ピエモンテの奇才「フランコ マルティネッティ」の“マルティン”は、ティモラッソの豊かな風味としっかりとした味わいが上品に表現された１本です。リースリングを思わせるぺトロール香があり、ストラクチャーやミネラルはブルゴーニュを髣髴させる優美さがあります。36時間低温マセラシオンの後、フレンチオークのバリック（小樽）で発酵させ、約14ヶ月の間バリックで熟成を行います。“マルティン”はカワセミの意味です。その美しい姿は、ラベルにも描かれています。

ティモラッソは、一時は絶滅の危機にあったピエモンテの土着品種でしたが、トルトーナの生産者たちの努力が実り生産量を徐々に増やしています。近年は、その素晴らしさが世界的にも再認識されているブドウです。アルコール度数は全体的に高めで、果実味よりもしっかりとした骨格を感じられる傾向のワインになります。そのボリュームにより、酸やミネラルが感じにくいと言われることもあるくらいです。「フランコ マルティネッティ」のティモラッソには、そのボディを支える酸があり、ミネラルもしっかりと存在感を出しています。

ピエモンテの奇才と呼ばれる、その独自のスタイル

ピエモンテのワイン生産者の中でも、フランコさんは有名人です。その独自なスタイルに注目され、彼のつくりだすワインに興味深々な生産者たちに質問攻めにあうこともあるそうです。親交のある生産者たちは、豪華極まりなく、アンジェロ・ガヤを筆頭にバルトロ・マスカレッロ、バルベーラのワイン造りで有名なワイナリー“ブライダ”のジャコモ・ボローニャとはバルベーラ醸造論で意気投合する間柄だそうです。バローロボーイズの代表格エリオ・アルターレとも仲が良く、ワイナリーを一時、間借りしていたそうです。

フランコさんは、自分自身のワイナリーを所有していません。自身で購入し所有しているのはステンレスタンクや木樽などの醸造に必要な機材のみで、他社のワイナリーの一角を間借りし、そこに自分のタンクや木樽を置いてワイン造りを行っています。フランコさんは、畑も所有していません。ほぼ全て他のワイナリーの畑を借り、そこでブドウの栽培から収穫までを管理しています。作業は貸し手のワイナリーが行い、畑の手入れから収穫まで全ての作業指示は彼が出しています。

彼は畑やワイナリーの所有にこだわりを持ちません。重要なのは、“良い畑を見極められるかどうか”ということだとフランコさんは言います。もともと、彼の祖父が自家消費用にワインを作っていたそうで、フランコさんは子供の時から畑での作業、ワイナリーでの作業を自然と憶えていったそうです。本格的に醸造学を勉強したことも、農学を勉強したことも無く、彼のワイン造りの理論は、ほとんど全て経験で憶えた“実践型”です。

フランコさんは「バランス・エレガントさ・そして表現力を兼ね備えることが偉大なワインの3条件！」だと独自の“定理”と語ります。

簡潔でブレない哲学を持ち、妥協を許さない、確固たる信念の持ち主です。独自のスタイルを確立した、なんでも借りてしまえるその人柄こそ、奇才と思わずにはいられません。

伝統的に「若飲みワイン」用とみなされていたバルベーラ種の栽培にこだわりを持って取り組んできた、フランコ・マルティネッティ氏。バルベーラ・ダスティの造り手として有名な醸造家ジュリアーノ・エノ氏の協力を得て、旧来の「フレッシュ＆フルーティな赤ワイン」というバルベーラのイメージを覆す、深みのあるワインを生み出しました。

近年のバルベーラ見直しの機運を生み出したワイナリーといっても過言ではありません。