2026/02/17
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マルコ ベルトーネ氏 Mr. Marco Bertone
「ワインの最高のペアリングは、料理ではなく『人』である」――4世代100年続くマローネ家の哲学と革新

- 退職金代わりのモスカートから始まった、100年の歴史と「信頼」の畑
- 「君は一体だれ?」ヴィニタリーの大舞台でバンフィを驚かせた最高の栄誉
- 第4世代・ヴァレンティーナさんが挑む「酸化なき」ピュアネス
- 年間4万人が訪れるレストランは飲み手との「対話の場」
- クラシコは年を語り、ブッシアは土地を語る
退職金代わりのモスカートから始まった、100年の歴史と「信頼」の畑
創業から100年以上が経った今も、マドンナ ディ コモの畑はマローネ家によって大切に守り続けられ、現在は4代目三姉妹の名を冠したアルネイス「トレ フィエ」が生まれています。白ワインがバローロのおまけではなく、ワイナリーのアイデンティティを形成する重要な柱であるのは、この原点があってこそです。

信頼の積み重ねが導いた、バローロの銘醸区画
カルロはその後、品質を重視し低収量栽培をスタート。2代目カルロが優良なワイン生産者として事業を拡大し、3代目のジャンピエロがバローロ進出を決意。そこから40年余りで、バローロの重要クリュ「ブッシア」や、2025年ヴィンテージの初リリース予定している「プニャーネ」を含む42ヘクタールを管理するまでに成長しました。「ピエモンテの畑は、お金があれば買えるものではない。先代からの信頼関係があったからこそ、私たちはこの素晴らしいテロワールを手にすることができたのです」。そう語るマルコさんの言葉に、100年という時間の重みを感じさせます。

マドンナ ディ コモの畑
「君は一体だれ?」ヴィニタリーの大舞台でバンフィを驚かせた最高の栄誉
表彰台に並んだ際、巨大資本バンフィ社の代表が、隣に立つ無名のジャン ピエロさんに対し「君は一体誰だね?(どこから来たんだ?)」と驚きを隠せなかったというエピソードです。これが「無名のダークホースが頂点に立った」という彼らの伝説の始まりです。
ブッシアは、マローネが体現する「華やかさとエレガンス」とはある意味で対極にある、厳格なテロワールを持つクリュです。そのブッシアの個性を自分たちの色で塗り替えることなく、土地の厳しさをそのまま表現したことが、この受賞につながりました。
授賞式では、その年の最優秀賞(甘口ワインで受賞)に輝いたブルネッロの巨人「バンフィ」と同席。そのクオリティに驚いたバンフィの担当者が思わず口にしたのが、先述した「君は一体だれなんだ?」という一言でした。
2度目の栄冠!『ヴィーニタリ2025』2024年年間最優秀イタリアワインに選出
マローネのバローロ ブッシアは、さらに2度目の栄冠に輝いています。『ヴィーニタリ(Vinitaly)2025』で、「バローロ ブッシア 2019」が2024年の年間最優秀イタリアワインに選出。これは全イタリアワインの中で唯一選ばれる賞。イタリアを代表する生産者の一人として、その存在感を決定づけた瞬間でした。
「この賞は、過去に同じワイン、バローロ ブッシア2013年にも授与されたことがありますが、そのときは、予想外の受賞に、私たちは喜びと驚きを覚えた小さな勝利でした。
不安定なヴィンテージを経て、同じワインで再び与えて頂いた今回の受賞は、ここ数年にわたる努力、犠牲、研究にさらなる価値と喜びを与えてくれるものです。」と語っています。

第4世代・ヴァレンティーナさんが挑む「酸化なき」ピュアネス
その哲学が最も色濃く表れているのが、白ワインの醸造における徹底した「酸化防止」へのこだわりです。収穫後すぐにブドウを冷却して酸化を防ぐのはもちろん、特筆すべきはステンレスタンク内での技術です。タンク下部を冷やし上部との間に温度差を作り、1度単位の温度差を利用して液体を自然対流させる独自の「対流バトナージュ」を採用。この手法を取ることで液体が自然に対流する環境を生み出します。これにより、酸化を極限まで抑えながらブドウの繊細なアロマと旨みを引き出しています。

世界の星付きシェフ、ソムリエに選ばれたランゲ アルネイス「トレ フィエ」
この姿勢で生み出されたワインは、世界のトップシェフ、トップソムリエたちをも魅了しました。2025年に開催された、ミシュランの星付きレストランが集う「ミシュラン ガラディナー」でのこと。コースを構成する6皿それぞれに名だたる世界的銘柄が選ばれるなか、そのうちの1本としてランゲ アルネイス「トレ フィエ」が唯一のイタリアワインとして選出されたのです。
前年2024年にはモスカート ダスティ、2023年にはバローロ ブッシアが選出。さらに「ミシュラン シェフズ ディナー 2022」でも、アルネイス「トレ フィエ」が採用されました。ヴァレンティーナさんの哲学が生むワインの実力が証明されています。

「ミシュラン ガラディナー 2025」のメニュー
ベルギーの二つ星「Nuance」のセカンドスターターとのペアリング
年間4万人が訪れるレストランは飲み手との「対話の場」
レストランの視点で生まれた、食事に寄り添うランゲ ネッビオーロ
ワインを造るだけでなく、ワインを囲む体験ごと提供し、そこで生まれた感動と率直な反応を即座に醸造へとフィードバックする。この徹底した現場主義が、マローネのワインに共通する「味わい深くきれいな酸」と「飲み心地のよさ」を支えているのです。
その対話から生まれたのが、一部にマセラシオン カルボニックを導入した「ランゲ ネッビオーロ」です。飲み手が求める「心地よさ」を追求して、高度な技術を使いながらも、飲み手にリラックスした時間を届けています。それがマローネの流儀です。

ワイナリー併設レストラン
クラシコは年を語り、ブッシアは土地を語る
広大なブッシアの中でも個性が際立つ北部のソッターナ
一方、単一畑「バローロ ブッシア」では、造り手の意図を意識的に排し、土地の個性を素直に写し取ることに徹します。特にマローネが所有するのはブッシア北部のソッターナエリア。
この区画には希少な「ロゼ」クローンが残っており、新規植栽が認められていない今となっては貴重な存在です。また、複雑な土壌構成で、隣接するカスティリオーネ ファッレット村の特徴も併せ持つ、広大なブッシアの中でも際立った個性を持ちます。
ヴィンテージの個性と区画の個性を明確に分ける「バローロ クラシコ」と「バローロ ブッシア」。この「両輪」が、マローネのさらなる進化を支えています。

2023年からMGA「プニャーネ」を単独所有
テロワールへの探究心は、ブッシアにとどまりません。2023年にはMGA「プニャーネ」を1.5ヘクタール取得。バローロへの新規参入が極めて困難な時代ながら、単独所有するまでになりました。この区画が、マローネの「土地を語るワイン」に新たな1ページを加えようとしています。
最高のペアリングは、料理ではなく「人」
最後にマルコさんが語ったのは、マローネが100年かけて紡いできた「人と人がつながる時間」を体現したような締めくくりでした。
「どんなに高価なバローロでも、目の前の人が笑顔になれなければ意味がありません」。マルコさんが最後に語ったのは、極めてシンプルな哲学でした。彼にとってワインの役割は、テクニカルな数値を競うことではなく、共有する時間を豊かにすること。「最高のペアリング相手は料理ではなく、人です。今日、こうして皆さんとワインを酌み交わし、時を忘れて語り合えること。それこそが、マローネがワインを造り続ける最大の理由なのです。
今回みなさんに、私たちの歴史背景や哲学、ワイン造りを知っていただきました。これが最高のペアリングへの第一歩になれたら嬉しいです。」
世界のトップシェフ、ソムリエに選ばれた
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ランゲ アルネイス トレ フィエ 2023 |
| マローネの歴史が始まった原点「マドンナ ディ コモ」で造る、4代目三姉妹の名を冠したアルネイスです。口に含んだ瞬間、果実とミネラルの豊かなボリューム感に思わず驚く、エキス分の強い白ワインです。ミシュランの星付きレストランが一堂に会すガラディナーで、名だたるフランスワインを差し置いて選ばれた一本です。アルネイスは放っておくと実をつけすぎてしまう、実は栽培が難しい品種。密植と適切なストレスをかけることで根を地中深くまで伸ばし、房の内外がバランスよく成熟するよう丁寧に管理されています。 |
| 試飲コメント:輝く麦わら色。華やかで複雑、エレガントな香り。フレッシュな白い果実、白い石のようなミネラル感、やや濃密なトロピカルなニュアンスも感じます。口に含むとフレッシュな酸と果実感が広がり、後口にはレモンのような柑橘の印象が続く心地よい味わいです。 |
「これを飲めばマローネの実力がわかる」名刺代わりのシャルドネ |
ランゲ シャルドネ メムンディス 2022 |
| マローネの名刺代わりのシャルドネです。ワイナリー併設のレストランでも海外からのゲストに特に愛される存在で、世界中で人気があるシャルドネだからこそ、このシャルドネを飲めばマローネがどれほどのワイナリーかを一口で伝えることができる。そんな自負が込められた一本です。実はこのワイン、2代目がネッビオーロを植えるつもりだった畑に誤ってシャルドネを植えてしまったという勘違いから生まれました。できたブドウでワインにしてみたところ、悪くなかったというのが始まりで、その偶然の産物が今や、マローネの顔とも言える一本に成長しています。醸造では最初の1回のみバトナージュを行い、その後は樽自体を回転させることで酸化を抑えながら旨みを引き出します。樽のリッチさがありながら、綺麗な酸がエレガントに全体を引き締める仕上がりです。 |
| 試飲コメント:透明感のある黄金色。凝縮した黄色い果実の上品な香りが、程よい厚みのあるスパイスと見事に調和しています。柔らかな口当たりで、まろやかな果実感と奥に感じる酸が溶け合います。上品でエレガント。飲み込んだ後も厚みと丸みのあるフレッシュな酸が長く持続します。 |
マローネが導く「心地よさ」の答え
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ランゲ ネッビオーロ 2022 |
| 年間4万6千人が訪れるワイナリーレストランで、飲み手との対話から生まれたとも言える一本です。クリアなルビー色で、開けたてから明るいベリーやダークチェリー、ほのかなキャンディのような甘やかさが華やかに広がります。柔らかな果実味とタンニンが心地よく溶け合い、飲み疲れしない軽やかな旨みが続きます。マセラシオン カルボニックを取り入れることで、マローネの心地よさに対する答えを導き出しました。ステンレスタンク醸造によって、よりフルーティーなスタイルに仕上げていきます。 |
| 試飲コメント:淡いルビー色。チェリー系のチャーミングさを持つ、繊細で上品な香りです。赤い果実の心地よさがあり、柔らかで細やかなタンニンとフレッシュな果実感が溶け合います。程よい複雑さを伴った心地よい余韻が続きます。 |
バルベーラ&ネッビオーロ
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ランゲ パッシオーネ 2021 |
| バルベーラ主体にネッビオーロをブレンドし、樽熟成で仕上げた一本です。バルベーラ由来の深い色調とジューシーな果実味、ネッビオーロ由来のエレガンスと余韻の長さがあります。そして、胡椒を思わせるスパイシーなニュアンスと十分なタンニンが重なり合う、力強い味わいです。 |
| 試飲コメント:深みのあるルビー色。赤と黒の熟した果実を感じる豊かでフレッシュな香り。エレガントな印象もあります。味わいは香りと同様に豊かでみずみずしい果実感が口中に広がるクリーンな味わいです。 |
あらゆる要素が見事に調和したバルバレスコ |
バルバレスコ 2021 |
| 食事と合わせることで真価を発揮するバルバレスコです。クリーンでエレガントな造りで、バルサミックやなめし革のクラシックな香り。口に含むとじんわりと果実味が広がり、タンニンと酸、旨みが見事なバランスで整っています。2021年は偉大なヴィンテージだけにタンニンの硬さも感じますが、それはこのワインの熟成ポテンシャルの証でもあります。しかし、今飲んでも十分楽しめます。 |
| 試飲コメント:淡いルビー色。ドライフラワーやバルサミコ、土のニュアンスを持つ、繊細で上品な香りです。口に含むとフレッシュでエレガントな酸が華やかに広がり、存在感がありながら綺麗なタンニンと果実感が綺麗に調和しています。 |
「マローネ」と「ヴィンテージ」の個性を表現
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バローロ 2020 |
| マローネの「家の味」を表現するバローロ クラシコです。マローネがその年のブドウと真摯に向き合い、複数の畑のブドウをブレンドして造る、ヴィンテージを表現する誇り高きクラシックです。決してクリュの格下ではありません。なめし革や森の湿った土っぽさが漂う、重心の低いクラシックな香りで、時間とともに複雑さが増していきます。2020年ヴィンテージは親しみやすく、早くから楽しめる仕上がりです。 |
| 試飲コメント:淡いガーネット色。エレガントかつ力強い、華やかな香り。ドライフラワーや土の要素に、徐々にハーブの爽やかさも加わります。滑らかなタンニンと綺麗な果実が調和した洗練された味わいで、上品ながらいつまでも持続する長い余韻が印象的です。 |
ブッシアの中でも特に複雑な土壌と、
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バローロ ブッシア 2020 |
| 新規植栽が認められていない希少なロゼクローンで造るバローロ ブッシアです。畑が位置するのは広大なブッシアの中でも、北部のソッターナエリア。ここには現在の主流クローンであるミケやランピアとは異なり、ロゼクローンが残っています。そのロゼが生み出す女性的なしなやかさが、このワインの最大の個性です。また、近隣のカスティリオーネ ファレット村の特徴も併せ持つ複雑な土壌と、その希少なクローンが生み出すブッシアの中でも唯一無二の一本です。クラシコに近いなめし革や土のニュアンスを持ちながら、よりキノコ類の複雑さが加わり、まろやかな口当たりの奥から語りかけてくるような重厚なパワフルさが広がります。 |
| 試飲コメント:透明感があって輝くガーネット色。上品でピュアな果実感にやや甘やかさも感じ、レザー、土、スパイス、コーヒーのようなニュアンスも加わる、複雑で奥行きのある香りです。力強さがありながら滑らかな口当たりで、心地よいタンニン、綺麗な酸、複雑な要素が綺麗に絡み合い、上品な旨みが染み渡る味わいです。 |
インタビューを終えて
小作が土地を持つなど考えられない時代、当時の地主(フォンタナフレッダ)から異例の譲渡を提案されたという事実は、初代が築いた誠実さが、金銭以上の『信頼』という財産となって土地に変わったのだと思わされました。
そして、次世代がワイン造りで評判となり、3代目でバローロに進出。世代世代で一大決断をして、少しづつワインの事業を確かなものにしてきたわけです。
長い間、土地を借りながら、ワインを造りをする、そういう関係性の中で、入手困難と言われるブッシアの土地も譲り受けることができました。それも、彼らにとっては大きな投資。お話の間、何度も口にされた『大きな投資』という言葉は単なる経営上の数字ではなく、数世代かけて築いてきたものを賭けてでも、バローロ ブッシアに根を下ろそうという、マローネ家の覚悟にも聞こえました。
そして、そのレストランが、単なる収入源ではなく、『市場を知る最前線になっている』と語ってくれたのも、消費者に寄り添うその姿勢に、マーケティングという言葉を超えた謙虚さを感じさせてくれました。
醸造責任者のヴァレンティーナさんが運営に携わって以降、さらなる目覚ましい品質の向上があったわけですが、ヴィニタリーの授賞式で大御所バンフィに「君は誰?」との少し失礼な問いかけが、結果として彼女の才能を世界に知らしめるエピソードになりました。それは、実力ある新世代が、ついにバローロの歴史の表舞台へと躍り出たドラマチックな瞬間でした。
数々のワイナリーが彗星のごとくワイン界に現れ、押しも押されぬトップ生産者の地位を築く姿を見てきましたが、マローネもまた、これからのバローロを牽引する生産者になるのだろうと思いました。
飲む人に寄り添う素晴らしいマローネのワイン。ぜひお試しいただけたら嬉しく思います。











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