スーパータスカンの造り手「テヌータ ルーチェ」突撃インタビュー

2024/12/03

2024/10/15

アルベルト オレンジャ氏 Mr. Alberto Orengia
ヴァン ホン ドアン氏 Ms. Van Hong Doan

モンダヴィとフレスコバルディの共同プロジェクトとして発足!モンタルチーノのテロワールで造るカベルネ ソーヴィニヨン「ルックス ヴィティス」!トスカーナの伝統と新しい技術を取り入れたスーパータスカン「ルーチェ」突撃インタビュー

フレスコバルディ家とモンダヴィ家のジョイントベンチャーで始まったプロジェクト「ルーチェ」。現在はロバートモンダヴィが他社に買収された事を機に、フレスコバルディ家の単独所有となっています。ルーチェ誕生の背景は以前にもお聞きしていましたが、今回はより詳しくエピソードをお聞きしながら現行ヴィンテージの説明をしていただきました。

イタリアにオリジンを持つモンダヴィ家の挑戦!ロバート モンダヴィが感銘を受けたカステルジョコンドのメルロー

この写真はヴィットリオ フレスコバルディ氏とロバート モンダヴィ氏のお二人です。「ロバート モンダヴィ」はオーパス ワンで有名なので皆さんご存じだと思いますが、その家系は元々はマルケの出自です。マルケからアメリカに渡って大成功を収めた家系で、モンダヴィ氏がイタリアに戻って「偉大なワインを造りたい」というところから始まったのがルーチェのプロジェクトです。
フレスコバルディとモンダヴィ

モンダヴィ氏はありとあらゆる生産者や畑を訪ね、どこでプロジェクトを始めるべきか模索していました。ある時、モンダヴィ社のエノロゴがカステル ジョコンドのメルローを飲んでいたく感銘を受けたのをきっかけに、フレスコ バルディを訪ね、自分たちのプロジェクトの話を持ち掛けました。その結果、トスカーナの伝統と新しい技術を取り入れたワインを造ろうと意気投合し、その4年後「サンジョヴェーゼ50%、メルロー50%」という比率のルーチェが誕生しました。

Qモンダヴィ社はメルローを探していたのでしょうか?

特にメルローを探していたわけではなく、自分たちのプロジェクトを始めるにあたって、何がいいか、どこがいいかを広く模索していました。モンタルチーノのメルローにたどり着いたのは偶然と言えます。

1970年頃、カステル ジョコンドはフランス人がオーナーで、その彼がフランスからカベルネ ソーヴィニヨンとメルロー、ソーヴィニヨン ブランを持ってきました。当時カステル ジョコンドでディレクターとして働いていたのがヴィットリオ フレスコバルディ氏。1989年にヴィットリオ氏がカステル ジョコンドを購入してフレスコバルディー家の所有になります。

その後ソーヴィニヨン ブランは抜いてしまったのですが、粘土質土壌のところに埋まっていたメルローは面白いということで残しておいたのです。様々な偶然が重なって、フレスコバルディとモンダヴィは出会いました。

モンタルチーノの中でも温暖な南西部で誕生したスーパータスカン「ルーチェ」

ルーチェはモンタルチーノの南西部、割と暖かめのエリアに位置しています。モンタルチーノはボルドーの2%程の広さしかないエリアなのですが、そこに約200社の生産者がいます。この畑の地図では、どの畑に何のブドウが植えられているかがよくわかります。
ルーチェの畑

左下から上に向かうにつれ標高が上がっていきます。標高の低い粘土質土壌の土地にはメルローとカベルネ ソーヴィニヨン。標高が上がっていくにしたがって土壌に砂が入っていき、一番高いところにはサンジョヴェーゼを植えています。ちなみに標高420mほどの一番高いところにある「マドニーノ」というクリュのブドウはブルネッロに使われます。
サンジョヴェーゼの畑

午後からは日がずっとあたるような場所で、土壌はいわゆるガレストロ土壌です。メルローは9月頃に熟して、その2週間後にサンジョヴェーゼが熟します。
ガレストロ土壌

これらの畑ではビオディナミを実践している、というのも重要なことです。ビオディナミを導入した背景には「土壌をとにかくいいものにしたい」という願いがあります。ブドウ樹の畝の間に草花が生えるような種をまいて、育った草花がより土壌を豊かにすると、多様な微生物が存在する環境になっていきます。
グリーンマニュアリング

また畑の周囲には森があり、この森もブドウ畑にいい影響を与えてくれます。モンタルチーノは他のエリアと違い「これ以上畑面積を広げてはいけない」と決められていますが、これはブルネッロの価値を守るためだけではなく、土壌の汚染を防ぐためという目的があります。そうして残った森林は周囲の気温を下げ、ブドウにとって快適な環境をつくってくれます。

若いヴィンテージから飲み心地のいいワインを造る鍵は「チューリップ型のセメントタンク」

「ルーチェ」「ブルネッロ ディ モンタルチーノ」「ルックス ヴィティス」を造るうえで欠かせないのが、発酵に使っているチューリップ型のセメントタンクです。このタンクの優れているところは、タンク内で自然な循環が起こる点です。発酵する過程でカロリーが発生すると、暖かくなった果汁は上に行き、上部にあった果汁が下に押し出されます。これがコンスタントにどんどん回っていき、まんべんなく果皮と触れるようになるのです。特にサンジョヴェーゼはピサージュをするとタンニンが強く出過ぎてしまうので、その弱点をカバーする非常にメリットのある容器なのです。
チューリップ型のセメントタンク

このおかげで、これまでは飲めるようになるまで5年は待たないといけなかったワインが、若いヴィンテージからでも飲みやすくなりました。このセメントタンクは10年前から実験を始めて、5年ほど前から本格的に導入しています。

こうした形のセメントタンクは、いま流行になっています。セメントタンク自体は30年~40年代にトスカーナではよく使われていましたが、もっぱら量をストックすることが目的でした。2000年代にバリックが広く使われるようになると、当然強いワインができてきます。時代が巡り、木のニュアンスを抑えた優しいワインを造りたいワイナリーが増え、セメントタンクが注目されています。

カベルネを使ったスーパートスカン「ルックス ヴィティス」の誕生

Qルックス ヴィティスが発表されたときは「ルーチェのカベルネ ソーヴィニヨン?!」と驚いた記憶があります。その時のことを教えてもらえますか。

カベルネ ソーヴィニヨンでワインを造るとなり、他のエリア、例えばナパやオーストラリア、チリなどで造られている有名産地のカベルネと比べても競争力のあるワインにしたい。トスカーナのモンタルチーノで造られるカベルネの可能性を示したい。そしてルーチェの他のワインとも通ずるような、エレガントなワインを造りたいという想いが強くありました。

例えば、今日飲むルックス ヴィティス 2020はすでに美味しく飲めますが、同じヴィンテージであれば普通は強すぎてまだ飲めないようなカベルネのワインが大半です。そういうエリアのカベルネとは一線を画すワインが造りたかったのです。

Qメルロー100%のワインというアイディアはこれまであったのでしょうか?

いまのところはありません。カステルジョコンド自体が、モンダヴィがインパクトを受けた「ラマイオーネ」というメルロー100%の素晴らしいワインを造っていますから。
ルーチェアイテム

セカンドとは呼べないほどの完成度!
驚くほど濃厚で繊細な香り、シルキーで濃密な果実感

ルチェンテ 2021

ルチェンテ 2021

アルベルト氏:最初に飲むルチェンテはルーチェの導入のワインで、メルロー75%、サンジョヴェーゼ25%です。熟成は1年間バリック、旧樽80%、新樽20%の割合です。非常にアプローチしやすいワインで、黒系の果実を感じていただけます。この導入ステージのワインからもモンタルチーノらしさがしっかり出ていて、酸とタンニンがとてもいいバランスで感じられます。

2021年のルチェンテはとにかく飲み心地のいいヴィンテージで、注いでからすぐに楽しむことができるワインに仕上がっています。

試飲コメント:サクランボやラズベリー、クロイチゴの熟したフルーツの香り。コーヒーやヘーゼルナッツのほのかな甘い香りも感じることができ、味わいはとてもまろやかでシルクのような滑らかさを感じます。タンニンとアルコールのバランスがとても良く、エレガントでバランスの取れたワインです。

モンタルチーノのサンジョヴェーゼとメルローで造るスーパータスカン

ルーチェ 2021

ルーチェ 2021

ルーチェは、テヌータルーチェの王子、代表的なワインです。サンジョヴェーゼ50%、メルロー50%のブレンド。バリックの新樽80%、旧樽20%で2年間熟成させます。成熟した黒系果実のアロマ、第3のアロマ、スパイシーさ、オレンジ、茶葉、たばこのニュアンスもあります。凝縮感のあるワインです。

しっかりとした酸を感じさせてくれるし、非常にフレッシュ感もあって、口の中をきれいにしてくれる、そういう味わいです。

試飲コメント:ブラックベリーや桑の実など熟した黒い果実を特徴とする複雑さと上品さが際立つ香りをもち、カカオや甘いスパイスの香りへと続きます。口に含むと、バランスが良くいききとした骨格に、みずみずしさのある酸味とやわらかくシルキーなタンニンが加わり、上品な余韻が長く続きます。

力強さとエレガンスを兼ね備えた精妙な味わい
ビックヴィンテージ2019年

ルーチェ ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2019

ルーチェ ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2019

アルベルト氏:サンジョヴェーゼ100%のブルネッロはレンガ色に近い透明感のある色調で、非常にサンジョヴェーゼらしい色合いです。大樽で24ヵ月間という伝統的な熟成方法。バリックに比べて表面積が大きくなるので、ゆっくりと熟成が進みます。

2019年は、ルーチェに限らず、モンタルチーノ中の生産者が「過去30年で一番いい」と評価するヴィンテージです。当然、長期熟成のポテンシャルも備えていますが、このブルネッロは今飲んでも楽しめる心地よさと滑らかな舌触りがあるワインです。

試飲コメント:赤い果実の凝縮した香りが広がります。口に含むと、豊かな味わいとまろやかさが感じられ、見事にタンニンが融合した味わい。驚くほどに風味豊かで、余韻が長く、魅惑的な後味が楽しめます。

重厚感、複雑性が調和する素晴らしく上品な味わい!
ルーチェが造るカベルネソーヴィニョン

ルックス ヴィティス 2020

ルックス ヴィティス 2020

アルベルト氏:「ルックス ヴィティス」とはビッグバン、爆発の意味。カベルネ ソーヴィニヨン95%、サンジョヴェーゼ5%というモンタルチーノではそうやらないブレンドで、これこそ唯一無二のワインです。モダンスタイルで、バリック新樽で25ヵ月間熟成します。

今日試飲した他の3本にも通じますが、モンタルチーノで造っているということが重要な要素になっています。タンニンがあるのに非常に上品で、しっかりとした酸から生まれる飲み心地のいいフレッシュさもある。これらのワインを同じ品種、方法で造ったとしても、モンタルチーノ以外の場所では飲み疲れしてしまう重たいワインになってしまう可能性があります。モンタルチーノで造るカベルネ ソーヴィニヨンだからこその、飲み心地よく複雑さもある、バランスが取れた味わいをぜひお楽しみください。

試飲コメント:極めて濃密な色をし、赤果実からスパイス、トースト香まで感じられる複雑な香りをもつ重厚感あふれるワインです。口に含むと、このワインが持つ力強さすべてが表現され、同時にアルコールと酸味、ストラクチャとの見事なバランスと極上のタンニンにより、素晴らしく上品で調和のとれた味わいとなっています。

インタビューを終えて

イタリアで偉大なワインを造りたいと動き始めたロバート モンダヴィ氏。そのパートナー探しの最中、カステル ジョコンドのメルロー「ラマイオーネ」をきっかけにフレスコバルディと運命的に出会ったお話は、ルーチェのワインを味わううえでより深みを与えてくれる興味深い内容でした。

発足当時からの「エレガントなスタイル」を磨きつつ、「高級ワイン=熟成させるもの、若い内は固い」といった固定概念にとらわれない、いつ開けても、若いヴィンテージからでも楽しめる味わいを追求する姿勢が印象的です。「その複雑さと飲み心地のよさのバランスは、モンタルチーノだからこそできる表現」とアルベルト氏は話します。

中でもモンタルチーノのカベルネ ソーヴィニヨン「ルックス ヴィティス」は、2020年ヴィンテージとは思えないほど角がなく、抜栓1時間後から華やかな香りと、力強い味わいが楽しめました。トスカーナの伝統と新しい技術を取り入れた「ルーチェ」、ぜひ手に取りお楽しみください。