2024/10/08
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ミルコ ビリオルジ氏 Mr. Mirco Biliorsi
モンタルチーノ初のクリュブルネッロ「モントーゾリ」を生み出した老舗!広範囲に所有する畑で優れたバランスとエレガンスを追求する「アルテジーノ」突撃インタビュー
実業家ジュリオ・コンソンノ氏が創業
当時の造り手にはないアプローチで革新をもたらしたアルテジーノ
アルテジーノは1970年、ジュリオ・コンソンノが創業したワイナリーです。創業当初は40社しかいなかったモンタルチーノの生産者が、今や270社にまで増えています。そのため、まずはモンタルチーノの歴史にも触れながら、アルテジーノの歴史について話したいと思います。そうすることで、モンタルチーノの発展においてアルテジーノが果たしてきた役割がより明確になるでしょう。
モンタルチーノの発展に欠かせない4つのポイント
モンタルチーノ(ブルネッロ)の発展には、4つの重要なポイントがあります。まず1つ目は、19世紀にビオンディ サンティがサンジョヴェーゼを植えたことです。それまではファットリア デイ バルビくらいしか植えていませんでした。甘口ワインの有名産地だったモンタルチーノで、のちに多くの歴史的生産者と言われる造り手たちがサンジョヴェーゼを植え始めた大きなきっかけとなりました。
アルテジーノ
史上初のクリュブルネッロ「モントーゾリ」を生産
高品質と市場開拓の両立、先駆的な取り組みでモンタルチーノの発展に貢献
2つ目は、アルテジーノの創業者であるジュリオ・コンソンノの参入です。ビオンディ サンティがブルネッロを確立したとはいえ、当時のモンタルチーノの農家は貧しく、金銭面でブルネッロを造ることが困難でした。また、素晴らしい土地を所有する貴族たちは、ワインを造ることなく、バカンス地としてのみ利用していました。
そんな中、農家でも貴族でもない立場として現れたのが、当時ミラノでプレナタルという子供服メーカーを経営する実業家のジュリオでした。彼はモンタルチーノの美しいアルテジーノの景色に魅了され、事業としてワインを造ることを即決。彼は事業として成功するために、とにかく高品質であることを重要視しました。
品質への投資を惜しまず、土壌の特質、各畑の個性、木樽の種類など様々な研究を重ねました。1972年に単一畑「モントーゾリ」を取得し、1975年に初のクリュブルネッロを造りました。グラッパや国際品種なども手がけ、あらゆる分野で先駆的な取り組みで成果を上げました。ジュリオは、それまでの農民や貴族とは異なるアプローチで事業を成立させたのです。
事業を成立させたのはイタリア国内だけではありません。のちにスイスやオーストリア、ドイツ、北米にまで広げていきました。ジュリオは非常に視野が広く、「高品質」と「市場開拓」の両立が実現できることを示した最初の人物なのです。
アルテジーノの事業成功以降、国際的に広がったブルネッロの知名度
3つ目のポイントは、バンフィ社の存在です。1978年にマリアーニ兄弟が創業したバンフィは、初めてブルネッロをアメリカに輸出するなど市場開拓に大きく貢献しました。ジュリオが創業したアルテジーノを皮切りに、彼らのようにブルネッロを事業にする生産者が増加しました。その頃から「ブルネッロを買いたい」というお客様がたくさん訪れるようになりました。4つ目は、ジェームズ・サックリングの存在です。当時『ワインスペクテーター』で働き、モンタルチーノに住んでいた彼は、多くのブルネッロを評価して地位向上に貢献しました。
40年間で220倍に跳ね上がった生産本数
このようにして、ブルネッロ ディ モンタルチーノは発展を遂げてきました。ジュリオは事業としての成功が難しかった70年代にアルテジーノを創業し、収益性のあるワイン造りを実現しました。以降、現在のモンタルチーノ市場が形成され、アルテジーノはその発展に大きく貢献しました。生産本数も飛躍的に伸び、1982年にはモンタルチーノ全体で5万本だったのが、現在では1100万本に達しています。
ジュリオ氏の意志を受け継ぐ実業家エリザベッタ氏
現在、多くの生産者がモンタルチーノでワイン造りを行う中、アルテジーノはモンタルチーノを象徴する存在であり続けています。その背景には、モンタルチーノ初のクリュブルネッロ「モントーゾリ」を生み出した功績が大きく関係しています。それは、もちろんアルテジーノの歴史にとっても重要な出来事です。
創業時から一貫する「すぐに開けて飲める美味しさ」
創業以来、ジュリオは高品質だけでなく「すぐに開けて飲める美味しさ」も求め続けました。彼が造り上げてきた味わいは、自身が愛飲していたブルゴーニュワインのような上品さに加え、フレッシュで飲みやすく優れたバランスがあります。そういったスタイルを持つ、いつ飲んでも美味しい味わいを貫いてきました。
ジュリオ氏、アルテジーノと縁のあるワイナリーを所有する
実業家エリザベッタ・ニューディ・アンジェリーニ氏が継承
そんなジュリオの意志を受け継いだのが、当時3つのワイナリーを所有していた実業家エリザベッタ・ニューディ・アンジェリーニでした。エリザベッタはジュリオが逝去した翌年2001年にワイナリーを取得しました。経営自体を変えることなく、ジュリオの右腕だったクラウディオ・バスラを中心としてワイン造りを引き継ぎました。クラウディオはジュリオと一緒にモンタルチーノへと移り、ゼロからアルテジーノを支え続けた存在です。(2014年に現場を退き、2022年に逝去)
現当主エリザベッタ・ニューディ・アンジェリーニ氏
エリザベッタは、1997年にキャンティ クラシコのボルゴ スコペート、1998年にモンタルチーノのカパルツォ、2000年にマレンマのドガ デッレ クラヴレを取得していました。アルテジーノと500mしか離れていないカパルツォは、実は一緒に始まったワイナリーです。
1968年に、とある4人の共同オーナーがこのエリアを購入したのですが、2年後にアルテジーノを単独所有して創業したのがジュリオでした。その後、アルテジーノとカパルツォは別の道を行くことになりました。50年以上前から深いつながりを持つワイナリーを、結果的にエリザベッタが1つにまとめた形となったのです。
モンタルチーノに9箇所の畑を所有!
広範囲の畑で実現する毎年安定した品質とバランス
エリザベッタは、アルテジーノを取得するとすぐに改革を行いました。カンティーナの建設と、新たな畑の取得です。全てはジュリオが築き上げてきた高品質を保つためです。大規模な醸造所と熟成庫を構えることで畑の区画単位での醸造を可能にし、地区、標高、ミクロクリマと特徴の異なる畑を持つことで、難しいヴィンテージでもバランスを取ることができます。決して生産量を増やすためではありません。
広範囲に畑を所有するのはアルテジーノを含めた3社のみ
畑は北から南まで、9箇所にあります。これだけモンタルチーノの畑を広範囲に所有する生産者はアルテジーノ、カパルツォ、ヴァル ディ スーガの3社だけだと思います。モンタルチーノは真四角のような形をしていて、4つのエリアに分けることができます。小高い丘が連なっていて、各地でサンジョヴェーゼの個性が変わります。
本拠地アルテジーノが位置する北の畑は、昔は寒かったですが今は冷涼になり、フレッシュで繊細な味わいが生まれます。南の畑は、骨格と硬いタンニンが生まれます。西の畑は、力強さと繊細さ、柔らかさを兼ね備えています。1つのエリアでブルネッロを造る生産者が多い中、いくつもの畑を所有するアルテジーノは、天候被害を避けることも高品質を保つこともできるのです。
歴史的単一畑モントーゾリ
――単一畑モントーゾリについて教えてください。他に所有している生産者はいますか?
北部に位置する単一畑です。私たち以外に7社います。所有するのは全体の約30haのうち5haです。標高は270m。他の北の畑と比べてブドウがきちんと成熟し、南のニュアンスを持つことも特徴です。また、北は雨が比較的多いにも関わらず、モントーゾリは不思議とその半分くらいしか降らない特別な畑です。
2020年頃に、モントーゾリの下部に位置するモントーゾリ ヌオヴォの畑を取得しました。現時点でクリュになる予定はありませんが、品質を高めるために様々な作業をしているところです。
モントーゾリ
生産本数5000本!
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ビアンコ トスカーナ |
ミルコ氏: 「約5000本の少量生産の白ワインです。ブルネッロの生産者は赤ワインがメインではありますが、私たちのポートフォリオを完成させるために白も造っています。品種構成は、60%シャルドネ、20%ヴィオニエ、20%ヴェルメンティーノ。ヴィオニエはフレッシュさ、ヴェルメンティーノはミネラル感を与えています。樽は未使用、マロラクティック発酵をしていないのでフレッシュなスタイルに仕上がっています」 |
試飲コメント:やや濃い麦わら色。凝縮した黄色い果実、レモンなどのフレッシュな柑橘類、ミネラルを感じる香り。口に含むと柔らかさがありながらも、フレッシュな酸が際立っています。後から苦味とふくよかな果実感の余韻が長く持続します。 |
すぐに飲めて美味しいフルーティさが特徴のロッソ ディ モンタルチーノ |
ロッソ ディ モンタルチーノ |
ミルコ氏: 「若い樹齢の区画のサンジョヴェーゼで造るロッソ ディ モンタルチーノです。使用する区画は、その年のコンディションによって変えていて、最後の熟成段階でエノロゴが判断してブレンドを決めます。モントーゾリを除く全ての畑のブドウが対象です。ロッソは、すぐに飲めてアプローチしやすいことが特徴です。エレガントさはありますが、フルーティさを出すようにしています」 |
試飲コメント:ルビー色。注いだ瞬間に魅惑的な香りが広がります。フレッシュかつ熟した赤系果実と黒系果実花、花、鉄のようなニュアンスを持つ複雑さとほどよく力強い香り。口に含むと、滑らかなアタックとともにじゅわーっと広がるフルーティさがあります。果実味と滑らかなタンニンが見事に調和した心地よい味わいです。 |
突出した優れたバランスのスタンダード ブルネッロ |
ブルネッロ ディ モンタルチーノ |
ミルコ氏: 「2018年のブルネッロ ディ モンタルチーノは非常に親しみやすく飲み心地の良さがあります。ここまでの優れたバランスは、簡単に表現できるものではないと思います。各地の畑のサンジョヴェーゼで造っています。例えば、北の畑は温暖化が叫ばれていても、やはり冷涼でフレッシュで繊細でエレガントな味わいを与えることができます。そこに南の畑の個性も加わっています」 |
試飲コメント:ガーネット色。赤系果実、森の果実、なめし革を感じる複雑で奥行きのある香り。上品でソフトな口当たりで、心地よいタンニンも相まって赤系果実の風味に満たされます。飲み込んだ後もエレガントな余韻が続きます。 |
アルテジーノが生み出したモンタルチーノ初の歴史的クリュブルネッロ |
ブルネッロ ディ モンタルチーノ モントゾーリ |
ミルコ氏: 「1972年にモンタルチーノで初めて造られたクリュブルネッロのモントーゾリです。冷涼な北部に位置する標高260m、5haの畑です。私たち以外い7社が所有しており、モントーゾリ全体では30haほどあります。北部は雨が降ることが多いのですが、モントーゾリはその半分の量しか降らない特別な畑です。熟成方法はアンナータと同じで、30hlの大樽を使用しています」 |
試飲コメント:深いガーネット色。グラスに注いですぐにアロマが広がります。赤系果実、黒系果実、花、コーヒー、チョコレート、ミネラルを感じる複雑で上品な香り。香り同様の要素を持つ複雑で力強い味わい。滑らかなテクスチャーで、エレガントな風味の余韻に満たされます。 |
エレガントな果実味と滑らかなタンニンが見事に調和したリゼルヴァ |
ブルネッロ ディ モンタルチーノ リセルヴァ |
ミルコ氏: 「2017年は気温が40度くらいまで上がった暑い年でした。通常は南の畑のものを使うところを、北のサンジョヴェーゼを用いることでバランスとフレッシュな酸を保つことができています。心地よい味わいですよね。このスタイルは、ブルネッロでもモントーゾリでもリゼルヴァでも変わらず最も大切にしていることです」 |
試飲コメント:輝きを持つガーネット。熟した果実、黒系果実のコンポートを感じる香りが広がります。力強く複雑ながらもエレガント。優れた骨格があり、エレガントな果実味と滑らかなタンニンが溶け合う優れたバランスがあります。充実感のある余韻が長く持続します。 |
濃密な風味に満たされるエレガントなヴィンサント |
ヴィンサント サンタンティモ |
ミルコ氏: 「トスカーナの伝統的な甘口ワイン、ヴィンサントです。伝統に基づき、収穫したトレッビアーノとマルヴァジアを、収穫後に11月くらいまで風通しの良い部屋に吊るして乾燥させています。カラテッリという55lの小さい樽の中で熟成させています。(アルテジーノのワインは白から始まっているので)このヴィンサントで終わらなければいけないのです(笑)」 |
試飲コメント:琥珀色。アプリコットなどのドライフルーツ、ハチミツの香り。香り同様の濃密な風味が口中に広がる味わいです。甘みとエレガンスが調和した長い余韻。 |
インタビューを終えて
現当主のエリザベッタ氏は「立ち止まらない人」だそうで、さらにワインを追求していることもわかりました。数年前には標高800mにも及ぶモンタミアータ火山の畑で白ブドウを植え、クリュモントーゾリの下部に位置するモントーゾリ ヌオヴォも取得して植樹。これから新しく生まれるであろうエレガントで高品質なワインへの期待で胸がいっぱいになりました。
アルテジーノが生み出したモンタルチーノ初の歴史的クリュブルネッロ「モントーゾリ」、素晴らしかったです。複雑で上品な香りが広がり、力強さもありますが滑らかでエレガントな風味に満たされる味わいでした。ロッソ、アンナータ、リゼルヴァ、どのサンジョヴェーゼもバランス感が凄まじく心地よさがありました。