2024/11/29
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ベンジャミン フランケッティ氏 Mr. Benjamin Franchetti
鬼才フランケッティ氏が50以上の区画から緻密に造り上げた至高の逸品!独自のテロワールと未来を見抜く偉大な直感力が生む驚愕のトスカーナ「テヌータ ディ トリノーロ」突撃インタビュー
未開の地トスカーナ南東部サルテアーノの潜在力を見抜き、
創業当初に極めて稀な国際品種の栽培を開始
トリノーロは、私の父アンドレアが1980年に創業したワイナリーです。彼は偉大なワインを造ると決心し、理想の土地を探し求めました。しかし、それはモンタルチーノやモンテプルチアーノ、ボルゲリ、キャンティといった、いわゆるクラシックな産地ではありませんでした。最終的にたどり着いたのは、トスカーナのオルチャ渓谷にあるサルテアーノ。人里離れた、何もない孤立した美しい場所でした。
林氏「きっと数百年前も同じ景色だったのだろうなと想像してしまう牧歌的な風景ですね」
天才的な閃きで、誰も植えていない国際品種を先駆けて栽培
父は直感と実験を重視する人でした。この土地を訪れると、「ここだ!」とインスピレーションを受けて畑の取得に至りました。一般的には土着品種のサンジョヴェーゼを植えるところを、ボルドーのサンミリオンを好んでいたこともあり、主にメルローとカベルネ フランを植え始めました。品質が期待通りでない場合は、樹を抜いたり、別の品種に接木することもありました。その繰り返しで、現在の畑を確立していきました。
アンドレア・フランケッティ氏が見つけ植樹した標高の高い小区画の畑
所有する土地の広さは約200ha、そのうちブドウ畑は20haです。植えている品種とその割合は、メルローとカベルネ フランがそれぞれ45%、その残りがカベルネ ソーヴィニヨン、プティヴェルド、セミヨンです。今でこそトスカーナでも多く植えられている国際品種ですが、1980年当時は非常に稀でした。それに加え、ここの土壌は非常に強い粘土質土壌で、ブドウ栽培に適した場所を見つけるのは難しかったです。
そんな中、父はワイン造りに適した非常に小さい区画を見つけ出しました。畑の地図をご覧ください。ポツポツとハンカチを置いていくような感じで区画が分かれています。セミヨンに至っては、0.5haしかありません。写真だと平地に見えますが、傾斜のある標高の高いエリアになります。
「詳細な分析」「徹底した管理」「細やかな調整」
トリノーロの緻密なワイン造りプロセス
私たちのワイン造りは、非常に緻密なプロセスを経て行われます。20haの畑を詳細に分析して、50の区画に分けて管理しています。例えば、メルローとカベルネ フランはそれぞれ10ha弱で15~20区画に分かれています。区画ごとにブドウの成熟具合は異なるので、当然収穫する時期は異なります。
収穫日、ブドウ品種、畑、収穫量、醸造に使う樽の種類などを記載したリストを用いて細かく管理しています。そして、収穫したブドウは、それぞれ異なる樽に入れられて別々のワインとして仕上げられます。
林氏「各区画で複数の樽が使われるので、実質50種類以上のワインができます」
区画の個性を見極めて、数%単位で行われるブレンド調整
――細かく収穫、醸造されたサンプルを、どのようにブレンドしてワインを完成させていくのですか?
まずは品種に関係なく、酸や余韻の長さなどの「その年の特徴」に注目し、素晴らしいと感じたものを選び出します。その後、ブレンド比率を調整していきます。例えば、カベルネ フラン70%とメルロー30%を試し、合わないと感じたら2%ずつ減らすなど、細かい調整を繰り返して最適なバランスを見つけていきます。
最終的なブレンド比率が決まるまでに、1ヶ月かかることもあります。毎日10時間も行うわけではないですし、数日間中断して再開する場合もあります。私は2015年頃からワイナリーに参画してブレンドの決定に携わってきましたが、父が亡くなった2021年以降は全て自分で決定しています。
2代目当主ベンジャミン・フランケッティ氏が解説
トリノーロのワイン造りの極意が詰まったラインナップ
偉大なセカンド「レ クーポレ」
トップキュヴェのテヌータ ディ トリノーロは、最高品質を実現すべくブレンドをしていますが、生産量は全体のわずか6~7%に過ぎません。一方で、レ クーポレは全体の90%です。つまり、私たちがワインを造るのに費やす労力、努力のほとんどはレ クーポレに注いでいると言っていいでしょう。
セカンドワインとは言えないようなクオリティで、私も大好きなワインです。品質が非常に高く、ストラクチャーや複雑さ、深みを持ちながらも飲みやすさがあり、さらに長い年月をかけて楽しめるポテンシャルもあります。トスカーナのコストパフォーマンスに優れたワインと評価される、毎日楽しめるワインです。
Photo by Enea Barbieri(Tenuta di Trinoro)
アンドレア氏が40年も前から着目し植えていた
カベルネ フラン100%のクリュ3種「カンポシリーズ」
カンポシリーズという、カベルネ フラン100%を全く同じ醸造法で造るワイン3種があります。一般的にはベジタブルやピーマンのニュアンスを持つカベルネ フランですが、ここでは全く異なる特徴が生まれます。試飲会などでは「こんなカベルネ フランは飲んだことがない」といった声が多く、非常に嬉しく思います。
トスカーナにはカベルネ フランに適した土壌があり、近年では生産する造り手も増えてきました。しかし、父のように40年前からトスカーナでカベルネ フランを植えようとする人はほとんどいませんでした。父の先見性や直感力を感じますね。カベルネ フランを愛した父の思いを私も引き継いでいます。
・マニャコスタ
標高450m、砂利や小石の多い土壌で、柔らかさとフレッシュさを持つワインを生む畑。
・テナリア
標高500m、粘土質土壌で凝縮した果実と豊富なタンニンを生む畑。
・カマージ
標高550m、粘土、砂、石の多い土壌で、バランスとエレガンス、厳格さを生む畑。
トップキュヴェになるのは、わずか6%!
まさにテーラーメイドで仕上げられる至高の逸品「テヌータ ディ トリノーロ」
テヌータ ディ トリノーロは、Su Misura、つまりテーラーメイドで造られるワインです。デザイナー(造り手)が最高の素材(区画、品種)を選び、その年の流行(ヴィンテージ)を反映させた逸品です。レシピは存在せず、これまで造り上げてきた経験や畑の知識をもとに、妥協なく造られています。このこだわりを理解していただけると嬉しいです。
50の区画から単に最高品質を選んで掛け合わせるのではなく、最高品質同士の相性も考慮しなければなりません。そのため、ブレンドの品種や比率は毎年異なります。およそ8~10の最高のワインがブレンドされます。中心となるのはカベルネ フランなのかメルローなのか、それとも別の品種が加わるかはわからないです。例えば、2020年はカベルネ フラン92%、メルロー8%、2021年はカベルネ フラン40%、メルロー60%でした。
Photo by Enea Barbieri(Tenuta di Trinoro)
フランケッティ氏が先駆的に挑んだエトナ「パッソピッシャーロ」
パッソピッシャーロは、2000年に父がエトナで始めたワイナリーです。当時のエトナはテヌータ ディ トリノーロと同じで、創業時はほとんど注目されていませんでした。しかし、創業前にエトナを訪れた父は、樹齢100年を超えるネレッロ マスカレーゼの樹々が一面に広がる様子を目の当たりにし、その価値の高さを直感したのです。
そんな貴重な畑は他にはなく、「これはすごい」と確信した父はワイナリーを始めることを決意しました。そして、父を追うように多くの生産者がエトナに参入していきました。エトナを一躍有名産地にした父は、まさにパイオニア的存在だと言えるでしょう。
鋭い酸と柔らかさが見事に調和!
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ビアンコ ディ トリノーロ 2022 |
ベンジャミン氏: 「もともとこのワインは、私の祖母が長く愛飲していたものです。セミヨンを植えたのは2000年頃で、当初はボトリングや販売をしていませんでした。2008年頃のヴィンテージを、祖母のもとを訪れた際に試飲したところ、7年以上経過したセミヨンが驚くほど素晴らしい味わいになっていることに気づきました。これを機に本格的に造る決意をし、2018年からビアンコ ディ トリノーロとして正式にリリースを開始しました。生産量は2000本程度と非常に限られています。年月を経るほどにセミヨンのポテンシャルが引き出される逸品です」 |
試飲コメント:黄金に近い麦わら色。白い果実や白桃、白い花、ミネラルを感じる香りで、フレッシュで鋭い酸と柔らかさが調和する華やかな味わいです。 |
カベルネ フラン100%のクリュ「カンポ」シリーズ!
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カンポ ディ マニャコスタ 2022 |
ベンジャミン氏: 「マニャコスタは標高450m程度で、カンポシリーズの中では一番低い位置にあるカンティーナからすぐの畑です。土壌は沖積性で砂利や小石が多く含まれていますが、一般的なイタリアの石灰分と粘土質の強い土壌とは異なる特徴を持っています。ブドウ樹の根が非常に深くまで伸び、柔らかさとフレッシュさを持つワインを生みます。生産量は1000本程度の希少なワインでもあります」 |
試飲コメント:深みのあるルビー色。熟した果実とフレッシュな果実が優雅に調和した香り。滑らかで柔らかな口当たりとフレッシュな酸、繊細な余韻がエレガントさを際立たせます。 |
カベルネ フラン100%のクリュ「カンポ」シリーズ!
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カンポ ディ テナリア 2022 |
ベンジャミン氏: 「テナリアは標高500mの粘土質が多い土壌から造られる、非常に特徴的なカベルネ フランです。この畑で生まれる果実は驚くほど小さく凝縮しており、初めて見たときには果汁が入っているのかと疑問に思うほどでした。ワインのタンニンは熟しているものの、力強いアクセントを持っています。これはテナリアの土壌由来の特徴です。そのタンニンは質が非常に良いですが、まるで粘土を食べたような感覚を与える個性があります。生産量は1000本程度の希少なワインでもあります」 |
試飲コメント:ガーネットに近い深いルビー色。黒い果実やスパイス、ミネラルが豊かに香り、主張のあるタンニンと豊かな果実味が骨格の強さとともに長い余韻を演出します。 |
カベルネ フラン100%のクリュ「カンポ」シリーズ!
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カンポ ディ カマージ 2022 |
ベンジャミン氏: 「カマージは標高550mでカンポシリーズで最も標高の高い畑。上に行くほど石や岩石が増えます。粘土質、砂質、石の多い土壌からバランスの取れたエレガンスを持つワインを生み出しています。一方で、厳格さも際立ち、マニャコスタとテナリアと比べてしっかりっとしたニュアンスがありますね。生産量は1000本程度の希少なワインでもあります」 |
試飲コメント:深いルビー色。熟した黒い果実やジャムの香りが力強さを示し、力強いタンニンと綺麗な酸がエレガントな余韻を生み出しています。 |
品種の個性が最大限引き出された豊かな果実味とタンニン!
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パラッツィ 2022 |
ベンジャミン氏: 「メルロー100%で造られるパラッツィです。現在のパラッツィは2代目にあたります。初代は1997年から1999年まで造られ、セパージュはカベルネフランとメルローが50%ずつでしたが、2000年から生産をやめ、2007年に現在のメルロー100%の形で復活しました。トップキュヴェのトリノーロを造る際に、最高のカベルネ フランやメルローが選ばれますが、品質は良くても収量や他品種との相性といった点で使用されないものもあります。それらを単一品種のメルローとしてボトリングすることで、パラッツィの2代目が誕生しました。トスカーナではメルロー100%のワインが数多く造られていますが、私たちのメルローは大陸性気候により、昼は暑くても夜は非常に冷え込むため、フレッシュでしっかりとした酸が生まれます。そして、ミネラリーでバランスの取れたワインに仕上がるのです」 |
試飲コメント:ルビーに近いガーネット色。黒い果実やカカオ、ハーブを感じる香り。豊かな果実味と力強いタンニンが相まって、骨格の優れた余韻が長く持続します。 |
優れた骨格、複雑性、深み、飲みやすさを兼ね備えた偉大なセカンドワイン
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レ クーポレ ディ トリノーロ 2022 |
ベンジャミン氏: 「レ クーポレの生産量は90%を占めており、私たちの努力や労力の90%はレ クーポレに注がれていると言っていいでしょう。非常にクオリティの高いワインであり、深みや複雑性、ストラクチャーに優れるだけでなく、飲みやすさや飲み心地の良さも兼ね備えています。トスカーナのコストパフォーマンス最高のワインと評価されることもあり、毎日楽しめて、気づいたら飲み終えているような親しみやすさが特徴です。また、熟成可能なワインでもあります。2022年は暑い年でしたが、収穫の後半にまとまった雨が降り、フレッシュでフルーティーな果実風味がふわっと広がるヴィンテージとなりました」 |
試飲コメント:ガーネットに近いルビー色。熟した果実とフレッシュな果実が香る力強く複雑なアロマ。豊かな果実味とタンニンが綺麗に調和し、骨格がありながらエレガントな味わい。余韻が長く持続します。 |
優れた骨格、複雑性、深み、飲みやすさを兼ね備えた偉大なセカンドワイン
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レ クーポレ ディ トリノーロ 2021 |
ベンジャミン氏: 「レ クーポレの生産量は90%を占めており、私たちの努力や労力の90%はレ クーポレに注がれていると言っていいでしょう。非常にクオリティの高いワインであり、深みや複雑性、ストラクチャーに優れるだけでなく、飲みやすさや飲み心地の良さも兼ね備えています。トスカーナのコストパフォーマンス最高のワインと評価されることもあり、毎日楽しめて、気づいたら飲み終えているような親しみやすさが特徴です。また、熟成可能なワインでもあります。2021年は暑く非常に乾燥した年で、ストラクチャーや凝縮感の高いワインに仕上がりました」 |
試飲コメント:ガーネット色。熟した黒い果実とスパイスの香りが特徴で、タンニンとフレッシュな酸が溶け合う味わいです。肉料理と合わせたくなる印象があります。 |
2代目当主ベンジャミン氏が初めて一人で手がけた
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テヌータ ディ トリノーロ 2021 |
ベンジャミン氏: 「テヌータ ディ トリノーロは一切の妥協なく造られた“Su Misura”、つまりテーラーメイドやオートクチュールのような逸品です。50以上の区画から最良の品種を選び、その年の特性を反映して造られた最高のワインです。2021年は、父がいなくなり、自分自身でブレンドを担うことになった非常に重要な年でした。責任を強く感じる年でもあり、結果としてポテンシャルが高くエネルギッシュなワインが完成しました。このワインは、口に入れるとビンタをされたかのような衝撃的な印象がありつつ、縦に長い味わいです。若い状態でも楽しめますが、時間が経つごとにより良い熟成を遂げていくと考えています。また、飲む際には温度管理が重要で、20度以上になると味わいが損なわれるため、適切な温度で楽しんでいただくことを強く推奨します」 |
試飲コメント:深いガーネット色。力強さとエレガントさを併せ持つ黒い果実の洗練された香り。骨格があり果実味やスパイス、ミネラルのニュアンスが美しく広がる繊細で優美な味わい。 |
インタビューを終えて
細かく分けられた区画や、その区画ごとにブレンドしてワインを造っていく哲学は非常に興味深かったです。その年の最高を表現して各区画がブレンドされる最上級キュヴェ「テヌータ ディ トリノーロ」。生産量の90%を占め、90%以上の労力(ブレンド作業)をかけて造られる超コスパのセカンド「レ クーポレ」。最高の品質を単一品種で表現するメルロー100%「パラッツィ」。初代フランケッティ氏が何十年も前から手塩にかけてきたカベルネ フラン100%のクリュ「カンポシリーズ」。ベンジャミン氏の解説を聞きながら試飲することで、トリノーロのワインに対する理解度が非常に深まったインタビューとなりました。