アルトアディジェの老舗「マニンコール」突撃インタビュー

2023/11/22
突撃インタビュー
 
2023年10月24日 マティアス イェーガー氏 Mr. Matthias Jaeger

年間1000時間を畑仕事に費やすイタリア屈指のビオディナミスト!自然の潜在力を引き出して最高品質を追求するアルトアディジェの老舗「マニンコール」突撃インタビュー

トレンティーノ アルト アディジェ州ボルツァーノ県カルダーロに拠点を置く1608年創業の老舗ワイナリー「マニンコール」。貴族家系のエンツェンベルグ家に代々受け継がれる同ワイナリーは、1991年から引き継いだ現当主のミヒャエル氏により、マニンコールとしてワインのリリースを開始しました。化学肥料を使わない自然に配慮した造りを最重要視し、2004年から全ての畑でビオディナミ農法を行っています。現当主は、ビオディナミ認証機関「respekt-BIODYN」を立ち上げた設立者の1人でもあり、イタリア屈指のビオディナミストとして知られています。その持続可能なブドウ栽培が評価されて、2016年度版『ガンベロロッソ』ではイタリア最優秀エコワイナリー賞を受賞した実績を持ちます。今回は、セールスマネージャーのマティアス イェーガー氏にオンラインでお話を聞きました。

1608年創業!貴族一家が手がけるアルトアディジェの老舗

――今日はお時間をいただきありがとうございます。ワイナリーの紹介からお願いいたします。

イェーガー マニンコールは、トレンティーノ アルトアディジェ州ボルツァーノ南に拠点を置く家族経営ワイナリーです。ここはスイスとオーストリアに接している場所で、第二次世界大戦まではオーストリア領でした。アルプス山脈の麓に位置しており、目の前にはカルダーロ湖、背後には1600mほどの山があります。

――1600m! すごい場所ですね。

イェーガー この地形が特殊な気候をもたらします。イタリアの地中海性気候以上にアルプス山脈の影響を非常に受ける環境です。畑の広さは50ヘクタールです。黒ブドウを植えるカルダーロに30ヘクタール(標高200~250m)、白ブドウを植えるテルラーノに20ヘクタール(標高390~450m)を所有しています。


赤丸がワイナリーの場所

イェーガー マニンコールの歴史は1608年からと古いですが、ワイナリーとしてワインをリリースしたのは1996年のことでした。それ以前は、黒ブドウはカルダーロの協同組合に、白ブドウはテルラーノの協同組合に売っていました。長い間ブドウ栽培家と醸造家として経験を積んできた現オーナーが「自分たちのワインを造ろう」と決断してボトリングに至りました。

――現オーナーは貴族家系という血筋ですから、昔から優れた畑を所有していたということですね。

イェーガー そうですね。400年以上前から所有していたと思われます。ワイナリーの中心には1608年に建てられた建物があり、その隣の畑の下を掘って新しいカンティーナを2004年に建設しました。3階建(3層)になっており、(ブドウに負担ををかけない)重力システムを採用した醸造設備です。

他生産者より2倍以上の労力を費やす畑作業
オーナー自らビオディナミ認証機関「respekt-BIODYN」を創設

2004年からビオディナミに取り組み、徐々にブドウの品質が向上

――マニンコールは、アルトアディジェの中でもビオディナミの第一人者、リーダー的存在ですよね。

イェーガー そうですね。ビオディナミは何よりも重要視していることで、2004年から全ての畑でビオディナミ農法を取り入れています。

――ビオディナミの発想に至った経緯を教えてください。

イェーガー 栽培しているブドウが思っているように成熟しなかったりフェノール分が足りなかったりと、思い描いているようなブドウができなかったんです。しっかり成熟させてフェノールもあるような糖の低いブドウを実現するために、ビオディナミに着手してみたんです。当然すぐに結果が出たわけではなかったですが、年を重ねていき「ビオディナミが最も良い結果をもたらす」ということがわかったのです。

――オーナーのミヒャエルさんの指揮のもと、そういう結果になったのですね。

イェーガー そうです。彼は長い間、専門的にブドウ栽培に携わってきました。ビオディナミ認証機関「respekt-BIODYN」を立ち上げた設立者の1人でもあります。オーストリアを中心にイタリア、ドイツの生産者の32社が加盟しています。

年間1000時間を費やす手間暇かけた畑仕事

――ビオディナミで具体的に行っていることを教えてください。

イェーガー 牛のフンやブドウの搾りかす、果皮を混ぜたコンポスト(堆肥)を土に撒いています。また、ブドウの樹の間に花や草木も植えています。このように、コンポストの使用や生物多様性を促進することで土壌に栄養分がもたらされ、しっかり成熟したブドウが生まれるのです。

この取り組みを実現するまでに多くの実験をしましたし、畑仕事に対して長い時間を費やしてきました。一般的な畑仕事は1年間に約400時間かけますが、マニンコールは約1000時間に到達するほど手間暇をかけています。それだけ畑への取り組みは重要なことです。

白ワインの発酵は、全て自然によるものです。飲むと感じていただけると思いますが、ミネラルやふくよかさの広がり、タンニンを感じます。これは全て私たちの畑作業によって得られるものです。また、醸造で使用する一部の樽は現地のカルダーロの木を使用しており、地元で完結するようにしています。

 

マニンコールが単一畑で造る「Heart」&「Crown」シリーズ

――マニンコールのワインは、「Hand」「Heart」「Crown」と3つのレンジ(シリーズ)があります。どういう区分けをされているか教えてください。

イェーガー オーナーのエンツェンベルグ家の紋章には、ハートに手を添える絵が描かれています。心から思いのこもった姿勢を表現しています。マニンコールというワイナリー名はその紋章に由来し、3つのシリーズ名もそれらに由来しています。
(マニ=手、コール=ハート)

「Hand」は、若いワインのシリーズ。「Heart」は単一畑で造られます。貴族家系を表す「Crown(王冠)」はHeartと同様に単一畑ですが、より優れた年にしか造りません。本日試飲いただくワインは「Heart」シリーズと「Crown」のマソン ディ マソンです。

テルラーノのアイヒホルンという畑で造るピノビアンコ100%白「アイヒホルン」、歴史あるタンネンベルグの畑で造るソーヴィニヨンブラン100%白「タンネンベルグ」。ピノ ネーロ100%で造る赤ワイン2種「マソン」と「マソン ディ マソン」。ボルツァーノが起源の土着品種ラグレイン100%赤「ルバッチ」。そして、ワイナリーとして初めてリリースした歴史的赤ワイン「カシアーノ」。

白ワインは、ほぼ同じ造りです。熟した後に収穫した後、一晩冷蔵庫で冷やし、翌朝に5、6度で発酵を開始します。9、10時間かけてソフトプレスした後、セメントタンクで一晩寝かせます。翌日1500Lの大樽に入れて自然発酵をさせます。赤ワインも同様に、しっかり熟したブドウを収穫したら一晩冷やして、翌朝4、5度の状態除梗、発酵。その後、熟成に入ります。

微細な環境の違いが大きな個性の違いを生む

イェーガー なかでも「マソン」と「マソン ディ マソン」の飲み比べをお勧めします。ほぼ同じ畑で同じ日に収穫し、同じ醸造方法で造られていますが、全く異なるワインに仕上がっています。違いは、標高と樹齢です。マソン ディ マソンの畑は若干北に位置しており、マソンより50mほど標高が高いです(450m)。樹齢は45年でマソンより15年古いです。たったこれだけの差で、大きな違いが生まれるのです。これが自然の力です。

それでは、試飲を始めましょう!

柔らかい酸と旨みが絡み合うピノビアンコ100%白ワイン
アイヒホルン
アイヒホルン


イェーガー:
「テルラーノにある火山性土壌、赤土の畑で造るピノビアンコ100%白ワインです。ピノビアンコはアルトアディジェに1880年代から存在する歴史的な品種です。ピノビアンコの特徴は青リンゴのニュアンスですが、私たちのワインは特に旨味が特徴的です。長い余韻とミネラル感もあります。舌の上で感じる塩味は畑仕事の賜物です」
試飲コメント:黄金色。注いだ瞬間から凝縮感のある黄色や白の果実の香りが広がります。ビワや青リンゴのニュアンス。口当たりはソフトでクリーン。柔らかい酸と繊細な果実の余韻が長く持続します。

南国果実のニュアンスとミネラル感が光るソーヴィニヨンブラン
タンネンベルク
タンネンベルク


イェーガー:
「タンネンベルグという歴史的な畑で造るソーヴィニヨンブランです。畑は2.5ヘクタールで、生産本数は1万5000本です。樹齢は30年。想像されるような品種由来の青っぽさはなく、どちらかというと南国果実を感じます。しっかり熟したブドウだから生まれる要素です。力強さ、ミネラル感、塩味のある旨みがあります。個人的に大好きなワインです。伝統的に野菜のリゾットや、ホワイトアスパラと相性が良いです。ピリッと辛いものもいいですね」
試飲コメント:黄金色。やや甘やかな凝縮した黄色い果実、白い花、蜜、ミネラル感ある香り。味わいは香り同様の白い花や白い果実の要素と、後から現れる柑橘の皮のニュアンスが綺麗に溶け合っています。口中に長く持続する酸も特徴的です。

フレッシュで凝縮した果実が樽と綺麗に溶け込んだ洗練されたピノ ネーロ
マソン
マソン


イェーガー:
「カルダーロの細かい粒の砂質土壌の畑で造るピノ ネーロです。決してシンプルだとは言いませんが比較的すぐ飲めるワインです。果実感がありながら、タンニンが非常に重要な役割を果たしています」
試飲コメント:ややガーネットよりに輝くルビー色。フレッシュさと若干の凝縮感を併せ持った赤い果実、赤い花、若干のスパイスの香り。口の中では、フレッシュで軽やかな赤い果実が軸にあり、後から徐々に樽由来の甘やかさと黒い果実が現れます。ピュアな果実と樽が綺麗に溶け込んだ洗練された味わいです。

綺麗な酸と複雑性が際立ち長期熟成で真価を発揮する上級ピノ ネーロ
マソン ディ マソン
マソン ディ マソン


イェーガー:
「カルダーロの岩に近い砂質土壌で造るピノ ネーロです。マソンよりも非常に複雑味があり、タンニンがより重要な役割を果たしています。酸がかなり際立っていて、長期熟成で真価を発揮するワインです。若い時でも十分そのポテンシャルを感じると思います。15年、20年寝かせられますが、美味しいワインはいつ飲んでも美味しいです」
試飲コメント:輝くルビー色。抜栓直後は閉じていますが、徐々に凝縮果実やハーブの香りが現れてきます。クリーンで複雑な香り。口に含むと綺麗な酸と旨みがじわじわと広がります。エレガントな果実と後から現れる樽由来のバター感が絶妙に調和する複雑味が長く持続します。

厚みのある味わいで地元で愛される土着品種ラグレイン
ルバッチ
ルバッチ


イェーガー:
「ボルツァーノ近郊の畑で造るラグレインです。ラグレインは1970年くらいまでは色を与えるような役割を持つ補助品種でしたが、優れた特徴を持つことが判明したため単一で造ることになりました。ラグレインは野暮ったいイメージがありますが、地元ではジビエ料理と一緒によく飲まれます。今だと栗と合わせるのが最高ですね。タンニンと酸がしっかりあり厚みを感じますが、角が取れていて丸みがあります。ピノ ネーロのようなエレガントな品種ではなくて、ラグレインは田舎っぽさを感じる品種ですね」
試飲コメント:濃い紫色。親しみのある熟した黒い果実、リコリス、黒胡椒の香り。口当たりは柔らかく、ジューシーかつ丸みのある果実感があります。香りに感じたリコリスやハーブのニュアンスも。肉料理に最適な中程度のタンニンも特徴的です。

マニンコールが初めてリリースした複数ブレンドの歴史的逸品
カシアーノ
カシアーノ


イェーガー:
「カシアーノは1996年にマニンコールが初めてリリースした歴史的ワインです。オーナーの息子の名前でもあります。複数ブレンドで造っています。ボルドー品種に、シラーとテンプラニーリョが加えられています。アルトアディジェでは馴染みのないテンプラニーリョを使用した背景は、2004年に建設したワイナリーの上にある畑が非常にテンプラニーリョにとって良かったからです。特に夏が長く続く年には最高の結果をもたらしてくれました」
試飲コメント:ガーネットよりのルビー色。完熟果実、青さのある香り。時間が経つと革のニュアンスが現れます。口に含むと黒系果実、ピーマン、ハーブ、リコリスの要素が溶け合います。滑らかで甘やかなタンニンが長い余韻を演出しています。
インタビューを終えて
イタリア屈指のビオディナミスト「マニンコール」が造る白ワインは、旨みに溢れるクリーンな味わいでした。まろやかな酸と果実が絶妙にマッチした美味しさがありました。赤ワインは、それぞれ品種は違えど、凝縮感と複雑さがありながらも涼しげなニュアンスやフレッシュさが表現されていました。

特に、優れた年にしか造らない「Crown」シリーズの上級ピノ ネーロ「マソン ディ マソン」のポテンシャルには驚かされました。長期間寝かせることで本領を発揮するということでしたが、試飲した時点で、飲み比べをした同ヴィンテージのマソンと大きな違いがありました。今飲んでも大変美味しく、じわじわと広がる酸や旨みが樽由来の風味と見事に溶け合っていました。これから10年後、20年後どんな味わいになっているか大変興味をそそられました。

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