キャンティ クラシコの頂点を極めた「カステッロ ディ アマ」

2025/08/13

2025/06/17

マルコ パランティ氏 Mr. Marco Pallanti

単一畑キャンティ クラシコを極めたパイオニア!土地の魂が息づくテロワールから世界最高峰のワインを生む名門「カステッロ ディ アマ」

キャンティ クラシコ地区、そしてイタリアワイン界を代表する偉大な造り手「カステッロ ディ アマ」。拠点を置くのは、古代ローマ以前から存在する「アマ」という地。「標高の高さ」「白い石灰岩土壌」「複数の渓谷」といった多様なテロワールから、アマ独自のワインを生み出しています。なかでも、メルロー100%キュヴェ「ラッパリータ」は、あるプロフェッショナルのテイスティングでペトリュスやルパンといった名だたるワインを抑え、見事1位に輝き、その名を世界に轟かせました。さらに、テロワールを重視したクリュの概念をいち早く取り入れた、単一畑キャンティ クラシコの先駆者としても知られています。今回は、現当主で醸造家のマルコ・パランティ氏に話を伺い、ワインジャーナリスト宮嶋勲氏に通訳と解説をしていただきました。

独自の個性を映すテロワールを忠実に表現
カステッロ ディ アマが貫くワイン造りの哲学

アマが持つ唯一無二のテロワール
「約500メートルの標高」「白い石灰岩土壌」「複数の渓谷」

――改めて、ワイナリーについて教えてください。

カステッロ ディ アマは、キャンティ クラシコのほぼ中央から南寄り、シエナ近郊に位置しています。「アマ」という村は古代ローマ以前から存在する地で、3つの特徴があります。

まずは、標高約500メートルという高地であること。これは近年の温暖化では大きな利点です。次に、白い石灰岩を豊富に含む土壌。ミネラル感やフレッシュさ、エレガンスを生みます。そして複数の渓谷に畑が存在すること。畑ごとに異なる多様な個性が、アマならではのワインを形づくっています。

食卓に寄り添う、キメ細やかな上品さ
目指すスタイルは「飲めるワイン」です。評価誌の得点を狙うのではなく、飲みやすく食卓で楽しめるワインを追求しています。私はボルドーにルーツを持つため小樽を使用しますが、樽香が強く出ることは避け、攻撃的すぎないミディアム~フルボディを意識しています。

宮嶋 マルコが造るワインは絶対に過熟することがないし、キメが細かく上品です。このスタイルは1982年以来、彼が1人で築き上げてきたものです。
カンティーナ、宿泊施設、畑などが一体となっている

土地の魂が刻まれたアマのキャンティ クラシコ
私たちの畑は波打つ丘陵地に広がり、場所ごとに日当たりや土壌が異なるため、さまざまなタイプのキャンティ クラシコが生まれます。土地とワインの結びつきを何より重視しており、実際に空気や石、土の色を感じれば、そのワインの本質が見えてくると思います。

ここの畑は、土地の魂を刻む力、つまりテロワールを備えており、日本のような遠く離れた場所で飲んでも、その風景を映し出してくれます。しかし、すべての畑にテロワールがあるわけではありません。見た目は美しくても、ワインにしたときに明確な個性を刻まない土地もあります。それは、人々が去り、形だけが残った魂のない教会のようなものです。畑も教会も、外見だけではその魂の有無はわからないのです。

「ワインと単なるアルコール飲料の違い」
偉大なワインは、飲む人をその土地へと誘う

魂のない土地でも美味しいワインは造れますが、グラスの向こうに景色は見えてきません。扉は閉じたままです。魂を宿す土地で造られた偉大なワインとは、その扉を開き、バローロでもブルゴーニュでもボルドーでも、造られた土地へと誘うものです。単に美味しいだけのアルコール飲料とは異なります。

それがワインと単なるアルコール飲料の違いです。消費者の嗜好に合わせて造ったワインは、アルコール飲料の域を出ません。私は他産地の要素を混ぜることなく、明確な哲学に基づき、アマという土地が持つ最良の手札を忠実に表現するワインだけを造っています。私にはアマのワインしか造れません。

いち早く導入したクリュの概念で造る、単一畑キャンティ クラシコ

単一畑「ベッラヴィスタ」、初リリースは1978年ヴィンテージ
――そのテロワールを忠実に表現したワインが、単一畑キャンティ クラシコだと思います。手がけ始めたのはかなり早く、他の生産者より何十年も先を行っていましたよね。

単一畑「ベッラヴィスタ」の初ヴィンテージは1978年です。当時は単一畑という発想自体がなく、リゼルヴァとして造っていました。アマの畑は全体で75ヘクタールあり、近接していても渓谷が異なり、各畑の性質は異なります。そのため、私は入社後、畑との結びつきを示すためにリゼルヴァをやめて、畑名を冠することにしました。

そして、後にラッパリータが高い評価を得たことが、他のキュヴェの品質向上を目指す契機となりました。渓谷ごとに醸造してみると、はっきりとした違いがあることに気づき、畑への理解を深めて、新しい単一畑が誕生していったのです。
各単一畑

厳格で深みのある「ベッラヴィスタ」
フルーティで官能的な「ラ カズッチャ」

「ベッラヴィスタ」と「ラ カズッチャ」は、最良のブドウだけを使い、優良年のみ造る少量生産の単一畑ワインです。両者は同じサンジョヴェーゼながら性格がまったく異なります。

ベッラヴィスタは石の多い土壌で育ち、スパイシーでミネラル感が豊富。厳格さと深みを備えています。一方、ラ カズッチャはベッラヴィスタから離れており、よりフルーティで女性的なスタイルです。

宮嶋 バローロで言えば、セッラルンガ ダルバとラ モッラの違いに似ています。ベッラヴィスタは通好み、ラ カズッチャは多くの人を惹きつける魅力があります。タンニンの質もまったく異なります。どちらが好みかを尋ねると、意見がはっきり分かれるワインです。
ベッラヴィスタ

探究心あふれるマルコ氏 & 造り手の革新的ビジョン
カステッロ ディ アマが切り拓いた新時代

――マルコさんが、カステッロ ディ アマで働き始めたきっかけを教えてください。

運が良かっただけです(笑)。私はワイナリーの息子でもなく、一般的な家庭の生まれです。フィレンツェ大学農学部でブドウ栽培を学びましたが、当時は醸造学科がありませんでした。それでもワインの勉強が大好きで、いつかワイン業界で働きたいと考えていました。そんなとき、ちょうどカステッロ ディ アマが若い醸造家を探しており、それが入社のきっかけになりました。

カンティーナには、当時では最先端技術の温度管理可能なステンレスタンクが備えられていました。20代だった私にとっては、いきなりフェラーリの鍵を渡されたようなもので(笑)、その「車」をどう運転するべきか四苦八苦しながら、全力で取り組んできました。

宮嶋さん 当時のキャンティ クラシコ地区には、まだ古い価値観が根強く残っていたんです。アマのオーナーはローマの石油業界出身で、偏見に縛られない革新的な発想を持っていました。昔ながらの人材ではなく、マルコのような若手を採用し、ボルドーで学ばせるための費用まで出して育成していったのです。こうした外部からの人材が、トスカーナワインに新しい時代をもたらしました。

往復2,500キロ、車でボルドーへ学びに通った日々
私が本格的にワイン造りを学んだのは、アマ入社後にボルドー大学へ通うようになってからです。働きながら、時間が合えば片道1,260キロを車で走り、現地で学びました。当時シャトー ムートン ロートシルトやオーパス ワンの醸造責任者だったパトリック・レオンが、アマのオーナーのひとりだったんです。彼に可愛がってもらえたおかげで、どのボルドーの生産者も私を歓迎してくれました。

ボルドーを訪れるたび、パトリックと多くのシャトーを回り、そこで得た知見を吸収していきました。こうした経験から、私のワイン造りはある意味フランス的な考えに基づいていますが、単なる模倣ではありません。フランスで得た知識がアマの畑でも再現可能かを確かめ、畑の違いを理解したうえで単一畑ワインを造っていきました。
ラッパリータ

長年の努力の結晶、ラッパリータがペトリュスに勝利
当時のボルドーでは、イタリア人は完全に見下されていました。私も当時はフランス語が全くできず、よくバカにされましたが努力を重ねていきました。そして、チューリッヒの著名な試飲会で、ラッパリータ1987年がペトリュス1988年に勝利したんです。長年の鬱憤が晴れた瞬間でしたね(笑)。

フェルシナやフォントディの醸造コンサルタントであるフランコ・ベルナベイは、ボルドー大学で唯一出会ったイタリア人で、お互いに悔しい思いをしてきた仲間でした。その彼と喜びを分かち合い抱擁を交わしたことを今でも覚えています。本当に素晴らしい時代でした。このことをきっかけに、「トスカーナのアマという土地で、これほどのワインが造れるのか」と多くの人が知り、訪ねてもらえるようになりました。

香り高く染みわたるエレガンス
アマの個性を堪能する入門キャンティ クラシコ

アマ キャンティ クラシコ 2022

アマ キャンティ クラシコ 2022

マルコ氏:
「この農園の特徴がよくわかる入門編です。石灰土壌と高い標高から生まれる香り高さがあります。2022年は暑い年ながらフレッシュな果実味で、ジャミーなトーンは全くありません。酸がしっかりしており、タンニンはエレガントに仕上がっています。若樹から造られる早飲みタイプ。毎日飲むにもアペリティーヴォにも適しています。美味しすぎるといった声もあり、妻からはもっと味をなくして造って、と冗談を言われるほどです(笑)。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。赤い果実のピュアで華やかさが広がるエレガントな香り。口に含むと、奥行きと豊かさを兼ね備えた果実感に、エキス感に満ちた風味が長く持続します。タンニンは細やかで、染み渡るような柔らかさと豊かさが調和しています。

単一畑モンテブオーニ
複雑で深みのあるキャンティ クラシコ リゼルヴァ

モンテブオーニ キャンティ クラシコ リゼルヴァ 2020

モンテブオーニ キャンティ クラシコ リゼルヴァ 2020

マルコ氏:
「モンテブオーニはベッラヴィスタの隣にある、1997年に取得した畑です。当初はブレンド用に使用していましたが、個性を活かすために2年前から単独でリゼルヴァとしてリリースしています。アマより複雑で深みがあり、スパイシーで複雑。タンニンはきめ細かく余韻も長く、5~10年熟成可能です。」
試飲コメント:ガーネットを帯びたルビー色。赤い果実にやや黒い果実が混じり、スミレなどの花、鉄分、レザーのニュアンスを伴う複雑でエレガントな香り。口中では香り同様の果実感が広がり、わずかにレザーやリコリスの風味が感じられます。タンニンは細やかでエレガントな味わいが持続します。

単一畑サン ロレンツォ
フレッシュ果実とスパイスが溶け合うグラン セレツィオーネ

サン ロレンツォ キャンティ クラシコ グラン セレツィオーネ 2019

サン ロレンツォ キャンティ クラシコ グラン セレツィオーネ 2019

マルコ氏:
「最良のサンジョヴェーゼで造る単一畑グランセレツィオーネです。サン ロレンツォは、エレガントながらボディがしっかりしています。熟成能力も高く、今飲んでも美味しいですが熟成でさらに複雑さが増します。香りは他と全く異なり、複雑でスパイシー、タンニンも溶け込みフレッシュで若い印象があります。時間が必要なワインですね。年間生産量は5~7万本です。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。赤い果実を主体にスパイスなど複雑かつエレガントな香り。爽やかさも感じます。味わいは香り同様でフレッシュな果実と黒胡椒のようなスパイス感。豊かな味わいでタンニンが存在感を持ちながらも、全体的にエレガントな味わいです。

単一畑ラ カズッチャ
上品で複雑味に満たされるグラン セレツィオーネ

キャンティ クラシコ グラン セレツィオーネ ヴィニェート ラ カズッチャ 2019

キャンティ クラシコ グラン セレツィオーネ ヴィニェート ラ カズッチャ 2019

マルコ氏:
「最良のサンジョヴェーゼで造る単一畑グランセレツィオーネです。ラ カズッチャは良年のみ造ります。タンニンは量も厚みもありながら、それが柔らかく溶け込み、包み込むような口当たりです。果実感豊かでフルーティ、女性的な印象があります。生産量は3000~4000本で、補助品種はメルローを使用しています。」
試飲コメント:深くやや濃いルビー色。赤と黒の果実が上品に凝縮したエレガントな香りで、ハーブやチョコレートなどニュアンスに富んでいます。口当たりはやわらかく、優しいタンニンが豊かな果実味を包み込み、深みのある多層的な味わいが長く持続します。

単一畑ベッラヴィスタ
厳格で深みのあるグラン セレツィオーネ

キャンティ クラシコ グラン セレツィオーネ ヴィニェート ベッラヴィスタ 2019

キャンティ クラシコ グラン セレツィオーネ ヴィニェート ベッラヴィスタ 2019

マルコ氏:
「最良のサンジョヴェーゼで造る単一畑グランセレツィオーネです。ベッラヴィスタは良年のみ造ります。どのワインよりもスパイシーでミネラル感が豊富。厳格さと深みが感じられます。生産量は良年のみ3000~4000本。補助品種はマルヴァジア ネーラです。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。熟した果実やスパイス感が溶け合う、複雑で優美な香り。力強い味わいながら、タンニンはきめ細やかで奥行きを感じさせます。充実感のある味わいが長く美しく持続します。

アマの名を知らしめたフラッグシップ
世界屈指のメルロー100%スーパータスカン

ラッパリータ 2020

ラッパリータ 2020

マルコ氏:
「ラッパリータの区画は、ベッラヴィスタの一部にあります。1970年代半ばに植えられていたカナイオーロやマルヴァジアビアンカにボルドーのサンテミリオンのメルローを接ぎ木しました。初ヴィンテージは1985年。トスカーナでの高品質メルローの先駆けとなりました。その2年後にはマッセートなどの偉大なワインが続々と登場しました。標高500メートルの石灰土壌で育つメルローは力強く豊かでありながらエレガントで、暑い地域のような後口の苦味はありません。スーパータスカン全盛期に世界的評価を得て、アマを代表するフラッグシップとなりました。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。フレッシュな黒い果実や胡椒のようなスパイスなどが上品に溶け合う香り。香り同様に豊かでエレガントな味わいが口中に広がります。香りから一貫するエレガントな風味が非常に長く持続します。

インタビューを終えて

マルコさんが築き上げたワイン造りの哲学やワイナリーの軌跡など、どれも印象深いものばかりでした。なかでも印象的だったのは、拠点や畑の場所を「ガイオーレ イン キャンティ」とは一度も言わず、「私たちの畑」や「アマ」などと表現していたことです。まさに、アマという土地をワインに映し出すことに全力を注いでいる証だと感じました。「私にはアマのワインしか造れません」という言葉も強く心に残りました。

今回の試飲では、その畑の個性を映した単一畑キャンティ クラシコの魅力を存分に味わうことができました。どれもエレガントで上品なスタイルでありながら、「ラ カズッチャ」と「ベッラヴィスタ」は対照的な個性を放っていました。最初に試飲した「アマ」も素晴らしく、2年連続で「エノテカスタッフが選ぶ ワイン屋大賞」に選出されるほど抜群のコストパフォーマンスです。キャンティ クラシコの頂点に立つカステッロ ディ アマのワインを、ぜひご堪能ください。