2024/06/05
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タンクレディ ビオンディ サンティ氏 Mr. Tancredi Biondi Santi
ビオンディ サンティ家がテロワールを追求したクリュシリーズ!独占所有サンジョヴェーゼ グロッソBBS11クローンが輝く「カステッロ ディ モンテポ」突撃インタビュー
ブルネッロの生みの親ビオンディ サンティ家だけが所有
サンジョヴェーゼ グロッソの独占クローン「BBS11」
――タンクレディさん、2年ぶりですね。今回は新しくリリースしたクリュについてお話いただきたいのですが、その前に改めてワイナリーについて教えてください。
もちろんです。私たちビオンディ サンティ家は1300年代からワイン造りをしています。モスカデッロ ディ モンタルチーノ、ブルネッロ ディ モンタルチーノと各世代がトスカーナワインの歴史を築いてきました。そして、現在は父と私(6代目と7代目)がマレンマのカステッロ ディ モンテポでワイン造りをしています。
私たちはモンタルチーノを離れましたが、モンタルチーノで培った伝統をベースに新しい歴史をスタートさせました。カステッロ ディ モンテポは「ビオンディ サンティ家の新章の始まり」とも言えるわけですが、そこで切っても切れないのがサンジョヴェーゼグロッソのクローンBBS11の存在です。
1970年代、最上のサンジョヴェーゼ グロッソ「BBS11」発見
BBS11の発見は、父と祖父がサンジョヴェーゼクローンについて研究していた1970年にまで遡ります。まず、自社畑のブドウ樹を選抜すると、52種のクローンがあることがわかりました。その中で最もベストなブルネッロ(サンジョヴェーゼ)だと判明したのが「No.11」というクローンだったのです。
1980年代末、モンテポでBBS11植樹開始
そのクローンは、それまでのデータベースに存在しないものだったので、イタリア政府は「Brunello Biondi Santi 11(BBS11)」と名付けました。その重要性に気付いた父は、1980年代末に商標登録を行いました。モンテポに進出したのは、その直後です。
他クローンよりも骨格、複雑性、熟成力が際立つ「BBS11」
――BBS11は、他のサンジョヴェーゼ グロッソと比べてどのような違いがありますか?
一番大きい違いは房の形です。BBS11は成熟するにしたがって粒がギュッと詰まっていきます。これは湿度の高い産地ではカビが発生しやすくなるので、限られた場所でしかうまく育ちません。モンテポは他の産地と比べて風通しが良くBBS11にとって最適な環境なのです。
そして、他と比べて酸が高く、非常にしっかりとしたストラクチャーを備えています。複雑性と長期熟成ポテンシャルを秘めたワインに仕上がります。
ビオンディ サンティ家が独占所有するBBS11
改めてお伝えしないといけないのは、ビオンディ サンティ家はもうモンタルチーノでワインを造っていないということです。これは非常に重要です。今、一家の伝統を全力で注ぎ、BBS11でワインを造るのはカステッロ ディ モンテポだけです。一部、モンタルチーノにBBS11はあると思いますが、20年後までには全て抜かないといけないことになっています。
BBS11の新たな可能性を見出してマレンマ地区へ進出
最良のブルネッロ ディ モンタルチーノを造り出すべく生まれたBBS11ですが、「果たしてモンタルチーノだけが最適な土地であるのか」と父は考えました。他の産地だと品質や飲みやすさ、酸の度合いなどに違いが生まれるのではないかと。その考えを具現化するために辿り着いたのがモンテポでした。
マレンマに位置するモンテポは、海に近く標高は520メートルまであります。マレンマと聞くと平地のボルゲリを想像されるかもしれませんが、モンテポはそれとは全く異なる特殊な土地です。
モンテポのBBS11を象徴するフラッグシップ「サッソアッローロ」
30周年を迎えた2021年ヴィンテージ
そのモンテポで造るBBS11を象徴するワインが、サッソアッローロです。初ヴィンテージは1991年。生産量の80%を占める、ビオンディ サンティ家の名刺代わりとなるワインです。ブルネッロ ディ モンタルチーノとは対照的で飲みやすく、フレッシュで優しい表現がされています。父はこういうワインを造りたかったんです。
これから試飲する2021年は、サッソアッローロが誕生して30年目となる節目のヴィンテージです。フレッシュ&フルーティで、香り味わいともに非常にバランスに優れた年となりました。ステンレスタンクで3週間アルコール発酵を低温で行い、その後10ヶ月間バリック熟成させています。このシンプルな工程によって、これほどの素晴らしいワインが生まれています。
約30年もの研究で導き出したミクロゾーン
カステッロ ディ モンテポ待望のクリュシリーズ
現在、私たちがモンテポに所有する土地は640ヘクタールあり、そのうち52ヘクタールがブドウ畑です。しかし、取得した当初はまだ畑がない状態でした。そこで父はピサ大学とフィレンツェ大学と協力して、細部にわたる土壌の分析を行いました。
その結果、14種類ものガレストロ土壌の存在がわかり、どの区画に何を植えるのが最適かを導き出しました。現在栽培するのはBBS11が90%、カベルネ ソーヴィニヨンとメルローが10%です。この研究は今も続いており、約30年も畑の研究をしています。
そして、BBS11をはじめとする各品種を最大限に生かす小区画を見出して誕生したのが、今回のクリュシリーズ3種「マチェオーネ」「ポッジョ フェッロ」「フォンテカネーゼ」です。
カンティーナ(中心)を囲うようにして広がる畑
濃密かつフレッシュなBBS11クリュ「マチェオーネ」
所有畑の中で最北に位置するBBS11の畑です。実は初めてラベルにBBS11と記載したワインになります。この畑は粘土質由来の濃密な印象があると思います。そして、複雑味もありますがフレッシュでフルーティなワインにも仕上がっています。
複雑性が突出したBBS11クリュ「ポッジョ フェッロ」
同じくBBS11の畑です。マチェオーネから600m南に位置しています。いくつもの層をなす複雑味があります。フルーティさよりも第3アロマの印象が突出しています。マチェオーネとポッジョ フェッロは、どちらも同じ造り手、同じクローン、同じ醸造方法によって造られています。畑が少し違うだけで、これほど味わいに違いが生まれるのはクリュプロジェクトの成果だと言えます。
唯一のカベルネ ソーヴィニヨンのクリュ「フォンテカネーゼ」
唯一のカベルネ ソーヴィニヨンの畑です。ポッジョ フェッロの西側に位置しています。特にポッジョ フェッロとフォンテカネーゼは、今後まだまだ瓶内熟成が必要なワインです。抜栓してから時間を置いてから飲んでみてください。翌日には全く違うワインになっていると思います。
世界各国で意見が分かれる三者三様の魅力
いかがでしたか? みなさんの好みを教えてほしいです。
――マチェオーネが3票、ポッジョ フェッロが2票、フォンテカネーゼが2票です。
まさにクリュプロジェクトの美しさが現れていますね。私は世界各国でクリュシリーズを飲んできましたが、見事に好みが毎回分かれるんです。また、それによってワインの好みもわかります。マチェオーネを選んだ人はフレッシュなサッソアッローロ、ポッジョ フェッロを選んだ人は複雑なサッソアッローロ オーロが好きなはずです。
初ヴィンテージから素晴らしい出来となった2019年
今後の更なる発展を目指すクリュプロジェクト
今回初ヴィンテージとなったクリュ2019年は、非常に素晴らしいヴィンテージとなりました。それでも、実際に使用する畑はそれぞれ1ヘクタールに満たない小区画なので2700本程度しか造れません。そして、クリュプロジェクトはまだ完成を迎えていません。今後さらに新しいクリュが誕生する予定ですので、楽しみにお待ちくださいね。
BBS11クローンの名刺代わりとなるフラッグシップワイン |
サッソアッローロ |
カステッロ ディ モンテポのフラッグシップワイン。BBS11を用いてブルネッロ ディ モンタルチーノとは真逆のワインを造ろうという6代目のアイディアによって生まれました。スミレの香りとフレッシュな果実味のブーケに、ヴェルヴェットのような滑らかな口当たりのワインです。バリックで14ヶ月間熟成、ボトル熟成12ヶ月間。 |
試飲コメント:深みのあるルビー色。黒い果実や花が香る濃厚かつ華やかなアロマ。甘草のニュアンスも感じます。ほどよく力強いアタックで、香り同様の風味が口中を満たします。存在感がありながらもきめ細やかなタンニンが心地よく、リッチでエレガントな余韻が長く持続します。 |
フレッシュさと偉大な風格を兼ね備えた味わい!
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マチェオーネ |
ビオンディ サンティ家が特許を持つサンジョヴェーゼクローンBBS11だけで造るクリュ「マチェオーネ」。所有地北部の標高270~330mに広がる約1.75ヘクタールの東向きの畑。他の区画と全く異なる冷たく深い粘土質の土壌の畑です。 |
試飲コメント:濃いガーネット色。凝縮果実、瑞々しい果実、革、チョコレートの力強い香り。フレッシュで柔らかい口当たりで、香り同様の味わいが広がります。サッソアッローロ同様に、存在感がありながらきめ細やかなタンニンがあり、余韻が長く持続します。果実感、酸、タンニンが見事に調和しています。爽やかさと偉大な風格を兼ね備えた味わいです。 |
複雑性やフィネスが生まれる最上区画!
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ポッジョ フェッロ |
ビオンディ サンティ家が特許を持つサンジョヴェーゼクローンBBS11だけで造るクリュ「ポッジョ フェッロ」。所有地南部の標高322~345mに広がる約1.9ヘクタールの南向きの畑。エレガンス、骨格、フィネスを持つワインを造り出す最上の区画です。特に区画の中心部分は非常にバランスに優れたブドウが生まれます。 |
試飲コメント:縁がオレンジ色に近いガーネット色。黒系果実、コーヒー、タバコ、ミネラルを感じる複雑な香り。口に含むと柔らかくフレッシュさがあります。香り同様に複雑な味わいで、バランスに優れています。酸もしっかりしていて、まだまだ長く熟成していけるポテンシャルを感じます。 |
優れたバランスと骨格が生まれる
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フォンテカネーゼ |
カベルネ ソーヴィニヨンのクリュ「フォンテカネーゼ」。標高351~377mに広がる約1.9ヘクタールの南向きの畑です。非常にバランスに優れ、また骨格のしっかりとしたワインに仕上がります。周りにサンジョヴェーゼ グロッソBBS11も植えられていますが、この区画だけ秀逸なカベルネの味わいが生まれます。 |
試飲コメント:濃い紫色。凝縮果実、緑っぽさ、黒胡椒を感じる香り。あとから、チョコレートのニュアンスが現れます。口に含むと、果実と青唐辛子のニュアンスが絡み合う味わいに満たされます。 |
インタビューを終えて
クリュシリーズは日本を含めた6ヶ国にしか輸出されていないそうです。イタリア国内では彼らがセレクトしたお客様だけとのこと。また、それぞれ生産本数が2700本程度のため日本に入る量もごくわずかです。今回の試飲は大変貴重な機会となりました。
そして、クリュプロジェクトは現在進行中で、まだまだ新たなクリュが誕生する予定だそうです。3つ目のBBS11なのか、はたまた少量だけ栽培しているメルローなのか。今後、ビオンディ サンティ家がどんなクリュワインを生み出すのか非常に楽しみです。