8つのクリュ バローロを所有する「カッシーナ アデライデ」突撃インタビュー

2024/06/07

2024/05/14

キアラ ドロッコ氏 Ms. Chiara Drocco

5つの村に8つのクリュ バローロを所有!
優しくエレガントな味わいが光る偉大なバローロ
「カッシーナ アデライデ」突撃インタビュー

カッシーナ アデライデは、アルバで機械会社を経営していたアマービレ ドロッコ氏が自身の夢と情熱の実現のために設立したワイナリー。カンティーナはバローロ村の中心バローロ城のすぐ麓に位置し、バローロエリアに合計12ヘクタールの畑を所有しています。所有する8つのクリュからは、5種のクリュ バローロ、4つの畑をブレンドしたクラシックバローロなどを生産しています。バローロは、全て同じ醸造プロセスを経ることで各テロワールの個性を存分に表現。また、全てのワインに共通して飲み飽きない優しい味わいが引き出されています。今回は創業者アマービレ氏の孫で2代目当主のキアラ ドロッコ氏にお話を聞きました。

5つのクリュ バローロを生産!
ワイン造りの情熱を受け継ぐ家族経営ワイナリー

――今日は貴重な機会をいただきありがとうございます。まずは、ワイナリーの紹介をお願いします。

カッシーナ アデライデはバローロ城(バローロ村中心部)のすぐ下に位置しています。私の祖父アマービレが創業したワイナリーです。彼はもともと機械関係の会社を経営していましたが、55歳の時に自分の息子たち(キアラ氏の父と叔父)に会社を譲り、昔からの夢だったワイン造りを始めました。

「バローロの様々な畑を堪能してもらいたい」
まず祖父は農園を購入し、カンティーナを建設することから始めました。黄色い建物(写真中央)は土地を取得した当初からある1800年代のものです。創業時から畑を取得し続け、現在は8つのクリュを所有し、5つのクリュ バローロを造っています。祖父は、地元ランゲのバローロひいては様々な畑を堪能してもらいたいという思いを持っていました。
(8つのクリュ以外にノヴェッロ村のクリュ、ラヴェラでバルベーラとナシェッタを栽培)
写真右のカンティーナは自社畑を見つめる農民の「目」を表現

祖父から孫へ受け継がれるワイン造りの情熱
――キアラさんは、なぜワインを造ろうと思ったのですか?

私は大学で技術系を専攻していましたが、祖父の仕事やランゲに魅了されるようになり、ワイン造りを目指し始めました。ソムリエ講座に通ったり、今はワイン醸造の勉強をしています。ワイナリーには3年前に入りました。

――祖父のアマービレさんは、お元気ですか?

とても元気ですよ。今は82歳で仕事自体は引退しましたが、毎日カンティーナにいます(笑)。ランゲの自然や畑は彼の情熱でもありますからね。常にブドウのチェックをしています。毎週日曜日、家族15人が集まって夕食会をするのですが、彼はバローロしか飲みません。他の地域のワインを持って行っても「なんだこれは。バローロを飲むんだ!」と言って聞きません(笑)。

古くから築き上げた知見と信頼でクリュを拡大
全て同じ醸造プロセスで各テロワールの個性を表現

――いくつものバローロの畑を所有されていますが、どのような経緯で取得されていったのですか?

祖父はカンヌビが大好きだったので、最初はカンヌビとプレダを取得しました。その直後にフォッサーティを買い、徐々に広げていきました。2016年に取得したブッシアが最後です。

――バローロの畑を取得するのは大変ですよね?

20~30年前は今より難しくなかったです。そこまで評価もされておらず高騰もしていませんでした。ブッシアはまあまあ難しかったですが、非常に幸運でした。前所有者が祖父の知り合いで、祖父であれば譲ろうという形で取得することができました。しかも、ブッシアの中でもとても良い区画だったんですよ。

「今のクリュマップは、昔のものと全然違う」
クリュの畑について祖父がいつも言っていたことがあります。「今のクリュマップは、昔のものと全然違う。例えば、地図上のブッシアは範囲が拡大されていて、実際はここまで大きくない。だから、農家を営んでいた父(キアラ氏の曽祖父)の時代の地図を見て畑を吟味しろ」と。

ブッシアの畑

アデライデのスタイルを表現!
4つのクリュバローロから造るフラッグシップ バローロ「クワトロ ヴィーニェ」

そのクリュの畑をブレンドして造るのが、バローロ クワトロ ヴィーニェです。(ブレンドする)バローロの伝統を表現していることもありますし、私たち家族が好む飲みやすい味わいに仕上げています。そのため、まずはクワトロ ヴィーニェを気に入っていただけたら嬉しいです。

使用する畑はヴィンテージによって変わります。フルーティさをフォッサーティから、ミネラルをプレダから、バルサミックな印象をブッシアからもたらします。タンニンを生むセッラルンガ ダルバの畑は、カスティリオーネファレットに変わることもあります。

偉大なクリュ バローロ5種の解説
――各クリュについて教えてください。

所有するバロ―ロの畑は、カンヌビ、ブッシア、バウダーナ、フォッサーティ、プレダ、ソラーノ、コスタベッラ、ペルナンノです。そのうちクリュ バローロとしてリリースするのは5種類(下記)。それ以外はランゲ ネッビオーロ用のブドウになります。土地の個性を存分に表現するために、どのバローロも全て同じ醸造プロセスで造っています。

・カンヌビ
とても有名なバローロ村の畑です。丘の少し低いところに位置する0.5ヘクタールの小区画。私たちのクリュの中で最もエレガントなスタイルに仕上がります。

・バウダーナ
合計4ヘクタールほどのセッラルンガ ダルバ村の小さなクリュ。そのうち0.7ヘクタール所有するバウダーナ最大の造り手が私たちです。しっかりとしたタンニンが特徴です。

・フォッサーティ
ラ モッラ村にある標高450メートルのクリュ。私たちのクリュの中で最も力強さを持ったワインが生まれます。果実味、まろやかさ、広がりのある味わいです。

・プレダ
カンティーナの目の前にある畑です。クリュとして造っているのは私たちだけです。ミネラル感や緑っぽいニュアンスが感じられます。

・ブッシア
モンフォルテ ダルバ村の有名なクリュ。面積は2.5ヘクタールと所有畑の中で最も広く、5000本ほど生産しています。バルサミックなニュアンスと複雑味が特徴です。ここの畑だけオリーブなどが育つほど温暖で、ピンポイントで独特のミクロクリマが発生します。

バローロエリアで造る秀逸なバルベーラとナシェッタ
「そこそこのバローロを造るくらいなら、やらないほうがいい」

――ネッビオーロ以外に栽培するバルベーラとナシェッタの割合を教えてください。

ほんの少しだけです。畑は合計12ヘクタールあり、そのうち1ヘクタールがバルベーラとナシェッタです。12ヘクタールという面積だと10万本程度が生産可能ですが、ブドウを厳選したいので全体の生産本数はその半分程度です。そのうちバルベーラとナシェッタの生産量は10%です。

クリュ バローロと同じ醸造法で造られた特別なバルベーラ
私たちはバローロ地区ノヴェッロ村でバルベーラとナシェッタを生産しています。そのバルベーラで、祖父を表現した「アマービリン」というワインを造っています。アマービリンとは祖父のあだ名です。クリュ バローロと全く同じ醸造法を用いて、彼が一番好きなフォッサーティのバローロを5~10%混ぜています。「祖父はバローロエリアにバルベーラを植えるような変わり者なんだよ」という思いが込められたワインですね。

――バルベーラにバローロを加える生産者はあまりいないですよね。

いないですね。ネッビオーロはあってもバローロを加えることはほとんどないと思います。だから、祖父をはじめ私たちはちょっとおかしいんです(笑)。他にも、プレダで造るバローロ風とも言えるようなバルベーラも造っています。
クリュバローロが加えられたバルベーラ「アマービリン」

周囲におかしいと言われながらも復活させた土着品種ナシェッタ
実はナシェッタはノヴェッロ村の土着品種と言われていますが、バローロ(ネッビオーロ)の陰に隠れてしまった品種でもあります。20年前まではほとんど造られていませんでした。そんな中、祖父を含めた15社くらいの生産者が復活させようと2006年に植樹し始めました。

本来であればバローロを造るべきとも言える畑ですが、祖父には「そこそこのバローロを造るくらいなら、やらないほうがいい」という考えがあったんです。周囲の生産者からはおかしいんじゃないかと言われていました。祖父は本当に変わり者ですから(笑)。

2年間のシュールリーで造られるノヴェッロ村の土着品種ナシェッタ

ランゲ ナシェッタ ディ ノヴェッロ

ランゲ ナシェッタ ディ ノヴェッロ

キアラ氏:
「ノヴェッロ村の土着品種ナシェッタで造る白ワインです。バローロの陰に隠れていて20年前はほとんど造られない品種でしたが、祖父を含めた15社が復活させました。若いナシェッタだと南国フルーツのニュアンスが前面に出ますが、このワインはそれよりもハーブのニュアンスが現れています。そして、2年間のシュールリーをしていて長期熟成ポテンシャルを持つワインです。ここまで長く熟成させたナシェッタはありません」
試飲コメント:やや淡い麦わら色。白い花、白い果実、若干のスパイスを感じる香り。口当たりは柔らかく、それでいてフレッシュな酸と果実感が広がります。香り同様にハーブのニュアンスも感じる爽やかな味わい。軽やかながらもボディも感じます。

クリュ バローロで造られた果実味豊かなバルベーラ

バルベーラ ダルバ スペリオーレ ヴィーニャ プレダ

バルベーラ ダルバ スペリオーレ ヴィーニャ プレダ

キアラ氏:
「カンティーナの目の前にあるクリュ、プレダのバルベーラ100%で造っています。プレダ自体がバローロの畑なので、バローロ風バルベーラと言えますね。大樽で1年熟成させていて、とても果実味豊かな味わいです。アスティのバルベーラよりも酸が少ない分、飲み心地の良さがあります」
試飲コメント:ガーネットよりのルビー色。凝縮した黒系果実、コンポート、花が香るアロマ。柔らかい口当たりとフレッシュな酸、果実が綺麗に調和しています。わずかなタンニンと滑らかな心地よい余韻。

優良年のみ生産!
クリュバローロ フォッサーティが加えられ長期熟成型バルベーラ

バルベーラ ダルバ スペリオーレ アマービリン

バルベーラ ダルバ スペリオーレ アマービリン

キアラ氏:
「バローロ地区ノヴェッロ村で造るバルベーラ ダルバ スペリオーレです。ワイン名は祖父のあだ名アマービリンに由来しており、変わり者である彼を表現したワインです。造り方がポイントです。醸造はクリュバローロと同じで16ヘクトリットルの大樽で24ヶ月間熟成。彼が一番好きなフォッサーティのクリュバローロを5~10%加えています。フルーティな特徴を持つフォッサーティによって酸を減らし、バローロのタンニンを与えるので長期熟成力をワインに与えています。優良年のみ造っています」
試飲コメント:輝きを持ったガーネットに近いルビー色。赤い花、凝縮かつフレッシュな果実が香る華やかなアロマ。柔らかい口当たり。香りで感じた華やかさと果実が口中で広がり、あとからタンニンがやってきます。全体的に厚みのある味わいが長く持続します。

繊細でクリーンな味わいが染み渡るランゲ ネッビオーロ

ランゲ ネッビオーロ

ランゲ ネッビオーロ

キアラ氏:
「バローロの基準に達していない樹齢15年未満のブドウで造るランゲ ネッビオーロです。私たちは決してベイビーバローロを造りたいのではなく、ネッビオーロという品種の個性を表現するために造っています。ステンレスタンクだけで熟成させ、飲み心地の良い味わいに仕上げています。夏は少し冷やしてもいいスタイルです。繊細な料理や魚料理にも合わせられます。年によって異なりますが年間生産量は3000~4000本です」
試飲コメント:明るいルビー色。ベリー系の明るい赤系果実、赤い花のエレガントな香り。繊細でフレッシュ、クリーンな味わいです。スルスルと飲めてしまう一方、染み渡る奥行きのある風味もあります。

4つのクリュバローロで造る
優しさ、力強さ、エレガントさが調和したフラッグシップバローロ

バローロ クワトロ ヴィーニェ

バローロ クワトロ ヴィーニェ

キアラ氏:
「名前の通り4つの畑から、バランスを意識して造るクラシックバローロです。各クリュのキュヴェを大樽(16hl)で24ヶ月間熟成した後ブレンドしています。フォッサーティのフルーティさ、プレダのミネラル感、ブッシアのバルサミックな印象、ペルナンノのタンニンが融合しています。2018年はペルナンノ(カスティリオーネ ファレット村)でしたが、通常はセッラルンガ ダルバ村の畑を用います。2018年はスミレの力強い香りがありますね。他のクリュバローロより飲みやすい味わいで、私たちがどんな味が好きか理解してもらえると思います」
試飲コメント:ガーネット色。注いだ瞬間に香り高いアロマが広がります。香りは華やかさと凝縮した果実感が漂い、力強さとエレガントさが溶け合っています。優しさがありながらも力強さ、奥行き、エレガントな要素がまとまった味わい。しっかりあるタンニンによって、力強い果実感が長く持続します。

アデライデで最もエレガントが表現されたクリュ バローロ カンヌビ

バローロ カンヌビ

バローロ カンヌビ

キアラ氏:
「ご存知の通りカンヌビは有名なバローロの畑ですね。私たちはそのカンヌビの丘のやや低い場所の0.5ヘクタールの小区画を所有しています。私たちのクリュの中で最もエレガントなスタイルが表現されています。バラや熟した赤い果実、チョコレート、ドライフラワーなど複雑な味わいですね。2018年は、そこまで寝かせなくてもいい、飲みやすいバローロになった年でした。なので、他のヴィンテージでは少し待ってから飲んでくださいというところを、2018年は今飲んでくださいと伝えています」
試飲コメント:ガーネット色。クワトロ ヴィーニェ同様に注いだ瞬間から香り高いアロマが広がります。赤い果実やバラなどのエレガントかつ力強い香り。香り同様の味わいが最初から最後まで持続するピュアな味わいです。あとから現れるタンニンによって、エレガントで心地よい余韻が持続します。

豊かなタンニンと深み、旨みに溢れるセッラルンガのクリュ バローロ

バローロ バウダーナ

バローロ バウダーナ

キアラ氏:
「バウダーナはセッラルンガ ダルバのクリュです。バウダーナ自体が小さいクリュで、全部で4ヘクタール程度です。私たちが所有する畑は約0.7ヘクトールあり、バウダーナの中で最も多く所有していることになります。ここの畑には平らな石がよくあるのですが、この石がセッラルンガの有名なしっかりしたタンニンを与えています。私たちの中で最も深みのあるバローロです。2018年は、セッラルンガでありながら優しいタンニンに仕上がっています」
試飲コメント:ガーネット色。ドライフラワーや豊かな果実を感じる力強い香り。しっかりしたタンニンをはじめとした優れた骨格があり、目の詰まった果実感と溢れる旨みがあります。

規定よりも36ヶ月長く熟成させてからリリース!
フォッサーティとカンヌビが融合したバローロ リゼルヴァ

バローロ リゼルヴァ エレン

バローロ リゼルヴァ エレン

キアラ氏:
「クリュバローロのフォッサーティとカンヌビをブレンドして造るバローロ リゼルヴァです。優良年だけ造っています。私の祖母(創業者の妻)を表現したワインです。彼女の名前はエレナといい、祖父はいつもエレンと呼んでいることからそう名づけました。彼女の髪色は黒く、赤い口紅をしているから、祖父の意向もあってこのようなラベルデザインになっています。大樽で36ヶ月間熟成したあとカンティーナで寝かせて、合計8年間熟成させています。規定よりも約3年長く寝かせています。フォッサーティの力強さとカンヌビのエレガントさが融合しています」
試飲コメント:明るさを持つガーネット色。ドライフラワーと目の詰まった果実を感じる力強く複雑で芳醇な香り。それでいてエレガントさもあります。凝縮した黒系果実と深みのある赤系果実のニュアンス。抜栓してから時間が経つと柔らかさと深みが増し、飲みやすい味わいです。

インタビューを終えて

ワイナリーを始めたエピソードや畑を拡大した経緯をお聞きして、創業者アマービレさんの情熱は凄まじいものだと思いました。そして、アマービレさんが愛情を注ぐキアラさんにもワイン造りの情熱が受け継がれているのだと感じました。

カッシーナ アデライデのワインは、バローロはもちろんバルベーラもナシェッタも全て優しい味わいでした。飲み手に寄り添ってくれるような印象です。キアラさんが話されていた「気持ちよく飲めるのが重要」ということに深く納得しました。

特に印象的だったのは、フラッグシップバローロの「クワトロ ヴィーニェ」とバルベーラ「アマービリン」。クワトロ ヴィーニェは、優しさがありながらも力強さとエレガントさが溶け合っていてバランス感が秀逸でした。アマービリンは非常に香り高く広がりのある風味に満たされました。