2024/10/30
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アッスンタ ジャンニコ氏 Ms. Assunta Giannico
アブルッツォに初めてファランギーナを持ち込み生産した先駆者!品種の個性とコストパフォーマンスが光る5世代続く家族経営ワイナリー「カンティーネ ムッチ」突撃インタビュー
100年以上続くアブルッツォ州キエーティの家族経営ワイナリー
ニコラは定年を迎えていますが、現在も愛情を注ぐ畑の管理を行なっています。3代目の名前を受け継ぐ5代目のヴァレンティーノはブドウ生産、アウレリアはマーケティングを担当しています。「カンティーネ」とワイナリー名を複数形にしているのは、5代続く一家の集合体というような意味合いでもありますね(笑)。
左からヴァレンティーノ氏、アウレリア氏、ニコラ氏
山と海に囲まれ、豊かなミネラルが生まれる本拠地トリノ・ディ・サングロ
ムッチが拠点を置くキエーティ県トリノ・ディ・サングロは山岳地帯とアドリア海の中間で、山と海の影響を受けるエリアです。カンティーナを囲う形で自社畑があります。標高は120~180mのなだらかな丘陵地です。主に土壌は石灰質土壌で、海沿いなので豊かなミネラル感が生まれるテロワールを有しています。また、赤ワインはこなれたタンニンが特徴的ですね。
トリノ・ディ・サングロ
アブルッツォで初めてファランギーナを持ち込みワインを生産
畑は自社畑が16ha、契約畑が4haで合計20haあります。栽培している品種は、土着品種のモンテプルチアーノ、トレッビアーノ、ペコリーノに加え、国際品種のカベルネ ソーヴィニヨン、メルローなどです。とりわけ珍しいのは、ファランギーナですね。このファランギーナは、1980年代に4代目のニコラがカンパーニャ州のカゼルタに住んでいた時にアブルッツォに持ち込んだものです。
ムッチは、アブルッツォで初めてファランギーナを植樹し、ファランギーナ100%のワインを造ったワイナリーです。アブルッツォでのファランギーナ栽培は冒険的な試みでしたが、成功し、今では上級ラインの「カンティコライン」として生産しています。他の生産者はリスクを冒してまでファランギーナを栽培することは少ないですが、ニコラがファランギーナに魅了されて植樹に至りました。植え替えをすることなく、40年以上経った今もそのブドウを使っています。ファランギーナ(写真右)
品種の個性とコストパフォーマンスを楽しめる
カンティーネ ムッチのラインナップ
ステンレスタンクで発酵・熟成する「ヴァレンティーノライン」
私たちは、いくつかのラインに分けてワインを造っています。「ヴァレンティーノライン」は、発酵と熟成をステンレスタンクで行うラインです。決してエントリーラインということではなく、果実のフレッシュさを存分に発揮させたものです。どの品種も造り方はほぼ同じで、タンクで熟成後、1、2ヶ月の瓶内熟成を経てリリースされます。
ラインナップは、トレッビアーノ、ペコリーノ、モンテプルチアーノです。どのワインにも共通していることですが、特にモンテプルチアーノのロゼは料理と一緒に気軽に楽しめるワインです。ピッツァやトマトソースのシンプルなパスタ料理と最適ですね。日本で食べた秋刀魚のラグーとのペアリングは素晴らしかったです。
上級ワインを彷彿とさせる
長期熟成ポテンシャルを秘めた骨格に優れたトレッビアーノ
気軽に楽しめるワインではありますが、ムッチのトレッビアーノは非常に骨格があり、白ワインでありながら赤ワインのような位置付けです。トレッビアーノは、大量消費されやすいイメージがありますが、私たちのトレッビアーノは最低でも10年から15年楽しめるワインです。幅広い価格帯、幅広い造り方を持つ同品種を、私たちはお手頃で上級ワインのような味わいに仕上げています。
一方で、モンテプルチアーノ ダブルッツォは典型的な味わいを表現しています。色合いや骨格がしっかりしており、飲めばすぐにイメージ通りのモンテプルチアーノ ダブルッツォだと感じられるでしょう。
濃密な風味に満ちた「カンティコライン」
カンティコラインには、ファランギーナとモンテプルチアーノがあります。ファランギーナは、以前までバリックで発酵と熟成をしていましたが、2020年ヴィンテージからステンレスに変わりました。一方、モンテプルチアーノはトースト度合いの高いバリックを使用して、バニラ香など濃密な風味を引き出しています。
カンティコとは、讃美歌を意味しています。また、アッシジの聖フランチェスコが創作した「カンティコ・デッレ・クレアトゥーレ(被造物の讃歌)」や、旧約聖書の「雅歌(ソロモンの歌)」とも関わりがあります。カンティコラインのラベルデザインには、ムッチ家に代々ミュージシャンを輩出してきた背景があることから、楽譜をモチーフにしたデザインが描かれています。
良年のみ造るバリック熟成ワイン
4つの品種がハーモニーを奏でる「クバディ」
クバディはモンテプルチアーノを主体にバリックで長期熟成させるワインです。優良年のみ造られます。ラベルに描かれる弦楽器は、ムッチ家の先祖の背景や4つの品種で造ることに由来しています。クバディという名前は、アブルッツォの古い方言で「Che vuoi dire?(ケ ヴォイ ディーレ/どういう意味?)」に由来しています。
フレッシュな酸と優れた骨格を持つトレッビアーノ |
トレッビアーノ ダブルッツォ |
トレッビアーノ100%。ステンレスタンクで発酵と熟成を行います。緑がかった黄色麦わら色。黄桃やトロピカルフルーツの豊潤な香り。フレッシュで調和のとれた味わい。魚介類や野菜の前菜、白ワインのソースを使った料理との相性抜群です。 |
試飲コメント:やや深みのある麦わら色。フレッシュな柑橘や、黄桃などの黄色い果実が広がる香り。味わいはフレッシュな酸がありながらもふくよかで、黄色い熟した果実。非常に長い余韻が特徴的です。 |
爽やかなミネラルと凝縮感に満たされるペコリーノ |
ペコリーノ テッレ ディ キエーティ |
ペコリーノ100%。ステンレスタンクで発酵と熟成を行います。淡い黄色。トロピカルフルーツを思わせるフローラルな香り。フレッシュかつ華やかな香りで、あらゆる地中海料理とベストマッチ。アペリティフとしても最適です。 |
試飲コメント:やや濃い麦わら色。花などのアロマティックなニュアンスに加え、黄色い果実の凝縮感と爽やかなミネラルを感じる香り。フレッシュで、ハーブや華やかな酸があり、果実感がエレガントながらも、ジューシーな生き生きとした味わいです。全体的にクリーンで親しみやすい印象です。 |
優れた骨格とエレガンスを兼ね備えるファランギーナ |
カンティコ ファランギーナ テッレ ディ キエーティ |
ファランギーナを100%。2020年よりスタイルを変え、ステンレスタンクで発酵と熟成を行います。花と熟した黄色い果実のアロマ。適度な酸があり、ボリュームと骨格を有する柔らかな口当たり。 |
試飲コメント:黄金色。バナナなどの南国果実、濃縮感のある果実、黄色い果実のニュアンスに加え、ミネラルが感じられる香り。口当たりが柔らかく丸みがあり、エレガントな風味が広がります。後味には若干のバターのニュアンスが現れます。 |
華やかでフレッシュさが際立つモンテプルチアーノ100%ロゼワイン |
チェラスオーロ ダブルッツォ |
モンテプルチアーノ100%。ステンレスタンクで発酵と熟成を行います。チェリーレッド色。チェラスオーロらしいフルーティな香りとほんのりとしたタンニン、すっきりとした爽やかな甘みで、フルボディで柔らかい口当たりを楽しめる。フレッシュで軽めの料理、パスタ、白身肉、グリルした魚料理と良く合います。 |
試飲コメント:輝くピンク色。華やかで赤い果実が感じられる香り。エレガントで繊細、チャーミングさがあります。味わいは軽やかでありながら、梅や赤い果実の凝縮感があり、フレッシュな酸が心地よく持続します。 |
豊かな果実味が心地よいモンテプルチアーノ |
モンテプルチアーノ ダブルッツォ |
モンテプルチアーノ100%。ステンレスタンクで発酵と熟成を行います。すみれがかった濃いルビー色。繊細なアロマとまろやかな味わいが心地よく、程よい酸味とタンニンのバランスがとれたいきいきとした赤ワイン。パスタやライス、ローストした肉料理とともに。 |
試飲コメント:ルビー色。ブルーベリーなどのベリー系果実、コンポートのような濃縮感のある香り。ほどよい骨格でフルーティかつ凝縮感がある味わい。ブルーベリーのニュアンスが際立ちます。 |
12ヶ月以上バリック熟成の力強く複雑なモンテプルチアーノ |
カンティコ モンテプルチアーノ ダブルッツォ |
モンテプルチアーノを100%。ミディアムトーストしたフレンチオークのバリックで12~13ヶ月熟成しています。チェリー、ブラックベリーのアロマにスパイスなどのニュアンス。豊かな果実味で非常に滑らかな飲み口ながら、しっかりとした骨格も備えているモンテプルチアーノです。 |
試飲コメント:やや深みのあるルビー色。凝縮した果実、チョコレート、力強い黒い果実が感じらる濃密な香り。香り同様の味わい。心地よいタンニンと甘やかさがあり、樽由来のバニラのニュアンスが余韻として持続します。複雑なカカオのようなニュアンスもあります。 |
カンティーネ ムッチの最上級キュヴェ
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クバディ ロッソ |
品種構成はモンテプルチアーノ、カベルネ ソーヴィニヨン、サンジョヴェーゼ、メルロー。濃厚なルビーレッド。ミックスベリーとバニラの香り。濃厚かつ繊細で、生き生きとした味わい。長期熟成に向いており、長く持続する余韻がエレガントさを増幅させます。 |
試飲コメント:深みのあるルビー色。力強く複雑で甘やかな香り。黒い果実の濃縮感があります。味わいは非常に甘やかで、口の中でコンポートのような風味が広がります。まろやかさとフレッシュな酸、タンニンが溶け合った余韻が持続します。 |
インタビューを終えて
一方でバリックで造るカンティコラインのモンテプルチアーノやクバディは、非常に濃密な味わいで瞑想ワインにぴったりだと感じました。非常に力強く複雑ですが、エレガンスを感じさせる余韻がありました。カンティコのファランギーナも、ステンレス熟成ながらも凝縮した味わいで、充実感のある味わいで素晴らしかったです。