シチリアの白ワイン銘醸地アルカモ最高標高の畑を所有する自然派「ロンガリコ」突撃インタビュ

2025/01/14

2024/11/29

ルイージ スタルテリ氏 Mr. Luigi Stalteri

シチリアの白ワイン銘醸地アルカモで最高標高650mの畑を所有!ナチュラルな造りで土着品種カタラットのエレガンスを表現する自然派「ロンガリコ」突撃インタビュー

ロンガリコは、シチリア西部に位置する白ワイン銘醸地アルカモの自然派ワイナリーです。所有畑の1つは、アルカモで最も高い標高650mの畑。その畑は、今まで一度も農業が行われていない自然保護区域にあり、ゼロから開墾をして、化学物質を一切使わないピュアな環境でワイン造りを行っています。主に造るのは土着品種カタラット。標高による昼夜の寒暖差により、ゆっくりと成熟したブドウが鮮やかな酸味と長い余韻をワインにもたらします。今回試飲した3種のカタラットは、醸造の違いによる個性がありつつも、共通してエレガントで奥行きのある味わいでした。当主のルイージ スタルテリ氏をお迎えし、ワイン造りとその想いについてお話を伺いました。

アルカモ自然保護区ボニファト山で行うワイン造り

――今回ご一緒に来日されたアレッサンドロ・ヴィオラさんとは幼馴染なんですよね。

腐れ縁ですね(笑)。アレッサンドロとは15歳の頃からサッカーやライフセーバーのアルバイトなど、友人同士として多くの経験を共有してきました。現在はお互いにワイン造りをしています。

「すごいワインができる」
醸造家アレッサンドロ氏の一声をきっかけにワイナリーを創業

――どういう経緯でワイン造りを始められたのですか?

私はシチリア出身ですが、ボローニャでワインバーとオステリアを営んでいました。その頃から職人的なワイン造りに興味があり、イタリアだけでなく世界各国のワインを飲んでいるうちに、ブドウと土地がそのまま表現されたワインに惹かれていきました。化学物質不使用、ノンフィルターで造るワインです。

当時ピエモンテで醸造家として働いていたアレッサンドロは、週末になるとよくボローニャまで遊びに来ていました。その時に、私がシチリアのボニファト山に所有する標高の高い畑の話をすると、「きっとすごいワインができるぞ」と言われたんです。それから、ワインを造ってみたいという気持ちが強くなり、家族との思い出のあるシチリアに戻ることを決めました。

アレッサンドロ氏から独立し、ワイナリー10周年を迎える
ワイナリーを設立したのは2015年です。場所はシチリア西部のアルカモ。ここの生産者はみんな仲が良く、彼らの協力もあって10回目のヴィンテージを迎えられました。ここまでの道のりに大変満足しています。特に直近の3年は、アレッサンドロの手を借りずに1人でワインを造るようになりました。
ロンガリコ当主ルイージ氏(右)
ルアレッサンドロ ヴィオラ当主アレッサンドロ氏(左)

ワイナリーを象徴する標高650mの所有畑
2つの所有畑と従兄弟の畑を合わせた3つの畑でワインを造っています。所有畑の1つは、自然保護区内にある標高650mの土地です。この畑こそが、ロンガリコを設立したきっかけとなった場所です。自然に囲まれていて、2017年頃までは何もなくゼロから自分で畑を造りました。目の前には海が広がる山の上に位置し、標高由来の昼夜の寒暖差による酸に支えられた繊細さが生まれます。良年のみ造る上級カタラット「アッロンブラ ディ ピーニ」の畑です。

海から700mのアルカモマリーナに所有する畑
2023年にアルカモマリーナという海沿いの場所に畑を取得し、0.5haだけペッリコーネを植えました。畑全体の広さは3.5haで、まだ植樹していないスペースが残っています。今後さらに植樹を進めて、可能なら醸造所と家の建設したいと考えています。海から700mの距離なので、朝に海を楽しんで、その後ワインを味わうという理想的なロケーションですね。

祖父が所有していた標高350mの畑
従兄弟の畑は、ブドウ農家だった祖父が所有していた標高350mの土地です。カタラット100%の「ノストラーレ」や「カタルティコ」を造っています。

ゼロから造り上げた標高650mの畑

偉大なポテンシャルを秘め、近年注目を浴びる土着品種カタラット
自然な造りで引き出すエレガンスと土地の個性

 シチリアでワイン造りをするもう1つの理由に、カタラットの存在があります。私は、このカタラットが世界的な品種になると考えています。祖父の代からカタラットは栽培していましたが、当時はブドウを売ることが主流で本格的にワインが造られることはありませんでした。

しかし、時代は変わり、多くの国へ旅ができるようになり、多くのワインを知る機会に恵まれたことで、カタラットが注目を浴びるようになりました。この10~15年でアルカモでは、カタラットを造る生産者が増えています。

「ファンタスティックな品種」
優雅な味わいを追求したカタラット

カタラットは、私にとってもファンタスティックな品種です。表情豊かなブドウでさまざまなワインができます。しっかりとしたボディがあり長期熟成可能なワインもできますし、エレガントで飲みやすいワインも造れます。私が目指すスタイルは後者で、エレガントなワインです。加えて、全てノンフィルターで造り、ブドウが持つ複雑さや土地の個性が落とし込まれたワインに仕上げたいと考えています。

ロンガリコのワインはシチリアはもちろん、トスカーナやローマのエノテカ、星付きレストランでも扱われています。最近まで西シチリアでは、州が運営するエノテカがずっと閉じていたのですが、友人と協力して再度オープンさせることができました。アルカモ城の中に店舗があり、そこでもワインを楽しむことができます。

自身の人生と土地への愛情を表現したワイン&エチケット
ワイナリー設立から10周年を迎えましたが、ワイン造りや今後のビジョンに没頭していたため、気づけばあっという間でした。シチリアを20年ほど離れていたこともあり、改めてこの土地への愛着が深まっています。この大切な土地や自分の人生をワインで表現したいと考えていて、その想いをエチケットにも込めています。

エチケットには、人生のパートナーである2匹の犬と、アルカモの山間部によく見られるユーカリの木が描かれています。ぜひみなさんにも訪れていただき、この特別な土地の魅力を感じていただけたら嬉しいです。

完熟果実やハーブの複雑な風味!
土着品種カタラットのエントリーライン

ノストラーレ テッレ シチリアーネ 2023

ノストラーレ テッレ シチリアーネ 2023

ルイージ氏:
「標高350mの畑で造るカタラットをステンレスタンクで造る白ワインです。ノストラーレは“私たちの”を意味する言葉で、地元アルカモではカタラットのことを指します。地中海沿岸に生えている典型的なハーブのセージやオレガノのような香り、ベルガモットやライムのような柑橘系の風味が感じられると思います。飲みやすい味わいで、すしや唐揚げと相性が良いです」
試飲コメント:黄金色。リンゴのような黄色い熟した果実、蜜のような香り。全体的にジューシーでふくよかなニュアンスがあります。柔らかな口当たりで、パン生地やアップルパイ、ジンジャー、ハーブ、ライムを感じる複雑な味わい。フレッシュな酸が持続します。

マセラシオン&一部トノー樽で造る
熟成感のある土着品種カタラット

カタルティコ テッレ シチリアーネ 2020

カタルティコ テッレ シチリアーネ 2020

ルイージ氏:
「標高350mの畑のカタラットをステンレスタンクと栗のトノー樽で熟成して造る白ワインです。ノストラーレに比べてより複雑で瞑想的なワインだと思います。3日間マセラシオンをしており、熟成するとオレンジの皮などの要素がたくさん出てくるワインです。合わせる料理は肉でも魚でもいいですが、タルタルとよく合います」
試飲コメント:にごりのある琥珀色。ハーブやドライフルーツに熟成香が溶け合った香り。口当たりは柔らかく特徴的な酸と複雑な風味が長く持続します。

深みのある魅惑的な香り!
標高650mの山の上で造るフラッグシップ カタラット

アッロンブラ ディ ピーニ カタラット 2022

アッロンブラ ディ ピーニ カタラット 2022

ルイージ氏:
「ワイナリーを代表する650mの所有畑で造るカタラットです。ロンガリコを最も表現しているワインです。この畑は手入れが難しく毎年造ることができません。ファーストヴィンテージの2021年、2022年は造りましたが、2023年は造っていません。畑が山の上にあるので、酸に支えられた繊細さが際立っています。他のカタラットとの違いを感じていただけると思います。マセラシオンは24時間に抑え、オークのトノー樽で9ヶ月間熟成してエレガントさと丸みをワインに与えています。そして、1年間の瓶内熟成を経てリリースします」
試飲コメント:にごりのある黄金色。熟した黄色い果実やジンジャー、ドライフルーツ、柑橘が交じり合う深みのある魅惑的な香り。シナモンを思わせる甘いスパイスや樽由来のバター感が複雑さと心地よい余韻を演出しています。

明るい果実とスパイスのエレガントな味わい!
珍しいシラー&ネレッロ マスカレーゼのブレンド赤

インソリト テッレ シチリアーネ 2019

インソリト テッレ シチリアーネ 2019

ルイージ氏:
「ノストラーレと同じ標高350mの畑で造る、シラーとネレッロ マスカレーゼのブレンド赤ワインです。ステンレスタンクと栗のトノー樽で熟成しています。エトナの品種であるネレッロ マスカレーゼは、1960年代はアルカモでも植えられていましたが現在では少なくなりました。そういった珍しい品種構成であることもあり、インソリト(普通ではない)と名付けています。しかし、最近はネロ ダーヴォラを加えるようになったので、ヴィンテージによる違いを感じていただけると思います」
試飲コメント:にごりのあるルビー色。イチゴなどの赤い果実や森の果実、スパイスの奥行きある香り。香り同様の味わいが口中に広がり、明るく複雑な果実味の余韻が持続します。

インタビューを終えて

同じ日に話を聞いたアルカモの生産者であり、ルイージさんの幼馴染であるアレッサンドロ・ヴィオラさんが「ルイージは恥ずかしいだろうから席を外すよ(笑)」と言って、ロンガリコのインタビューは始まりました。そのアレッサンドロさんと共同運営でスタートしたロンガリコが、ワイン造りの拠点に選んだ標高650mの畑は、写真だけでも素晴らしい景色が伝わり、目の前に海があると感じてしまうほどの標高の高さでした。

「石が無限に出てくる」という何もない土地をゼロから開墾したそうで、標高の高さも相まって計り知れない時間と労力を要したのだろうと想像します。直近3年はアレッサンドロさんの力を借りずにルイージさん1人でワインを造っており、今回試飲したワインのほとんどは彼が単独で造ったものです。

試飲したカタラット3種は、醸造の違いによる個性を持ちつつ、どれもエレガントで奥行きのある味わいでした。特にワイナリーを代表する「アッロンブラ ディ ピーニ」は絶品。果実やスパイス、ハーブが複雑に絡み合い、そこに樽の風味が加わって深い余韻を生み出す逸品でした。