギリシャでは男性紳士は「ナイト」と呼ばれていました。ナイトに共通する事は「美しく善良であること」。古代ギリシャ人は「美しさ」と「善良さ」は分けて考えてはいなかったのです。この考え方はテヌータ デッレ テッレ ネーレのワインの個性にも共通する事です。 |
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「土壌」「標高」「微気候」を持つエトナの風土
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「土壌」「標高」「微気候」を持つエトナの風土
DOCエトナについてお話しましょう。エトナ北部は赤ワインが有名です。東側~南側はテロワールが異なり、白ワイン中心に造られています。エトナは他シチリアエリアに比べ、雨が多いエリアです。しかもそれぞれのエリアによって降雨量が異なっています。つまり同じエトナであっても異なるミクロクリマ(微気候)が存在しています。
1つの原産地呼称の中で400~1000メートルを超える標高差がある特別なエリア
エトナを話す上で「土壌」、「標高」、「微気候」というキーワードがあります。それにより、異なるスタイルの特徴的なワインが産まれます。例えば「標高」。1つの原産地呼称の中で400~1000メートルを超える標高差があるエリアというのは、ドイツやフランスの生産地では思いつきません。50メートル標高が違うだけで出来上がるワインも異なりますが、ここエトナでは600メートルも差があるのです。
「南イタリアのワインだけれども、北イタリアワインの特徴に似たワイン」
私達はエトナ北部に畑を所有しています。特にサンロレンツォ、カルデラーラは古い土壌で、比較的新しい溶岩が流れでている区画です。一方グアルディオーラは雪が降り積もるエリアで1年の内、4ヶ月はスキーが出来る程に雪が降ります。標高1000メートルにあるグアルディオーラの段々畑の頂上には1947年に流れ出た溶岩が止まった場所に建てられた教会があります。火山が産んだ土壌と素晴らしい気候があります。説明として矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、「南イタリアのワインだけれども、北イタリアワインの特徴に似たワイン」が産まれています。 |
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「ワインは人間と一緒でそれぞれ個性は異なっているもの」
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ヴィンテージの優劣を語るのは「意味のない事」
ヴィンテージについてお話しましょう。2014、2015、2016、2017と4年続いて良い年となりました。ここでお話したいのはヴィンテージの優劣について語るのは「あまり意味のない事」だと思います。
「ヴィンテージによる違いは個性として愛でていくもの」
ヴィンテージによる違いはその年のワインの個性、特徴として理解し、その個性を愛でていくものです。2014年は力強く豊か、2015年は優美さがあり、声高に自分をさらけ出さない個性があり、生まれながらにして優美さが備わっています。
「ワインは人間と一緒でそれぞれ個性は異なっているもの」
ワインはどのヴィンテージも私達に喜びを与えてくれます。タンニンが強い、酸が強いというだけがワインの判断ではありません。タンニンや酸はワインに備わる要素の一つでテクニカルターム(専門用語)であるにすぎないのですから。それにワインが美味しければ美味しい程、一般的な言葉で描写する事は難しいものです。その一例として、ブルゴーニュのジャック フレデリック ミニュエのワインは村名クラス~特級「ミュジニー」クラスまでそれぞれのワイン、それぞれヴィンテージにも違った素晴らしい喜びが感じられます。ワインは人間と一緒でそれぞれ個性は異なっているものですから。 |
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エトナ ビアンコ 2015 |
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各ブドウの平均樹齢は63年でエトナ北側斜面、600~900メートルに位置する火山灰土壌の畑。ステンレスタンクで一晩マセラシオン。低温アルコール醗酵、ステンレスタンクで翌春まで6カ月間熟成して瓶詰め。生産本数約50000本。 |
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試飲コメント:カッリカンテにカタラット、グレカニコ、ミンネッラの古木のブドウをブレンドしています。ブレンドする事は若いワインには重要な事です。カッリカンテ種は内向的で厳格さがあり中々味わいが開きません。1~2、3年でようやく開いてきます。他品種をブレンドする事でバランスがとれ、より近づきやすい味わいとなります。畑はワイナリー名にもあるように黒い土で、石ころがない火山灰の土壌です。非常に若い女の子のようなワインと言えます。 |
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エトナ ビアンコ カルデラーラ ソッターナ 2015 |
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樹齢は15~60年のブドウを使用。エトナ北側の斜面、標高600~650メートルに位置する 火山灰土壌の畑。特に石が多く、表土が薄い非常に石灰が多い土壌。低温マセラシオン、500~1000リットルのフレンチオーク樽でアルコール醗酵。マロラクティック醗酵を行い10カ月間熟成。瓶詰め後8カ月間寝かせてからリリース。生産本数約6000本 |
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試飲コメント:カルデラーラエリアのカッリカンテ100%で造られています。樽は使っていますが、攻撃的な味わいではなく、エトナの透明感あるテロワールが濁ることなく表現しています。スタンダードのビアンコに比べ、より内省的な要素が強く、瞑想を誘うワイン。18~20歳位のしっかりとしてエレガントな女性のようなワインと言えます。クリーミーな厚みがありながら、酸とミネラルが要所を締める実にエレガントな味わい。 |
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エトナ ロザート 2016 |
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ネレッロマスカレーゼ98%、ネレッロカプッチョ2%のブレンド。両品種共に1927、1947年に植樹したもの(5年の若木も含まれる)。エトナ北側斜面、標高650~900メートルに位置する火山灰土壌の畑。ステンレスタンクで一晩マセラシオン。低温アルコール醗酵。ステンレスタンクで翌春まで6カ月間熟成して瓶詰め。生産本数約10000本。 |
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試飲コメント:ロゼは調和、均衡を造りだすのが難しいワインだと言えます。白、赤ワインの調和は分かりやすいからです。ロゼには赤ワインの持つ柔らかさ、ビロードのタッチが必要。また、白ワインの持つブドウ本来のフレッシュな味わいの均衡を保つ必要があると考えています。そうすることでより本格的で複雑な味わいのロゼが産まれます。ロゼワインにおける「プラトン」的完璧な調和とは?と自問して造りだしたワインです。スッキリとしたミネラルと酸に支えられた豊かな果実感があります。赤い小さな果実、バラの洗練された香り。派手ではありませんが、実に繊細なタッチで奥深い味わい。飲み手の舌、感性を擽るロゼ。 |
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エトナ ロッソ 2015 |
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ネレッロマスカレーゼ98%、ネレッロカプッチョ2%のブレンド。両品種共に1927、1947年に植樹したもの(5年の若木も含まれる)。エトナ北側斜面、標高650~900メートルに位置する火山灰土壌の畑。ステンレスタンクで醗酵。熟成は同じくステンレスタンクで6ヶ月間、フレンチオーク(トノー、及びバリック、20ヘクトリットルのオークバレル)で6ヶ月間。生産本数約75000本。 |
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試飲コメント:エレガントなワインはパワフルなワインを造ることより遥かに難しい事です。2015年は声高に主張せず、生まれながらにして優美さが備わっています。テッレネーレの全てのワインに共通する「ブドウの純粋な表現」「ピュアさ」が感じられると思います。それがアイデンティティで出来る限り全てブドウを「透明感」をもって表現したいと思っています。スタンダードワインとしては傑出した出来映え。赤、黒のベリー、バラ、スパイスが入り混じる華やかな香り。しなやかな果実感にミネラルと酸が引き締める洗練された味わい。 |
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エトナ ロッソ サント スピリト 2015 |
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ネレッロマスカレーゼ98%、ネレッロカプッチョ2%のブレンド。両品種とも1950、1960年に植樹した50~60年のもの。エトナ北側斜面、標高700~750メートルに位置する火山灰土壌の畑。8~10日間かけてアルコール醗酵、マセラシオン、フレンチオーク(25%新樽)でマロラクティック醗酵とl18カ月間熟成し無濾過で瓶詰め。 |
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試飲コメント:サント スピリトは所有する5つの畑の中で最も官能的な味わいを産み出す畑です。すぐに魅力を与えてくれます。「優れたワイン」というものは声高に力強さに頼って発するようなワインではありません。それがFineWine(上質なワイン)という事で、派手な衣装をまとう事無く、そのものの秘めた美しさがあります。ヒョウやチータを感じさせるしなやかさがあります。劇場でドレスを着たような女性ようなワインと言えます。緻密で隙の無いエレガントな風味。芯に感じる力強さはありますが、美しいベールを一枚纏ったかのような極めて滑らかな舌触り。綺麗な酸とミネラル、たおやかな果実味、豊富ながら粒子の細やかな上質のタンニンが美しい調和を成し、口中で立体的に広がる洗練された味わい。現時点でも楽しめますが、5年置いてまた試してみたいワイン。 |
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エトナ ロッソ サンロレンツォ 2015 |
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ネレッロマスカレーゼ98%、ネレッロカプッチョ2%のブレンド。両品種とも樹齢50~100年のもの。エトナ北側斜面、標高700~750メートルに位置する4ヘクタールの黒い軽石や火山岩が入り混じる火山灰土壌の畑。フレンチオークのバリック、トノー、大樽(10~30ヘクトリットル)でマロラクティック醗酵、熟成16~18カ月間、ステンレスタンクで1ヶ月間休ませてからボトリング。生産本数約1500本。 |
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試飲コメント:サンロレンツォのワインからは「何か高貴なもの」を感じます。より完璧に近いワインだと言えます。ラベルには最低樹齢50~140年の古木の証であるマークを入れています。全ての畑において一本一本どのように選定すれば良いか常に考えています。ブドウ樹を植えた最初の5年は収穫をしようとは考えていません。「産まれたばかりの幼児に大きな荷物を預けるようなもの」 で、先ずは幹を土壌に根付かせる事を優先して考えています。最初の5年で確りとした基盤を造る事が重要です。全ては手作業で行われます。冬の間は雪が積もりますので土壌が雪の水分を蓄えるようにします。根の浅い若いブドウ樹と違い、古木のブドウ樹は地中深く根を張るので雨や雪の影響も受けにくいのです。張り詰めた緊張感の中に広がる純粋で清らかな果実の香り。仄かなスパイスとミネラルが重なる洗練された香り。シンプルな構成だけに、果実のポテンシャルの高さが伝わる。現時点では秘めた美しさでクールな印象。全容は見えないものの、味わいに感じる裾野の広さから、そのスケールの大きさが容易に想像できる素晴らしい魅力を内に秘めた特別なキュヴェ。 |
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■インタビューを終えて |
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マルク デ グラツィア氏が学生時代に専攻した古代ギリシャ学になぞらえて進めるお話は、ワインのテクニカル的な要素ではなく、自らの想いやワインに対する感情を知的にじっくりとお話になる姿が印象的でした。
発する言葉の一つ一つが奥深く、「形而上学的なブルゴーニュ」、「世俗的なボルドー」という観念も非常に興味深い内容でした。元々トスカーナのフィレンツェ出身のマルク デ グラツィア氏が、ブルゴーニュと同じく単一品種で造る高貴なバローロに行きついた事も合点が行くような気がしました。
また「なぜ(ブドウを)植えるのかと言えば、それは「次世代」の為」と話してくれました。単なるワイン造りの範疇ではなく、もっと大きな視点で自然とのバランスを守っているとも感じました。
自然派フランク コーネッリッセン氏、鬼才アンドレア フランケッティ氏もマルク デ グラツィア氏のようにエトナの魅力に惹かれワイン造りを始めた生産者。それだけの魅力を持つエトナ。「私はシチリアにワインを造りに来たのではなく、エトナにワインを造りに来ました」というマルク デ グラツィア氏の力強い言葉にテヌータ デッレ テッレ ネーレにかける情熱がヒシヒシと伝わってきました。 |
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