2025/02/21
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エマヌエレ バルディ氏 Mr. Emanuele Baldi
史上初のクリュ バローロ「ブッシア」!バローロの単一畑文化の礎を築き、フィネス&エレガンスを極める名門「プルノット」

1904年創業、歴史上初めてのクリュ バローロを生んだ歴史的名門
――ワイナリーの歴史について教えてください。
プルノットは、1904年にアルフレッド・プルノットが2人の同志とともに創業したワイナリーです。翌1905年から一貫してネッビオーロを造り続けてきました。1922年には、夫人とともにプルノット家としてワイナリーを引き継ぎました。
1956年に所有者がベッペ・コッラへと変わり、ワインジャーナリストのヴェロネッリ氏とともに訪れたブルゴーニュに感化され、クリュ バローロ「ブッシア」1961年をリリースしました。これは、歴史上初のクリュ バローロであり、同じくヴィエッティもこの年にクリュ バローロをリリースしました。
それまでのバローロは、複数の畑のブドウをブレンドして造るのが一般的でしたが、プルノットの単一畑バローロは、当時としては革新的な試みでした。これはプルノットだけでなく、バローロ全体にとっても大きな転機となりました。ブルーノ ジャコーザやガヤをはじめとする生産者たちもクリュ バローロを造るようになり、現在のMGA(クリュの分類)へと発展していったのです。
アンティノリ家が参画し、畑の所有と拡大を本格化
1989年にアンティノリ家が参画し、1994年に完全所有者となったことで、プルノットはさらなる発展を遂げました。それまで所有する畑はありませんでしたが、ブッシアに7haを取得したのを皮切りに、自社ブドウでワインを造るようになりました。現在も契約畑のブドウを使用していますが、将来的にはすべて自社畑のブドウでの生産を目指しています。
東部は1200万年、西部は600万年
バローロ独自の魅力が詰まった土壌の成り立ち
――使用する畑と、その広さについて教えてください。
バローロは11ha、バルバレスコは5ha、ニッツァのアリアーノは約30ha、バルベーラ ダスティのカリアーノは11haです。他にもセッラルンガ ダルバのクリュ「セッラ」の契約畑や、ドルチェットやバルベーラを造るエリアも含めると、合計85haになります。
クリュ バローロとして生産するのは5つ。ブッシア、チェッレッタ、モスコーニ、セッラ、ブッシアのコルネッロ畑(リゼルヴァ)です。クラシック バローロに使用する畑の90%は東側ですが、一部ブリッコ デッレ ヴィオレ(バローロ村)など西側の畑もあります。
グラス:クリュ バローロ
東西のバランスを取る理想的な畑「ブッシア」
――ブッシアを選んだ理由を教えてください。
それは土壌にあります。この地はもともと海の底にあり、長い年月をかけて堆積が進み、サンドイッチのような地層が形成されました。しかし、地震によってその地層が縦向きに押し上げられたことで、異なる年代の土壌が東西で分かれたのです。
西側の土壌は約600万年前の若い砂質土壌で、ワインの味わいは柔らかくエレガントになります。一方、東側の土壌は約1200万年前の粘土質土壌で、タンニンが豊かで力強いワインが生まれます。わずか数百メートルの違いでバローロの味わいが変わるのは、狭いエリアで100万年単位の異なる土壌が存在するためです。
そんな中で私たちがブッシアを選んだのは、東西の中間に位置し、両者のバランスを取る理想的なエリアだったからです。
ブッシア
徹底した造りでフィネス&エレガンスを生み出す
プルノットの洗練されたワインスタイル
――プルノットのワインは非常に洗練されています。その秘訣は何ですか?
細かい要素がたくさんあります。まず土台にあるのは、「ネッビオーロのアイデンティティを表現すること」と「バランスの取れた心地よい味わいを追求すること」です。そのために、畑から醸造に至るまで、数百回にも及ぶ厳密な選別とチェックを行っています。
具体的には、アルコール度数とフレッシュさを保つために、やや早めに収穫をします。発酵は、すべてのワインをステンレスタンクで行い、マセラシオンは短期間に抑えて、柔らかさを引き出します。さらに、熟成には5年、10年使用したニュートラルな大樽を用いて、木のニュアンスを極力抑えることで、ネッビオーロ本来の個性を際立たせています。
時代に応じた変化を経て、原点回帰の大樽醸造へ
――バローロのスタイルはどう変わってきたのでしょうか?
私は2001年からプルノットで働いていますが、その間にも変化はありました。その大きな要因は、天候の変化と醸造技術の進化です。あとは、料理のスタイルの変化もあります。例えば、1980年代は重厚な料理が主流だったため、それに合わせてタンニンの強いワインが求められました。しかし、近年の温暖化の影響もあり、エレガントで洗練されたスタイルが重視されるようになりましたよね。
私たちが、フィネスとエレガンスを備えた現在のスタイルに移行したのは、2008年頃からです。木樽の選択も、それに伴い変化しました。1960年代から1980年代までは大樽のみを使用。1995年から2006年頃までは、2年目のバリックを実験的に一部取り入れましたが、2008年頃から再び大樽のみの醸造に戻しています。
各畑が絶妙に調和するロックバンドのようなクラシック バローロ
偉大なミュージシャンのような個性が際立つクリュ バローロ
プルノットのワインの中で、世界で最も多く飲まれているのがクラシック バローロです。クラシック バローロは、まるでロックバンドのような存在です。各メンバーの要素が絶妙に調和するように、さまざまな畑のブドウをブレンドして、統一感のある味わいと優れた熟成力を追求しています。一方で、クリュ バローロは偉大なミュージシャンと言えます。ジミー・ペイジのような際立つ個性を味わえるワインに仕上げています。
ロエロの単一畑で造る
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ランゲ ネッビオーロ オケッティ 2022 |
エマヌエレ氏: 「1970年代から造るオケッティという単一畑のランゲ ネッビオーロです。オケッティはロエロの中央部にあり、ヴァルマッジョーレと双璧をなす重要なロエロの畑です。若い砂質土壌のフローラルで、タンニンがありながらもまろやかで甘みのある味わいです。優しいタンニンが感じられます。フィネスやエレガントさがあり、決して強く押し出すようなワインではありません。実は、今日食べたすき焼きとは完璧に合いました。生産量は約9万本で、ピエモンテではカジュアルなトラットリアから星付きレストランまで使われており、手頃な価格で楽しめます」 |
試飲コメント:ルビーに近い淡いガーネット色。注いだ瞬間に上品で華やかな香りが広がります。明るい赤系果実、ドライフラワーの奥行きと複雑さを感じます。ミネラルのニュアンスも。滑らかで柔らかい口当たり。それでいてフレッシュで、香りで感じた要素の上品なエレガントな味わいが持続します。 |
優れた飲み心地と熟成力
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バローロ 2020 |
エマヌエレ氏: 「1904年から造る歴史あるクラシック バローロです。このバローロはプルノットにとって重要で、プルノットのワインの中で最も飲まれているワインです。生産量は9万本です。私はいつも言っていますが、クラシック バローロはロックバンドのような存在です。各メンバーが集まって統一感のある曲を作るように、私たちのバローロもそれぞれの畑が調和して、優れた飲み心地と熟成力を秘めた1本に仕上げています。使用する畑の90%は東側ですが、最近取得したバローロ村のブリッコ デッレ ヴィオレも使用しているため華やかさが現れています。2020年ヴィンテージはクラシックな年となりました。非常にアプローチがしやすく、すぐにでも飲める味わいとなりました」 |
試飲コメント:輝く淡いガーネット色。バラや明るい果実赤系果実を感じる、エレガントでフローラルな香り。口に含むと、エレガントかつ力強い風味が口中を満たします。それでいて繊細で、タンニンも穏やかです。滑らかで柔らかく、気品のあるエレガントな味わいが優美な酸とともに長く持続します。 |
初ヴィンテージは1961年
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バローロ ブッシア 2019 |
エマヌエレ氏: 「バローロの歴史上初めて造られたクリュ バローロのブッシアです。生産量は2万本ほど。初ヴィンテージの1961年から上品なスタイルのワインを造り続けています。2019年ヴィンテージは素晴らしい年となりました。寒暖差がしっかりあり、赤系果実の風味、フレッシュさ、酸が調和しています。熟成を経ることで、ブッシアの特徴であるバラの花やラズベリー、スパイス、茶葉、シナモンのニュアンスが現れてきます。ブッシアは円形劇場のような地形で、畑の端と端で気候が異なるため、1週間ほどの収穫差が出るため、区画ごとに醸造して最終的にブレンドしています」 |
試飲コメント:輝くガーネット色。フローラル&フレッシュな香り。赤系果実や花、潰した花を感じます。抜栓直後は閉じており、徐々に華やかさが増していきます。味わいは力強く洗練されており、果実感と華やかさが見事に調和しています。しなやかなタンニンとともに、長く長く持続する余韻があります。 |
魅惑的な香りと複雑&エレガントな味わい
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バローロ ブッシア 2010 |
エマヌエレ氏: 「バローロ ブッシアの熟成2010年ヴィンテージです。ブッシアは、もともと華やかさや果実感が特徴的ですが、熟成が進むとタマリンド(マメ科のフルーツ)の要素が現れます。柚子のマーマレードのようなニュアンスとも言えます。フレッシュさが、甘いマーマレードのようなフレッシュさに変わるのです。繊細で上品な味わいも引き出されていますね」 |
試飲コメント:オレンジがかった深みのあるガーネット色。注いだ瞬間に力強く複雑な魅惑的な香りが広がります。ドライフラワー、バラ、熟した果実、赤系のドライフルーツ、ドライトマトのようなニュアンス。徐々に爽やかさも現れてきます。グラスに注いでから時間が経つと、ぎゅっと目の詰まった凝縮した果実に満たされます。タンニンはきめ細やか。力強さと華やかさが溶け合うエレガントな風味が口中を満たします。その味わいが、口に含んでから最後の余韻まで長く長く持続していきます。 |
インタビューを終えて
特筆すべきはブッシア2010年ヴィンテージで、その味わいに圧倒されました。香るたびに、味わうたびに多彩なニュアンスが広がり続け、それぞれの要素が見事に調和しながらも、個々の特徴をはっきりと感じることができました。その奥深さゆえに、これまでで最も長いテイスティングコメントとなりました。他のクリュ バローロの熟成ヴィンテージも堪能してみたいと感じました。
