2025/03/11
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ニコロ マルツィーキ レンツィ氏 Mr. Niccolo Marzichi Lenzi
偉大なワインの系譜を継ぐ北マレンマの造り手!名門アンティノリ家が手がける豊かな完熟果実とスパイスが調和したスーパータスカン「テヌータ ディ ビセルノ」

名門アンティノリ家が「オルネッライア」「マッセート」に次ぐ
スーパータスカンを造る北マレンマのワイナリー
テヌータ ディ ビセルノは、ロドヴィコ・アンティノリが2002年に始めたワイナリーです。現在は、アンティノリ家が積み上げてきたレガシーを私が受け継ぎ、またそれを次世代へとつなぐことを目指しています。
拠点を置くのはアルタ マレンマ、ボルゲリから数キロ北に離れたビッボーナです。サッシカイアにも近いエリアです。畑は大きく分けて3箇所。カンポ ディ サッソ、テヌータ ディ ビセルノ、そして2019年に取得したコッレメッザーノです。ボルドー系の品種を中心に、土着品種はヴェルメンティーノを栽培しています。
フレッシュなエントリーライン「カンポ ディ サッソ」
トップキュヴェを生み出す「テヌータ ディ ビセルノ」
●カンポ ディ サッソ(56ha)
カンポ ディ サッソではエントリーラインの3種を造っています。ワインの個性として大切にしているのは、ミネラル感、塩味、フレッシュさ。
オッキオーネ:ヴェルメンティーノ100%(白)
リッソア:カベルネ フラン50% × シラー50%(ロゼ)※2023VT
インソリオ デル チンギアーレ:シラー主体(赤)
●テヌータ ディ ビセルノ(40ha)
テヌータ ディ ビセルノでは、私たちを象徴するビセルノとイル ピノを造っています。決してイル ピノが2番手というわけではなく、畑は近い距離にありますがスタイルはまったく異なります。
イル ピノ ディ ビセルノ:カベルネフラン主体(赤)
ビセルノ:カベルネフラン主体(赤)
環境全体の未来を見据えた、持続可能な農法を重視
私たちは、サステナブル農法が最も環境に寄り添った方法だと考えています。すでにカンポ ディ サッソとテヌータ ディ ビセルノでは認証を取得しており、近いうちにコッレメッザーノも取得する予定です。
一方、過度なビオロジックへの傾倒に対しては疑問を感じています。例えば、ビオロジック農法で使われる銅などの資材は、土壌を重くし、ブドウに対してストレスを与える可能性があります。環境や空気を汚染するリスクも考えなければなりません。
また、病害が発生した場合、その影響が他の畑に広がることを避けるためにも、全体を俯瞰する必要があります。SO2の排出量も重要な要素であり、単に自分自身の畑だけを守れば良いということではありません。
難しい年にこそ良いワインを造ろうとするものですが、ビオロジックの理念に固執することは避けなければなりません。私たちは、自然の恵みを次世代にしっかりと引き継ぐため、環境全体に目を向け、自分たちの役割を果たすことが最も重要だと信じています。
当主ニコロ氏が解説、ビセルノを象徴するトップキュヴェ
深みとエレガンスの「イル ピノ ディ ビセルノ」
――トップキュヴェの「ビセルノ」と「イル ピノ ディ ビセルノ」の違いについて教えてください。
ビセルノは厳選した5haの区画のみで造られています。ビセルノ用のブドウがイル ピノに使われることはありません。その逆も然りです。そうすると両者の味わいが似てしまいますし、どちらかの品質が下がってしまいます。
最終的なブレンドはバリックに入れる前の段階で行います。各品種をブラインドで試飲していき、品質ごとに分けます。ビセルノ、イル ピノのレベルに達しなかったブドウは、自動的にインソリオに使用されます。
イル ピノは、深みとエレガンスを兼ね備えており、優れたバランスと心地よい飲み口が特徴です。ビセルノは、卓越したテロワールが表現された逸品で、複雑味が完璧に調和した味わいです。
総生産量の5%のトップキュヴェ「ビセルノ」
ビセルノ、イル ピノ両者ともに生産量は限られています。最終的にビセルノ用のバリックに移動させるのは3~4樽分。最大で1,000L程度、年間生産量は約3万本です。総生産量の約5%ですね。2つとも使用品種は同じですが、熟成期間が異なります。ビセルノは15ヶ月、イル ピノは12ヶ月です。
評価を超えて輝きを放つ偉大なワイン
「熟成によって生まれる変化も大きな魅力」
今回、ビセルノとイル ピノを垂直試飲していただきますが、どちらも長期熟成ポテンシャルを秘めた偉大なワインです。ヴィンテージごとの個性はもちろん、熟成によって生まれる変化も大きな魅力です。今からも楽しめますが、熟成による「化けた姿」を感じていただけるはずです。
――先日、あまり良いとされない2014年のトスカーナのワインを飲んだら、素晴らしい熟成を遂げていて驚きました。
そうなんです。私たちの2018年ヴィンテージも高く評価されませんでしたが、最近飲み返してみると、当時とはまったく異なる印象を受けました。フィネスがあり、余韻の美しさも備えた素晴らしいワインへと変化を遂げていたんです。
「カベルネ フランは熟成によって顕著に進化する品種」
なかでもカベルネ フランは熟成によって顕著に進化する品種です。(カベルネ フラン主体の)ビセルノの2014年ヴィンテージは非常に難しい年でしたが、栽培と醸造の両チームが最善を尽くしたことで、熟成によって見事なクオリティに到達しました。
そして、個人的に将来最も期待しているのが2017年ヴィンテージです。干ばつの影響で収量こそ限られましたが、その分凝縮感が高まり、フレッシュさ、濃密さ、力強さを兼ね備えた1本に仕上がっています。長期熟成を経て、偉大な1本になると確信しています。
フレッシュで塩味を感じさせる夏に最適なヴェルメンティーノ |
オッキオーネ 2024 |
ニコロ氏: 「夏に最適なヴェルメンティーノ100%の白ワインです。リグーリアやサルデーニャのものとは異なるスタイルです。地元のレストランでも提供されている、汎用性の広い味わいが特徴です。包み込むような口当たりながら、生き生きとしたフレッシュさと、塩味を感じる心地よい余韻があります。ファーストヴィンテージは2019年。オッキオーネとは、畑のそばにある川にやってくる水鳥の名前に由来しています」 |
試飲コメント:緑がかった麦わら色。黄色い果実やミネラルや塩気のある香り。ややアロマティックです。口当たりはまろやか。フレッシュかつ熟した印象やハチミツのニュアンスも感じる親しみやすい味わい。ほろ苦さを伴う塩味とフレッシュな酸が持続します。 |
豊かな果実味が複雑に溶け込むフレッシュで華やかなロゼ |
リッソア トスカーナ ロザート 2024 |
ニコロ氏: 「ヴィンテージによって異なりますが、2024年ヴィンテージはカベルネ フランとシラーを半分ずつで造っています。柑橘系の魅力的な香りがあり、やや軽やかな骨格とすっきりとした味わいが特徴です。夏に最適な食中酒として活躍できるロゼワインで、海鮮料理と非常に相性がよいです。食前酒としても最適ですね。リッソアとは、地元のビーチでよく見られる貝の名前に由来しています。インソリオの区画にあるシラーを8月下旬、カベルネ フランを9月初旬に収穫しています。目指すアルコール度数は12.5~13%で、このような玉ねぎの皮の色を目指しています。マセレーション時間は短く、3~4時間ほどです。果皮の色が出すぎないようにしています」 |
試飲コメント:淡いサーモンピンク。イチゴやベリー系の赤系果実、黒系果実、白い花が混ざり合う複雑な香り。口当たりは柔らかく、ほどよい骨格の上にフレッシュ&フルーティな味わいが乗り、余韻には黒系果実と緑のニュアンスを伴う苦味、塩味、華やかさが持続します。 |
フレッシュな酸、豊かな果実味、スパイスが見事に調和するエントリー赤 |
インソリオ デル チンギアーレ 2022 |
ニコロ氏: 「エントリーワインに位置付けらる、最も生産量の多い赤ワインです。ブレンドはシラーを主体。トップキュヴェであるビセルノやイル ピノとスタイルが異なり、スムーズな口当たりでピュアな味わいが特徴です。唯一無二の存在感を持っていますね。インソリオとは猪が穴を掘って転がる姿を意味しており、かつてはこの地で貴重なタンパク源でもあった猪をモチーフにしたラベルにしています」 |
試飲コメント:濃いルビー色。フレッシュかつジャミーな黒系果実、胡椒などのスパイスやレザー、わずかな甘さを感じる香り。口に含むと香り同様の要素が口中に広がり、最後の余韻までその豊かな風味が持続していきます。フレッシュな酸、豊かな果実味、スパイスが見事に調和しています。 |
完熟果実と香ばしさが際立つ「2022年」
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イル ピノ ディ ビセルノ 2021 |
ニコロ氏: 「2022年は非常に冷涼な年で、果実味よりも長期熟成に向くワイン造りを意識しました。この年のスタイルは非常に好評です。滑らかで心地よい口当たりで、生き生きとしたフレッシュさがありながらも、しっかりとした骨格を感じさせます。熟成による変化も楽しんでいただけます。 2021年はクラシックなタイプのワインです。2016年や2019年と同様に日照量の多い暑い年でした。リッチな印象があり、今でも美味しく飲めますが、これからさらに変化していくポテンシャルも感じられます」 |
試飲コメント:2022年ヴィンテージ 深みのあるルビー色。黒系果実やスパイス、プルーンなどのドライフルーツを感じさせる濃密な香り。時間とともに香ばしさも現れます。味わいは香り同様の要素が感じられます。熟した果実をはじめ、黒胡椒のようなスパイスやハーブのニュアンスが際立ちます。タンニンが心地よい余韻を演出しています。 2021年ヴィンテージ |
緻密なタンニンとスパイスが調和する「2020年」
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ビセルノ 2021 |
ニコロ氏: 「2020年は非常に私好みのヴィンテージです。フィネスを感じます。柔らかく、心地よいスパイシーな風味が特徴です。バルサミックなニュアンスもありますね。すでに飲み頃で、タンニンの質も高く緻密です 2021年は将来的に素晴らしい進化を遂げると確信しています。2016年に似た良いヴィンテージで、柔らかくクリーミーな香りがありますね。口に含むと包み込むような優しさを感じます。2015年と2016年の中間のような雰囲気を持ちっています。コンサルタントのミッシェル・ロランも、この2021年を試飲した際に、セボン(美味しい)と称賛していましたね。 2022年は2020年と似ており、フィネスを感じます。特にタンニンのクオリティが非常に高く、緻密でバルサミックなニュアンスがあります。冷涼な年だったため、収量が低かったことも特徴です」 |
試飲コメント:2020年ヴィンテージ 深みのあるルビー色。熟した黒系果実やコーヒー、チョコレートのような香り。味わいは香り同様で統一感があります。こなれたタンニンも相まって、心地よい酸と豊かな果実味が見事に調和しています。 2021年ヴィンテージ 2022年ヴィンテージ深みのあるルビー色。香りは複雑でエレガント。黒系果実を主体に、徐々にチョコレートやスパイス、ドライフルーツのような濃密さが現れます。スパイスの繊細さが際立っています。存在感のあるタンニンがありながらも、全体的に柔らかく果実味とスパイシーな風味が見事に調和しています。後口に心地よい緑のニュアンス。 |
インタビューを終えて
続いて、トップキュヴェの垂直試飲では、どのヴィンテージにも共通する豊潤な果実味とスパイス感の美しいバランスから、ワインとしての一貫したスタイルを感じ取ることができました。その一方で、冷涼な年と温暖な年の違いがしっかりと表現されており、それぞれの年の個性がストレートに伝わってきたのも印象的でした。
なかでも「ビセルノ」は、力強さと緻密さを兼ね備えた味わいで、トップキュヴェとしての風格さえも感じ取ることができました。また、「熟成によって生まれる変化も大きな魅力」という話を聞き、今すぐに楽しめる現行ヴィンテージと、10~15年以上の熟成を経たワインとを、ぜひ並べて味わってみたくなりました。
