約140社を手がけた元ワインコンサルタントが創業!北の銘醸地フリウリ「ボルトルッツィ」突撃インタビュー

2025/01/06

2024/11/22

アルベルト ボルトルッツィ氏 Mr. Alberto Bortoluzzi、アンジェラ ボルトルッツィ氏 Ms. Angela Bortoluzzi

約140社を手がけた元ワインコンサルタントが創業!徹底した哲学のもと一部の最高品質だけでワインを造り出す北の銘醸地フリウリ「ボルトルッツィ」突撃インタビュー

ボルトルッツィは、1982年に白ワインの銘醸地フリウリで創業した家族経営ワイナリーです。創業者は元ワインコンサルタントとして活躍したジョヴァンニ・ボルトルッツィ氏で、現在は家族全員でワイナリーを運営しています。合計50haの所有畑からフリウリに根付く多種多様なワインを生産。そして、常に最上の品質を追求するという理念に基づき、ボトリングするのは一部の最高品質のみというこだわりを見せます。今回は、2代目のアルベルト・ボルトルッツィ氏とアンジェラ・ボルトルッツィ氏をお迎えして、お話を伺いました。

140社を手がけたワインコンサルタントが創業
白ワイン銘醸地フリウリの家族経営ワイナリー

1982年、グラディスカ・ディゾンツォに創業
――ワイナリーの紹介からお願いいたします。

アンジェラ ボルトルッツィは、1982年に私たちの父ジョヴァンニ・ボルトルッツィが創業したワイナリーです。今日は来ていない長男アレッシオが醸造、次男アルベルトが栽培、私アンジェラがマーケティングを担当しています。植樹からボトリングまで一貫して、親子と社員数名だけでワイナリーを運営しています。外部のコンサルタントはいません。

拠点を置くのはグラディスカ・ディゾンツォ。イゾンツォ川の近くで、コッリオから下ってきた平野部です。創業当初は、数haの畑を借りてワイン造りを始めましたが、現在ではほぼ全てが自社畑で合計50haに至ります。
家族5人

引く手あまたのコンサルタントとして活躍した創業者
ジョヴァンニ氏とともに畑で過ごした2代目の3兄弟

――創業前、ボルトルッツィ家は何をされていたのですか?

アルベルト 父は醸造家として長年コンサルタント業を営んでいました。フリウリを中心にヴェネトのワイナリーまで、合計約140社を見ていました。醸造学校でも指導していた経験があり、現在でもコッリオのワイナリーの人たちがアドバイスを求めに来ています。

そのため、私たち兄弟3人は幼少期から父と一緒に畑で過ごしていました。私はボルトルッツィの創業前に生まれたので、父の仕事場や畑について行っていましたね。現在は、兄弟がそれぞれの部門で責任者を務めるまでになりました。

特性の異なる各地の所有畑を活かし、理想のワイン造りを追求
アルベルト 畑はカンティーナから20km圏内に位置し、大きく分けて5、6つの地域に点在しています。この辺りは複合的に土壌が入り組んでおり、3つのDOC(コッリオ、イゾンツォ、カルソ)が重なったエリアです。1つの地域の中でもさらに区画が点在していて、土壌や品種の特性に合わせて畑を所有しています。

例えば、ピノグリージョの畑ひとつとっても、香り担当、味わい担当などと区画が分かれています。まとまった畑ではないので作業効率は良くないですが、多様な土壌があることで理想的なワイン造りが可能となります。

また、父が持つ広い人脈によって譲り受けた畑もいくつかあります。最近では後継者がいないという理由で新たに畑を取得することもありました。畑があちこちに点在しているため、仲間内での意思疎通をスムーズにするべく、元の所有者の名前やあだ名で畑を呼んでいます。

基本理念は「常に最上の品質を追求」
最高品質のみボトリングする徹底したこだわり

スピード、正確性、品質の安定性を可能にする収穫の機械化
アルベルト 近年は平地という地形を活かし、収穫作業の機械化を進めています。これにより、暑さが厳しい環境でも素早く収穫ができ、30分でワイナリーへブドウを持ち込む体制が整いました。今年は朝4時半から収穫を始め、11時に終えることができました。手摘みの良さはありますが、これ以上遅いと気温が高くなりブドウがダメになってしまいます。

また、この収穫機は完熟ブドウのみを自動選別するため、品質を保ちながら効率的な収穫が可能です。導入当初はテーブルワイン用のブドウで試験的に使用し、品質に問題がないことを確認したうえで2022年から本格的に導入しました。一方で、丘陵地のコッリオにあるフリウラーノなど、機械が入れない場所では手摘みで収穫しています。

大量のリザーブワインから最高品質だけをボトリング
アルベルト 私たちの基本理念は「ボルトルッツィ家として誇りを持てるワインだけをボトリングすること」です。それを実現するために、生産量を上回る大量のリザーブワインを保有しています。収穫前にヴィンテージの出来や畑の特性を考慮し、ブドウのクラス分けを行い、ワインが完成した後にも再度確認をします。

そして、父が品質を認めたものだけを「ボルトルッツィ」の名前でボトリングします。それ以外はバックインボックスやバルクワインとして販売しています。エチケットには「より良いものへ」を意味する「AD MAIORA」というラテン語が書かれているように、常に最上のワインを追求する家族の理念が込められています。
シンボルマークのヤギは当主ジョヴァンニ氏が山羊座であることに由来

フリウリの歴史と食文化に根付く伝統品種
土着品種フリウラーノ、国際品種カベルネ フラン

フリウリを象徴する伝統品種フリウラーノ、カベルネ フラン、メルロー
アルベルト フリウリの品種と言えばフリウラーノ、カベルネ フラン、メルローです。フリウラーノはその名の通り、白ワイン産地であるフリウリで特に愛着のある白品種です。そして、カベルネ フランとメルローは国際品種ながらも昔から根付く土着的な品種として認知されています。特にカベルネ フランに関して、フリウリ人は「自分たちのブドウ」という感覚が強いです。私の祖父の時代よりも前から植えられている品種です。
エチケットが他と異なるフリウラーノとメルローは、リゼルヴァ的な立ち位置

フリウリの郷土料理と最高のマリアージュを見せるカベルネ フラン
アルベルト フリウリはアドリア海に面していますが、豚肉の消費量はイタリア国内でトップクラスです。世界的に有名なサンダニエーレの生ハムはもちろん、脂身の多いグーラッシュやムゼットといった郷土料理が有名です。こうした重ための料理を、フリウラーノのアルコール感や、カベルネ フランのタンニンで洗い流すのが現地流のペアリングです。

寒く乾燥した冬は、まさに生ハムが作られる時期です。その際、使われない部位はグーラッシュなどの煮込み料理に使われ、濃厚で重たい料理になりますが、カベルネ フランと絶妙な相性を見せるんです。この季節にフリウリに来れば、思わずワインと一緒に食べ過ぎて簡単に5kgくらい体重が増えますよ(笑)。
郷土料理「グーラッシュ」とカベルネ フラン

ボルトルッツィの名刺代わりとなるピノグリージョ

ピノ グリージョ 2023
ピノ グリージョ 2023

アルベルト氏:
「ピノグリージョは、私たちの名刺代わりとなるワインです。今回、日本初公開です。もともと父が一番好きなワインであり、生産量も最も多いワインです。2023年は暑い年でしたが、収穫のタイミングを間違わなかったおかげで、13度のアルコール度数ながら酸をしっかりと感じられると思います」
試飲コメント:黄金色。青リンゴや黄色い果実のみずみずしい香り。なめらかな口当たりで、果実味と酸のバランスの優れた味わい。あとからふくよかな風味と心地よい苦味が現れます。

完熟果実と心地よい酸が調和した一部樽熟成シャルドネ

シャルドネ 2023

シャルドネ 2023

アルベルト氏:
「全体の20~30%を新樽バリックやトノーで醸造したシャルドネです。ボリューミーでふくよかな味わいが引き出されています。シャルドネは唯一樽を使った白ワインで、使用後の樽は赤ワインの熟成に使用しています。時間の経過とともに味わいの変化を楽しんでいただけます。今後さらに丸みを帯びた味わいになっていくでしょう」
試飲コメント:麦わら色よりの黄金色。パイナップルなどの熟した黄色い果実や白い花の香り。繊細かつなめらか口当たりがあり、バナナのような風味と心地よい酸が調和しています。

フレッシュでエレガントな香り!
コッリオの丘陵地で造る少量生産フリウラーノ

フリウラーノ 2022

フリウラーノ 2022

アルベルト氏:
「フリウラーノは、最も生産量が少なく、年間で最大6000本程度の白ワインです。畑は2つあります。50年ほどの歴史がある契約畑がメインで、そこに5~6年前から使い始めた畑をブレンドしています。コッリオDOCの丘陵地にあり機械が入れないため、フリウラーノに関しては手摘みで収穫しています。フリウラーノは名前の通り、私たちが特に愛着を持つワインで、サンダニエーレの生ハムとの相性が抜群です」
試飲コメント:輝く麦わら色。白い花や柑橘が香るエレガントなアロマ。フレッシュで心地よい酸と果実味が溶け合った風味が持続します。

複雑に絡み合う豊かな風味とフレッシュな酸のソーヴィニヨン

ソーヴィニョン 2022

ソーヴィニョン 2022

アルベルト氏:
「異なる畑のブドウをブレンドして造られたソーヴィニヨンです。畑は4箇所。すべてグラディスカにあり、粘土質や砂質といった多様な土壌を持っています。複数の畑から造ることで、豊かな複雑さが引き出されています。ソーヴィニヨン特有の香りだけでなく、香りも味わいも幅広く、豊かさを堪能いただけます」
試飲コメント:麦わら色。ハーブやアロマティックな要素が複雑に絡み合う香り。まろやかな口当たりと親しみやすい味わい。フルーティでフレッシュな酸の余韻が持続します。

脂身の多い料理に最適
フリウリで古くから根付く伝統品種カベルネ フラン

カベルネ フラン 2021

カベルネ フラン 2021

アルベルト氏:
「すべてステンレスタンクで造られるカベルネ フランです。2021年ヴィンテージでは胡椒の香りが現れています。これは毎年出るわけではないため、非常に成功した年と言えます。一般的にメルローやカベルネフランは国際品種と捉えられがちですが、フリウリの人々にとってカベルネ フランは自分たちのブドウだという認識が強くあります。フリウリでは昔から、白はフリウラーノ、赤はカベルネフランが主に植えられていました。カベルネ フランの使い方はフリウラーノと似ています。この地域の脂身の多い料理、特にグーラッシュは、フリウラーノのアルコール感とカベルネ フランのタンニンの相性が最高です」
試飲コメント:ルビー色。黒系果実や黒胡椒、熟した果実の上品な香り。味わいは香り同様にエレガントでクリーン、そして心地よいスパイスを感じる余韻が持続します。

完熟果実とスパイス感が広がる樽熟成カベルネ ソーヴィニヨン

カベルネ ソーヴィニヨン 2020

カベルネ ソーヴィニヨン 2020

アルベルト氏:
「カベルネ ソーヴィニヨンは熟成を要する品種であり、かつてフリウリでは栽培が難しいとされていました。しかし、近年の温暖化により完熟させることが可能となり、品質の向上につながりました。現在では難なく造れるようになり、安定した生産ができています。カベルネ フランとは異なり樽熟成をしているため、丸みを帯び、親しみやすい味わいに仕上がっています」
試飲コメント:輝くルビー色。黒い花や黒系果実、スパイスの複雑な香り。爽やかさも感じます。熟した果実とスパイスの風味が広がるエレガントな味わいです。

優良年のみアパッシメントで造る複雑で豊かな風味のメルロー

メルロー 2019

メルロー 2019

アルベルト氏:
「このメルローは、口の中で爆発が起こるようなワインです。収穫前には酸を適切に残すよう計算しているので、10年経っても美味しく飲めると考えています。実は完璧な状態で収穫できた年だけアパッシメントを軽く行っています。アパッシメント自体は父のアイデアで、20%未満の水分減少を目標にしています」
試飲コメント:深みのあるルビー色。黒系果実や花、スパイス、革のニュアンスを感じる香り。口当たりは力強く広がりを見せ、果実やスパイスの要素が豊かに感じられる味わいです。余韻に胡椒のような風味も感じます。

インタビューを終えて

ボルトルッツィのワインは、バランスに優れた心地よい味わいが印象的でした。畑ごとに異なる土壌特性を活かして、それぞれの個性を引き出し、かつ親しみやすい味わいが表現されていると感じました。また、優れたコストパフォーマンスも大変魅力的です。

「フリウリを象徴する伝統品種」だというフリウラーノとカベルネ フランは、どちらも果実味と酸のバランスが絶妙で、食欲をかき立てる味わいでした。フリウリの郷土料理とのペアリングについての話も非常に具体的で、料理とワインの味わいの組み合わせが容易に想像でき、つい食事を欲してしまうような内容でした。

加えて、ピノグリージョも素晴らしく、フルーティさに程よいボディ感が加わり、これもまた食事との相性をより一層引き立てるワインだと感じました。アルベルトさんとアンジェラさんのお話、そして試飲を通して、フリウリについてもっと知りたくなるようなインタビューでした。