400年近くヴァルポリチェッラでワイン造りを続けるアマローネの名門「テデスキ」突撃インタビュー

2024/11/19

2024/10/07

サブリナ テデスキ氏 Ms. Sabrina Tedeschi

400年近くヴァルポリチェッラでワイン造りを続けるアマローネの名門「テデスキ」!フレッシュさとエレガントなスタイルを貫き、3つのクリュアマローネと2つのクリュヴァルポリチェッラを生み出すテデスキ社突撃インタビュー

テデスキはヴァルポリチェッラで1630年から続く老舗ワイナリーです。クラシコ地区とそれ以外の東側エリアに畑を所有し、それぞれの畑の個性を表現するワインを造る、という信念のもと、3つのクリュアマローネと2つのクリュヴァルポリチェッラを造っています。流行にとらわれず、一貫してフレッシュさのあるエレガントなスタイルを追求するテデスキ社のワイン造りに対する思いを現オーナーのサブリナ テデスキさんにお話を聞きました。

400年もの間、テデスキ家が守り続けてきた伝統
先代の父が確立させたエレガントなスタイルのアマローネへの誇り

ヴァルポリチェッラで400年もの間テデスキ家によって守り続けられてきたアマローネの老舗

テデスキは、ヴァルポリチェッラで約400年続くアマローネの老舗ワイナリーです。1630年にヴァルポリチェッラの土地を購入したという記録が残っています。私が何世代目かは正直分からないのですが、ワイン造りをする形になってからは恐らく7~8世代目になるのではないかと思います。

1824年に家族で経営していたオステリア用にワインを造り始めました。その後、このワインを他のオステリアにも卸し始め、さらに拡大して今に至っています。ただ、現在のテデスキ社を確立させたのは父の代です。だいたい1950~60年代になるかと思いますが、イタリアの他のワイナリーもこの時代に現在の形の基礎を築いたところが多いと思います。

現在、私(サブリナさん)、弟のリッカルド、姉のアントニエッタの3人でワイナリーを経営しています。社長は姉が務めています。

それぞれの畑の個性を表現するための職人的アプローチによるワイン造り
テデスキのアマローネはフレッシュさを大切にしたエレガントスタイル

テデスキでは年間約50万本のワインを生産しています。そして商品数は10を超えます。これは、私達が所有する畑が様々な場所にあり、標高も土壌も異なっていることに由来します。私達はそれぞれのワインで、それぞれの土地を表現するワインを職人的アプローチによって造っています。

ワインはクラシックなスタイルで、残糖値の低い辛口のアマローネを一貫して造っています。そして複雑でありながらエレガントな飲み心地になるワインにしています。そして香りのフレッシュさを保つことが重要だと考えています。

過去には残糖値が高い、重いアマローネが流行したこともありましたが、テデスキはそのようなアマローネは造りませんでした。そもそも歴史的にアマローネはSECCO(辛口)だったんです。だた、私達は伝統的なアマローネと言うよりも、TIPICO(土地ならでは)なものを造っている、と言いたいです。それがフレッシュさを保っているアマローネ、だと考えています。

高品質なワインを造るためのこだわり
~畑の場所、アパッシメント、畑と香り成分の研究、一貫した大樽の使用~

ヴァルポリチェッラにはいくつもの渓谷があり、私達も異なる渓谷の標高の異なる場所に畑を所有しています。重要視しているのは丘陵地である、ということです。だいたい200~500mぐらいの丘陵で、向きも異なるので様々な個性のワインを造ることができます。現在、クラシコエリアに15ヘクタール、それ以外の東側のエリアに33ヘクタールほど所有しています。

アマローネを造るうえで外せないアパッシメントも研究を続けています。アパッシメントを行う小屋(フルッタイオ)には送風機を設置して、涼しい環境を保つようにしています。さらにチューブを通して空気を流し、湿度がたまらないようにしてブドウにカビを発生させないようにしています。この取り組みによってワインがフレッシュなものになります。

私達は3つのクリュアマローネと2つのクリュヴァルポリチェッラを造っています。それは、所有する畑の個性がそれぞれ異なるため、結果、クリュのワインを造ることになりました。

私達はそれぞれの畑が持つ、香りの個性にも着目しています。2017年からはヴェローナ大学と共同で、各畑の香りの要素の違いについて研究を始めました。ヴァルポリチェッラの主要品種のコルヴィーナとコルヴィノーネの2品種は、品種としてヴァルポリチェッラの各エリアの中ですごく違いがあるわけではありませんが、香りの特性があることがわかりました。

さらに、テデスキのワインのスタイルを保つために、大樽を使用し続けています。私達のワインに木のニュアンスは求めていません。大樽はワインの香りのフレッシュさを保つために重要な要素だと考えています。熟成期間は通常のヴァルポリチェッラが1年、クリュヴァルポリチェッラが2年、通常のアマローネが2年半~3年、そしてアマローネリゼルヴァが4年です。

新しい取り組み サステナブル認証、バックヴィンテージライブラリー

テデスキ社はサステナブル認証を取っています。この認証には3つの要素があって、1つ目は環境面。畑の環境を守るために薬剤の制限をしています。2つ目が経済面。そして3つ目が社会性です。当然のことですが、従業員の雇用を守り、権利を守ることです。このサステナブル認証を受けるため、毎年、検査官による面談を受けています。

もうひとつ、取り組んでいるのがバックヴィンテージのワインのストックです。2005年以降、アマローネとヴァルポリチェッラのクリュワインを一定数量ストックし、熟成ワインを楽しんでもらうようにしています。テデスキ社の歴史を知って頂けると嬉しいです。

ワイナリー「テデスキ」の神髄
個性の異なる畑から、それぞれの個性を表現するクリュワインを造る!ヴァルポリチェッラ初のクリュワイン誕生へ

テデスキ社の重要な3つのクリュ
~モンテオルミ、ファブリセリア、マテルニゴ~

テデスキ社の重要な3つの畑についてお話します。クラシコエリアに「モンテオルミ」と「ファブリセリア」、そしてクラシコ地区の外の東側に「マテルニゴ」を所有しています。

■ヴァルポリチェッラで初めてクリュとしてリリースされた「モンテオルミ」

モンテオルミは1918年に購入した畑です。1960年代に父のロレンツォがこの畑が他とは違うワインになることに気が付き、他の畑のブドウと分けて醸造し、畑名をラベルに付けることにしました。これがヴァルポリチェッラで初めてのクリュワインになります。当時はそんな発想をする人は誰もいませんでした。このことでモンテオルミがヴァルポリチェッラエリアで重要な畑として認知されるようになったのです。モンテオルミはリリースしてすぐに高い評価を受けました。

モンテオルミの畑は石垣積みの段々畑で形成されています。この石垣は地元でマローニェと呼んでいる「乾燥石積み(muri a secco)」で、ユネスコの世界遺産にも認定されています。

■テデスキ社で最も標高の高いクリュ「ラ ファブリセリア」

ファブリセリアはテデスキ社の自社畑の中で最も標高の高い畑になります。1983年が初リリースで、今までに11回しか生産されていないクリュ アマローネになります。この畑からはガルダ湖も見ることができます。ガルダ湖のおかげで非常に穏やかな気候条件に恵まれています。

■ヴァルポリチェッラの東エリアにある「マテルニーゴ」

マテルニーゴは、クラシコ地区ではなく、ヴァルポリチェッラエリアの東部にあります。全部で34ヘクタールで、標高は290~480mで様々な向きの畑があります。その中に円形劇場のような日照条件に優れた、とても美しい区画もあります。マテルニーゴからヴァルポリチェッラとアマローネのそれぞれのクリュワインを造っています。小さい池がありますが、この水は灌漑とあとは周囲が森に囲まれているので偶発的な火事などに役立てています。

それぞれの畑の個性を表現するワインを造る
2つのクリュヴァルポリチェッラと3つのクリュアマローネ

テデスキ社は2つのクリュヴァルポリチェッラ(ラ ファブリセリア、マテルニゴ)と、3つのクリュアマローネ(モンテオルミ、ラ ファブリセリア、マテルニゴ)を造っています。アマローネでクリュはよくあると思いますが、クリュヴァルポリチェッラはあまり聞かないですよね。でもテデスキとしてはヴァルポリチェッラも重要だと考えているので、1997年から造り始めました。当時はカベルネもブレンドしていてIGTの位置づけでした。DOCのクリュヴァルポリチェッラは2005年からになります。

フレッシュな酸とピュアな果実味が調和する軽快な美味しさ。デイリーに楽しめる名門テデスキのヴァルポリチェッラ

ヴァルポリチェッラ スーペリオーレ 2020

ヴァルポリチェッラ スーペリオーレ 2020

テデスキのエントリーラインのヴァルポリチェッラスペリオーレです。1年間大樽で熟成させています。日常的に飲めるワインですね。畑は東側のマテルニーゴの様々な畑のブドウを使っています。
試飲コメント:チェリーなどの赤系果実のクリーンな香りにバルサミコのニュアンスも感じます。飲むとフレッシュな酸と果実味が調和した軽快な味わい。

陰干しのブドウを使用した程よい凝縮感とふくよかさが魅力のヴァルポリチェッラ

ヴァルポリチェッラ スーペリオーレ カピテル ニカロ 2020

ヴァルポリチェッラ スーペリオーレ カピテル ニカロ 2020

ニカロは私達の先祖の一人です。短期間陰干ししたブドウを使っています。熟成は1年間大樽で先ほどのヴァルポリチェッラと同じですが、アパッシメントをしている分ストラクチャーが少ししっかりと感じますし、凝縮感もあります。
試飲コメント:ブラックチェリーなどの果実のアロマにバニラやたばこなどのニュアンスもある複雑味のある香り。なめらかな口当たりで旨味とコクのあるふくよかな味わいに綺麗な酸がすっと入っていく。

2年間の大樽熟成で造るクリュヴァルポリチェッラ「マテルニゴ」

ヴァルポリチェッラ スーペリオーレ マテルニゴ 2019

ヴァルポリチェッラ スーペリオーレ マテルニゴ 2019

クリュヴァルポリチェッラのマテルニゴです。素晴らしいストラクチャーがあるのと、フルーティーな果実のアロマと胡椒の香りがするのがこの畑の特徴です。2年間大樽で熟成させています。

傾斜が急な4ヘクタールほどの畑のブドウで造っています。マテルニゴというのは「CASA DELLA MADRE(母の家)」という意味です。ラベルに描かれたこの絵はその家から出発する道がモチーフになっています。

試飲コメント:果実の甘い香りとスパイスやミネラルを思わせるアロマが華やかに広がる。しっかりとした骨格とエレガントな味わいのバランスが取れている。

伝統品種オゼレータをブレンドして造るクラシコ地区のクリュヴァルポリチェッラ

ヴァルポリチェッラ クラッシコ スーペリオーレ ラ ファブリセリア 2017

ヴァルポリチェッラ クラッシコ スーペリオーレ ラ ファブリセリア 2017

クラシコ地区のクリュ ヴァルポリチェッラ 「ラ ファブリセリア」です。今までの3つのヴァルポリチェッラと比較して色の濃いのが分かると思います。ここにはオゼレータを使っています。オゼレータはヴァルポリチェッラの伝統品種で、タンニン、酸、色の面で重要な枠割を果たします。加えることでよりしっかりとしたストラクチャーになりますし、複雑味を与えてくれます。どのぐらいの量を混ぜるかは非常に重要で、オゼレータが多すぎるとヴェジタブル感が強くなってしまいます。

果実味や花、バルサミコのニュアンスなど様々な要素を持っていて、長期熟成ポテンシャルもあるワインです。2017年はフレッシュさをパーフェクトに保っています。一般的なヴァルポリチェッラだと2~3年ぐらいでフレッシュさを失うものが多いのですが、このワインはずっと保っています。

ラベルに2つの十字架が描かれていますよね。2つ意味があって、ひとつは、畑の中に十字架があって信者がここで立ち止まって祈りを捧げていたことに由来します。もうひとつ、これは畑名のファブリセリアにつながりますが、ファブリセリアとは教会を建設する組合の名前です。祖父もその一員でした。組合では教会を建てる際に様々な話し合いを行うのですが、その会合の最後には組合員が持ち寄った美味しいワインをみんなで飲むのが習わしだったんです。

試飲コメント:黒系果実のアロマにバニラのニュアンス。フレッシュな酸となめらかなタンニンのバランスの良いエレガントな味わい。

全ての要素をバランスよく感じる飲み心地の良いガストロノミーなアマローネ

アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ マルネ180 2020

アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ マルネ180 2020

テデスキのエントリーワインの「マルネ 180」です。マルネはマール土壌のことで180は東から西まで180度に広がる南向きの畑、ということを表しています。ラベルに赤色と金色の丸が描かれていますが、赤いブドウの実がアパッシメントをすることで黄金になるということを表現しています。

このアマローネを私達はガストロノミーアマローネ、と呼んでいます。重たいアマローネではなく、飲み心地がとてもいいです。何か特定の要素が他の味わいを覆うことがなく、飲んでいくうちに少しずつ全ての要素を感じることができます。

クリュの弟分的な存在と思われていますが、高い評価も受けています。2019年はデカンターでプラチナラベル、2017年は『ワインスペクテイター』のTOP100にも入っています。

試飲コメント:ブルーベリー、プルーンの甘い果実にバニラのニュアンス。力強くなめらかでスムーズな飲み心地。

ヴァルポリチェッラ初のクリュワインとして誕生!アマローネ「モンテ オルミ」

アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ クラッシコ リゼルヴァ カピテル モンテ オルミ 2017

アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ クラッシコ リゼルヴァ カピテル モンテ オルミ 2017

テデスキの重要なクリュアマローネ リゼルヴァ「モンテ オルミ」です。長期熟成ポテンシャルのあるしっかりとした個性を持つアマローネです。ブラインドテイスティングをしても、他とは違うこのワインだとわかるパーソナリティがあります。

全ての要素がバランスよくまとまっていて余韻もとても長いです。アルコール度数が17%ありますがそれを感じさせないと思います。本当は15%ぐらいにしたいとは思うのですが、なかなか難しいですね。

試飲コメント:濃密で甘やかな果実の香りにスパイスの風味。香りそのままの凝縮感のある力強い味わいでミネラルと旨味が溶け込んだ複雑な味わい。心地よい甘みのある長い余韻。

インタビューを終えて

アマローネはもちろんですが、ヴァルポリチェッラに強い思い入れを持たれている造り手だと感じました。それは400年もの間ヴァルポリチェッラの地を守り続けてきた家族だからこそだと思います。アマローネの生産者達の間でも最近はアマローネだけでなくヴァルポリチェッラをもっとPRしていこう、という動きもあるそうです。そこには日本と同様、温暖化で夏が1年の大半を占めるようになってきたり、経済的にアマローネを購入しずらい現状もあるようです。「チルドレッドとしてもヴァルポリチェッラはお勧めよ」とおっしゃっていました。

お父様が確立された現在のテデスキスタイルをこれからも受け継いでいきますか、という質問をさせて頂いたところ、「父も父の代で新しいことを始めました。私達も、それぞれの世代で新しい取り組みをすべきだと考えています。技術も進歩していますしね。」という答えが返ってきました。

今回試飲したヴァルポリチェッラもアマローネも、一貫してバランスの良さとエレガンスが際立っていました。すっと喉を通り過ぎていく心地よさ。そして上品さだけでない複雑味。香りの個性の違いとともにぜひ味わってほしいと思います。