2025/03/13
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アルド ヴィオラ氏 Mr. Aldo Viola
カタラットの伝統産地シチリア・アルカモ自然派の先駆者!長期マセラシオン由来のエレガントな複雑味が染みわたる「アルド ヴィオラ」

「コスやコーネリッセンに続く、シチリアで最初の自然派」
私と弟アレッサンドロ・ヴィオラは、コスやコーネリッセンに続く、シチリアで最初の自然派ワイナリーと言えるでしょう。ワインはすべて自然発酵で造られ、澱の沈降分離は行いますがフィルター処理はせずに瓶詰めしています。
カタラットを中心に白ブドウを栽培
猛暑や干ばつに耐える「アルカモ」の特異性
所有する土地は合計15ha。そのうちブドウ畑が11ha、オリーブ畑が3.5haです。ブドウ畑は主に2ヶ所に分かれており、それぞれが独自の個性を持っています。1つ目はアルカモに位置する白ブドウの畑です。海岸からわずか2kmにあり、標高180m、粘土と赤い砂の混合土壌が特徴です。ここでは主にカタラットとグリッロを栽培しています。作付け面積は5.5haです。
アルカモの畑の特徴は、地中約80cmのところに石灰の岩盤があることです。ブドウの樹はこの岩盤までしっかりと根を張る必要があるため、硬い土壌に対応できる台木を慎重に選んでいます。根をしっかり張ることができれば、猛暑や干ばつにも耐えられる強い樹に育ちます。このあたりでは最高気温が48度に達したこともあり、暑さに強いブドウの栽培が不可欠なのです。
シラーなどの黒ブドウを中心に栽培
180度海に囲まれるエネルギー豊富な畑「グアリーニ」
2つ目は、トラパニ県にあるグアリーニという名前の畑です。ここは標高350mでやや内陸に入った場所で、粘土石灰の混合土壌と黒土が特徴です。私が初めてシラーを植えたのもこの畑で、今ではシラーに加えてネレッロ マスカレーゼやペリコーネも栽培しています。
グアリーニは非常にエネルギーが豊かな畑です。シチリア北西部の三角形の先端に位置し、180度海に囲まれているため、北からも南からも海風が届きます。シロッコ(アフリカから吹く熱く乾燥した風)の影響もあり、アルカモよりも暑い環境です。ここで育つブドウには、特徴的な塩味とメントールのような樹脂の香りが生まれるんです。
1つの区画から、1つのワイン
「すべてのワインが畑の個性を表現」
私たちのワイン造りで特徴的なのは、畑の列ごとではなく、傾斜の高さによって収穫していることです。高さによって土壌の水分量が異なるため、ブドウが受けるストレスも変わり凝縮感にも影響するからです。水は上から下に流れるため、一般的に畑の下部は水分量が多くなります。そこでは生命力と活力に満ちたブドウが育ちます。
例えば「ブルット」は、傾斜の一番低い部分のブドウだけで造られています。私たちのワインはすべて単一区画から造られており、1つの区画から1つのワインを造るという方針を貫いています。つまり、すべてのワインがクリュ(畑)の個性を表現しているのです。
急斜面の畑
土地に宿るエネルギーを純粋に引き出し、
奥行きと洗練さを生む長期マセラシオン
私が大切にしているのは、シチリアの土地が宿すエネルギーと個性を、最も純粋な形でボトルに閉じ込めることです。そのために私が意識しているのは、何千年も前、人類が初めてワインと出会った「始まりの瞬間」に立ち返るようなワイン造りです。偶然ブドウが発酵し、自然にワインが生まれたその瞬間には、最も強いエネルギーが宿っていたはずだと考えています。
そうした考えから、プレスや除梗を行わず、長期マセラシオンを通じてブドウ本来の力を最大限に引き出す方法を選んでいます。このアプローチこそが、シチリアの自然が持つエネルギーをそのまま表現できると信じています。
日本の料理とも相性抜群
丁寧に抽出されたエレガントな複雑味
私は「マセラシオン」という言葉ではなく、「インフュージョン(煎じること)」という表現を好んで使っています。それは、長期マセラシオンを行いながらも、野性的で粗野な要素が出ない、洗練されたワインを目指しているからです。プレス等をしないだけでなく、抽出中の温度は23度を超えないよう厳密に管理しています。
一般的に長期マセラシオンは北イタリアのイメージが強いかもしれませんが、シチリアという南の地においても単一品種・木樽不使用で、奥行きと厚みのある複雑なワインを生み出せることを証明できたと自負しています。また、今回初めて日本を訪れ、日本の料理を味わった時、その繊細な旨みや塩気、奥深い味わいに驚きました。長期マセラシオンをした自分のワインとも自然に調和して美味しかったです。
長期マセラシオンで造る上級キュヴェ
試飲順は赤ワインから
試飲は赤ワインから白ワインの順でいきましょう。私の赤ワインは軽やかで、白ワインは8~9ヶ月に及ぶ長期マセラシオンを施した複雑さがあります。味わいの強さの順番を考慮して、あえて赤ワインから飲んでいただいています。
ワイン誕生の瞬間を表現し、長期マセラシオンで造られる
上級キュヴェ「エジェスタ」&「クリミーソ」
「エジェスタ」と「クリミーソ」は、人類が初めてワインと出会った瞬間に立ち返るという私の考えを具現化した特別な白ワイン(オレンジワイン)です。いずれもプレスはせず、8~9ヶ月にわたる長期マセラシオンによって醸造されています。この9ヶ月という期間は、子どもが母体の中で育まれる妊娠期間にも重なり、まさに命を宿すような感覚でワインを造っています。
両方とも生産量はごくわずかで、条件が良くなければ造りません。経済的には決して効率の良いワインではありませんが、その分、揺るぎない個性と強い魂を持った、唯一無二の存在です。
ワイナリーから10kmほど離れた場所には、約2500年前に建てられた「セジェスタのギリシャ神殿」があります。「エジェスタ」と「クリミーソ」はギリシャ神話に登場する守護神の名前です。古代ギリシャ時代に行われていたであろう製法で造ったワインにその名前を授けました。
セジェスタのギリシャ神殿
アルド・ヴィオラ氏のワイン造りへの想い
ワインに込める「ブドウから生まれる感動」
――アルドさんが、ワイン造りを始めるまでの歩みを教えてください。
私は2000年から醸造を始めましたが、当初の赤ワインの醸造は手探り状態でした。2007年から2010年までの3年間、パレルモ大学のマルサラ支部で醸造学を学びました。弟アレッサンドロと同じ学校です。
幸運だったのは、アスティで醸造家をしていたシチリア人のロッコ・ディ・ステファノ教授の教えを受けられたことです。それにより、醸造中に起こるさまざまな出来事の因果関係を科学的に理解できるようになりました。これには非常に大きな価値を感じています。
現在は科学的な数値に重きを置いていませんが、エネルギーがどのように伝わっていくかを科学的に知れたことは非常に有益でした。また、1年間ピエモンテで、リナルディやチェレットなどバローロの醸造家を務めたドナート・ラナーティの醸造研究所で働き、さまざまなワインを試験的に造る経験も積みました。
2009年から2012年には、チェントパッシが行っていた、マフィアから接収した土地でのワイン造りプロジェクトにも参加しました。自分のワイナリーを運営しながらの参加でしたが、非常に貴重な経験となりました。
互いに高め合い、それぞれの道を歩む兄弟
――弟アレッサンドロさんとは、造り手としての交流はありますか?
もちろん交流はあります。もともとは兄弟で一緒にワイナリーをやるつもりで活動を始めたんです。2005年にアレッサンドロが醸造学校へ通い始めた頃、私は畑仕事に専念していました。その後、いろいろな経験を経て、彼がシチリアに戻ってきたのは2016年でした。その時点で、私たちは父が所有していた畑を分け合い、それぞれの解釈でそれぞれのスタイルを持つ別々の造り手として活動を続けています。
今でもお互いの土壌や畑、これまでの経験を共有し合っています。私は私の道を、弟は弟の道を歩んでいる。それが自然な形だと思っていますし、とても大切なことだと感じています。
美味しさを追求する「アレッサンドロ ヴィオラ」
心を揺さぶる「アルド ヴィオラ」
――お二人のワイン造りには、どのようなスタイルの違いがありますか?
あくまで個人的な見解ですが、アレッサンドロは「美味しさ、飲みやすさ」を求めているように感じます。一方で私は「心を揺さぶる」ワインです。その違いは、それぞれの経験や哲学に由来しています。
弟は10年間、別のワイナリーでエノロゴとして働いていたこともあり、市場など他者の視点を考慮しながらワインを造る傾向があります。対照的に私は「自由な解釈でワインを造る」という哲学のもと、自分のパーソナリティを反映した「自分が飲みたいワイン」に焦点を当てています。
談笑中のヴィオラ兄弟
ヴィオラ兄弟の挑戦が導き、アルカモに広がる自然派の未来
私にとってワインは、ただの飲み物ではありません。心と体を通して、内側から力を与えてくれる食べ物のような存在です。だからこそ私が本当に造りたいのは、利益のためではなく、「ブドウから生まれる感動」が表現されたワインです。そして、そうしたワインに対して自然と経済的な価値が伴ってくる。そんなあり方が、私にとっての理想です。
近年、シチリアでも自然派ワイナリーが増えてきました。しかし、私やアレッサンドロのように20年以上前からこのスタイルで取り組んできた造り手は、まだほんのわずかです。最近登場してきた若い造り手たちには、「息子たち」のような親しみを感じています。
私たちが地元アルカモの地に蒔いた自然派ワイナリーの種は、着実に芽を出し始めています。過去5年の間に、10軒もの自然派ワイナリーが新たに誕生したことは、シチリアにおける新しい時代の到来を、確かな手応えとして実感させてくれます。
ネレッロ マスカレーゼ&ペリコーネで造る繊細なロゼワイン |
セニエ 2020 |
アルド氏: 「ネレッロ マスカレーゼ60%とペリコーネ40%のブレンドで造るロゼワインです。両品種はトラパニで150年以上前から栽培されている品種で、昔は軽やかな特徴から市場では過小評価されていました。この2品種のブレンドでロゼを手がけたのは、おそらく私が初めてです。このワインは、まさにその繊細さと洗練さが表現されています。1週間のマセラシオンして大樽で1年間熟成しています。2017年まではトノーを使用していましたが、現在はブドウの状態によって2500Lまたは5000Lの大樽を使用しています。2020年は5000Lです。セニエとフランス語にしているのは、私の母がフランス人で、私自身がフランスとシチリアで育った背景に由来しています。ラベルには、これ以上年を取らない私が描かれています(笑)」 |
試飲コメント:ルビーに近いガーネット色。香りは親しみやすい赤系果実、潰した花、わずかにスパイシーさが感じられます。香り同様に赤系果実のエレガントな味わい。全体的に軽やかで繊細で、徐々に心地よいタンニンが現れます。 |
爽やかな酸とフレッシュな果実が際立つ若樹シラー |
コチネッラ 2022 |
アルド氏: 「若樹のシラーを100%使用した赤ワインです。4週間のマセラシオン後にステンレスタンクで熟成させています。早飲み向けのフルーツ感を意識して造っています。1998年にローヌのサン ジョセフからクローンを持ち帰り、栽培を経て良い樹だけを選抜して2014年の畑に植樹したシラーです。このワインは、鉄分が多くレバーのような味わいを持つ地中海のマグロと特に相性がいいです。ミントやメントール、ユーカリのような香りが魚の味わいと調和します。2018年からはSO2の添加していますが、1Lあたり20~30mg程度です」 |
試飲コメント:にごりのあるルビー色。紫系果実や黒系果実の香り。フレッシュな果実味と酸が広がり、タンニンも程よく存在感がありますが、爽やかさを感じる酸が長く持続します。 |
凝縮感と爽やかさを兼ね備える微発泡ワイン |
ブルット 2023 |
アルド氏: 「ステンレスタンクで自然発酵させた後に発酵を一度止め、瓶詰め後に春の気温上昇を利用して瓶内二次発酵させるメトド アンセストラーレ方式で造る微発泡ワインです。添加物を一切加えず、完熟ブドウからしっかりと要素を抽出することを重視しています。この手法により、シャンパーニュのようなクリーミーな泡が生まれます。みずみずしい特徴を持つ斜面下部の畑で造られる、日常的に楽しめる軽やかなワインです」 |
試飲コメント:ややにごりのあるオレンジに近い黄金色。香りはアプリコットや黄色い果実。やや柑橘の皮のような渋みも感じます。味わいは爽やかな泡とともに黄色い果実や梨のような白い果実が広がります。 |
長期マセラシオンで造る
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クリミーソ 2019 |
アルド氏: 「クリミーソは、2019年ヴィンテージが初めてガンベロロッソでトレビッキエリを受賞しました。自然派に特化しない機関から、シチリア産の長期マセラシオン白ワインが選ばれるのは非常に珍しいことです。標高が高くストレスの多い畑の区画のカタラットを使用し、2019年は8ヶ月にわたる長期マセラシオンを行いました。2009年ごろはアンフォラを使用していましたが、容量が小さくアンフォラらしさが強く出すぎるため、現在はステンレスタンクで熟成しています。長期マセラシオンにより、皮からゆっくりと要素を抽出し、複雑さと繊細さが同居した洗練された味わいを実現しています」 |
試飲コメント:輝く琥珀色。砂糖漬けの果実やハーブが香るエレガントな香り。滑らかな口当たりで、ぎゅっと詰まったフルーツ感のある味わいが染みわたります。 |
長期マセラシオンで造る
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エジェスタ 2019 |
アルド氏: 「エジェスタ2019年はグリッロ100%を、9ヶ月間のマセラシオンを経て造られています。クリミーソは除梗を行いますが、エジェスタは全房でマセラシオンしています。グリッロはモスカート ディ アレッサンドリアとカタラットの交配による品種で、セミアロマティックな特徴を持ち、ソーヴィニヨン ブランに似た印象もあります。私は、アルカモでグリッロを栽培し始めた最初の1人だと思います。2015年ヴィンテージは、イタリアワイン ベスト100にも選ばれました」 |
試飲コメント:濃い琥珀色。柑橘の皮や熟した果実、杏のようなドライフルーツなどを感じる、ほどよく力強い香り。香りの要素がそのまま感じられる柔らかい味わいです。中程度のタンニンとともに、じわっと広がる心地よい余韻が持続します。 |
アルド ヴィオラ自家消費用オリーブオイル
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エキストラ ヴァージン オリーブオイル エヴォ ヴィオラ 2024年 |
アルド氏: 「樹齢250年ほどのチェラスオーラのオリーブ100%で造っています。このオリーブの樹は、祖父以前の代から植えられているもので、現在は巨大な盆栽のような姿になっています。収穫は完熟前の緑色と熟した実が混ざるタイミングで行います。収量は非常に少なく、10kgの実から1Lのオイルが得られるかどうかというレベルです。伝統的に自家消費用として造られてきたオイルで、香り高くスパイシー。トマトの葉のようなニュアンスもあります。ノンフィルター製法であるため、香りは控えめですが、その分オイリーさや旨みが引き立っています。瓶詰め前にダミジャーノで澱を落とし、上澄みを使用しています。日本に輸出する数は限定600本です。名前のEVOとは、そのままエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルの略です。自家用に造っていたものをそのまま瓶詰めしており、添加物は一切使用していません。ルッコラソースのようなアロマティックさと、わさびに似た辛みも特徴です」 |
試飲コメント:口当たりは滑らかで繊細。中盤から力強くなりますがエレガントで、後からワサビのような辛味がビリッと現れます。 |
インタビューを終えて
昨年お話を聞いた弟アレッサンドロさんのワインは、美しい酸とほどよい凝縮感があり、アルドさんが言うように親しみやすい味わいでした。畑の違いもあるかもしれませんが、それ以上に造り手(兄弟)としての感性や哲学の違いが、ワインにしっかりと表れていると感じました。
アルカモに新しく誕生した若手の自然派ワイナリーのことを「息子たち」と表現していたアルドさん。『ガンベロロッソ』の記事では、「カタラットボーイズとアルカモワインの復活」というタイトルのもと、アルドさんにスポットを当て、長らく注目されてこなかったアルカモを再興させた若手醸造家運動のリーダーとして紹介されていました。
彼と同じ哲学や志を持つ若手生産者も含め、アルカモの今後が非常に楽しみです。
