2023/12/20
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エマヌエーレ ラシッチ氏 Mr. Emanuele Rasicci
アブルッツォの僅か3ヘクタールの畑で飲み心地の良さとクリーンな味わいを引き出す自然派「ラシッチ」突撃インタビュー
2003年創業
100年以上所有する僅か3ヘクタールの畑で行うビオロジック農法
――エマヌエーレさん、初めまして。今日はよろしくお願いいたします。まずはワイナリーの紹介からお聞かせください。
私たちはアブルッツォに3ヘクタールの畑を所有しています。アドリア海から約10キロに位置し、反対側には標高3000メートルにも及ぶアペニン山脈があります。海からも山からも影響を受ける自然豊かな土地です。栽培するブドウは4品種。黒ブドウのモンテプルチアーノ、白ブドウのトレッビアーノ、ペコリーノ、パッセリーナです。
ビオロジック農法を用いており、化学的な肥料や薬品は一切使用しません。2016年頃から日本に輸出し始めましたが、それまではイタリアでも自然派ワインの流れは来ていなかったので、厳しい時期が続きました。造ったワインの30~40%は地元で量り売りしていました。
――2003年創業ということなので、そういった時期が10年以上続いたということですね。
そうですね。とても大変でした。しかし、近年は自然派ワインの人気が高まり、私たちの生産本数も増え、ついに今年は造ったワインを初めて100%瓶詰めすることができました。
1918年から所有する畑を植え替えて2003年にラシッチ始動
――最初からビオロジックだったのですか?
最初からです。ビオロジック農法を行いたいという思いで始めました。もともと私たちの畑は、1918年に祖父が購入したものでした。それを相続した父は副業としてブドウ栽培を行っていましたが、2000年代初頭に小規模生産者ブームが到来したこともあり元詰めを開始しました。そして、2003年から新プロジェクトとして畑の植え替えを行い、現在のワイン生産に至ります。
畑、醸造所、セラー、住居、全てが近くにまとまっていることが私たちのアドバンテージです。健全なブドウだけを収穫してすぐカンティーナに運び醸造ができることで、SO2の添加量も減らすことができるのです。エノロゴに「少なすぎる」と言われるほどです(笑)。
動物性のものを一切使用しないワイン造り
じっくりとブドウ樹と対面する時間を最重要視
――ベジタリアンだとお聞きしました。何かきっかけはあったのですか?
私はヨガや瞑想をするためにインドに行くことがあるのですが、多くの文献を読むと「より良い瞑想のためには動物性のものを避けたほうが良い」と書いてあったので、2008年から肉や魚は摂取しなくなりました。
――ベジタリアンとしての考えがワイン造りに生かされることはありますか?
先ほどビオロジック農法を用いていると話しましたが、たとえビオロジックで認められていても動物性のものは使用しません。その代わりに、ニンニクや岩を砕いた粉末、剪定で切られた蔓(つる)などを肥料にしています。ですので、ラシッチのワインはヴィーガンの方にも楽しんでいただけます。
品質向上に大きく寄与した剪定手法の改善
私は冬にインドに行くことが多くあまり剪定をしてこなかったのですが、ある時ブドウの状態が良くないことに気づいたんです。剪定に関する分厚い本を2冊読み込んだり、弟と話し合って原因を探り始めました。
すると、それまでの剪定の仕方だと樹液の循環がうまく促進されないことが判明したので、アグロノモと協力してきちんと循環するような剪定を自ら行うようにしました。その結果、4年前頃から畑は元気を取り戻して、素晴らしいワインができるようになりました。
剪定が最も好きな作業。落ち着いてブドウ樹と向き合う
落ち着いてブドウの樹と向き合うことができるので、実は剪定が一番好きな時間なんです。自分で決めた方針通りにブドウが育っていく姿を見るのは気分が良いですね(笑)。
――エマヌエーレさんは普段から瞑想をするということですが、瞑想の「何を捨てて何を放置するか」という手法は、どこか剪定と似たところがあるかもしれないですね。
そうなんです。そういえば、私がまだ剪定をしていなかった頃に、ある生産者から「剪定は瞑想のようで最高だよ」と言われたことがありましたね。当時の私は「まあ、僕はインドに行くので大丈夫」と思ってたんですけど(笑)。
飲み心地の良さとクリーンネスが際立つラシッチのワイン
――ボトルのラベルが目を引きます。どういった経緯でこのデザインに至ったのですか?
私の弟がデザインしました。彼は一緒に畑仕事をする仲間ですが、もともと建築家でもあります。パソコンのデザインソフトを用いて作成したそうです。
――白ワインは弟さんの顔が強調されていて、ロゼワインはエマヌエーレさんが強調されています。何か理由はあるのですか?
白ワインのほうが人気で、ラベルを作成した張本人が目立つようにしているんです(笑)。
しっかりと成熟した健全なブドウが収穫できた2022年ヴィンテージ
――そうだったんですね(笑)。インパクトが強くて覚えやすいですね。造っているワインは3種類ですか?
日本に輸出しているのは、ビアンコ、ロゼ、モンテプルチアーノの3種類です。今回試飲するビアンコとロゼの2022年ヴィンテージは、5月の時点で7月かなと思うくらい暑い年でしたが、幸運なことに8月末に3日間たくさん雨が降りました。そのおかげで、ブドウが健康的にしっかりと成熟し、今までで最も多い量を収穫することができました。
飲み心地の良さが光る3種のワイン
ビアンコ、ロゼ、モンテプルチアーノ ダブルッツォ
――試飲した3種のワインはどれも綺麗な味わいで飲み心地がいいですね。特にモンテプルチアーノ ダブルッツォは、力強さがありながらクリーンな味わいです。バリック熟成なのにほとんど木のニュアンスを感じさせませんし。
そうですね。新樽ではなく15~20年程度の樽を使用して木のニュアンスが出過ぎないようにしています。また、ボディがしっかりしているので、しっかりと酸素を取り込める木樽で熟成を促す狙いもあります。
フレッシュかつ複雑、渋みのある風味が広がる白ワイン |
コッリ アプルティーニ ビアンコ 2022 |
エマヌエーレ: 「ビアンコはトレッビアーノ50%、ペコリーノ25%、パッセリーナ25%で造られています。トレッビアーノとペコリーノは8月末から9月上旬に2日間かけて収穫し、7~8日間のマセラシオン後に圧搾します。その約2週間後に収穫を行うパッセリーナは果汁のみを使用しています。発酵と醸造は全てステンレスタンクを用いますが、発酵後に移し替えをし、春を迎えたら再度移し替えをします。SO2の添加量は16mg/Lです。エノロゴに“少なすぎる”と言われますが、常にこの数値を保っています」 |
試飲コメント:濃い黄金色。杏、レモン、乾燥した柑橘類、凝縮果実、スパイス感のある香り。口に含むと、フレッシュで複雑、そして渋みのある風味が広がります。ややボリューミーで奥行きがありながら、エレガントな味わい。グイグイいけてしまう飲み心地の良さ。徐々に上がっていく温度変化による味わいの違いも楽しみたい逸品です。 |
軽やかな果実感が繊細に広がるジューシーなロゼワイン |
アプルティーニ ロザート 2022 |
エマヌエーレ: 「モンテプルチアーノ100%で造るロゼです。マセラシオンは行わず、プレス後にそのまま圧搾します。2022年ヴィンテージからは、より淡い色にするために発酵が始まっている白ワインの果汁を(スターター代わりに)40リットル程度入れて発酵を開始します。酵母が一番元気な底の部分の白ワインを使用しています。発酵後は白ワイン同様に、発酵後に移し替えをして春に再度移し替えをしてボトリングを行います」 |
試飲コメント:ベリーやチェリーなどの赤系果実やフレッシュハーブの爽やかな香り。軽やかな果実感が繊細に広がるジューシーな味わい。フレッシュな酸が口中を綺麗にした後は、長い余韻が持続します。 |
濃厚ながらクリーンで心地よさに溢れる赤ワイン |
モンテプルチアーノ ダブルッツォ 2019 |
エマヌエーレ: 「モンテプルチアーノ100%で造る赤ワイン、モンテプルチアーノ ダブルッツォです。ロゼに使うブドウの約2週間後に収穫を行います。除梗後にマセラシオンを行い、28度に温度管理して8日間発酵させます。バリックで1年間熟成を行います。新樽ではなく15~20年程度の樽を使用し、木のニュアンスが出すぎないようにしています」 |
試飲コメント:濃いルビー色。黒系の完熟果実やドライフルーツ、花、スパイス、レザーを感じる複雑で洗練された香り。香り同様の味わいで、程よいボディ感とクリーンな印象があります。徐々にリコリスや甘い果実のニュアンスが現れてきて、心地よく充実感に溢れる余韻が持続します。 |
インタビューを終えて
日本に輸出するワイン3種以外にも、いくつかのワインを生産しているそうです。モンテプルチアーノのリゼルヴァ、セメントタンク熟成、新樽トノー熟成など。試験的にダミジャーナ(ガラス瓶)熟成の赤ワインも熟成中だそうです。個性が違いながらも、ラシッチ特有の飲み心地やクリーンネスが表現されているのだろうと想像してしまいました。