ボルゲリの最高峰「レ マッキオーレ」突撃インタビュー

2024/10/22

2024/10/04

ジャンルーカ プッツォール氏 Mr. Gianluca Putzolu、川頭義之氏 Mr. Yoshiyuki Kawazu

単一品種スーパータスカン3種を生み出して歴史を変えたボルゲリの最高峰!新たな革新で今なお進化を遂げるエレガントスタイル!「レ マッキオーレ」突撃インタビュー

1983年にエウジェニオ・カンポルミ氏が創業したボルゲリ最高峰の造り手「レ マッキオーレ」。ボルゲリ単一品種スーパータスカンの傑作ワイン、パレオ ロッソ(カベルネフラン)、スクリオ(シラー)、メッソリオ(メルロー)を生み出して、世界に名を轟かせたワイナリーです。現在ワイナリーを率いるチンツィア氏によって、エウジェニオ氏の哲学を引き継ぎながら、エレガンス溢れるワインを造っています。近年叫ばれる気候変動の対策として、ここ数年で新たな取り組みを立て続けに行い、ワイン造りにおいても今なお進化を続けています。今回はレ マッキオーレの全てのワインを試飲しながら、レ マッキオーレ社ディレクターのジャンルーカ・プッツォール氏とボンヴィーノ代表の川頭義之氏に解説していただいました。

新たな挑戦を続けて進化を遂げるレ マッキオーレのワイン造り

――ワイナリーについてお聞きする前に、ジャンルーカさん自身について教えてください。

ジャンルーカ レ マッキオーレのディレクターを務めるジャンルーカ・プッツォールです。出身はサルデーニャですが、ピサ大学とフィレンツェ大学の大学院でワイン関係のマーケティングを専攻していました。卒業後、ワイナリーのコンサルティングを経て、2010年にマッキオーレに入社しました。

ワイナリーに関わることは、ほぼ全て従事しています。唯一しないことはワイン造りですね(笑)。それは当主のチンツィアと醸造家のルカ レットンディーニに任せています。

気候変動対策のために標高の高い畑を取得
――3年前にオンラインでチンツィアさんにお話を伺いました。最近の出来事について教えてください。

ジャンルーカ 近年のマッキオーレの変化は興味深いもので、新しい試みを積み重ねてきました。まずは、新しく取得した畑です。創業当初は平地の3つの畑で始まったわけですが、今や10箇所に畑を所有しています。気候対策に注目して取得したのが標高の高い畑です。

日本で起きていることは、ここボルゲリでも起きています。気温はどんどん上昇し、先日は集中豪雨の被害にも遭いました。たったの2時間で12月分の雨が降ったほどです。高標高の畑は、それらの対策に最適で、シロッコというアフリカから吹く乾燥した熱風を防ぐことができます。北向きにすることでも風の影響を受けないようにできます。

また、日陰を作り涼感効果のある森の近くに畑を作ったり、山の畑を取得した際は周囲の森を残すようにしています。他にも、ブドウを日差しから守るために仕立てをアルベレッロに変えたり、樹勢の強くない苗木を採用したり様々な試みをしています。
2021年に植樹した高標高の畑の1つ「クエルチョーネ」

人の10倍以上のスピードと正確性を持つAI選果機の導入
ジャンルーカ 次に、カンティーナでの新しい変化です。それは選果を行う機械の導入です。従業員が手でピックしていた時よりも優れたブドウを選別できるようになりました。スピードと正確性は人間の10倍以上だと感じています。2023年のボルゲリ ロッソから導入しています。ロマンティックなことではないですが、高品質なワインを造るには避けられないことだと思います。

川頭 1万本規模の造り手であれば手動でいいと思いますが、マッキオーレは現在20万本を生産しています。ボルゲリ ロッソだけで15万本です。10人の従業員が1時間かけていた作業が10分に短縮できることで、全ての作業が1日でできます。これは人件費削減だけでなく、パレオなどの上級キュヴェの品質にも好影響をもたらします。

フレッシュな酸と果実味を与えるアンフォラの導入
ジャンルーカ そして、熟成にアンフォラを導入し始めました。近年、注目を浴びるトレントのタヴァ社のものです。形状は細長く完全密閉されています。後ほどお伝えしますが、2020年のパレオ ロッソから使用しています。非常にフレッシュな酸味と果実味が得られるようになり、初めて使用した年から大成功を収めました。

「自分たちが信じた道を行くだけ」
確固たる信念を体現するワイナリーの哲学

当主チンツィア氏が追求するエレガントスタイル
ジャンルーカ 今後さらに温暖化は進むでしょうから、現在行っている対策がどう変化するかは予測できません。しかし、新しいことに取り組み続けることで、これまでもマッキオーレは着実に成長してきたのです。

――変化といえば、マッキオーレのワインは年々エレガントなスタイルになっています。チンツィアさんが目指す方向性を感じますね。

ジャンルーカ そうですね。チンツィアは、スティーブ・ジョブズのように「シンプルを追求して高品質なワインを造る」という考えを持っています。例えば、パレオ ビアンコは当時流行っていたバリックの使用をやめ、様々な要素を削ぎ落とすことで彼女が求めるワインに生まれ変わりました。
当主チンツィア氏(中央)と、その息子たち

ボルゲリ地区で先駆けて行ってきた取り組みの数々
――環境問題やトレンドなど、将来を見据えて一歩先のワイン造りをしてきたということでしょうか?

ジャンルーカ 意図していたと言うことはできませんが、結果的にマッキオーレはあらゆることを先駆けて行っていました。カベルネ フラン100%で造るスーパータスカンのパレオ ロッソ、(初代当主、チンツィア氏のご主人の)エウジェニオがボルゲリで初めて取り入れた高密植栽培。選果用の機械やアンフォラもいち早く導入したものです。

創業者エウジェニオ氏から受け継ぐマッキオーレの哲学
ジャンルーカ ワイナリーは人間の手が届かないような環境問題などにも対応して、変化していくべきだと考えています。しかし創業時から、つまりエウジェニオからずっと引き継ぐべきこともあります。例えば、メッソリオはずっとメルロー100%です。たとえ、他の造り手のメルロー100%のスーパータスカンが単一でなくなったとしてもです。あくまで、自分たちが信じた道を行くだけなのです。
2代目、チンツィア氏の長男エリア氏

偉大な上級キュヴェ3種が揃った全ラインナップ!
ジャンルーカ氏&川頭氏のワイン解説

エレガントさが顕著に表現されたパレオ ビアンコ
ジャンルーカ パレオ ビアンコは、リリース当初と今とでは全くスタイルが違います。発酵と熟成に木樽を使用することは変わりませんが、新樽は使用せず、熟成期間は短くなりました。2022年のセパージュは、カーサ ヌオヴァのシャルドネが70%、ウルビーノのソーヴィニヨンが30%。それぞれ完熟するまでの期間が異なるので、ワインにしてからブレンドしています。シャルドネのボディと深み、ソーヴィニヨンのアロマと酸が融合してバランスに優れたワインに仕上がっています。

川頭 エウジェニオが造っていた当初はヴェルメンティーノが入っていて、新樽も使っていたのでヘビーなワインでした。チンツィアが造るようになり、2014年あたりからは、現在のエレガントさが顕著に出るようになりました。ブラインドで飲めば、フリウリかアルト アディジェかと思ってしまうくらいです。このスタイルに辿り着いたのは、さすがですよね。ちなみに、2022年の生産本数は約4700本で、日本に入ってくる数は240本だけです。

ボルゲリ ロッソ 2021&2022年
今飲んで美味しい”これぞボルゲリ ロッソ”の2022年
長期熟成力を秘めエントリーレベルを超越する2021年

ジャンルーカ ボルゲリ ロッソは、2つのヴィンテージを同時に飲み比べてみてください。造り方も構成品種も同じですが、個性が全く異なります。2022年は収穫の前に雨が降ったため成熟が少し進み、冷涼なヴィンテージとなりました。直線的な酸、赤系果実の感じが出ています。今飲んでも美味しいと感じる飲みやすさがあります。私たちのボルゲリ ロッソは、このようなタイプを造るために存在しています。

2021年は、理想の形で収穫できました。トスカーナ全体でも5つ星以上の出来となった年です。ラジオの音量で例えると、2022年はレベル5で、2021年はMAXのレベル10です。そのくらい力強く、長期熟成のポテンシャルを秘めています。先日、ニューヨークのレストランで試飲会をした時に、ソムリエの方から「22年はエントリーレベルだが、21年はそれを超えている。別の呼び名が必要だ」と言われました。

2022年は、いつものスーツを着てちょうどいいくらいのお店。2021年は、オーダーメイドのスーツを着こなして行くようなお店に出てくるワイン、といった感じでしょうか(笑)。

「2020年は最高の年」
ボルゲリで初めて大成功を収めた偉大なシラー、スクリオ

川頭 前例がなく難易度の高かった「ボルゲリのシラー」に挑んで生まれたのがスクリオです。初リリースは94年で、『ガンベロロッソ』ではいち早く評価されて大成功を収めたワインです。果実味豊かながら繊細な味わいで、パレオ ロッソのようなフレッシュさが際立つワインですね。ジャンルーカは、2020年のスクリオを非常に評価しています。

ジャンルーカ 2020年のスクリオは、最高の年ですね。スクリオはまだまだ進化の途中です。新しくプントーネとカーサ ヴェッキアの畑でもシラーを植えて、より洗練された高品質なワインを目指しています。シラーだけは、4種類の熟成容器を使用しています。セメントタンク、円すい形のトノー、2種類のアンフォラです。

カベルネ フラン100%ワインのパイオニア
史上最高ヴィンテージに匹敵するパレオ ロッソ2020年

ジャンルーカ カベルネ フランは古い畑のカーサ ヌオヴァとヴィニョーネに加えて、一部ウルビーノの畑でも造っています。2020年ヴィンテージから、熟成用にアンフォラを10%使用するようになりました(90%は新樽バリック)。それにより、フレッシュな酸と果実味が維持できています。食事で例えるなら、フリットにレモンをかけるように、酸や赤系果実をしっかり残すことができるのです。2020年はバランスの良い年で、いつ開けても美味しいし、熟成もできるワインに仕上がっています。

川頭 2020年のパレオ ロッソは素晴らしいです。1995年から毎年パレオを飲んでいる中で、私がベストだと思うのは2004年です。2004年はメッソリオが『ワインスペクテーター』で100点を取ったので傑出した年であることは当然ですが、それ以降2004年レベルのものに出会ったことがありませんでした。しかし、この2020年は初めて2004年に近いと感じたヴィンテージです。

マッキオーレのワインは「美味しい」が普通です。そんな中で2020年のパレオは「美味しい」では終わらない、私イチオシのワインです。あと、プチ情報ですが、ジョエル・ロブションはパレオ ロッソが大好きだったようで、世界中の自分の店に置いていたらしいんです。恵比寿に行って確認しないといけませんね(笑)。

「試飲だとしても飲み込まずにはいられません」
世界のメルロー愛好家を虜にするメッソリオ2020年

ジャンルーカ 繰り返しになりますが、私にとって2020年は信じられないヴィンテージです。涼しい年で、メルローの熟成が最後までゆっくりとできました。ペトリュスやルパン、マッセート、レディガフィなど、世界には人を魅了するメルローのグランヴァンがあるじゃないですか。それらが見せるメルローの本当の素晴らしさが、この2020年のメッソリオにはあると思います。

私は試飲する時、口に含んで味を確認したら飲み込まずに捨てることがほとんどです。しかし、このワインは違います。試飲だとしても飲み込まずにはいられません。なぜなら私の口が「飲み込め」と言うからです(笑)。

川頭 私も同感です。それが最適な選択ですね。

熟した果実味とエレガンスが見事に調和した白ワイン

パレオ ビアンコ

パレオ ビアンコ

非常に生産量が少ない貴重なパレオ ビアンコ。シャルドネとソーヴィニョンブランのブレンド。トロピカルフルーツやナッツのフレーバーが漂いスパイシーな香りも広がります。清涼感のあるハーブの風味が重なって複雑さを醸し出しています。豊かな果実味と凝縮した旨味、厚みがありながらエレガントな余韻。パワーとエレガンスが調和しています。生産数量が非常に少ない上品な数量限定の白。
試飲コメント:麦わらに近い黄金色。注いだ瞬間から気品のある凝縮したフルーティな香りが広がります。フレッシュで魅惑的な白桃やパイナップルのニュアンス。香り同様の要素を持つ統一感のある味わい。口当たりはソフトでクリーンな印象を受けます。酸、果実味、ほどよいボディの全てが同程度で綺麗な味わい。余韻は非常に長く、エレガントな風味が持続します。

フレッシュかつ濃縮した風味とスパイスが溶け合う味わい2022年

レ マッキオーレ ボルゲリ ロッソ

レ マッキオーレ ボルゲリ ロッソ

2022年は収穫の前に雨が降ったため成熟が少し進み、冷涼なヴィンテージとなりました。直線的な酸、赤系果実の感じが出ています。今飲んでも美味しいと感じる飲みやすさがあります。私たちのボルゲリ ロッソは、このようなタイプを造るために存在しています。温度管理されたステンレスタンクで12日から15日間アルコール発酵を行います。約60%旧樽と40%セメントタンクで8ヶ月熟成。深みのある紫紅。カシスリキュール、濃縮したブルーベリーの果実香。柔らかい口当たり、ミネラルからくる旨みが強い。フレッシュさ香りの華やかさが際立つ赤ワインです。
試飲コメント:ルビー色。新鮮な黒系果実とプルーンのような熟した果実の濃縮した香り。骨格と酸度の高さを感じます。フレッシュな黒系果実と赤系果実がタンニンと溶け合い、徐々に黒胡椒のようなスパイスが現れます。

エントリーレベルを超越した出来!果実やスパイスの力強さと複雑さを兼ね備えた持続性のある味わい2021年

レ マッキオーレ ボルゲリ ロッソ

レ マッキオーレ ボルゲリ ロッソ

2021年は、理想の形で収穫できました。トスカーナ全体でも5つ星以上の出来となった年です。ラジオの音量で例えると、2022年はレベル5で、2021年はMAXのレベル10です。そのくらい力強く、長期熟成のポテンシャルを秘めています。先日、ニューヨークのレストランで試飲会をした時に、ソムリエの方から“22年はエントリーレベルだが、21年はそれを超えている。別の呼び名が必要だ”と言われました。オーダーメイドのスーツを着こなして行くようなお店に出てくるワイン、といった感じでしょうか(笑)。醸造は2022年と同じです。深みのある紫紅。カシスリキュール、濃縮したブルーベリーの果実香。柔らかい口当たり、ミネラルからくる旨みが強い。フレッシュさ香りの華やかさが際立つ赤ワインです。
試飲コメント:ルビー色。フレッシュかつ熟した黒系果実の上品な香り。赤系果実と土のニュアンスもあります。グリップ力のあるタンニンと黒系果実が見事に調和した味わい。ボリューム感に優れており、長い長い余韻が持続します。

華やさ、フルーティさ、スパイス感が調和するエレガントな味わい

スクリオ

スクリオ

レ マッキオーレがシラー100%で造るスーパータスカン。非常にフローラルで、香水のように広がりをみせる。フルーツの砂糖漬けのような甘く魅惑的なアロマ。極めてシルキーでなめらか。とっつきやすさが極めて高く、スパイス感が続きます。
試飲コメント:深いルビー色。赤系果実、黒系果実、バラなどの華やかさを感じる香り。滑らかな口当たり。香りに感じたフルーティさ、コーヒーのようなスパイシーさが調和していて、エレガントで芯の通った骨格を感じる味わいです。長い余韻に満たされます。

シルキーな口当たりで濃密かつクリーンな風味に満たされる逸品

パレオ ロッソ

パレオ ロッソ

カベルネ フラン100%で造られるスーパータスカン。チョコレート、濃密なカシス、エスプレッソと様々なアロマが感じられます。濃密でシルキーな舌触り、力強い豊かな果実味がぐっと口中を覆います。力強さがありつつ、柔らかくエレガントでバランスの良い味わい。
試飲コメント:深さのあるガーネット色。熟した黒系果実、潰した花、フルーツのコンポートを感じる複雑で濃密な香り。熟した果実や花、コーヒーのようなニュアンスが美しく調和した味わいです。優れた骨格も相まって余韻は非常に長く、果実感を軸に胡椒などのスパイスや緑っぽいニュアンスが加わり、濃密かつ綺麗な余韻を演出します。グラスが空になっても、芳しい香りがいつまでも漂います。

魅惑的なアロマ、豊かな果実味、スパイス、タンニンが溶け合う優美な余韻

メッソリオ

メッソリオ

マッキオーレがメルロー100%で造るスーパータスカン。カシスに、オレンジを煮詰めた甘酸っぱい果実、ホワイトペッパー、花、珈琲や生チョコレート、なめした皮の複雑な香り。柔らかでギュッと凝縮した果実の旨味が広がります。
試飲コメント:深さのあるガーネット色。注いだ瞬間から魅了される香り。フレッシュかつ熟した果実と華やかさ、フレッシュさが溶け合う優美かつボリューム感のある香り。フルーツのコンポートやスパイスを感じる目の詰まったエレガントなニュアンスも現れます。味わいは力強く複雑でエレガント。豊かな果実味、コーヒーなどのニュアンス、タンニンが綺麗にまとまっており、美しい余韻を演出しています。

インタビューを終えて

新しい畑の取得、仕立ての変更、樹勢の強くない苗木の採用、AI選果機とアンフォラの導入など、この4、5年で行っている新たな取り組みの量に驚きました。今回の記事では書き切れないほどでした。その姿(話)からは、外部環境に適応しながらも常に向上心を持って素晴らしいワインを生み出すんだという信念を感じました。

また、実は2020年にサンジョヴェーゼを非常に小さい区画で造り始めたそうです。あくまでも酸を加えるための補助品種だそうで、2023年のボルゲリロッソには0.1%以下しか入っていません。約20年ぶりの復活となりましたが、やはりメインはカベルネ フランなどの国際品種と話されており、一貫した哲学がありました。

今回、全てのラインナップを試飲させていただきました。どのワインも力強さとエレガンスが溶け合っていて、豊かな果実味とスパイスの美しい余韻がありました。長期熟成はもちろん、今開けても美味しいのも最大の特徴だと思いました。本当にどれも素晴らしかったです。ボルゲリロッソの2つのヴィンテージの飲み比べは大変興味深く、22年はいつでも飲みたくなる美味しさがあり、21年は今開けてもいいし5年ほど寝かせたくもなる逸品でした。

ボルゲリの歴史を変え、今もなお進化を続ける最高峰の造り手レ マッキオーレのワインをぜひご堪能ください。