イタリア、フリウリで注目の新星生産者、ニコラス ユレティッチ。ブドウ樹剪定のプロを経て2018年から自身のワイン造りを開始した彼は、その技術を活かしたブドウ栽培のアプローチを実践し、フレッシュさと複雑性が共存する豊かな味わいを追求しています。

「テンペスタ」は、ニコラスにとって2ヴィンテージ目の2019年に造られました。収穫直前に雹で大部分のブドウがだめになってしまったことで、当時所有していた全ての畑のブドウを使用したワイン1種類のみを生産。生産本数は少なかったですが、当時はブドウ樹剪定の仕事をメインにしていたため適切な飲み頃を迎えるまでリリースしていませんでした。5年間の時を経て、方言で嵐を意味するTempesta（テンペスタ）の名を冠して遂にリリースされました。

柑橘類や白桃の果実味に加え、熟成によるアーモンドや蜂蜜のような深みのある香りが広がり始めており、ニコラスらしい繊細さと果実味のバランスが、熟成によって新たな表情を見せています。

ビオディナミ農法を実践し、収穫は手摘み、バスケットプレス。除梗せず5日間コンクリートタンクでマセラシオンを行い、750 Lの木樽に移し野生酵母を使用して発酵。新樽比率は50 %。そのまま自然にマロラクティック発酵を行い18カ月オーク樽で熟成させ、無濾過、無清澄で瓶詰め。5年の瓶内熟成を経てリリース。

フリウリのライジングスター

イタリアのフリウリ ヴェネツィア ジューリア州、スロヴェニアとの国境付近に位置するコルモンス。ニコラス ユレティッチはこの町で2018年からワイン造りをスタートしました。生産本数は約10,000本と限られていますが、2020ヴィンテージが世界一のレストランとして知られるデンマーク コペンハーゲンのノーマにバイ ザ グラスで採用されたことにより、そのクオリティの高さに一躍注目を集める存在に。たびたびメディアで『フリウリのライジングスター』と紹介される彼の根幹には、剪定のプロフェッショナルとしてブドウ樹と向き合ってきた経験があります。

ワイン生産者になるという夢と現実のギャップ

ブドウ農家出身のニコラス。幼いころからワイン生産者になることを志し、芸術と醸造学を修めた。卒業後は地元コルモンスのいくつかのワイナリーで働いていたが、「創造性や調整の余地はまったくなく、指示に従ってレシピ通りに働くだけだった」と当時を振り返る。その後居を移したオーストラリアはまったく逆で、ワイン産地としての歴史が浅いがゆえに常に議論や実験の余地があり、それが彼にとっては大きな刺激だったという。2013年に故郷に戻り、両親のブドウを使用してワインを造ってみようと決心するが、帰国して数週間後にブドウ樹の剪定のプロフェッショナルとしての仕事のオファーを受け、ワインを作るという願いをしばらく脇に置き、世界中を旅することになる。

高樹齢のブドウと土壌を活かした彼だからできるアプローチ

2018年、ニコラスは家族のブドウ畑やコルモンスの樹齢の高いブドウ畑を手に入れ、念願であった自身のワイン造りを開始。大昔には海であったこの地の土壌は、砂岩と泥灰岩で構成され、保水性と排水性のバランスに優れている。ブドウの根が非常に深くまで伸び、結果的に独特なミネラル感や厚みを持つワインが生まれる。

ニコラスは高樹齢のブドウとこの土壌の特徴を十分に表現するため、できる限りブドウの成熟度が高くなるまで収穫を待つ。「温暖化に伴い、フレッシュさを保つために収穫を早める、という話をよく聞くけど、僕は畑でのアプローチを変えることで土壌やブドウ樹をフレッシュに保つことができ、フェノリクスが適切に成熟するタイミングまで待つことができると考えている。」ブドウ樹剪定のプロフェッショナルとしての経験が豊富なニコラスだからできるアプローチ方法だ。