「世界一住みやすい街」トーディの造り手ロッカフィオーレ

2025/11/04

2025/10/07

ルカ バッカレッリ氏 Mr. Luca Baccarelli

「世界一住みやすい街」トーディの気品あふれるスタイル!テロワールと哲学が導く、軽やかで心地よい味わい「ロッカフィオーレ」

「世界一住みやすい街」として知られる、ウンブリア州の丘陵地トーディ。ロッカフィオーレはその地で1999年、レオナルド・バッカレッリ氏によって創業された家族経営ワイナリーです。自然環境に配慮したオーガニック栽培をはじめ、サステナブルなワイン造りに力を注ぎ、『ガンベロロッソ』の「イタリア最優秀エコワイナリー賞」を受賞しています。使用するブドウは、トーディの土地に根づいた土着品種。自然に囲まれ標高の高いトーディのテロワールと、ワイナリーが徹底してきた哲学から、エレガントで飲み心地の良い味わいが生まれています。昨年に続き今回も、2代目当主ルカ・バッカレッリ氏をお迎えしてお話を伺いました。

ウンブリア州トーディ独自のエレガンス
醸造家アルトマン氏と築き上げたワイナリー哲学

――ロッカフィオーレの本拠地、ウンブリア州トーディは「世界一住みやすい街」として知られていますね。

約35年前、アメリカ人ジャーナリストが紹介したことがきっかけでした。トーディは人が心豊かに暮らすために欠かせない「美食」と「自然」が揃っています。中世の面影を色濃く残しており、観光地化されすぎていない点も魅力です。

過剰に観光客向けになると、街を根本から作り直す必要がありますが、トーディはオリジナルの姿を保っています。アクセスのしやすさよりも、土地本来の風景や人々の暮らしが大切にされています。わかりにくい土地ともいえますが、それが結果的に街の個性と居心地の良さにつながっています。

標高400メートル、トーディの丘に位置する所有畑
気候にも恵まれており、夏は暑すぎず冬も穏やか。街の標高は約500メートルと高く、爽やかな風が通り抜けます。私が通っていた高校からは、トーディの街全体を一望できました。ロッカフィオーレの所有畑も標高の高い場所にあり、最も高い区画はおよそ400メートルに位置しています。
トーディ

飲み心地の良さが光る本拠地トーディのワイン
ウンブリアというと、モンテファルコ地方が最も知られた産地で、多くの人がサグランティーノの印象を思い浮かべるでしょう。そのため、ウンブリアと聞くと「力強く野性的な赤ワイン」というイメージを持たれがちです。けれど実際には、サグランティーノの生産量は州全体のわずか8%ほどにすぎません。

トーディは、よりエレガントでフレッシュ、そして飲み心地の良いスタイルを特徴としています。これはまさにロッカフィオーレが大切にしてきた哲学です。ワイン造りを始めてから21回目の収穫を迎える今、20年にわたる歩みの中で、そのスタイルを一つひとつ築き上げてきました。
カンティーナと畑

ロッカフィオーレの原点①「醸造家アルトマンとの出会い」
そのスタイルを形づくったのは、創業者である父と醸造家アルトマン・ドナの存在でした。1990年代の終わりに父が畑づくりを始めたとき、心にあったのは彼自身が大好きなアルト アディジェのワインでした。とりわけスキアーヴァの繊細で軽やかな味わいを、このウンブリアの地で表現したいという思いが出発点だったのです。

そして、休暇で訪れたアルト アディジェで、たまたま紹介されたのが若き醸造家アルトマンでした。彼はテルラーノの醸造家として偉大なワインを手がけてきた人物で、2005年から2014年までロッカフィオーレの醸造家として、父とともに理想とする味わいを追求してきました。

ロッカフィオーレの原点②「北向きの畑」
アルトマンと最初に取り組んだのは、北向きの畑づくりでした。これは、優しい日差しを受けながら、北から吹く冷たい風を取り込むことが狙いです。30年が経った今、その北向きの畑こそが私たちのスタイルを表現する最大の強みだと実感しています。また、温暖化が進む今の時代においても、この選択は理にかなっていると感じます。

アルトマンとの出会い、そして北向きの畑という選択。この2つこそが、ロッカフィオーレの物語の原点です。

ワイナリーの精神を受け継ぐ、若手中心メンバー
アルトマンの存在によって、ロッカフィオーレには確固たるチームが築かれました。彼がワイナリーを離れてからも、私を含め全員がその精神を受け継ぎ、協力しながらワイン造りを続けています。かつてアルトマンのもとでアシスタントを務めていたメンバー(下部写真左)は、今なお第一線で活躍しています。

そして、より若い世代が活躍できる体制づくりにも力を入れてきました。トーディの高等専門学校からも新しい人材を積極的に採用しています。

トーディのテロワールと造り手の哲学が共鳴
繊細で飲み心地の良い独自の個性

トーディの土着品種を基軸とするワイン造り
ワイン造りで最も重視しているのは、トーディの土地に根づく土着品種を使うことです。グレケット、トレッビアーノ スポレティーノ、そしてサンジョヴェーゼ。このうちグレケットは、トーディ発祥のG5クローンを使用しています。ほかの産地のクローンとは異なり、酸とストラクチャーがしっかりしており、単一品種でも十分に個性を発揮できるのが特徴です。

「標高の高いガイオーレや、モンタルチーノ北部と共通する性格」
トーディの哲学も映した、飲み心地の良いサンジョヴェーゼ

サンジョヴェーゼもまた、トーディならではの個性を備えています。一般的に、サンジョヴェーゼは州ごとに特徴づけられがちですが、トスカーナとウンブリアは森でつながる隣り合った地域であり、キャンティ クラシコやモンタルチーノからも数十キロの距離にあります。

そのため、標高の高いガイオーレ イン キャンティや、モンタルチーノ北部と共通する性格を持ち、言うなればロッソ ディ モンタルチーノとブルネッロの中間に位置するようなスタイルです。ただし、トーディの個性と造り手の哲学を反映することで、繊細で飲み心地の良い独自の個性が表現されます。
サンジョヴェーゼの畑

軽やかさを追求するロッカフィオーレの、誠実なワイン造り
――ラベルにアルコール度数「12.4%」と細かく記載されていますね。通常なら12%としてしまうところが多いと思います。

創業時から、私たちはアルコール度数の高くないワインを造りたいという考えを持っていました。確かに12%と表記することもできますが、「小数点以下をここまで下げる努力をした」ということを伝えたかったんです(笑)。畑での丁寧な作業の積み重ねが、この数値に表れています。

2020年ヴィンテージから、より低いアルコール度数になるように造っています。それは人工的な操作ではなく、ヴィンテージの特性を生かしながら調整しています。その結果、現代のトレンドが求める軽やかでバランスの取れたスタイルに仕上がっています。
イル ロッカフィオーレ

複数の花はブレンド畑、1本の花はクリュ
テロワールが一目でわかるラベルデザイン

私たちのワインは、「土着品種」「畑の違い」「醸造タンクの違い」を通じて、さまざまな個性を飲み比べられるラインナップになっています。その中でも「畑の違い」は、ラベルデザインだけで直感的にわかるようになっています。

複数本の花が描かれているラベルは、複数の畑をブレンドして造られたワインです。対して、1本の花が描かれているラベルは単一畑、すなわちクリュワインを意味します。その代表が、1999年に植樹した畑で造るイル ロッカフィオーレです。

引き締まった酸とミネラル感が際立つエントリー白

ビアンコ フィオルダリーゾ 2023

ビアンコ フィオルダリーゾ 2023

ルカ氏;
「ビアンコ フィオルダリーゾは、グレケット ディ トーディ100%をステンレスタンクで造る白ワインです。4つの区画にある、樹齢15年ほどの最も樹齢が若いブドウを用いています。北向きの畑が中心のため、アロマがしっかり感じられます。このグレケットはトーディのG5というクローンを使用しています。これは単一品種で造れるほど構成があり、酸やストラクチャー、はっきりとした個性を持っています。口の中では塩味やミネラル感が感じられます。フィオルダリーゾとは花の名前で、華やかさを表しています。」
試飲コメント:深みのある麦わら色。白い果実や黄色い果実のフレッシュな香りに、引き締まった酸とミネラル感。柔らかな口当たりながら、シャープな酸が全体を引き締め、エレガントな印象です。

クリーミーさ、フレッシュさ、ミネラル感が融合
80%大樽、20%アンフォラ熟成のクリュ グレケット

フィオルフィオーレ 2022

フィオルフィオーレ 2022

ルカ氏;
「グレケット ディ トーディ100%のクリュ ワインです。樹齢45年の北向きの単一畑。土壌は石灰だけでなくチョーク質の石も含んでいます。80%は大樽、20%はアンフォラで1年間熟成します。大樽はこの20年間使い続けているもので、ずっと同じ樽を使っています。アンフォラはガラスに近い質のものを用いてるため、シャープさやフレッシュさを保つことができます。酸化させるためではありません。大樽由来のクリーミーさやバニラの豊かさに、アンフォラ由来のフレッシュさが加わっています。わかりやすく言えば、20%を先に瓶詰めしているようなイメージです。後口には、品種由来のミネラル感もしっかりと感じられます。」
試飲コメント:やや黄金色。黄色い柑橘や熟した果実の香り。口当たりは柔らかく、フレッシュな酸と柑橘の皮のようなほろ苦さが心地よい余韻を残します。クリーミーさの中に爽やかさが溶け合っています。

果実味豊で深みのある味わい
アンフォラ熟成のトレッビアーノ スポレティーノ

ラルトロ ビアンコ ウンブリア トレッビアーノ 2023

ラルトロ ビアンコ ウンブリア トレッビアーノ 2023

ルカ氏;
「ラルトロ ビアンコ、もう一つの白という意味です。ウンブリア州でもう一つの白ブドウといえば、トレッビアーノ スポレティーノです。ルガーナやアブルッツォにあるものとは全く個性の異なる品種です。深みがあり、余韻も長く、ストラクチャーや酸も備えていて、複雑な味わいです。樹齢はまだ若いのに、すでに個性がはっきりしていて、長期熟成のポテンシャルがあると考えています。2016年から畑を造り、2020年がファーストヴィンテージ。1年間、アンフォラで熟成します。樽ほどではないけれど、ステンレスでは絶対に得られないニュアンスを与えてくれるアンフォラを使用しています。合わせる料理としてはアペリティフ系でも十分に使えますし、より複雑な料理にも合います。特に先日食べたとんかつは、非常に相性が良いと思いました。」
試飲コメント:深みのある黄金色。アプリコットや黄色い果実の濃密かつエレガントな香り。完熟果実の丸みと豊かな果実味が広がり、深みと柔らかさが見事に調和しています。後味にはほのかな苦味と軽やかな余韻が続きます。

「白ワインと間違えられるくらいの軽やかさ」
フレッシュさを最大限に引き出したサンジョヴェーゼ100%ロゼ

ロザート 2023

ロザート 2023

ルカ氏;
「特にフレッシュさを重要視して造るロザートです。複数の畑のサンジョヴェーゼをブレンドしています。サンジョヴェーゼの畑の中でも、あまり太陽が当たらない下部のエリアを中心に使い、早摘みしています。フレッシュさと華やかな香りを引き出すために、スキンコンタクトは3~4時間のみ。ブラインドで飲んだら白ワインと間違えられるくらいの軽やかさを目指しています。若いうちに楽しんでほしいので、瓶内熟成は全く必要ないと考えています。」
試飲コメント:玉ねぎの皮色。繊細な赤い果実や花の香りにミネラルのニュアンス。口に含むとフレッシュでフルーティな果実味が広がり、軽やかでエレガントな味わいです。

軽やかでカジュアルに楽しめるエントリー サンジョヴェーゼ

ロッソ メログラーノ 2022

ロッソ メログラーノ 2022

ルカ氏;
「ロッソ メログラーノは、アルト アディジェのワインが好きだった父の思いを反映したワインです。サンジョヴェーゼ100%で、複数の畑をブレンドし、ステンレスタンクでフレッシュに仕上げています。ヴィンテージによって異なりますが、50~80%はカルボニックマセレーションを行います。これによってサンジョヴェーゼ特有のタンニンが和らぎます。少し冷やして楽しむのもおすすめです。アルコール度数も低めで、飲みやすくカジュアルなスタイルです。ストラクチャーは軽やかで飲み心地が良く、今の時代のワインのスタイルにも合っていますね。いわゆるピノノワール的な感覚です。ピッツァやサラミ、BBQ、昼飲み的なシーンにもよく合います。」
試飲コメント:輝くルビー色。繊細な赤系果実の香りが心地よく広がります。味わいも香り同様に繊細で、タンニンは控えめ。滑らかで穏やかな印象が残ります。

日照条件に優れた最も標高の高い単一畑
エレガンスが際立つクリュ サンジョヴェーゼ

イル ロッカフィオーレ 2019

イル ロッカフィオーレ 2019

ルカ氏;
「クリュ サンジョヴェーゼです。私たちが所有する畑の中でも最も標高が高く、日当たり条件に優れた区画です。2005年から使い続けている大樽で2年間熟成させています。木の影響が出すぎないようにするために、ニュートラルな樽を用いています。味わいはクラシックなサンジョヴェーゼのスタイルで、きちんと味わえる果実の存在がありながら、クリーンさとエレガンスがあります。」
試飲コメント:ルビー色。ベリー系果実やスミレの華やかな香りに、樽の要素が美しく溶け合っています。味わいも香りと調和し、豊かな果実味と花の余韻が長く続くエレガントな仕上がりです。

サグランティーノ、モンテプルチアーノ、サンジョヴェーゼ
24ヶ月バリック熟成のスーパーウンブリア

プローヴァ ダウトーレ 2020

プローヴァ ダウトーレ 2020

ルカ氏;
「プローヴァ ダウトーレは、他のラインナップとは完全に別カテゴリーのワインになります。サグランティーノ40%、モンテプルチアーノ30%、サンジョヴェーゼ30%で構成されています。最初から最後まで強く感じられるのはサグランティーノで、タンニンやポリフェノールといった最もタフな部分を担っています。2年間バリック熟成をしているのですが、サグランティーノだけは7~8%だけ新樽を使用しています。理由は、サグランティーノが非常にタフな品種だからです。私たちは地元トーディを表現するワインを造っていますが、このワインはウンブリア全体を表現したスーパーウンブリアと言える存在ですね。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。黒い果実の凝縮した香りに、やや甘やかでスパイシーなニュアンス。柔らかな口当たりで、黒胡椒やリコリスの風味が力強く広がり、存在感のあるタンニンが余韻を引き締めます。

ウンブリアでは類を見ない、モスカート ジャッロで造るパッシート

コリーナ ドーロ 2023

コリーナ ドーロ 2023

ルカ氏;
「コリーナ ドーロは、モスカート ジャッロで造るパッシートです。創業当初から造っているワインです。なぜウンブリアとは縁のないモスカート ジャッロを用いているかというと、父に協力した醸造家の畑にこの品種があったためです。ウンブリアでモスカート ジャッロを使っている生産者はいないと思います。醸造は完全にステンレス。糖度は1リットルあたり150グラムで、かなり多いほうですが、酸が残っているので飲み心地はとても良いです。ヴィンテージによりますが、樹になっている房を完全に切り取るのではなく、少しだけ切って栄養が行かない状態にして遅摘みします。」
試飲コメント:琥珀色。ドライアプリコットのような甘やかな果実香。口当たりはフレッシュな酸と優しい果実味が調和し、しっとりとした余韻が持続します。

インタビューを終えて

ロッカフィオーレのワインは、飲むたびにその優美で染み渡る味わいが印象に残ります。どのキュヴェにも共通して優しさがありながら、それぞれの個性がしっかりと感じられました。

なかでも、クリュ グレケット「フィオルフィオーレ」は、ルカさんの言葉どおり、造り手の意図が丁寧に表現された1本でした。大樽由来のクリーミーさ、アンフォラ由来のフレッシュさ、そして品種由来のミネラル感が見事に調和していました。

また、エントリーライン「メログラーノ」とクリュ「イル ロッカフィオーレ」といった2つのサンジョヴェーゼからは、トーディのテロワールと哲学である「軽やかで飲み心地の良さ」を最も堪能することができました。特に今回試飲したイル ロッカフィオーレは、熟成を経た2019年ヴィンテージで、前回のインタビュー時よりも一層深みが増した味わいとなっていて印象深かったです。