ナポリ湾に浮かぶ最大の島イスキア島を牽引する「カーサ ダンブラ」突撃インタビュー

2023/08/07
突撃インタビュー
 
2023年8月1日 アンドレア ダンブラ氏 Ms. Andrea D’Ambra、サラ ダンブラ氏 Ms. Sara D’Ambra

唯一無二の土壌から生まれるミネラル豊富な「島のワイン」!ナポリ湾に浮かぶ最大の島イスキア島No.1ワイナリー「カーサ ダンブラ」突撃インタビュー

ナポリ湾に浮かぶ最大の島イスキア島の家族経営ワイナリー「カーサダンブラ」。創業は1888年と歴史は古く、100年以上もイスキアの土着品種をメインにワインを造り続け、同島を代表する造り手としての地位を確立しています。イスキア島の最大の特徴は「他にはない」という緑色の凝灰岩トゥーフォ ヴェルデの土壌。地中深くまでブドウ樹の根が伸び、ミネラル感が際立つ味わいをワインに与えます。その土壌の影響を最も受けるのが、イスキア初のクリュワイン「フラッシテッリ」。3代目アンドレア氏が、イタリア食文化に計り知れない足跡を残したジャーナリストである故ヴェロネッリ氏の助言を受けて造り上げた逸品です。今回は、そのアンドレア ダンブラ氏と4代目のサラ ダンブラ氏にオンラインでお話を聞きました。

2800年前からブドウ栽培を行うナポリ湾最大の島「イスキア」

――それではよろしくお願いいたします。まずは、改めてイスキアのワイン造りの歴史についてお聞かせください。

サラ みなさんこんにちは。私はカーサ ダンブラ社の4代目、サラ ダンブラと申します。カーサ ダンブラ社は1888年に私の曽祖父がイスキア島に設立した家族経営ワイナリーです。私たちが拠点を置くイスキア島は、ナポリ湾に浮かぶ最大の島です。カプリ島などの周囲の島とは起源が異なるので、特異な土壌を有しています。

イスキア島でしか見られないミネラル豊富な土壌「トゥーフォ ヴェルデ」

サラ 火山噴火によって隆起したイスキア島は火山性土壌ですが、もともと海の下にあった土壌もあるので、海由来のミネラル分を多く含む土壌が存在します。その代表的な例が、トゥーフォ ヴェルデという緑色の凝灰岩です。他のエリアでも見られない唯一の土壌です。小さい岩もあれば、山のように大きな塊になっているものもあります。

トゥーフォ ヴェルデはとても水はけが良く、地中深くまで根を伸ばすので下層に溜まっているミネラル分を吸収します。これによりワインはミネラル豊かな味わいに仕上がるのです。

――島全体に見られる土壌なのですか?

サラ 島全体に点在していますが、特に島の西部、南西部に多く見られます。東部や南部は、どちらかというと砂質や粘土質の土壌が多く、全体的に目の詰まった土壌ですね。

紀元前800年からブドウ栽培の歴史を持つイスキア島西部

――イスキア島のブドウ栽培の歴史はかなり古いですよね。

サラ とても古いです。西部では、紀元前800年からギリシャ人がブドウ栽培をしていた歴史があります。“当時からすでにブドウ栽培に使われる棒があった”という記述もあるので、もしかしたらギリシャ人の前にも誰かが栽培していたかもしれないです。そのくらいイスキア島は歴史的なエリアと言えますね。

イタリアで2番目にDOC認定を受けた「イスキア ビアンコ」

アンドレア イスキアで造られる白ワイン、イスキア ビアンコは1966年にDOCに制定されました。トスカーナのヴェルナッチャ ディ サンジミニャーノの次に認定されたイタリアで2番目のDOCです。バルクワインの生産が多いイスキアでしたが、1966年当時から高品質ワインを生産していたことの証明になります。

その後、1993年にはDOCの規定が変わり、イスキア ビアンコレッラDOC、イスキア フォラステラDOCといった形で品種をつけてDOCを名乗れるようになりました。

100年以上も根付きイスキア島を牽引し続ける歴史的ワイナリー

1888年の創業当初から変わらずイスキア島の土着品種を栽培

――カーサ ダンブラ社についてもお聞かせください。

サラ カーサ ダンブラは、「島のみならずナポリやイタリア各地にワインを輸出したい」という初代の考えから始まったワイナリーです。創業した1888年当初は、ヴィーノ スフーゾ(量り売りワイン)という大量消費用のワインを造っていました。本土まで海を渡って輸出していたんですよ。1956年には、祖父のサルバトーレがワイナリーとして初めてボトリングを行ってワインをリリースし始めました。

私たちは創業当初からイスキア島の土着品種である、ビアンコレッラ、フォラステラ、ペッレ パルンモをメインにワインを造っています。今も変わらず、それら3品種が栽培ブドウの大半を占めています。現在は合計50万本を生産しています。

「たどり着くまで一苦労」過酷な環境に点在する小区画の畑

――畑について教えてください。

サラ 自社畑と契約畑があります。単一畑のフラッシテッリをはじめ、丘陵地帯に複数の畑を所有しています。そして、ブドウの提供を委託する契約農家は130を超えています。島内だけでなく本土のベネヴェントからもブドウを仕入れています。

現在、私たちが最も力を入れていることは畑への投資です。8年前に15ヘクタールの畑を取得し、今に至るまで整備を続けています。15ヘクタールは大した広さでないと感じるかもしれませんが、イスキアにとっては大きな栽培面積です。

というのも、イスキアでは一帯の畑を見つけることが難しく、小さい畑が点在しています。そして、イスキアの畑は非常に足場が悪いので辿り着くだけでも一苦労なのです。そのため、わずか15ヘクタールでも整備に8年かかります。つい2ヶ月前にも新たに7ヘクタールを取得しました。この畑は、イスキア島で唯一と言ってもいいほどの“一塊となったブドウ畑”なんですよ。

なぜここまで畑に投資をするかというと、ブドウ農家の高齢化が進み年々廃業する可能性が高まっているからです。新たに畑を取得することで、将来カーサ ダンブラのワインが継続的に生産できることを保証できるのです。

 

3代目アンドレア氏が造り出したイスキア島初のクリュ
土着品種ビアンコレッラの単一畑白「フラッシテッリ」

ヴェロネッリ氏のアドバイスで生まれた単一畑「フラッシテッリ」

アンドレア フラッシテッリという私たちのフラッグシップについてお話をします。これは、イスキア島で初めて単一畑、クリュのコンセプトのもとに造られたワインです。私の友人であるジャーナリストの故ヴェロネッリが、80年代にフラッシテッリの畑を訪れたことがありました。その際に「この畑は非常に素晴らしい。ビアンコレッラを厳選して単一畑で造るべきだ」という言葉をもらい、3000本限定で1985年ヴィンテージをリリースしました。

「あと1年ほど瓶内熟成させるとフルーツの香りが“爆発”する」

サラ フラッシテッリの畑は、トゥーフォ ヴェルデの土壌が100%と言っても過言ではありません。イスキア ビアンコ、ビアンコレッラと比べると、余韻の長さが圧倒的に違います。果実や花の香りが強く出ます。(現行ヴィンテージを)あと1年ほど瓶内熟成させるとフルーツの香りが爆発するんです。その違いも楽しんでいただければと思います。

合わせる料理は、イスキア島でよく食べられるアナウサギの煮込みですね。約10年前、日本で食べたウサギ料理がとっても美味しかったんです。ぜひ、みなさんも合わせてみてください。

土着品種ペッレ パルンモ100%赤「ペッレ パルンモ」
熟成感の違いを実感! 2018年&2021年の比較試飲

サラ ペッレ パルンモは、土着品種ペッレ パルンモ100%で造る赤ワインです。木樽は用いず、ステンレスタンクで発酵と熟成を行います。フレッシュな味わいで、少し冷やしても美味しくいただけます。赤い果実を思わせるような果実味が特徴です。

――今日は現行の2021年に加え、熟成の2018年もあるので飲み比べをしたいと思います。

サラ 私たちはいつも2年ほどで飲み切ってしまうので、5年熟成させることは滅多にありません。ですので、2018年がどんな変化を経ているのかとても楽しみです。

――(試飲して)2018年、素晴らしく美味しいです!

サラ よかったです! そんなに美味しいのであれば適正温度できちんと保管されていたということですね。嬉しいです。2021年と比べてどのような変化がありますか?

――香りが複雑になり深みが増しました。とてつもないです(笑)。重心が低くなった印象ですね。

サラ 赤い果実から黒いベリーのような感じが出てきていると思います。

――おっしゃる通りですね。とても美味しいです。

映画監督ヴィスコンティ氏、モエ エ シャンドン社に縁のあるラベルデザイン

サラ ボトルのラベルデザインについてお話をします。私の祖父は映画監督の故ルキノ ヴィスコンティと家族ぐるみの付き合いをしていました。彼から「ワイナリーだけでなく、イスキアを象徴するものも表現すべきだ」という助言をいただき、それをもとにラベルデザインを作成しました。
(写真は1955年ヴィンテージのもの)

また、盾型のラベルの縁は1950年代にモエ エ シャンドン社との協定の上で使用しています。

――特許を取っているんですよね。

サラ そうです。彼ら以外に盾の紋章を使用しているのはカーサ ダンブラ社のみとなります。

「私たちのワインを通してイスキア島の歴史や風景を感じとっていただきたい」

――それでは最後にカーサ ダンブラのファンに向けてメッセージをお願いします。

サラ 私たちカーサ ダンブラは15年以上も日本にワインをお届けしています。長年培ってきた歴史とともに、今後も日本のみなさんと一緒に成長していきたいです。今から15年前、私は初めて日本を訪れました。その時に、イスキア島と共通する風景や歴史を感じ取ることができました。ですので、日本のみなさんにも、私たちのワインを通してイスキア島の歴史や風景を感じとっていただきたいです。

イスキア島の土着品種2種ビアンコレッラとフォラステラで造るエントリーワイン
イスキア ビアンコ 2022
イスキア ビアンコ 2022


サラ氏:
「ビアンコレッラとフォラステラというイスキア島の土着品種を50%ずつブレンドされたイスキアビアンコです。父のアンドレアが造ったワインです。9月初旬に各品種を別々に収穫しています。ビアンコレッラの特徴であるフレッシュな酸を感じるデリケートな味わいです。個人的には今飲んでもフレッシュで美味しいですが、3年ほど瓶内熟成させても更に違う表情が出るワインだと思います。合わせる料理は魚料理全般。食前酒としても理想です」
試飲コメント:やや灰色がかった淡い麦わら色。緑色の果実、柑橘類を感じる、ジューシーで爽やか、そしてアロマティックな香り。甘やかさや繊細な蜜のようなニュアンスも。柔らかい口当たりながらも、しっかりとした骨格があります。レモンのような柑橘、柑橘の皮、ミネラルを感じる味わい。甘やかさと柑橘の皮のようなデリケートな渋みが長く持続します。

ほろ苦い余韻と綺麗な酸が溶け合うエレガント白
ビアンコレッラ イスキア ビアンコ 2022
ビアンコレッラ イスキア ビアンコ 2022


サラ氏:
「セパージュは、ビアンコレッラ85%。残りの15%は、フォラステラ、サン ルナルド、ウ-ヴァ リッラ。全て土着品種です。15%内の割合は毎年変わりますが、ビアンコレッラは常に85%と変わらないため常に一定の味わいを保っています。先ほどのイスキア ビアンコよりも余韻が長く、アーモンドのようなニュアンスが出ています。最後の余韻に来るほろ苦さが口の中を綺麗にするので、食事のおともに適しているワインです。5年ほど寝かせても美味しく、南国果実の熟した香りが現れます」
試飲コメント:透明に近い淡い麦わら色。アーモンド、花、熟した果実の香り。綺麗な酸を感じるエレガントな味わいです。冷やしすぎず飲むほうが風味が立つ印象です。ミネラル感に溢れ、バランスに優れた飲み心地の良さが光ります。

単一畑のビアンコレッラ100%を使用!
イスキア島初のクリュの概念で造られた歴史的白ワイン
テヌータ フラッシテッリ イスキア ビアンコ 2021
テヌータ フラッシテッリ イスキア ビアンコ 2021


サラ氏:
「フラッシテッリという単一畑のビアンコレッラ100%で造るクリュワインです。畑の標高は600メートル。トゥーフォ ヴェルデの土壌がむき出しになっているエリアです。最初に飲んだ2種類のワインもビアンコレッラを使用していますが、標高や土壌が全く異なるので味わいは変わります。最も違いを感じるのは圧倒的に長い余韻です。果実や花の香りもより強いです。あと1年ほど寝かせると、果実の香りが爆発するんです。一気に香り成分が発展するので、その違いをお楽しみいただければと思います。具体的には、桃やバナナ、ローズマリーなどのハーブの香りです。魚だけでなく白身肉とも合わせやすいと思います。特にイスキア島ではアナウサギの煮込みを食べますので、ウサギ肉との相性は抜群です」
試飲コメント:やや濃さのある麦わら色。花や落ち着いたミネラル感、果実香を感じます。口に含むとキレの良いしっかりと酸があり、ボディと複雑さを兼ね備えています。それでいて繊細さもある上品な味わいです。

カンパーニャの土着品種ブレンドで造るアロマティックで女性的な新ワイン
レニンフェ NV
レニンフェ NV


サラ氏:
「レニンフェは私が開発に携わった新しいワインです。ファーストヴィンテージは2020年。より女性的なワインにしたく、今までのワインとは違う方向性で造りました。その違いとは使用品種にあります。イスキア島の土着品種ではなく、本土のベネヴェントで栽培されるマルヴァジア、トレッビアーノ、ファランギーナ、グレコを使用しています。辛口というよりも甘みを感じるワインで、個人的には和食と合うと思います。ニンフェというのは、ギリシャ語で自然を現す言葉です。イスキアのワイン造りの歴史においてギリシャは密接に関係しているので、ギリシャ語から名付けました」
試飲コメント:透明よりの麦わら色。非常にアロマティックで熟した果実、ハーブや海の香り。口に含むと、辛口ですが果実由来の甘やかさを感じる特徴的な風味。ドライでバランスのとれた味わいです。

土着品種ペッレ パルンモ100%!5年の熟成で一気に表情が変わるフレッシュ赤
ペッレ パルンモ イスキア ロッソ 2021
ペッレ パルンモ イスキア ロッソ 2021


ペッレ パルンモはカンパーニア州の土着ブドウ、ピエディロッソの同種といわれているブドウです。熟した期間を逃してしまうとすぐに酸化劣化をしてしまい、収穫時期の見極めが非常に難しい品種です。種や果梗を丁寧に取り除き、5~10日のマセラシオン発酵後、タンクに静置し、ボトルで熟成させます。ほどよいタンニンのある繊細かつまろやかな味わいで、魚介料理からしっかりとした肉料理まで様々なお料理によく合います。
試飲コメント:2018年と2021年の飲み比べを行いました。透明よりの麦わら色。2021年は、非常にアロマティックで熟した果実、ハーブや海の香り。口に含むと、辛口ですが果実由来の甘やかさを感じる特徴的な風味。ドライでバランスのとれた味わいです。2018年は、より柔らかくさらにバランスが良くなっています。黒系果実の比率が増え、香りも複雑になり味わい深さが増しています。重心がより低くなってきた印象です。
インタビューを終えて
現在注目を集める「島のワイン」の筆頭ワイナリー「カーサ ダンブラ」。彼らが造るワインはとてもミネラリーでキリッとした酸が特徴的でした。暑い時期にピッタリで冷蔵庫に入れておきたいワインだと思います。

土着品種ペッレ パルンモ100%で造る赤ワインの比較試飲も大変興味深かったです。サラさんは「2年ほどで飲み切ってしまう」と話されていましたが、数年寝かせることも大変おすすめ。熟成させると、若いヴィンテージにある赤い果実主体の風味に黒い果実のニュアンスが加わり、香り味わいともに複雑さが増して大変美味しかったです!

10年前にイスキア島を訪れたことがあります。滞在期間は1日半ほどでしたが、大自然と溶け合う街並みが美しくて素晴らしかったです。それほど観光地という印象は受けず、地元の方々が根付く長閑(のどか)なローカル感に溢れていました。飼い猫なのか野良猫なのかわからない子と海辺で戯れあっていたことをよく覚えています。時間という概念を忘れてしまう素敵な場所でした。今回のインタビューを通じて、その時の情景が蘇ってきてノスタルジーに浸ってしまいました。

またイスキア島で、ゆったり時間を過ごしながらカーサ ダンブラのワインを堪能したくなりました。

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