ロッソピチェーノを代表する造り手「ヴェレノージ」突撃インタビュー

2018/11/22
突撃インタビュー
 
2018年10月31日 ヴェレノージ社 アンジェラ ヴェレノージさん

ロッソピチェーノを代表する造り手!スタンダードもトップキュヴェも高く評価されるマルケのトップワイナリー「ヴェレノージ」突撃インタビュー

ヴェレノージ社オーナーのアンジェラさんと
12年連続トレビッキエリを獲得するロッジョ デル フィラーレや、イタリア最優秀コストパフォーマンスワインに選ばれたロッソピチェーノ「イル ブレッチャローロ」など、実力・人気ともにマルケ州のトップワイナリーとして知られるヴェレノージ社。20代の若い夫婦が1からワイン造りを始め、少しずつ力を付けて大きくしていったワイナリーです。マルケ州の独特なテロワールに根付いたワイン造りや、新しいことへの挑戦を続けるワイナリーの哲学についてオーナーのアンジェラヴェレノージさんにお話をお聞きしました。

20歳と25歳。ワイン造りのバックボーンが何もない若い夫婦が9ヘクタールの借り畑からスタート

エルコレヴェレノージ氏ヴェレノージは、私と夫のエルコレが1984年に立ちあげたワイナリーです。そのとき私が20歳でエルコレが25歳でした。ワイナリーがあるのはマルケ州南部のアスコリ ピチェーノで、アブルッツォ州との州境になります。ここでは伝統的に赤のロッソピチェーノと白のファレリオを造っているエリアになります。私達はふたりともワイン造りをしてきた家族に生まれたわけではありません。だからワイン造りで家族の支援や助言を受けられる環境ではありませんでした。むしろ、親たちは自分たちの事業を継いでくれない私達を反対していました。

ワイン造りのため、最初9ヘクタールの畑を借りました。お金もありませんでしたが、苦労を重ねてこそ成功が得られるという強い思いで2人でひたすら働きました。イタリアのことわざにある「良い船を造るには嵐が必要」というのと同じです。最初に造ったワインが赤のロッソピチェーノイルブレッチャローロと、白のファレーリオです。そこから少しずつ畑を増やし、生産量も増えていき、今では約150ヘクタール、生産本数が250万本になり、55ヶ国に輸出するまでに成長しました。さまざまなワインコンクールなどでも高く評価されるようになりました。

ところでワイナリー名のヴェレノージは名字なのですが、イタリア人にとってはちょっとぎょっとされる名前になります。イタリア語で毒を意味する「ヴェレーノ」を連想させるからです。そのおかげでインパクトが強く、すぐに覚えてもらえます(笑)。名字の由来については毒とは全く関係ないですけどね。

マルケ州は海と山に挟まれた、幅の狭い独特の地形。生産量は少なく、品質の高いワインを生む

マルケ州ヴェレノージのあるマルケ州は一言で言うと長くて狭い、細長い州になります。北がエミリアロマーニャ、西がトスカーナとウンブリア、南がアブルッツォとラツィオに接していて、東はアドリア海です。海岸線が180kmほど続いています。この狭い土地に山があり、丘があり、海がある。そしてそのそれぞれに長い歴史があり、建造物や美術館、博物館など様々な文化があります。マルケ(Marche)は、実は複数形の単語です。イタリア20州の中で、唯一複数形で表記する州です。それは様々な特徴をもった土地が集まってできたことを示しています。

見てわかるように、海と山に挟まれている土地になります。他の州にはない独特の地形で、夏は非常に暑く40度近くになります。そういう日が60日間ほどあります。ところがこの山脈から海に向かっていくつもの川が流れています。この川の水のおかげで気候が上がりすぎず穏やかになり、バランスを生んでいます。川が独特の気候を造っているんですね。そして冬には雪が降るので夏に水不足となる心配もありません。昼夜の寒暖差が大きいので、マルケでは素晴らしい白ワインが生まれます。ただ、ワイン生産量はとても少なく、ヴェネト州の生産量の10分の1ほどしかありません。マルケ州は70%が丘陵地で30%が山岳地。平野部はほとんどないので、限られた場所の丘陵地でワインを造っていることになります。

ヴェレノージ畑風景
 

ピノノワールでワインを造りたい。シャンパーニュまで行って製法を学ぶ

ヴェレノージ ピノノワール&グランキュヴェゴールドマルケ州の主要な品種は白のペコリーノとヴェルディッキオ、赤はモンテプルチアーノとサンジョヴェーゼです。私達のワインもこの4つの品種をメインに造っています。土着品種以外で、ピノネーロから赤ワインを造りたいと考え、植樹しました。3年間ほど試行錯誤しましたが私達が期待していた結果を出すことができませんでした。でも、ピノネーロからはもうひとつ素晴らしいワインが造られています。シャンパーニュです。だから私達はシャンパーニュとおなじ瓶内二次発酵によるスプマンテを造ろうと考えたのです。そして私とエルコレは製法を学ぶためにシャンパーニュのエペルネに行き、ブドウ栽培や醸造について勉強しました。


もちろん、最初からうまくできたわけではありません。何回も何回も失敗をしましたが、徐々に品質が上がり、完成させることができました。今ではマドンニーナ デル ペスカトーレなどの星付きレストランにもオンリストされています。

このスプマンテは熟成させればさせるほど素晴らしい味わいになることがわかりました。そして生まれたのが10年間の瓶内熟成で造られるグランキュヴェゴールドです。

ワイナリーのトップキュヴェ「ロッジョ デル フィラーレ」

ヴェレノージ ロッジョデルフィラーレロッジョ デル フィラーレは樹齢約50年の単一畑から造っています。モンテプルチアーノが70%、サンジョヴェーゼが30%のブレンドです。生産本数は40000本です。年を重ねるごとに品質が向上しています。『ガンベロロッソ』や『ビベンダ』、『ヴェロネッリ』、『ルカマローニ』、そして『ワインスペクテイター』などで高い評価を頂いています。

ワインの名前のロッジョは、ジョヴァンニ パスコリという詩人の一節からとりました。太陽の光がブドウ樹の列に射し込んでいる。まるで真っ赤な炎に包まれたかのよう・・・という描写で、「roggio nel filare」と書かれています。ロッジョとは赤いという意味で炎のことを指しています。

ヴェレノージ ロッジョデルフィラーレ

5年間の瓶内熟成!マルケ州ではほとんど造られない瓶内二次発酵スプマンテ
グラン キュヴェ ヴェレノージ 2011
グラン キュヴェ ヴェレノージ 2011


70%シャルドネ、30%ピノネーロで造るスプマンテです。熟成期間は5年間です。マルケ州で瓶内二次発酵のスプマンテを造っている人はほとんどいないのですが、私達はピノネーロでシャンパーニュと同じ造りのスプマンテを造りたいという強い思いで実現させました。1991年が初ヴィンテージとなります。

とても美しい色合いで、パールのネックレスのような繊細な泡の鎖が連なります。香りにはパンの皮やハチミツや白い花のニュアンスが感じられます。まろやかな味わいですがフレッシュさもあります。食前酒から食事全般に合わせて頂けます。

試飲コメント:きめ細かな泡がフレッシュでコクのある味わいにとけこんだバランスの良いスプマンテ。しっかりとした熟成によって造られた上質感も感じられます。

飲みやすく食事との相性も抜群!毎日楽しめる白ファレリオ
ファレリオ 2017
ファレリオ 2017


ファレリオは南マルケで造られるワインです。トレッビアーノとペコリーノ、パッセリーナの3品種のブレンドです。アルコール度数もだいたい11~11.5%ぐらいと低めで、とにかく飲み心地がよくて食事に合わせるのにピッタリのワインです。ファレリオという名前は古代ローマ時代の古い街道の名前からきています。
試飲コメント:白や黄色の花や洋ナシの甘やかな香り。心地よいミネラルを感じるスムーズな味わい。

マルケ州だけでしか育たない品種ヴェルディッキオ
ヴェルディッキオ デイ カステッリ ディ イエージ クラシコ 2016
ヴェルディッキオ デイ カステッリ ディ イエージ クラシコ 2016


ヴェルディッキオはイタリアのシャブリと言われているワインです。その名前からわかるようにVERDE(緑)を連想させるブドウです。ハーブや緑ピーマン、青リンゴ、、、そんな感じですね。ヴェルディッキオはマルケ州だけでしか育たない品種です。マルケの中でもマテリカのエリアとイエージのエリアでは特徴が違います。マテリカのヴェルディッキオは花のニュアンスが感じられ、イエージのヴェルディッキオはアーモンドのニュアンスが感じられます。
試飲コメント:キラキラとした緑がかった麦藁色で、青リンゴやハーブ、熟した果実のニュアンスのある香り。ほどよいコクのある果実味とミネラルのバランスが取れた味わいで余韻のアーモンドの苦みが心地よい。

アンジェラさんが造りたかったワイン。その名も「レーヴェ(夢)」
レーヴェ ペコリーノ 2015
レーヴェ ペコリーノ 2015


レーヴェはペコリーノ100%のワインです。ペコリーノは羊のチーズという意味なので何か変な感じですよね。この地方の羊は夏の間に山の上で放牧されますが、季節とともに丘の方へ降りてきます。標高で370メートルぐらいのところにはブドウが丁度熟していて、そこにやってきた羊は好物の葉っぱではなく、ブドウの実を食べるのです。「羊の好きなブドウ」。これが名前の由来です。

レーヴェとはフランス語で「夢」という意味で、私が造りたい、夢見てたワインとしてこの名前を付けました。50%はフレンチバリック、50%はステンレスで醸造させ、それをブレンドしています。マンゴーやパイナップルなどのふくよかな果実味のあるしっかりとした骨格を持つワインです。食事も脂ののった肉料理や魚のオーブン焼きなどとよく合います。

試飲コメント:黄金色がかった明るい黄色、白い花や熟した果実の華やかな香りでボリューム感があります。心地よい樽のニュアンスも。しっかりとしたコクのある味わいで上品な酸がきれいに調和した、包み込まれるような美味しさ。

香りをかぐと誰もが「ワォ!」と感動の声を上げるワイン「ラクリマ」
ラクリマ ディ モッロ ダルバ スペリオーレ 2015
ラクリマ ディ モッロ ダルバ スペリオーレ 2015


このワインに私は「ワォ!!」という名前を付けたいと思っています(笑)。なぜなら、このワインをグラスに注ぐと、だれもが「ワォ!」って叫ぶからです。それぐらいインパクトのある香りのあるブドウです。スミレやバラや、フレッシュなフルーツがいっぱい感じられます。

ラクリマは果皮が薄くて、成熟が進むと果肉が膨れて果皮を破り、果汁が浸み出すんです。その様子が涙がこぼれるようなので、「ラクリマ(涙)」と名前が付きました。もちろん、果皮が破れてはだめなので、この涙が出ないように細心の注意を払って育てています。

2017年は暑くて収穫量が減ったのですが、2018年はとても素晴らしいヴィンテージでした。ノヴェッロも飲んで頂いたと思いますが、満足して頂けるできになったと思います。

試飲コメント:イチゴやバラ、サクランボ、ブルーベリーなどの甘く華やかな香りがダイナミック。味わいはしっかりとした骨格のある辛口で、果実味が華やかなアロマとともに口の中を広がります。

12年連続トレビッキエリ!ヴェレノージのフラッグシップ
ロッソ ピチェーノ スペリオーレ ロッジョ デル フィラーレ 2014
ロッソ ピチェーノ スペリオーレ ロッジョ デル フィラーレ 2014


ロッジョ デル フィラーレは樹齢約50年の単一畑から造っています。モンテプルチアーノが70%、サンジョヴェーゼが30%のブレンドです。生産本数は40000本です。『ガンベロロッソ』で12年連続してトレビッキエリを獲得したり、『ビベンダ』でも5グラッポリ、『ヴェロネッリ』で3つ星評価、『ルカマローニ』では98点を獲得しています。

収穫は10月中旬です。熟成にはフランス産バリックの新樽を使い、約18ヶ月間熟成させています。

試飲コメント:熟した果実の濃密な香りにスパイシーなニュアンスのある豊かなアロマ。凝縮した果実味とタンニン、そして酸の調和したフルボディ。力強さとエレガントさが共存した豊かな味わいです。

遊び心から誕生したワイン「ルディ」
ルディ 2013
ルディ 2013


モンテプルチアーノと、国際品種のカベルネソーヴィニョンとメルローのブレンドで造っています。伝統的なワインではなく、遊び心から誕生しました。ルディは古代のオリンピック競技のことで、「遊び」という意味合いを込めています。ラベルデザインには頭部のない4人がダンスをしている様子を描いています。

品種ごとに醸造し、フランス産のバリックで18ヶ月から24ヶ月間熟成させます。

試飲コメント:しっかりとしたルビー色。熟した果実のたっぷりとした香りに甘草、黒鉛などのニュアンス。力強さを感じる味わいで、確かな骨格に支えられた複雑味あふれる要素が次々と広がります。きめ細かく滑らかなタンニンが心地よく、まろやか。
インタビューを終えて
ヴェレノージのワインはいつ飲んでも、何を飲んでも抜群の安定感を覚えます。今回、アンジェラさんからマルケの地形や気候の特徴をお聞きして、魅力的なマルケのワインに対する理解をより深めることができました。

ワイン造りに対する強い信念と諦めない気持ちもひしひしと伝わってきました。家族からの支援も何もないところから始め、「成功するには困難が必要」と言い聞かせて仕事にまい進、さらにピノネーロで瓶内二次発酵スプマンテを造るためにシャンパーニュにまで行って勉強。トップになる人はやっぱり違います。

エネルギーと情熱の塊で、そしてとっても明るいアンジェラさん。自分の子供のようにワインを語る姿もとても素敵でした。ヴェレノージファンの方にも、あまり飲んだことのない方にも、改めて味わって頂きたいと思います。

ヴェレノージ社アンジェラヴェレノージさん
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