2024/08/05
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アンドレア ヴェスコ氏 Mr. Andrea Vesco
華やかでフレッシュな酸を持つシチリア屈指の白ワイン銘醸地!!
『ガンベロロッソ』最高賞連続受賞の実績を誇る老舗「ラッロ」突撃インタビュー
1860年創業、シチリア西部マルサラの老舗ラッロ
ラッロはシチリア西部マルサラに1860年から根付く造り手です。もともとは酒精強化ワイン「マルサラ」の有名生産者でしたが、約20年前に私がラッロのブランドや不動産を取得して、ワイン事業に方向転換しました。現在もマルサラは造っていますが、生産割合のほとんどはワインになります。現在、シチリアには1000社ほどワイナリーがある中で、ラッロは規模的に8番目に位置しています。それでもまだ中規模ワイナリーです。
当時評価されなかったシチリアの本来の価値を示すべくワイン生産を開始
――なぜワインを造ろうと思ったのですか?
簡単に言えば、自分たちの畑の価値を示すためです。今でこそ、シチリアは評価の高いワイン産地として知られていますが、20~30年前までは「価値があるもの」という考えすらありませんでした。ただの畑からできる、ただのブドウというイメージです。それではいけないと思い、自分たちの畑が正しく評価されるためにワイナリーを始めました。
アルカモ、マルサラ、パンテレリア島に合計100haの畑を所有
――ということは、最初から畑を所有していたのですね。
以前のラッロは所有していませんでした。一方で、私たちは5世代にわたるブドウ栽培家としてアルカモに畑を所有していました。アルカモの畑に加え、現在はマルサラ、パンテレリア島と3つのエリアに畑を広げています。合計100haほどあり、アルカモの畑が一番広いです。造るワインは全て自社畑のブドウからできています。
シチリア西部の白ワイン銘醸地アルカモ
フレッシュな酸を生み出すエトナと似た特殊な土壌
――そのアルカモについて教えてください。
アルカモは、1700年代から続くワイン産地です。特にカタラットで造る白ワインが有名です。海から5~6kmの距離で、標高300~600mの丘陵地でもあります。主に砂質土壌です。夏は昼夜の寒暖差が大きく、その影響で他の産地にはないようなアロマティックなブドウが育ちます。
非常に特殊な土壌も持ち合わせています。それはpH値の低さです。通常、シチリア西部の産地では高いことが多いですが、東部のエトナと似た土壌でpH値が低く、フレッシュな酸を持つブドウが育ちます。
アルカモの畑
アルカモで初めて『ガンベロロッソ』最高賞受賞
トラパニ県最大規模の造り手ラッロ
アルカモがシチリアでいち早くDOCに認定されたのは、その個性が評価されたからです。かつてフランスに輸出されていたアルカモのワインが、きちんと評価され始めたのはここ30年くらいの話なのです。
私たちは、そのアルカモのワインとして初めて『ガンベロロッソ』最高賞トレビッキエリを受賞したワイナリーです。また、トラパニ県のワイナリーが所有する畑の平均面積は2haと言われています。100ha近くを所有する私たちはトラパニ県最大規模の造り手と言えるでしょう。
全所有畑で導入するビオロジック栽培
シチリアではビオ認証を先駆的に取得
ラッロを取得した約25年前からビオロジック栽培に注力しており、現在は全ての畑に導入しています。EUの認証をシチリアで3番目に取得し、EUよりも非常に厳しい規定のBio Suisse(ビオスイス)認証は最初に取得しました。今は、日本のJASに則った規格も取得しているところです。
『ガンベロロッソ』最高賞連続受賞の実績
フレッシュな酸とミネラル感あふれるラインナップ
――赤ワインと白ワインの生産比率を教えてください。
80%が白ワインです。特にカタラット、インツォリア、ジビッボ、グリッロの4品種は高い評価を受けています。もちろん黒ブドウ品種も造っています。ネロ ダーヴォラ、フラッパート、ペリコーネ、シラーです。
(『ガンベロロッソ』2014~2021年、2024年版で白ワインが最高賞受賞)
今や外からブドウを運んでくる造り手も珍しくないですが、私たちはこの土地に根差した品種を重視しています。土着品種だからこそ、気候変動にも対応でき、フレッシュな酸を保ったまま熟成できると考えています。とりわけ、酸とミネラル感は私たちのワインの特徴です。
3つのレンジに区分けされたラインナップ
エントリーレンジ、ミドルレンジ、ハイレンジ(トップキュヴェ)と、3つのレンジにワインを分けています。白ワインは全てステンレスタンクのみで醸造しています。
エントリーレンジ:品種をブレンド、親しみやすい味わい
カルタ ドーロ、イル プリンチペ
ミドルレンジ:品種や土地の個性を堪能
エヴロ、ビアンコ マッジョーレ、アル カザール
ハイレンジ:単一畑、リゼルヴァ
ベレダ、ラツィーザ
「3本とも好みに合うことはありえない」
品種の個性を堪能するミドルレンジの白ワイン3種
ミドルレンジの白ワインは、それぞれ異なる土着品種で造られています。インツォリアで造る「エヴロ」、グリッロで造る「ビアンコ マッジョーレ」、ジビッボで造る「アル カザール」。3本とも全て好みに合うことはありえないくらい、個性の違いをしっかりと感じることができます。シチリアや日本ではグリッロとジビッボが人気で、シチリアの外ではインツォリアも人気です。
ビアンコ マッジョーレを造るマルサラの畑からの景色
「海の上とも言える畑」で造るグリッロ
なかでも、ビアンコ マッジョーレは独特です。このグリッロだけは、マルサラ地区の畑で造っていて、海との距離が数mと非常に海に近い畑です。海の上と言ってもいいほどです。そのため、標高はもちろん0m、土壌は海の砂です。
各レンジの個性は、主にブドウの選別だけで表現
――各レンジの違いは、どこから来ているのですか?
ブドウのセレクションです。収穫時期は上のレンジに行けば行くほど遅くなります。およそ3~4週間の差があります。樹齢で言えば、ミドルレンジは約20年、ハイレンジはそれ以上です。一方でエノロゴと設備は同じで、そこまで醸造に違いはありません。造りは同じでも、ここまでのキャラクターの違いを生めるのは、ラッロという大きすぎない規模のワイナリーが職人的に造っているからです。
親しみやすいエントリーライン
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カルタ ドーロ |
アンドレア氏: 「カタラット主体に他の土着品種を少量ブレンドした白ワインです。お手頃価格で親しみやすいエントリーワインです。年間でおよそ12~13万本生産していて一番売れています。私たちのワインの特徴を知ってもらうのに最適です。飲みやすく、フレッシュな酸が生き生きとした味わいです」 |
試飲コメント:やや濃い麦わら色。黄色い果実、黄色い果実の瑞々しい香りに、洋梨や桃のニュアンスを感じます。わずかに凝縮したニュアンスも。口当たりは柔らかく、フレッシュで飲みやすい味わい。少し甘みと酸が溶け合って、心地よい余韻があります。 |
品種の個性を堪能するミドルレンジのワイン
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エヴロ |
アンドレア氏: 「ミドルレンジの白ワインです。樹齢20年以上のインツォリア100%を使用しています。収量をすごく抑えているので、凝縮した仕上がりになっています。カタラットと比較すると酸は低めですが、ストラクチャーはしっかりしています。時間が経つと、徐々に花や桃のニュアンスが出てきます。前菜やエビ、タコ、野菜の煮込みと相性がいいです。ワイン名はシチリア最後の女王の名前に由来しています。ラベルにある青の斜面は、アルカモの畑の斜面を表しています」 |
試飲コメント:濃い麦わら色。リンゴのようなジューシーな果実やハーブの香り。味わいは香り同様で、鋭い酸と若干の苦味が後からやってきます。徐々に華やかさも現れてきて、フレッシュな飲み口が持続します。 |
品種の個性を堪能するミドルレンジのワイン
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ビアンコ マッジョーレ |
アンドレア氏: 「ミドルレンジの白ワインです。マルサラ地区の海から数mのグリッロで造っています。樹齢は20年以上。海の上と言ってもいいくらいの畑で砂質土壌です。標高は0mですね。まろやかで丸みのある味わいで、酸とコクのバランスが非常に優れています。重くも軽くもないちょうどいいワインですね。マグロのパスタと相性がいいです。ワイン名は、アフリカから来る渡り鳥の名前に由来しています。グリッロの畑周辺でよく休んでいるんです。黄色のキャップシールはクチバシの色を、ラベルは海の畑を表しています」 |
試飲コメント:黄金よりの麦わら色。南国果実や柑柑橘類、熟した果実の香りが広がるフレッシュでやや甘やかなアロマ。口当たりは柔らかいながらもフレッシュかつ厚みがあり、飲みごたえがあります。余韻がほどよく持続します。 |
品種の個性を堪能するミドルレンジのワイン
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アル カザール |
アンドレア氏: 「ミドルレンジの白ワインです。ジビッボはパンテレリア島で造る甘口ワインが代表的ですが、これはアルカモのジビッボ100%を辛口に仕上げたワインです。樹齢は20年以上。アロマティックさが特徴です。生魚、パスタコンレサルデ(イワシやフェンネルが入ったパスタ)と相性がいいです。使用品種のジビッボはパンテッレリア島で有名ですが、このワインはアルカモで造っているのでラベルに畑の斜面を描いています。畑の周りにラベンダーの畑を表すためにキャップシールを紫色にしています」 |
試飲コメント:麦わら色。桃などの熟した果実香が広がるアロマティックなアロマ。口に含むと、グレープフルーツやレモン、柑橘の皮などの要素が繊細に広がる軽やかな味わいです。少し甘やかさがあり、食前酒として楽しみたいワインです。 |
単一畑で造るトップキュヴェ!
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ベレダ |
アンドレア氏: 「単一畑で造るトップキュヴェの白ワインです。樹齢30年のカタラット100%で造っています。他のワインよりも非常に凝縮した味わいに仕上げています。醸造は全てステンレスタンクのみですが、シュールリーの期間を長くし、瓶内の熟成期間も長めに設定しています。抜栓してから徐々に、果実味以外に火打石のようなニュアンスも現れてきます。ベレダとは、アラブ語でアルカモを意味しています。ラベルは畑の区画分けを表していて、三角形で金色の部分がベレダの畑です。畑の広さは2.2haで、生産本数は1万本程度です」 |
試飲コメント:黄金色。熟した黄色い果実、コンポート、ハチミツを感じる香り。味わいは香り同様で、フレッシュな口当たり。香り、味わい共に力強く複雑。口に含んでから酸と熟した果実のニュアンスが溶け合い、長く持続します。 |
親しみやすいエントリーライン
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イル プリンチペ |
アンドレア氏: 「エントリーラインの赤ワインです。約95%のネロ ダーヴォラを主体にペリコーネとフラッパートをブレンドしています。めったにありませんが、カベルネやメルローを入れることもあります。軽やかな飲み心地に仕上げています。非常に果実味豊かな味わいですが、酸もしっかりあるので口の中を洗い流してくれます。少し冷やして、フレッシュ感を楽しんでいたたくのもいいと思います」 |
試飲コメント:ルビー色。赤い果実や黒い果実が混ざった香り。ブルーベリーのニュアンス。香り同様にブルーベリーの要素を感じるフルーティーな味わい。軽やかさがありながらも、ほどよいタンニンと果実感が調和する風味が持続します。 |
単一畑で造るトップキュヴェ!
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ラツィーザ |
アンドレア氏: 「アルカモにあるネロ ダーヴォラの単一畑で造るトップキュヴェです。10hlから50hlの大樽で熟成させた、長期熟成力を持つワインです。大樽と瓶内で合計10年間熟成させてから市場にリリースしています。長い間熟成しても軽やかでフレッシュな酸、フルーティな味わいが維持されています」 |
試飲コメント:ガーネットよりのルビー色。熟した黒系果実やジャムなどのエレガントな香り。口中を柔らかく包み込むようなテクスチャー。酸と果実味が溶け合ったバランスに優れた味わいです。 |
インタビューを終えて
アンドレアさんから「ミドルレンジのワイン3種の中でどれが一番好きか」という質問を受けたとき、スタッフの好みが綺麗に分かれたことも印象的でした。逆にトスカニー側から「その白ワイン3種に合う料理は何か」という質問をすると、「白身肉だとしても肉料理は難しい」とのこと。
インツォリアの「エヴロ」は野菜の煮込みやエビやタコ、グリッロの「ビアンコ マッジョーレ」はマグロのパスタ、ジビッボの「アル カザール」は生魚やパスタコンレサルデ(イワシやフェンネルが入ったパスタ)と教えていただきました。お手頃価格なワインと一緒に、それらの料理を囲ったホームパーティで活躍すること間違いなしです!