ボルゲリ最南端&最高標高の造り手「アルジェンティエラ」突撃インタビュー

2024/11/07

2024/10/09

マッシモ バジーレ氏 Mr. Massimo Basile

ボルゲリ最南端&最高標高で造り上げる複雑性を極めたエレガントワイン!名門アンティノリ家と創業し偉大な造り手と並び称される最高評価ワイナリー「アルジェンティエラ」突撃インタビュー

アルジェンティエラは1999年に実業家フラティニ家が、友人のピエロ・アンティノリとパートナーシップを結んで創業したワイナリーです。DOCボルゲリの最南端に位置し、大きく分けて4つの畑を所有しています。標高が高く多様な土壌を持つ畑、海から400m距離の温暖な畑、太陽光を強く受けない冷涼な畑、美しい扇形のカベルネ フランの単一畑。見事に個性の異なるテロワールが表現されたワインを造っています。上級キュヴェ「アルジェンティエラ」2015年ヴィンテージは、『ジェームズサックリング』で99点を獲得。同じボルゲリで造られるマッセートやサッシカイアと肩を並べる評価を得たことで、アルジェンティエラはさらなる飛躍を遂げています。今回は、アルジェンティエラ社マーケティングダイレクターのマッシモ バジーレ氏をお迎えして、ワイナリーの歴史や畑などについてお聞きしました。

名門アンティノリ家と築いたワイン造りの礎
偉大な造り手と肩を並べるボルゲリ最高評価

1999年に実業家フラティニ家が創業
――ワイナリーの歴史から教えてください。

アルジェンティエラは1999年に土地を購入したフラティニ家が、友人のピエロ・アンティノリとパートナーシップを結び創業したワイナリーです。ピエロが招集した優秀な醸造家や栽培家たちとともに、アルジェンティエラのプロジェクトが始まりました。コンサルタントのステファン・ドゥルノンクールなど、今も変わらないメンバーで働いています。

2010年、ワイナリーは充実したワイン造りや経営が行えるようになるとピエロから独り立ちしました。しかし、2015年に不動産事業が悪化したフラティニ家はアルジェンティエラを売却することになります。そこで新オーナーとして名乗り出たのが現当主、オーストリア人のスタニスラウス・トゥルナウアーでした。

カンティーナ

欧州有数の実業家スタニスラウス氏がワイナリー取得後、最新設備と畑に投資
「ボルゲリで最も美しく、トップクラスのワイナリーを築く」を継承

当時、ワイナリー取得に向けて国内外を視察していたスタニスラウスは、ボルゲリの中でもひときわ美しいアルジェンティエラに一目惚れ。視察した全ての畑の中でも、特に「ヴェンタリオ」の畑に惹かれました。彼は2016年に取得すると、2年後には家族と一緒にオーストリアから移住し、トスカーナでの暮らしを始めました。

ヨーロッパでも有数の実業家である彼の参入で、資金力が強化されたことは大きかったです。畑は70haから85haに拡大し、最近では新たに16haの土地も取得しました。「フレッシュ感を出すためにセメントタンクを導入したい」などといった現場の意見にも耳を傾け、最新のワイナリー設備も導入しました。

畑の管理体制も変更し、全ての畑をビオ栽培に切り替えました。認証こそ取得していないものの、資金のサポートにより、細部まで行き届いた管理が可能になりました。こうしてスタニスラウスは、フラティニ家が抱いた「ボルゲリで最も美しく、トップクラスのワイナリーを築く」という夢をしっかりと受け継いでいるのです。
ワイナリー取得の決め手となった畑「ヴェンタリオ」

サッシカイア超えの『ジェームズサックリング』99点獲得
ワイナリーの名を冠した上級キュヴェ「アルジェンティエラ」

アルジェンティエラには、ここまで成長してきた中でいくつかの転機がありました。特に近年における転機は、上級キュヴェ「アルジェンティエラ」2015年が『ジェームズサックリング』で99点を獲得した時です。その年は同じボルゲリ地区のマッセートも99点、サッシカイアは98点でした。彼らと肩を並べる評価を得たことは大きな話題となり、注目を集めました。長年成長を続ける中で、まだ成し遂げていなかったこの評価を受け、アルジェンティエラはさらなる飛躍を遂げたのです。

DOCボルゲリ屈指のワイナリー5社が全体の所有面積60%を占める
現在、ボルゲリDOCには75の生産者がいます。栽培面積は全体で1400haあり、これ以上は畑を増やすことが認められない原産地呼称です。アルジェンティエラを含めてグアド アル タッソ、オルネッライア、サッシカイア、カマルカンダの所有面積はボルゲリDOC全体の約60%を占めています。

「他の生産者から羨ましがられる非常にユニークな場所」
ボルゲリ最南端で最高標高&海に最も近い畑を所有

クリュのコンセプトに通じた各畑の個性が光る4つの農園
アルジェンティエラはボルゲリ地区の最南端に位置し、主に丘陵地と、海に最も近い畑を所有しています。一般的にボルゲリは南北よりも東西での差が大きく、アルジェンティエラは標高の違いによる異なるテロワールを有しています。また、森に囲まれ、ブドウ畑以外にも豊かな自然が多いため、有機栽培においても好条件が揃っています。

畑は大きく4つの農園で構成されていて、それぞれの個性をしっかり表現することを目指しています。ヴェンタリオ以外はクリュと呼ぶことはできませんが、各畑の特性を活かしたワイン造りをコンセプトとしています。

複雑性を極めた上級キュヴェの畑
最高標高、36種の土壌、斜面が細かく絡み合う「アルジェンティエラ」

アルジェンティエラの畑は、他の生産者から羨ましがられる非常にユニークな場所にあります。標高が高く、あらゆる向きの斜面を含む複雑な地形です。何よりも36種類もの土壌が細かく絡み合っていることが大きな特徴です。頭が痛くなるくらいの複雑さですね(笑)。以前から細かく区画を分けて収穫していましたが、「もっと細かく知りたい」という醸造家の要望で60箇所もの土壌研究でさらに細分化されました。こうした土壌や地形の複雑さに加え、森や海に近い影響もあり、複雑性を極めたワインが生まれます。
複雑に絡み合う異なる土壌タイプ

フレッシュさとエレガンスが生まれる畑
ほぼ全てが北向きの冷涼な「ヴィッラ ドノラティコ」

ヴィッラ ドノラティコも非常に特殊な畑です。ほとんどの畑が北向きであるため、太陽の強い光を受けません。受けるのは夕方の優しい日差しくらいです。アルプスからの風が直接当たることもあり冷涼な環境です。アルジェンティエラほどの複雑性はありませんが、これらの独特な条件が他との明確な違いを生み出しています。ワインは大樽で熟成させて、フレッシュさとエレガンス性の高さを表現しています。

果実の凝縮感と柔らかさを与える畑
海まで400m、太陽の光をたっぷり浴びる「ポッジオ アイ ジネプリ」

ポッジオ アイ ジネプリは海から最も近い畑です。その距離は約400m。鉄分豊かで赤みがかった砂質土壌です。海からの太陽光をたっぷり浴びるだけでなく、鏡のように反射する海面からの光が畑全体を明るく照らしています。フレッシュで柔らかい印象のワインが生まれ、果実の凝縮感とミネラル感があります。オルネッライアのレ ヴォルテやサン グイドのレ ディフェーゼと同等レベルのエントリー赤ワインが造られます。

カベルネ フラン100%の単一畑
美しい斜面が特別なテロワールを生む「ヴェンタリオ」

ヴェンタリオ(イタリア語で扇子)は、その名の通り扇形をした1.5haの単一畑です。カベルネ フラン100%で造るクリュワインを造っていますが、現時点ではまだ日本に輸出していません。土壌はほぼ粘土質。南北に向かって斜面が異なるため、太陽光を多様な角度で受ける特別なテロワールを持っています。クリュワイン「ヴェンタリオ」は、カベルネ フランに情熱を注ぐ当主のスタニスラウスの意向と、醸造家チームがカベルネ フランを単一で表現したいという願いから誕生しました。

ボルゲリの最先端を行くトップ醸造家たち
気候変動にも適応するアルジェンティエラの特異な土地

エレガンスを最大限に表現
ボルゲリの新たなスタイルで見出されたカベルネ フラン

現在のカベルネ フランの流れには、いくつかの要因があります。まずは時代とともに飲み手のみなさまの嗜好が変わってきたことです。1980年代にレ マッキオーレがカベルネ フラン100%のパレオ ロッソを生み出したとはいえ、当時のボルゲリはカベルネ ソーヴィニヨンやメルローなどのブレンドが主でした。そして、ボルゲリを代表するワインといえば、重くてジャミーなものでしたよね。

そんな中、「もう1杯飲みたくなる」というドリンカビリティ(Drinkability)なワインが世間で求められるようになり、フレッシュで繊細なカベルネ フランを補助品種として持っていた生産者が造り始めたという経緯があったのです。

ボルゲリを牽引し、互いに高め合う同世代のトップ醸造家たち
もう一つ大きな要因は、ボルゲリの若い世代の醸造家たちです。オルネッライアのマルコ バルシメッリ、グアド アル タッソのマルコ フェッラレーゼ、レ マッキオーレのルカ レットンディーニ、グラッタマッコのルカ マローネ、そしてアルジェンティエラのニコロ カッラーラ。ボルゲリを牽引する主なワイナリーの醸造家は、ほとんどが40代で同世代です。

みんなピサ大学出身で、同じ勉強をし、世界各国で経験を積んできました。ほぼ同時期にイタリアに戻ってきて、トップワイナリーで活躍しています。また、彼らは友人関係でもあり、日常的に情報交換をしながら互いに切磋琢磨しています。現在のカベルネ フランやモダンなスタイルの流れは、まさに彼らが導いているのです。

アルジェンティエラ醸造家ニコロ カッラーラ

水害の被害を最小限にとどめる恵まれた立地
彼らは温暖化の問題にも柔軟に対応しています。温暖化が問題視されている時から勉強しているので、温暖化への意識が高く対策方法を熟知しています。畑に生える葉っぱをカットせず残し、収穫を朝夕と2回に分けるなど、より手間をかけた畑仕事をしています。

そのため、温暖化による気温上昇そのものは切迫した問題ではありません。本当の問題は気温上昇に伴う急激な気候変動です。最近もボルゲリでスコールが発生しましたよね。そういった気候変動の完全な対策は誰もできません。しかし、アルジェンティエラは自然の水路がしっかり確保できた土地に畑を構えているので、先日の水害でも被害を5%に抑えられました。いかに恵まれた土地であるか理解していただけると思います。

ヴィッラ ドノラティコ

海から400mの畑!
肉にも魚にも合わせやすいエントリー赤ワイン

ポッジオ アイ ジネプリ トスカーナ

ポッジオ アイ ジネプリ トスカーナ

マッシモ氏:
「ポッジオ アイ ジネプリは海まで距離400mの砂質が豊富な畑です。2021年はトスカーナ全体が恵まれたヴィンテージであり、このワインもその恩恵を受けています。品種構成はカベルネ ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ フラン、プティ ヴェルド。典型的なボルゲリブレンドです。オルネッライアのレ ヴォルテやサン グイドのレ ディフェーゼと同等レベルのワインです。醸造はステンレスタンクとセメントタンクが基本で、40%は旧樽のバリックで熟成しています。フレッシュな風味を大切にしていて、樽はワインをまろやかにするためだけに使用しています。食事に合わせやすく、フレッシュな味わいがポイントです。夏には少し冷やしても楽しめるワインで、肉料理だけでなく魚の煮込みのカチュッコにもよく合います。ラベルに描かれた木は、畑に実際に存在する木です」
試飲コメント:濃いルビー色。注いですぐに黒系果実などの濃縮な香りが広がります。果実味豊かでスパイシーなニュアンス。ほどよいボディがあり、豊かな果実味と滑らかなタンニンの余韻が持続します。フレッシュな酸もあり飲み心地の良さがあります。

優れた骨格に黒系果実とスパイスが調和する優美な味わい

ヴィッラ ドノラティコ ボルゲリ

ヴィッラ ドノラティコ ボルゲリ

マッシモ氏:
「ヴィッラ ドノラティコは日照条件が良好な南向きの2区画を除いて、多くの畑が北向きです。このワインは2003年から造っていますが、当初はバリックの影響が強いワインでした。現在はスタイルを大きく変えて大樽を使用しています。北向きだからこそ生まれるエレガントでフレッシュな風味があります。2021年ヴィンテージはバルサミコやユーカリの香りが特徴的で、タンニンもしっかりしているので15年から20年の熟成ポテンシャルがあります」
試飲コメント:やや深みのあるルビー色。黒系果実と樽のニュアンスが溶け合う香り。フレッシュな赤系果実の明るいニュアンスもあります。非常に滑らかで優美な口当たりながらも優れたボディがあります。黒系の果実味とスパイス、タンニンが見事に調和した余韻が長く持続します。

ワイナリーの名を冠した上級キュヴェ!
複雑なテロワールが織りなす力強さとクリーンネスの調和

アルジェンティエラ ボルゲリ

アルジェンティエラ ボルゲリ

マッシモ氏:
「アルジェンティエラは、リッチで複雑な味わいで長期熟成力を持つワインです。ドノラティコのバルサミコ香に加え、濃厚なコーヒーやメンソールの香りも感じられる深みのある味わいです。酸とタンニンのバランスも優れ、ストレートで洗練されたタンニンが長期熟成を可能にする重要な要素となっています。アルジェンティエラは区画ごとに細かく収穫・醸造し、完璧にテロワールを表現しています。森に近いエリアからはバルサミコの香りが、海に近いエリアからはフルーツ感が際立ち、グラスを通じてその土地の特徴を感じることができます。15年かけて、ようやくお客様から”シャープで引き締まった洗練されたボルゲリワイン”と評価されるようになりました」
試飲コメント:深みのあるガーネット色。グラスの遠くからでも漂う力強く奥行きのある香り。黒系&赤系のドライフルーツと樽のニュアンス、イチゴのコンポート、胡椒、コーヒーなど非常に複雑で凝縮した香りが綺麗にまとまっています。味わいは香り同様の要素が口中を満たします。果実味、酸、タンニンが見事に調和していて、力強さとクリーンネスを兼ね備えた余韻が長く長く持続します。

インタビューを終えて

アルジェンティエラが築き上げた歴史とボルゲリ屈指の造り手である所以を深く理解できたインタビューとなりました。マッシモさんの解説は、データや動画を使ったものが多くて大変わかりやすかったです。アルジェンティエラのホームページでもデータ等を見ることができるので、ぜひご覧ください。また、DOCボルゲリ協会のホームページも同様に、細かい情報がたくさん載っていて、非常に参考になりました。

特に印象的だったのは、その動画にもあった4つの農園(畑)です。それぞれ異なるテロワールを備え、その特性を最大限に活かしたワインが造られています。実際に試飲すると、同じ方向性ながらも各ワインで異なる個性を堪能できました。上級キュヴェ「アルジェンティエラ」は別格でした。複雑に絡み合う果実やスパイスの凝縮感に満たされ、それでいて優美さも兼ね備えた味わいでした。

カベルネ フラン100%クリュワイン「ヴェンタリオ」が日本に入ってくるのが楽しみです。上級キュヴェのアルジェンティエラだけでなく、このワインもすでに『ジェームズサックリング』で99点を獲得しています。マッシモさんは「いずれ100点は取るでしょう」と話されていました。そして、彼らは新たに「シェナリオ」というヴェルメンティーノ100%の白ワインを今年2024年にリリースし、「これでアルジェンティエラのポートフォリオは完成」とのことです。今後、次のステップへと突き進んでいくアルジェンティエラの発展に期待が高まりました。