2025年版『ガンベロロッソ』最優秀協同組合「ベリサリオ」

2025/10/09

2025/09/25

アントニオ チェントカンティ氏 Mr. Antonio Centocanti

2025年版『ガンベロロッソ』最優秀協同組合!山のヴェルディッキオ「マテリカ」の地位を築き上げた最大生産者「ベリサリオ」

ベリサリオは1971年、マルケ州西部マテリカに設立された生産者協同組合です。ヴェルディッキオ ディ マテリカDOCに点在する畑からワインを手がけ、その生産量はマテリカ全体の約65%に及ぶ同地区最大規模のワイナリーとして知られています。1980年代には、いち早く土地の個性に焦点を当てた造りに舵を切り、多彩なヴェルディッキオが誕生。フラッグシップのヴェルディッキオ「カンブルジャーノ」は『ガンベロロッソ』最高賞トレビッキエリを獲得し、2025年版ではワイナリーとして年間最優秀協同組合に選出されました。今回は、30年間にわたり代表を務め、ワイナリーの発展とマテリカの地位向上に尽力してきた当主アントニオ・チェントカンティ氏にお話を伺いました。

2025年版『ガンベロロッソ』最優秀協同組合に選出
ヴェルディッキオ ディ マテリカDOC最大の造り手

マテリカ全体の約65%を占める生産量
――まずはワイナリーについて教えてください。

私はベリサリオの代表、アントニオ・チェントカンティです。ベリサリオは1971年に設立された、マテリカを拠点とする生産者協同組合です。現在、約130名の組合員が所属しており、全体でおよそ280ヘクタールの畑を管理しています。そのうち、自社所有の畑は約180ヘクタールにのぼります。

私たちはマテリカにおける全体の約65%の生産量を占め、地域最大のワイナリーとして位置づけられています。マテリカは近年、外部から新たな生産者が参入してきており、現在は約25のワイナリーが活動しています。

経営難を乗り越え改革を断行
マテリカの地位確立に導いた現当主アントニオ氏

――アントニオさんが代表に就任されたのはいつ頃ですか?

1995年に就任してから30年が経ちました。私はもともとベリサリオの組合員でしたが、当時は銀行でコンピュータ関連やマーケティングの仕事をしていました。当時のベリサリオは経営が厳しい状況にあり、周囲からの要請を受けて代表に就任しました。

――就任当初は、どのような考えで改革に取り組まれたのですか?

経営現状を知った時は「多くの努力と犠牲を伴う仕事になるな」と覚悟しました。まず取り組んだのは、銀行からの融資を受けて経営基盤を立て直すこと。そして、当時はマルケ州が所有していたカンティーナを自社のものとして取得しました。

その後は畑のリニューアル、人員体制の見直し、最新設備の導入など、あらゆる分野で改革を進めました。ワイン造りの面では、「ヴェルディッキオ ディ マテリカ」に特化する方針を打ち出し、ワインのアイデンティティ確立に力を注ぎました。

ワイナリー規模を劇的に向上させて、マテリカの個性を確立
――ワイナリーの規模はどのくらい成長したのですか?

正確な比較は難しいですが、100倍くらいでしょうか(笑)。当時、マテリカには生産者はわずか6社しかありませんでした。少しずつヴェルディッキオの存在が知られるようになってきたものの、当時は依然としてイエージのほうが認知されており、マテリカの個性を広める必要があると強く感じていました。

現在、ベリサリオは年間150万本を生産するまでに成長しました。ここまで来られたのは、幸運と努力の積み重ねの結果です。今後もヴェルディッキオ造りに注力し、さらなる品質向上を目指していきます。

他の生産者に自社設備を共有し、地域全体の発展に貢献
2025年版『ガンベロロッソ』では、ベリサリオが最優秀協同組合に選出されました。これはワインの品質だけでなく、経営や組織運営を含めたワイナリー全体の取り組みが高く評価された結果です。もちろん、ワインそのものも常に高い評価を受けています。

フラッグシップである「カンブルジャーノ」は最高賞トレビッキエリを受賞し、2年前には『デカンター』で97点とプラチナ賞を獲得。世界のベスト180ワインにも選ばれました。また、ベリサリオの大きな醸造設備を生かして、他のマテリカの生産者にも施設を共有しています。
『ガンベロロッソ』年間最優秀協同組合

「山のヴェルディッキオ」
マテリカ独自のテロワールを先駆けて表現

イエージとの明確な違い
「山々に囲まれた畑」「標高800メートル」「昼夜の寒暖差20度」

――ヴェルディッキオ ディ マテリカは独特な産地ですよね。

ヴェルディッキオには、イエージとマテリカという二つの主要な生産地があります。マテリカは、イエージとは異なり非常に限られたエリアです。海から40キロほど離れているため、海の影響は一切受けません。

周囲は標高1600メートルにも及ぶ山々に囲まれており、まるで山岳地帯のような渓谷の中に畑が広がっています。マテリカの街自体が標高400メートルにあり、畑はおおむね450~800メートルに広がります。

上質な酸と豊富なミネラルを生む特異性
そのため、イエージでは降らない雪が毎年のように積もり、多い年には2メートル近くに達します。一方で日照にも恵まれ、昼夜の寒暖差は最大で20度にもなります。土壌は石灰質が主体で、これらの条件がマテリカならではのフレッシュな酸とミネラル感を育み、イエージとの明確な違いを生み出しているのです。

いち早くエリアの個性を体現
1988年より、多彩なヴェルディッキオをリリース

この渓谷には8つのコムーネがあり、ベリサリオでは地域や畑ごとに区分けしたワイン造りを行っています。そのため、収穫前の段階から、どの畑がどのワインに使われるかが明確に決まっています。私自身が所有する畑はヴァルボーナに使用していますが、2025年の収穫からはフラッグシップのカンブルジャーノに昇格しました(笑)。

――いつ頃から、エリアごとに分けたワイン造りを始めたのですか?

1988年です。その年から現エノロゴが参画し、彼の方針のもとでカンブルジャーノをはじめとする各ワインのアイデンティティを確立しました。そのため、多くのヴェルディッキオがその時期に誕生しました。

自然への敬意と探究心
ベリサリオの哲学が導く高品質ワイン造り

私たちは、環境と人々の健康への配慮を大切にし、化学物質を控えたワイン造りを行っています。たとえば、アニモロジコ(SO2無添加ヴェルディッキオ)の畑では、銅の代わりにエビの殻から作られた自然由来100%の肥料を使用しています。有機栽培の基準を満たすだけでなく、より自然に近い方法を選んでいるのです。

アニモロジコのブドウは収穫後、オゾン水で丁寧に洗浄し、発酵時に不要なSO2(酸化防止剤)が発生しないようにしています。SO2を使用しないため、光を遮る目的で黒いボトルに詰め、品質を守っています。

この造りによって、SO2アレルギーを持つ方でも安心して楽しむことができます。すべてのワインが自然なアプローチで造られていますが、とりわけアニモロジコは、高度な知識と技術を必要とする挑戦的なワインです。

――まさに、ベリサリオの哲学である「情熱のない科学は、愛のない仕事と同じくらい空虚である」という言葉を体現していますね。

ワイン造りへの深い情熱を持ってこそ、科学(サイエンス)的なアプローチが生きるのです。どれほど技術があっても、愛や情熱がなければ本当に良いワインは生まれません。私たちは多くの手間と時間をかけながらも、決して化学(ケミカル)的な手段には頼らない手法を選んでいます。

ヴェルディッキオで造る、
フレッシュ&ミネラリーなエクストラ ブリュット

ナディール ヴェルディッキオ ディ マテリカ スプマンテ エクストラ ブリュット 2022

ナディール ヴェルディッキオ ディ マテリカ スプマンテ エクストラ ブリュット 2022

アントニオ氏:
「ヴェルディッキオ ディ マテリカのスプマンテ エクストラ ブリュットです。シャルマ方式で造っています。マテリカと品種の特性により、すぐにミネラルを感じていただけると思います。また、長く熟成させることで複雑さが増していきます。」
試飲コメント:黄金色。黄色い果実や柑橘のふくよかでフレッシュな香り。味わいもフレッシュな酸が印象的で、ミネラルとともに厚みを伴う余韻が長く持続します。

濃密かつフレッシュなパッセリーナ100%白ワイン

パッセリーナ マルケ 2023

パッセリーナ マルケ 2023

アントニオ氏:
「パッセリーナ100%の白ワインです。一般的にパッセリーナはフルーティさが特徴ですが、このワインはしっかりとしたボディもあります。ステンレスのみで造られ、ミネラル感あふれる味わいです。ワイン単体でも楽しめますし、食事にもよく合います。鯛や貝、タコなどに最適です。」
試飲コメント:黄金よりの麦わら色。濃密な黄色い果実や白い果実のフレッシュな香り。ミネラル感もあります。香り同様で、南国果実やミネラル感のある味わいです。

エントリーライン
上級ラインの畑すべてのブドウを用いた超コスパ ヴェルディッキオ

ヴァルボーナ ヴェルディッキオ ディ マテリカ 2023

ヴァルボーナ ヴェルディッキオ ディ マテリカ 2023

アントニオ氏:
「ヴァルボーナはエントリーレベルのヴェルディッキオです。ステンレスのみで造られています。上級ヴェルディッキオの畑でセレクションから外れたブドウは、すべてこのワインに使われます。コストパフォーマンスが非常に高く、ワイン愛好家の方でも満足できるヴェルディッキオです。」
試飲コメント:黄金よりの麦わら色。白桃などの白い果実、爽やかなミネラル、華やかなジャスミンを思わせる香り。香り同様の味わいが口中に広がり、後口にはほろ苦い余韻が持続します。バランス感に優れた味わいです。

北部の畑で造る、綺麗な酸がエレガントに広がるヴェルディッキオ

デルチェッロ ヴェルディッキオ ディ マテリカ 2024

デルチェッロ ヴェルディッキオ ディ マテリカ 2024

アントニオ氏:
「北部にある南向きの畑で造っているヴェルディッキオ ディ マテリカです。2024年ヴィンテージですので、フレッシュで若々しい印象ですね。レモングラスやハーブのヒントがあり、ミネラル感もあります。発酵は12~13日と、一般的なワインよりも長く行います。これによりSO2の使用を極力抑えることができます。魚や白身肉、前菜、パスタ、鶏肉や七面鳥などとよく合います。」
試飲コメント:輝く麦わら色。柑橘類やハーブの要素を持つフレッシュな香り。華やかさも感じます。口当たりは繊細でエレガント。綺麗に伸びていく酸と、レモンの皮のようなニュアンスが心地よく持続します。

ベリサリオ唯一のオーガニック単一畑
ミネラリーで奥行きのあるヴェルディッキオ

ヴィニェーティ ビー ヴェルディッキオ ディ マテリカ 2023

ヴィニェーティ ビー ヴェルディッキオ ディ マテリカ 2023

アントニオ氏:
「私たち唯一有機栽培で造る単一畑ワインです。畑の標高500メートル、広さは5ヘクタール。風通しが良く南向きで、オーガニック栽培に最適な環境です。フルーティな味わいで、8~9年の熟成が可能です。魚料理はもちろん、より複雑な料理にもよく合います。Vigneti B(ヴィニェーティ ビー)のBは、ベリサリオやビオロジコ(オーガニック)を意味しています。」
試飲コメント:黄金色。レモンなどの柑橘、熟した黄色い果実、ミネラルを感じる香り。口当たりはなめらかで、エレガントで奥行きのある味わいが広がります。

酸化防止剤無添加
力強くフルーティで個性的なヴェルディッキオ

アニモロジコ ヴェルディッキオ ディ マテリカ ビオ So2 無添加 2021

アニモロジコ ヴェルディッキオ ディ マテリカ ビオ So2 無添加 2021

アントニオ氏:
「アニモロジコの畑では、自然環境を守るため、銅ではなくエビの殻から作った自然の成分100%の肥料を用いています。私たちはオーガニックの基準を満たすだけでなく、さらに自然な方法を選んでいます。また、アニモロジコはSO2を一切加えていません。ブドウの皮に自然に含まれる要素がSO2として作用します。収穫後は冷蔵庫で保管し、オゾン水で洗浄します。この方法でバクテリアを除去し、発酵時に不要なSO2を発生させません。SO2を含まないため、光から守る目的で、保存のため日光を避ける黒いボトルを使用しています。アンコーナ大学との共同プロジェクトから生まれたワインでもあります。SO2アレルギーの人でも安心して飲むことができます。標高500メートル、4ヘクタールの畑から造られ、年間約1万2000本生産。ステンレスのみで造られています。非常に個性的でフルーティなワインに仕上がっています。」
試飲コメント:濃い黄金色。ゴールデンアップルやアプリコット、パンの香り。フレッシュかつ濃密で、奥行きと厚みを備えたフルーティで力強い味わいです。

初ヴィンテージ1988年のフラッグシップ
ミネラル、酸、樽感が綺麗に溶け合うヴェルディッキオ

カンブルジャーノ ヴェルディッキオ ディ マテリカ リゼルヴァ 2021

カンブルジャーノ ヴェルディッキオ ディ マテリカ リゼルヴァ 2021

アントニオ氏:
「カンブルジャーノは、ベリサリオのフラッグシップです。1988年がファースヴィンテージです。2021年ヴィンテージは『ガンベロロッソ』でトレビッキエリを受賞しています。全体の5~6%をバリックで熟成し、ステンレスで仕上げたものと最後にブレンドします。収穫は手作業で行い、クリオマセラシオンを実施。穏やかなスパイスの香りがあり、酸とミネラルのバランスが取れています。少量のバリック熟成により、スパイスやバニラのヒントが加わり、余韻は長いです。魚料理よりも豚肉や羊肉など、脂や塩味のある肉料理とよく合います。」
試飲コメント:輝く麦わら色。白い果実や黄色い果実にアーモンドの要素が重なるエレガントな香り。柔らかくまろやかな味わいで、フレッシュな酸と樽のニュアンスが綺麗に溶け合っています。厚みのある余韻が長く続きます。

デイリーワインに最適
軽やかで飲み心地の良いサンジョヴェーゼ主体赤

コッラマート コッリ マチェラテージ ロッソ 2022

コッラマート コッリ マチェラテージ ロッソ 2022

アントニオ氏:
「コッラマートは非常に食事と合わせやすい赤ワインです。サンジョヴェーゼ、メルロー、カベルネソーヴィニヨンを使用しています。ステンレスのみで造られ、フレッシュでフルーティ、そしてエレガントな味わいです。コストパフォーマンスに優れており、デイリーワインとしても楽しめます。」
試飲コメント:ガーネットを帯びたルビー色。スミレや潰した花、チェリー系果実のフレッシュな香り。軽やかながら、凝縮感のある果実味やスパイス、タンニンが調和しています。後から黒胡椒やリコリスのニュアンスが現れます。

トップレンジの樽熟成ロッソ リゼルヴァ
濃厚で柔らかく広がるのある味わい

サンレオパルド コッリ マチェラテージ ロッソ リゼルヴァ 2021

サンレオパルド コッリ マチェラテージ ロッソ リゼルヴァ 2021

アントニオ氏:
「ベリサリオのトップレンジに位置するロッソ リゼルヴァです。サンジョヴェーゼ、チリエジョーロ、メルロー、カベルネソーヴィニヨンを使用しています。比率はヴィンテージによって変わります。1年半から2年ほど樽で熟成し、よりパワフルな味わいに仕上がっています。赤身肉や猪肉などの料理、特にステーキと好相性です。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。熟した赤い果実にスパイスや土のニュアンスを伴う香り。口に含むと力強く広がりながら、タンニンは馴染んでいて柔らかく、心地よい余韻へとつながります。

インタビューを終えて

山のヴェルディッキオ「マテリカ」の個性であるミネラル感と酸を、最初のスプマンテから最後の赤まで存分に堪能できました。なかでも、5種のヴェルディッキオの飲み比べは圧巻で、それぞれが明確な個性を放っていました。

バランスに優れたエントリーライン「ヴァルボーナ」、エレガントで伸びやかな酸の「デルチェッロ」、奥行きを備えたクリュ「ヴィニェーティ ビー」、力強く濃密なSO2無添加の「アニモロジコ」、そしてすべての要素が調和するフラッグシップ「カンブルジャーノ」。マテリカという土地の多様性と奥深さを強く感じました。

また、アントニオさんが語った「多くの努力と犠牲を伴う仕事になる」という言葉が心に残りました。その覚悟のもとで改革を重ねてきた歩みこそが、2025年版『ガンベロロッソ』最優秀協同組合という成果につながったのだと実感しました。ヴェルディッキオ ディ マテリカをけん引する最大の造り手、ベリサリオのワインを、ぜひ味わってみてください!